「人と防災未来センター」で学ぶ!復興へのあゆみとこれから

2024.10.08

皆さん、こんにちは。サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。先日、神戸市にある防災学習施設「人と防災未来センター」に伺いました。本日は、こちらの施設についてご紹介したいと思います。

阪神・淡路大震災から来年で30年。記憶の風化が進んでいく今、震災を過去の出来事として眺めるだけではなくて、必ずいつかどこかで再び起きる未来の災禍として捉え、考えたいものです。この記事が、そのための一助になれば幸いです。

「人と防災未来センター」とは

人と防災未来センター外観

 

「人と防災未来センター」は、阪神・淡路大震災の経験と教訓を後世に伝え、これからの備えを学ぶ防災学習施設です。「減災社会の実現」と「いのちの大切さ」「共に生きることの素晴らしさ」を世界へ、そして未来へと発信しています。

 

地震によりどれだけの被害があり、どんな問題が発生し、そして、どのように復興を遂げたのか。復興に至る過程で得られた教訓も含めて、数々の写真、映像、模型や実物、そして、様々な体験を通して学ぶことができます。


リアルな体験

「震災直後のまち」ジオラマ模型

 

こちらは「震災直後のまち」をリアルなジオラマ模型で再現された展示です。暗闇の中で燃え上がる炎が印象的で、その光景を見た瞬間、鳥肌がたちました。

 

阪神・淡路大震災の地震発生は、1995年1月17日5時46分。真冬の早朝ですから外は真っ暗だったのです。災害が起きる時間帯によっても、そこで起きる問題は大きく異なります。こういった体験を通して、そのことを強く感じさせられます。

震災直後の神戸の街の様子(模型)

 

当時を振り返ると、私は7歳で京都に住んでいました。京都は震度5。住んでいた実家のマンションは大きく揺れました。地震が起きたその瞬間はまだ寝ていて、ブランコで危険な遊び方をする夢を見ていました。きっとあの夢は、地震の大きな揺れが反映されたのではないかと思っています。

 

目が覚めると、両親が普段とは異なる様子で慌てていて、次第に事の重大さを、子どもながらに把握しました。夢見心地から一転、恐怖が押し寄せてきた当時の感覚を、この体験型展示を通して少し思い出しました。

 

地震や津波などの現場をVR映像と音でリアルに体験

 

災害を忘れないために、また、災害の怖さを自分事として捉えて考えていくために、こうしたリアルな体験をすることは貴重な機会であると思います。

 

こういったリアルな映像や体験が苦手な方もいらっしゃるかと思いますが、体験の内容はガイドやフロアにも記載されていますので、無理のない範囲で体験いただくことをオススメします。お子さんが楽しみながら地震の仕組みについて学べるようなコーナーもありますので、施設全体としてはバランスの取れた展示内容になっています。


「科学で学ぶ」地震のこと

津波や火山の噴火、地震が起きる仕組みを知れる映像

 

こちらの施設では、地震や津波、様々な自然災害について、どのような原理で災害が起きるのかということを「科学的に学ぶ」ことができます。「リアルな体験をする」ということとはまた違った角度から、災害を理解することができます。

科学的に学ぶことで、災害を正しく恐れること、適切な対応ができるようになることにも繋がりますね。

 

マグニチュードと地震のエネルギーの関係

 

こちらは、マグニチュードと地震のエネルギーの関係を表現した概念模型。「震度は揺れの強さ」で場所ごとに異なるのに対して、「マグニチュードは震源地における地震そのもののエネルギーの大きさ」を表したものです。マグニチュードが1.0上がると地震のエネルギーは30倍になりますが、図で表すとその違いが一目瞭然です。

 

地震の際は、震度とマグニチュードの両方に目を向けることで、地震の規模と自分のいる場所での揺れの大きさを正確に把握し、適切な対応を考えることができます。

 

