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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「イースター島 (ラパ・ヌイ)」[注1]の先住民が作った畑の面積はこれまでの推定よりも狭く、3000人程度の人口に収まっていた可能性があるという研究についてだよ!
これは世間で定着している「イースター島の先住民は過度な人口増加と環境破壊の結果自滅した」というイメージとは真逆だけど、近年の「過度な人口増加は見られない」とする研究結果を裏付けるものだよ。
これまで私たちはイースター島を現代文明の縮図として反面教師的な見方をしていたわけだけど、今回の研究結果はむしろその逆、イースター島の先住民の環境の付き合い方こそ現代文明が学ぶべき模範であることを示唆するものだよ。
CONTENTS
モアイ像で有名な「イースター島」は、最も近い有人島のピトケアン島から2000km、南アメリカ大陸から3700kmと、世界で最も隔絶した島の1つで、人類が最後に入植した地の1つであると言われているよ。
ポリネシア人がイースター島に住み着いたのは西暦1200年頃と言われていて、その後1770年代にヨーロッパ人が到達するまで、この島のコミュニティはモアイ像を初めとする独自の文化を築いたんだよね。
さて、現代文明が直面する課題に対する教訓のような話として、「イースター島の先住民は生態系のバランスを崩す環境破壊を行った結果、人口の激減と文明崩壊に繋がった」なんて話は聞いたことはないかな?
例えば、モアイ像という巨大な石像を動かすには大量の人員が必要なはずで、ならモアイ像がたくさん建てられた過去には大量の人口がいたんじゃないか?と考えられたんだよね。
一方で、ヨーロッパ人が到達した当初、島の人口は3000人程度であると報告されているから、過去にはもっと多かったけど、何らかの理由によって急速に人口が減った、ということになるわけだね。
ここで問題なのはイースター島の環境だよ。さいたま市よりも小さい164km2のイースター島は、約100万年前の噴火でできた地質学的には若い土地で、岩石の風化でできる土壌は実に薄いものだよ。
ただでさえ土壌が痩せているのに、風を遮る木や起伏にも乏しいから塩分を含む海風の影響もあるし、高温・乾燥した気候も合わさると、イースター島はいかに農業に不向きか分かるよね。
しかし、ヨーロッパ人がイースター島に到達した時、島の面積の10%ほどが畑であったと記録されていることから、かつてイースター島の先住民族の人口はもっと多かったんじゃないか?と推定されるようになったよ。
実際、2019年の衛星画像による調査では、畑の総面積は31.34km2だと推定されたよ。これなら3000人はおろか、最大で1万7500人から2万人の人口を養うのに十分な農業生産を行える、ということになるわけ。
一方で、ただでさえ痩せた土壌で無理な農業を行えば、ますます土壌は減ってしまうので、記録的な飢餓がその後の人口の激減を招く「マルサスの罠」[注2]に嵌まったのではないか、という考えはそれほどおかしくないよね?
このような考えは前々から研究者の間であったけど、特に2005年にジャレド・ダイアモンドという人が著した『文明崩壊 - 滅亡と存続の命運を分けるもの -』という書籍が出版されたことで、さらに有名になった感じだよ。
ところで、イースター島は農業に適してないとさっき言ったけど、かといって漁業も大規模にできない海底地形を持つイースター島では、どうにか工夫して農業を進めなきゃ定住もままならない、といった感じなんだよね。
そこで先住民が行ったのは「ストーンマルチ工法」と呼ばれる土地改良法だよ。イースター島では畑の上に大きな石を表面に置いたり、土壌に砕いた石を混ぜるなどの改良が施されていたよ。
一見するとよくわからないものだけど、実はかなり合理的な方法だよ。まず石を置くと、気流が乱れることで強い風が抑制され、日中の気温上昇と夜間の気温低下が抑制されるよ。また日影ができるので、土壌が乾燥しにくくなるよ。
加えて土壌に砕いた石を追加すると、地温の上下動も抑制されるので、植物にとって快適な環境ができるよ。さらに砕いた石は表面積が大きい多孔質な物質なので、水分を保持すると共に、雨水による栄養分の流出も抑えるよ!
ストーンマルチ工法は、従来の農業が適さない場所や過度な水分や栄養素を使うことによる周辺環境の荒廃を招かずに農業ができるということで、現代では砂漠などの農業に乏しい地域で新たに実行されるなどの動きがあるよ!
ということで、従来のイースター島の研究では、ストーンマルチ工法が行われたであろう畑の面積と、主要作物であるサツマイモの生産量を推定するために、石が多い場所を可視光線と近赤外線の衛星画像から推定していたよ。
この方法で推定された畑の面積として、2013年4.9km2から21.1km2 (島全体の2.5%から12.5%) 2017年には31.34km2 (同19%) だというものがあるよ。これは上陸当時のヨーロッパ人が報告した10%にもおおよそ一致するから、興味深いよね。
しかし、今回研究を行ったコロンビア大学のDylan S. Davis氏などの研究チームは、この考えに批判的だよ。というのは、ストーンマルチ工法という特殊さが、畑の面積の推定に誤りを与えたのではないかと考えたからだよ。
推定に使われる衛星画像は、そこに岩石があるのか植物があるのかを区別することはできるけど、それが畑かどうかを推定するのはあくまで人間なんだよね。ここに問題があるよ。
石が敷かれている場所が畑であるという推定はできても、石は自然にも転がっているから、必ずというわけじゃないよね?つまり衛星画像を単純に分析しただけでは、実際には畑ではないものを畑とカウントする恐れがあるよね。
実際にDavis氏らは、2013年の研究では、畑とカウントされた場所には、実際には溶岩流、自然の植生、および現代に敷かれた道路であるとする部分が多数含まれていることを指摘しているよ。
そこでDavis氏らは、まずは5年かけて現地調査を行い、畑とそれ以外の地面の特徴を徹底的に調べたよ。そしてその違いを元に、衛星画像から畑を見つけ出す機械学習を作ったよ。
その上で、2013年の研究に使用されたものより改善された衛星画像を元に、畑と畑以外を区別するための機械学習を実行したよ。この時、どの波長で行うと最も優れた結果が得られるのかも検討したよ。
その結果まず、過去の研究で使用された可視光線や近赤外線の波長より、短波長赤外線で分析する方が、よりずっと精度が優れていることが示されたんだよね。
この結果はDavis氏らもある程度予想していたよ。短波長赤外線は、ストーンマルチ工法で重要な石だけでなく、畑であることを示す窒素分や水分を見つけ出す能力にも長けているからね!
