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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、寄生虫「住血吸虫」[注1]が、痛みを伴わずに皮膚に穴を開けて潜る理由に迫った研究だよ。住血吸虫によって起こる感染症「住血吸虫症」は、世界に2億5000万人以上の患者がいるとされ、致死的ではないものの深刻な感染症として問題視されているんだよね。
今回は代表的な住血吸虫である「マンソン住血吸虫」に感染させたマウスをモデルに、皮膚の痛みなどに関わる神経細胞「TRPV1+ニューロン」[注2]の働きを調べたよ。その結果、マンソン住血吸虫は刺激がTRPV1+ニューロンに到達するのを防ぐ能力があることが示されたんだよね。
詳しいメカニズム面は不明なものの、TRPV1+ニューロンの働きを抑えることで、マンソン住血吸虫は免疫系も回避しているらしいことが示唆されたんだよね!これは住血吸虫の感染を防ぐための方法を見つける重要なヒントを与えてくれるかもしれないよ!
CONTENTS
「住血吸虫症」とは、住血吸虫属 (Schistosoma) に属する寄生虫がヒトの体内に侵入することで起こる慢性疾患だよ。住血吸虫は体長1cmの寄生虫で、淡水に生息する巻貝を中間宿主とするよ。生息する淡水に接触すると、皮膚を突き破って血管に侵入、肺を経由し、最終的には尿管や腸管を取り巻く静脈に定着するんだよね。
住血吸虫症は致死率こそ低いものの、深刻な慢性疾患となりがちなのよね。初めは発熱、下痢、せきなどが現れるよ。症状が進行すると、感染部位の線維症、腎炎、膀胱がん、肝硬変、難治性腹水、生殖器への障害などが現れるよ。特に子供は繰り返しの感染で貧血や栄養不良に至りやすく、深刻な学習障害を引き起こすこともあるのよ。
住血吸虫症を引き起こす住血吸虫は全部で5種類いるけど[注3]、主に日本に生息している「日本住血吸虫症 (Schistosomajaponicum)」は多くの時間と努力、犠牲を払いながら流行を食い止めたことで知られているよね。しかし諸外国では普通に存在しており、現在でも2億5000万人の患者がいるとされる深刻な疾患なんだよね。
患者数の多さと抜本的な対策の難しさなどを理由に、住血吸虫症は「顧みられない病気」に挙げられることもあるよ。とはいえ、社会のグローバル化や気候変動などを理由に、撲滅した地域での再定着やこれまで定着していなかった地域での流行の懸念から、対策や治療のような具体的な成果を挙げるための研究が進められているよ。
ところで、住血吸虫には不思議なところがあるんだよね。住血吸虫は皮膚のタンパク質を分解する酵素を分泌しながら、ダイレクトに皮膚に穴を開けるんだよね。皮膚は様々な病原体から身体を守るバリア臓器であるので、そのバリアを破ってしまうというところに住血吸虫の恐ろしさがあるよ。
しかし、皮膚のバリア機能というのは多重構造であり、痛みやかゆみ、炎症反応などでお知らせする警報機能もあるのよね。大抵の病原体はこの警報装置に引っかかるんだけど、住血吸虫はどういうわけか、痛みなどの警報機能を回避する術を持っているらしいんだよね。文字通り「痛くもかゆくもない」というヤツよ。
住血吸虫症の症例を見てみると、皮膚の炎症や発疹を伴うかゆみが報告されることはあるんだけど、これは稀な症例なんだよね。感染初期は自覚症状なしというのが典型的であり、住血吸虫症の厄介さにも繋がるんだけど、どのようにして住血吸虫が痛みを与えずに皮膚に潜るのか。これは長年の謎となっていたよ。

皮膚が寄生虫などの病原体の侵入を感知する時には「TRPV1+ニューロン」と呼ばれる神経細胞が働いているんだよね。ならば住血吸虫は、ニューロンに刺激が届くのを邪魔している可能性が考えられるよ。 (画像引用元番号①②③⑧)
ペンシルベニア大学のJuan M. Inclan-Rico氏などの研究チームは、住血吸虫症を引き起こす病原体の代表例である「マンソン住血吸虫 (Schistosoma mansoni)」を使い、マウスを使った実験を通じて、住血吸虫がどのようにして皮膚に痛みを与えずに侵入するかのメカニズムの解明に取り組んだよ。
Inclan-Rico氏らは、住血吸虫が痛み刺激を伴わずに皮膚へ侵入することや、自身が過去に行った研究結果を元に、住血吸虫は「TRPV1+ニューロン」の監視の目を逃れているんじゃないか?という仮説を立てたよ。TRPV1+ニューロンは痛み・炎症・熱などの刺激を、神経を伝達する電気信号に変換するという重要な役割を果たしているよ。
皮膚に侵入するなんてダイレクトな刺激を与えれば、普通ならばTRPV1+ニューロンが働いて痛みを感じることになるよね。じゃあ、住血吸虫が痛みを与えないのはなぜか?刺激があっても電気信号に変換されないよう、何らかの形でTRPV1+ニューロンを働かせないようにしているんじゃないのかな?と予想ができることになるよ。
これを確かめるため、Inclan-Rico氏らはマウスを使った実験を行ったよ。TRPV1+ニューロンが働くのを住血吸虫が抑えているなら、住血吸虫以外による刺激にも反応が鈍くなっているはずだよね?ということでまずは、マウスの片足にマンソン住血吸虫を寄生させ、刺激に対する反応を、寄生されてない足と比較して行ったよ。
比較実験では、刺激としてホットプレートで足に熱を与えたんだよね。これはすぐに火傷するほど熱くはないものの、足をどけたくなる不快感を与える程度だったんだよね。ということで実験を行ってみると、マンソン住血吸虫に寄生された側の足は、そうではない足と比べて、プレートからどくまでの時間がかかるようになったんだよね!
