ジカウイルスと小頭症の関連の詳細が判明!

2025.01.17

ジカウイルスと小頭症の関係 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「先天性ジカウイルス感染症」で起こる「小頭症」の発生メカニズムを深掘りした研究だよ。この症状は「ジカウイルス」の注目を集めるきっかけになった一方で、その詳しいメカニズムはこれまでよく分かっていなかったよ。

 

今回の研究により、細胞が元々持っているタンパク質「ANKLE2」と、ジカウイルスが持つタンパク質「NS4A」の相互作用が、小頭症の原因となっていることが示唆されたよ。ただ、ジカウイルスにとってANKLE2タンパク質は重要だけど必須ではない、という立ち位置みたいね。

 

このようにウイルスの正確な挙動が分かれば、治療薬やワクチンなどを作るのに役に立つから、この種の研究はとても重要なんだよね!

 

胎児の小頭症の原因にもなる「ジカウイルス」

ジカウイルスの概要

「ジカウイルス感染症」は、従来それほど注目されていたわけではなかったよ。ところが妊婦が感染すると、胎児に「小頭症」という非常に重篤な先天性障害が生じることがあると判明し、一気に注目度が上がったんだよね。 (画像引用元番号①②③)

 

ジカウイルス感染症」 (ジカ熱) とは、フラビウイルス科のジカウイルス (Zika virus) によって起こる感染症で、1947年に初めて発見され、1952年にヒトに対する感染力があることが初めて示されたんだよね。主にネッタイシマカ (Aedes aegypti) やヒトスジシマカ (Aedes albopictus) など、蚊を媒介して広まる感染症だよ。

 

基本的にジカウイルス感染症は症状が軽く、健康な成人においては死亡率も低いよ。なので最近まであまり著名ではない感染症だったんだけど、しかし2015年からの南北アメリカ大陸での流行である症状が報告されたことにより、一気に世界の注目を集めることとなったよ。

 

それは、妊婦が感染すると、胎児が「先天性ジカウイルス感染症」になるということで、眼球や皮膚に先天性の異常が生じたり、最も重篤な場合は脳が正常に発達せず、重い知的障害を伴う「小頭症」が生じることがあるんだよね。このように重大な症状があることが、ジカウイルス感染症のイメージを変えたんだよね。

 

ただし、ジカウイルスと小頭症の関係がつい最近分かったということもあり、詳細な関連性についてはよくわかっていなかったよ。感染が確認された妊婦の羊水や、死亡した新生児の脳からジカウイルスが見つかっているので、関連があることは確かなんだけど、詳細なメカニズムがよく分かっていなかったんだよね。

 

小頭症の原因は、ジカウイルスにとって重要だけど必須ではないタンパク質?

カリフォルニア大学デービス校のAdam T. Fishburn氏などの研究チームは、ジカウイルスがどのようにして小頭症などを引き起こすのか、そのメカニズムの解明に取り組んだよ。Fishburn氏らは以前からこの研究に取り組んでおり、すでにある程度の手掛かりを得ていたよ。

 

ところでそもそも、ウイルスがなぜ細胞に感染するのかと言うと、ウイルスが自力では増殖できないからなんだよね。なのでウイルスは細胞の機能とタンパク質を乗っ取ることで増殖し、その際に細胞の機能が損なわれると、様々な病気を発症するようになるんだよね。

 

ANKLE2とNS4Aの関係性

ジカウイルスを培養細胞に感染させた結果、ジカウイルスが持つ「NS4A」タンパク質と、細胞が持つ「ANKLE2」タンパク質の位置が一致することが分かったよ。ANKLE2の異常は小頭症と関連があることが既に分かっているから、もしかするとジカウイルスによる小頭症も関連があるのではないかと予測されたよ。 (画像引用元番号④)

 

Fishburn氏は以前、ジカウイルスが利用するタンパク質の中で、小頭症と関連するものを調査したよ。その結果、ジカウイルスが持つ「NS4A」タンパク質と、感染した細胞側の「ANKLE2」タンパク質が、先天性ジカウイルス感染症による小頭症の原因である可能性が見えてきたんだよね。

 

ANKLE2タンパク質は、他のタンパク質と組み合わさることで細胞の構造を形作る足場タンパク質の1種なので、これ自体は全身の細胞に存在するよ。ただし、細胞分裂において重要な役割を果たす分、これが正常に働かないと、胎児の脳が正常に発達するのを阻害するようなんだよね。

 

いくつかの研究では、ANKLE2タンパク質を合成する遺伝子に欠陥があると、ヒトやショウジョウバエの脳が正常に発達しないことが知られているよ。Fishburn氏らによるショウジョウバエをモデルにした研究では、NS4Aタンパク質の作用でANKLE2タンパク質の遺伝子が働かないと、小頭症と同じ症状が出ることも確認されたんだよね。

 

ジカウイルスが作るポケット

ANKLE2タンパク質が不足していると、ジカウイルスは増殖速度が遅くなったものの、停止したとまでは言えなかったよ。この事から、ジカウイルスにとってANKLE2タンパク質は、重要だけど必須ではないタンパク質らしいと分かったよ。 (画像引用元番号⑤)