Davis氏らは、都市化や近代農法によってストーンマルチ工法の跡が消えていると推定されている都市部周辺と、従来の分析でも除外されているポイケ半島[注3]を除いた地域を調べたところ、畑の総面積はわずか0.76km2だと推定したんだよね。
これは従来の推定値の5分の1以下とかなり小さいものだね!これほど狭いと、さすがに過去に1万人以上も人口がいたなんて推定は成り立たないことが予想されるよ。
Davis氏らは、この面積の畑で栽培されていたサツマイモ、バナナ、タロイモ、サトウキビの栽培量からすると、せいぜい2000人程度の人口しか支えられないと推定したよ。
さらに、過去の先住民の骨や歯の同位体分析により、食料の35%から45%は魚介類に依存していたとする研究もあることから、Davis氏らは最終的に0.76km2の畑プラス海産資源で3000人程度の人口を支えられると推定したよ。
これはヨーロッパ人がイースター島に到達した当時に報告した人数とほぼ同じなんだよね。また、他の多くの研究も、大量の人口増加や激減を示すような証拠は見つかっておらず、むしろそれとは異なる内容のものが増えているよ。
というわけでDavis氏らは、この研究だけでは人口推移を正確に測ることはできないとしつつも、過去に大規模に人口が大幅に増えたという説には否定的で、むしろ入植からずっと3000人前後で推移していたとする推定をしているよ。
この研究は、より優れた方法でストーンマルチ工法による畑と、それ以外の地形を区別しているという点では新規性があるけど、それよりもこの研究を通じて、異なる内容の警鐘を鳴らしているよ。
冒頭で書いた通り、イースター島は現代文明の縮図や反面教師として語られているよね?ところが今回の研究を見る限り、実態はむしろその逆、先住民はイースター島の自然環境をよく理解した農業をやってたみたいだよね?
これは、イースター島は現代文明の運命を悪い意味で先取りしているどころかその逆、イースター島は環境を見極めて文明を維持するという、むしろ見習うべき手本であることになるよね?
実際のところ、ここ最近の研究はイースター島の人口爆発を否定する研究が多く、人口の激減と文化の破壊はヨーロッパ人がもたらした疫病や奴隷狩り、強制移住が原因とする見方が優勢だよ。
それでも一般にそれが浸透するのには時間がかかるものだね。Davis氏らはイースター島の先住民はむしろイースター島の環境に適応していたとして、一般に普及している自滅のイメージとは正反対であると注意を促しているよ。
ただ、現在のイースター島は8000人の人口がおり、そして年間10万人の観光客が押し寄せている状況だよ。そのため食料の大部分は輸入に頼る一方で、現在でも伝統的なストーンマルチ工法の農業が一部で行われているよ。
これはCOVID-19の感染拡大で輸出入が滞ったことで拡大した一方で、他の地域で行われている近代的な農業も取り入られるようになったみたい。ただこれは、イースター島の痩せた土壌環境とは相性が悪いのよね。
先住民がイースター島の環境とうまく付き合ってきたことが分かった今回の研究から見ると、先人の知恵を見習い、島の資源との付き合い方を考えねばならないのは、むしろ今この段階かもしれないよ。
[注1]イースター島の名称
「イースター島 (Easter Island)」という名称は、ヨーロッパ人として初めてこの島を発見したヤーコプ・ロッヘフェーンの発見日が1722年4月5日と、イースターの日であることに因んでおり、日本語圏でもこの名称で定着しているため、この記事ではイースター島と表記しました。一方で現地での名称は「ラパ・ヌイ (Rapa Nui)」であり、論文ではこちらの方が優先して使用されています。また、この島の領有権を有するチリ共和国の公用語であるスペイン語での正式名称は、県 (Provincia) の名称でもある「パスクア島 (Provincia Isla De Pascua)」です。 本文に戻る
[注2]マルサスの罠
人口増加は指数関数的である一方、食料やその他の資源は線形増加であるため、いつかは食料供給が追い付かなくなり、飢餓などの人口が激減する出来事が発生、結果として人口や所得水準などが元の水準に戻るというメカニズムのこと。イギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサス (1766 - 1834) が1798年に記した『人口論』内で提唱したことに因む。 本文に戻る
[注3]ポイケ半島を除外した理由
ポイケ半島には農地の痕跡があるものの、ストーンマルチ工法が行われた形跡は見つかっていません。従って今回の研究に限らず、過去の研究においてもストーンマルチ工法での農地面積の推定には含まれていません。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)