昨今では、地震が起きると「地震雲」のような災害デマがSNS上で拡散されることが多くなっています。デマに惑わされないためにも、科学の基本的な知識を学び、また、情報をアップデートしていくことも重要です。

下は、雲研究者の荒木健太郎先生による解説です。

 


復興、そして未来へ

震災の記憶フロアの展示写真

 

阪神・淡路大震災は、近代成熟都市を直撃した未曽有の大災害でしたが、比較的早期に復興を果たすことができたと評価されることが多いです。それには、当時の日本の経済力による多額の予算の投入や、インフラの迅速な復旧、地元企業や住民の積極的な復興への参加など、様々な要因が挙げられます。成功の要因や課題を、たくさんの人と情報を共有し、ともに考えていくことが大切です。

ふれあいのあるくらしと復興したまち

 

現在はすっかり活気を取り戻している神戸のまち。来年は、阪神・淡路大震災から30年。そんな節目の年より一足先に、今年9月23日、「人と防災未来センター」の来館者数が1,000万人を突破したそうです!世界的な防災研究の拠点として、災害全般に関する有効な対策の発信地となることを目指す「人と防災未来センター」、これから益々重要な拠点となっていくことでしょう。

 

ところで、阪神・淡路大震災の事例を引き合いに出して、「東日本大震災の復興は遅い」と批判するような声が挙がったりすることもしばしばありますが、地震、津波、原発事故の複合災害である東日本大震災と、単純に比較することはできません。

 

また、令和6年能登半島地震では、大地震から復興を進めていた最中、大雨被害を受けて複合災害となっており、問題は深刻化しています。1日も早い復興を願うばかりです。

 

それぞれの災害の違いに目を向け、冷静に比較していく必要はありますが、一方で、共通する部分も多く、教訓が活かせることも多々あります。それぞれの教訓を語り継ぎ、活かしていくことがやはり大切ですね。


さいごに

神戸医療産業都市(空撮写真)

神戸市では震災後、大きな被害を受けた神戸の経済を立て直すため、様々な取り組みが行われました。その中に、「神戸医療産業都市構想」があります。この事業の中で、ポートアイランドに先端医療技術の研究開発拠点として誕生したのが「神戸医療産業都市」です。今では、日本最大級のバイオメディカルクラスターとして、大きな成長を遂げています。まさに、復興の象徴の一つと言えるでしょう。

 

そんな「神戸医療産業都市」で毎年開催される一般公開では、研究機関や大学、病院や企業などの施設が一斉に公開され、20以上の団体の取り組みを楽しく学ぶことができます。今年は11月2日(土)に開催されます。私も複数の企画に携わっているのですが、過去最大規模のイベントになる予定です。

 

「神戸医療産業都市 一般公開2024」にご参加の方はぜひ、「人と防災未来センター」にもお立ち寄りください。大きな震災に見舞われながらも見事に復興を果たした神戸のまちで、復興へのあゆみと最先端の科学技術にふれて、一緒に「未来のまち」を想像してみませんか?

【関連リンク】

「人と防災未来センター」

「神戸医療産業都市 一般公開2024」

【著者紹介】佐伯 恵太

俳優 / サイエンスコミュニケーター。
1987年5月30日生。京都出身。京都大学大学院理学研究科で修士号を取得し、日本学術振興会特別研究員(DC1)として同大学院博士後期課程に進学。1年間の研究活動の後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主。現在は、科学とエンターテイメントの架け橋になるべく、俳優・サイエンスコミュニケーターとして活動中。
【出演ドラマ】BS時代劇「大富豪同心」シリーズ / 「ABEMAヒルズ」コメンテーター / 日本科学振興協会(JAAS)正会員 / 「エンタメ×科学」のプロ集団「asym-line(アシムライン)」代表
プロデューサー・監督・出演者として、YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜(※)」を手がけている。
※「東京応化科学技術振興財団」助成事業

「佐伯恵太のオススメ科学スポット」記事一覧