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7月の第三月曜日といえば、そう、海の日だ! 5月5日のこどもの日以来、およそ二ヶ月半ぶりの祝日となる。6月に祝日がないせいで……。葉月の地元では海の日が毎年海開きだったので長らく誤解していたのだが、海の日は海開きの日ではないらしい。海開きは自治体によって違うので要チェックだ。なお、小笠原では1月1日が海開きなのだとか。寒そう……。
海のレジャーは楽しいが、少々困り者なのが塩水だ。肌はペタペタ、髪はゴワゴワ、おまけにしょっぱい。それにしても海水というのは不思議だ。日本全国、いや全世界どの海でももれなくしょっぱい。海の広さを考えれば相当な量の塩が溶け込んでいるということになるが、そもそもこの大量の塩はどこからやって来たのだろうか? そこで今回は、しょっぱい海水がどのように作られたのかを解説していく。
キーワードは『原始地球』だ。
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突然だが、ある実験について少し考えてほしい。
用意するのはあらかじめ濃度と体積を測った塩水と、鉄板だ。
まず、熱した鉄板を緩やかに傾け、坂の下で容器を構えておく。続いて坂の上から塩水を垂らし、流れ落ちた塩水を回収する。
さて、回収した塩水に含まれる塩の量は、元の塩水と比べてどうなるだろうか?。

正解は元の塩水よりも少なくなる。鉄板上で塩水が蒸発することで、塩が回収できなくなるからだ。そのため、回収した塩水に、元の体積と同じ量になるように水を注ぐと、塩水は薄くなる。当たり前のことだ。
実は地球史においても、同様のことが行われていたと考えられている。
地球上が誕生して46億年。現在の海水の塩分濃度は約3.4 %だが、今から42億年前の冥王代と呼ばれる原始海洋は、現在の7 〜 10倍もあったと考えられている[注1]。しかし、大陸の誕生とともに海水中の塩分が岩塩として地表に残り、雨や川を通じて海に真水が注ぐことで海水は薄くなる。38億年前の太古代と呼ばれる時期には2倍程度にまで薄まり、25億年前には現在と同程度の濃度になったようだ。
現在の海水を作っているのは陸地だということはわかった。それでは、塩辛い海水の原料はどこからもたらされたのだろうか?
続いてはイオンの由来を探っていこう。
イオンの由来について解説する前に、一つ考えてほしいことがある。
海水中には食塩としておなじみの塩化ナトリウムNaClだけでなく、「にがり」に使用される塩化マグネシウムMgCl2や下剤としても使われるMgSO4など様々な塩が溶けている[注2]。
塩は陽イオンと陰イオンが作る化合物だ。それでは陽イオンと陰イオンで、先に海に溶けたのはどちらだろう? 少し考えてみてほしい。
海水中のイオンの約4割は、ナトリウムイオンNa+やマグネシウムイオンMg2+などの陽イオンだ。ナトリウムやマグネシウム……なにか気が付いたことはないだろうか? そう、金属が溶けると普通、陽イオンになるのだ。しかしながら、金属を溶かすと言われてもあまりピンとこない。日常で使っている包丁やフライパンに、ある日突然穴が空いていた、などと言うことはないからである。
陽イオンが先に海に溶けたのだとしたら、少しばかり疑問が残る。
さて、約4割が陽イオンということは、残る6割は陰イオンだ。食塩を作る塩化物イオンCl-を筆頭に、硫酸イオンSO42-や炭酸水素イオンHCO3-などのイオンが海水中に溶け込んでいる。これらのイオンに共通する特性にピンと来た方もいるだろう。これらのイオンは水に溶けることで酸を作るのだ。
想定されるシナリオはこうだ。
約40億年前、地上や海底の火山が噴火した。火山ガスに含まれる塩化物イオンCl-や硫酸イオンSO42-は雨を通して海水に溶け込み、pH 0.1以下という超酸性の海を形成した[注3]。
一方で、噴火がもたらしたものはもう一つある。マグマが冷えてできることで得られる火成岩だ。火成岩にはナトリウムNaやマグネシウムMg、カルシウムCaなど種々の金属が含まれている。
酸の海が、火成岩を少しずつ溶かすことで海は徐々に中和され、塩辛い海が形成されていったと考えられている[注4]。