 

では、ジカウイルスはANKLE2タンパク質をどのように使っているのか、増殖において必須なのか、という点を正確に明らかにするため、Fishburn氏らは追加の実験を行ったよ。今回はいくつかの種類のヒト培養細胞を元に、細胞のANKLE2タンパク質とジカウイルスのNS4Aタンパク質の役割をより正確に探ってみたよ。

 

まず、ジカウイルスやそれと近縁なウイルスは、増殖するに当たってタンパク質による小さなポケットを作り、その中で増殖することが知られているよ。今回の研究では、NS4Aタンパク質の作用があると、ANKLE2タンパク質は正常な機能から逸脱し、そのポケットを作るために誘導されることが分かったんだよね。

 

また、ジカウイルスが増殖するためにANKLE2タンパク質が必須なのかを調べるため、ANKLE2タンパク質を合成する能力を失った細胞や、ANKLE2タンパク質が枯渇した細胞で実験を行ってみたよ。すると、ジカウイルスの増殖は遅くなったものの、停止したとまでは言えないくらいの遅い増殖率を示したんだよね。

 

そこでさらに深堀りして調べてみると、ANKLE2タンパク質のポケットの中にあるジカウイルスはRNAの合成速度が増え、免疫の応答が鈍くなったことが示されたんだよね。ANKLE2タンパク質が無いとジカウイルスの増殖が遅いのは、RNA合成速度が遅くなり、免疫の妨害を受けているから、と言う予測が成り立つんだよね。

 

また、ANKLE2タンパク質はヒトに限らず幅広い生物に存在するよ。蚊を媒介してジカウイルスが広まるには、蚊の体内でもジカウイルスが増えていないといけないよ。そこでネッタイシマカの細胞との反応を調べた結果、やはりジカウイルスはANKLE2タンパク質を利用して感染していることが分かったんだよね。

 

まとめると、ジカウイルスにとってANKLE2タンパク質は増殖の手助けをするようだけど、必須ではないことが今回の研究で示唆されるんだよね。このメカニズムの解明は、ジカウイルス感染症に対する薬やワクチンの開発など、未だに達成されていない治療目標に大きなヒントを与えることになるはずだよ!

 

まだ未解明の部分も多い

ただし、今回の研究の限界として、ジカウイルスがANKLE2タンパク質を使うことが、胎児の小頭症の直接の原因となっているのかについては結論が出ていないよ。胎児の脳の発達にANKLE2タンパク質を合成する遺伝子の関与が必須なのは分かっているけど、ANKLE2タンパク質の利用が果たして関連しているのかは分かってないからね。

 

また、ANKLE2タンパク質がジカウイルスのRNA合成にどう関与しているのか、免疫をどう抑制しているのかはよく分かってないよ。もしかするとRNA合成自体には何も関与しておらず、免疫応答の調整のみが実際の役割である可能性もあるからね。ここは追加の研究が必要になるよ。

 

そして今回の研究では、デングウイルスや黄熱ウイルス[注1]など、ジカウイルスと似たウイルスも、NS4Aタンパク質とANKLE2タンパク質が相互作用していることも明らかにされたよ。しかし、デング熱や黄熱はジカウイルス感染症よりもっと古い歴史がありながら、胎児の小頭症の報告はないんだよね。

 

これは、ジカウイルスだけが胎盤を通過して胎児に感染するという違いのせいだとFishburn氏らは考えているよ。ウイルスを含む大半の異物は胎盤関門によってブロックされるけど、ジカウイルスは胎盤関門をすり抜けてしまうんだよね。ジカウイルスだけに小頭症が見られるのは、どうもこの仕組みと関連しているようなんだよ。

 

Fishburn氏らは、ジカウイルスだけが胎児に感染しうること、ANKLE2を使うことが小頭症の引き金になることから、今回の研究で判明した事柄を「ジカウイルスが間違った場所、間違った時期に現れた事例」とまとめているんだよね。

注釈

[注1] ジカウイルスの近縁ウイルス
デングウイルスや黄熱ウイルスは、いずれもフラビウイルス科フラビウイルス属。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Adam T. Fishburn, et al.“Microcephaly protein ANKLE2 promotes Zika virus replication”. mBio, 2025; e0268324. DOI: 10.1128/mbio.02683-24

       

      <参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. ジカウイルスの表面構造: WikiMedia Commonsより (Author: David Goodwill / CC BY 4.0)
      2. 小頭症の説明図: WikiMeida Commonsより (Author: Centers for Disease Control and Prevention / Public Domain)
      3. ネッタイシマカの写真: WikiMedia Commonsより (AUthor: James Gathany / Public Domain)
      4. ANCLE2とNS4Aの分布に関する写真: 原著論文Fig.1より
      5. ANCLE2の量とジカウイルスが作る小器官の関係性に関する写真: 原著論文Fig.1より

         

        彩恵 りり(さいえ りり)

        「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
        本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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