この実験から、マンソン住血吸虫がTRPV1+ニューロンの働きを抑えた結果、熱という別の刺激に対する反応も鈍くなっていることが予想されるよね。では本当にTRPV1+ニューロンの働きが抑えられているのか?という追加実験も行ったよ。
TRPV1+ニューロンは、単に痛みなどを電気信号に変換するだけじゃなくて、刺激を元に免疫細胞を活性化させ、病原体と戦うのを促すという別の重要な役割があるんだよね。ならば住血吸虫は免疫系の反応も抑えているということが予想されるよね。
ということで、マンソン住血吸虫に寄生されたマウスとそうではないマウスの両方から脊髄液を採集し、TRPV1+ニューロンを刺激するトウガラシ成分であるカプサイシンを与えてみたところ、マンソン住血吸虫に寄生されたマウスのものは、そうではないものと比べて免疫系の反応が鈍かったことが明らかにされたよ。
さらに実験を重ねた結果、重要な結果も見えてきたよ。TRPV1+ニューロンの刺激を人為的に誘発できるように遺伝子を組み替えたマウス[注4]で実験を行った結果、TRPV1+ニューロンが刺激されると免疫系が活性化して炎症反応を引き起こし、マンソン住血吸虫が皮膚に侵入するのを防いだんだよね!
つまり、マンソン住血吸虫は、TRPV1+ニューロンの働きを抑える工夫を凝らすことで、痛みなどで皮膚へ侵入したことを悟られないようにしているだけでなく、自分自身を排除しようとする免疫系すらもかいくぐっていたことになるよ!マンソン住血吸虫は予想以上にしたたかな寄生虫だということになるね。

今回の研究は、住血吸虫がどのように刺激をごまかすのかまでは分からなかったものの、何かしらの分泌物を使っている可能性が示唆されたよ。これを深掘りすれば、新たな鎮痛剤の開発や、住血吸虫症を防ぐ方法を見つけるヒントになるかもしれないよ! (画像引用元番号①③)
今回の研究では、マンソン住血吸虫がどのようにしてTRPV1+ニューロンの働きを抑えているのか、正確な理由までは分からなかったよ。ただし脊髄液の実験からは、マンソン住血吸虫がTRPV1+ニューロンの働きを抑える何らかの物質を分泌しているであろうことが示唆されるよ。
もしそのような物質が特定できれば、新たな鎮痛薬の開発に繋がるかもしれないね。ただ、今回の方法は免疫系という身体の重要な生理機能を操作することにも繋がるから、そのような物質が見つかっても、鎮痛薬に繋がるかどうかまでは不明瞭なことについては注意しないといけないよ。
また今回の実験では、TRPV1+ニューロンをどうにかして働かせれば、マンソン住血吸虫が皮膚に侵入して感染するのを抑えられることが分かったことから、他の住血吸虫を含め、住血吸虫症を未然に防ぐための治療方法を開拓するためのきっかけになるかもしれないよ。
今回の研究は、中々根本的な対策が難しい住血吸虫症について、ヒトへ寄生するプロセスを阻害することで感染を防げるかもしれない、という道を開いたんだよね。関心が高くなりつつある感染症なので、今後重要視されていく研究になるかもしれないよ!
[注1] 住血吸虫
住血吸虫症の原因となる住血吸虫科に属する生物の総称。特に住血吸虫症の原因となる住血吸虫属の5種 (注3参照) を指します。比較的近い生物としては、綱レベル (吸虫綱) だとロイコクロリディウムが、門レベル (扁形動物門) だとサナダムシやプラナリアがいます。 本文に戻る
[注2] TRPV1+ニューロン
一過性受容体電位バニロイド1型 (Transient Receptor Potential Vanilloid 1) を持つニューロンのこと。 本文に戻る
[注3] 5種類の住血吸虫
住血吸虫属 (Schistosoma) に属するビムハルツ住血吸虫 (S. haematobium) 、マンソン住血吸虫 (S. mansoni) 、日本住血吸虫 (S. japonicum) 、メコン住血吸虫 (S. mekongi) 、インターカラーツム住血吸虫 (S. intercalatum) の5種類。 本文に戻る
[注4] 遺伝子を組み替えたマウス
473nmの青色の光を当てると、TRPV1+ニューロンが活性化するような遺伝子の組み換えがされています。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)