それにしてもそもそもの原始の海はどのようにできたのだろうか?
続いては海の成り立ちについて解説してこう。
ここまで散々海水中の塩について解説しておいて恐縮だが、海の主成分は間違いなく水H2Oだ。だが、地球が誕生した約46億年前の当時、その表面には液体の水はおろか現在のような陸地も海もなかった。あったのはアツアツでドロドロのマグマの星だ。古事記にある国生み神話のような状態だったわけだ[注5]。
やがて表層が冷めて固化したのが45.3億年前だ。この時点でもまだ海はない。いや、それどころか液体の水すらないドライな星だったと考えられている。海の成り立ちについて解説する場面なのに、その材料すらないとはどうしたことか……。
実は海や大気の成り立ちについてはまだはっきりとした答えは出ていない。
少なくとも44億年前〜42億年前までに「何か」があって原始の大気が生まれた。原始の大気は非常に熱く、大量の水を含んでいた。やがて大気が冷却すると、大気中の水が雨となり降り注ぐ。こうして地球を満たしたのが原始海洋だ。この時できた海が、今日まで私たちを生かしている母なる海だと考えられている[注6]。

ここまで、海水の成り立ちについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 海の日らしいテーマを選んでみよう、と軽い気持ちで始めた内容だったが、地球史を振り返る壮大なものになってしまった[注7]。
最後に、記事の趣旨からは少し外れるが地球を調べる技術について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。
地球は太陽系の岩石惑星では最も大きな星だ。半径約6,300 kmもあるのに対して、人類が掘った最も深い穴の深さはわずか1.2 kmほどしかない。富士山とエベレストと重ねたような深さの穴だが、それでも地球内部の様子を知るには、あまりにも浅すぎる。それでも地球内部の様子はどのように調べれば良いのだろうか?
手がかりの一つとなるのが地震波だ。地震波はその名の通り、地震によって生じる波だ。ご存知のように、波は粘度の低いサラサラとした液体ほど速く、ネバネバした液体ほどゆっくりと伝わる。また、波同士がぶつかると強めあったり弱めあったりする。こうした波の性質を逆に利用することで、地震波から地球内部の様子を推測することができる。
残念なことに2023年現在タイムマシンは完成しておらず、私たちは現在から未来へ進むことしかできない。そして地球の様子は風化や浸食、地殻変動などにより時間経過によって変化している。それでは、記録にも残らないような遠い過去の出来事を、どのように調べているのだろう?
岩石や地層の年代測定は様々な方法が利用されている。例えば、原子核の核分裂を利用した、フィッション・トラック法という方法がある。ウランUのような重元素は稀に自発的な核分裂を起こす。この時、周囲にフィッション・トラックと呼ばれる飛跡を生じる。核分裂は経過した時間が長いほど発生確率が高いので、この飛跡の密度とUの量から年代を測定することが可能というわけだ。

海部 宣男ら. 『宇宙生命論』. 東京大学出版会.
数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.
丸山 茂徳ら. 『地球生命誕生場に必要な9条件と生命誕生場としての自然原子炉間欠泉モデルの再考』. 地学雑誌 2019年 128 巻 4 号 513-548.
澤木 佑介ら.『天然原子炉周囲の地質と真核生物誕生場』. 地学雑誌 2019年 128 巻 4 号 549-569.
長谷部 徳子ら. 『フィッション・トラック年代測定の基礎—これまでの経緯と今後の発展の可能性—』. RADIOISOTOPES 2021年 70 巻 3 号 117-130.
[注1] 海水を薄くする要因としてプレートの沈み込みもある。海水に溶けている金属イオンはプレートの動きとともに沈み込むが、水H2Oに関してはそのまま残り続ける。そのため水の量が相対的に多くなり、濃度が薄くなっていく。 (本文へ戻る)
[注2] とはいえ、最も多く溶けている塩は塩化ナトリウムNaClだ。海水で得られる塩類の約78 %にものぼる。どうりで塩辛いわけだ。(本文へ戻る)
[注3]塩酸HClを薄めて舐めてみると、柑橘類のような酸っぱい味がする。塩化物イオンCl-は最も多量に溶け込んでいるイオンのため、原始海洋も酸っぱかったのではないかと予想される。中学生の頃の理科の授業で「舐めてみたい人」と言われて、口にした経験がこんなところで役に立つとは……。(本文へ戻る)
[注4] 現在の海水のpHは弱アルカリ性の8.1くらい。しかしながら、大量に排出される二酸化炭素CO2が海水中に溶け込むことで、海の酸性化が少しずつ進んでいる。毎年0.02くらいずつpHが低下していっているのだとか。(本文へ戻る)
[注5] 国生み神話では最初にできたのは淡路島ということになっているけど、なんで淡路島なんだろう?(本文へ戻る)
[注6]もっとも、先述のように原始海洋のpHは0.1以下という超酸性で到底生き物が生きていける環境ではない。母といえど若い時分があったということだ。(本文へ戻る)
[注7] テーマを決めてから、調べ物を開始するのでこういうことも稀にある。予想外の結果にたどり着くこともまた科学の醍醐味ということで、勘弁してほしい。(本文へ戻る)