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老化に伴って大本の血液幹細胞の数や機能が低下することが知られているが、にもかかわらず血小板産生だけが上昇していることが示されていた。
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今日紹介するカリフォルニア大学サンタクルズ校からの論文は、細胞分化で起こることが知られているFlk2発現というイベントを記録できるマウスを用いることで、老化動物では血小板だけが正常幹細胞分化経路を外れて合成される経路ができることを示して、この謎を見事に解いた研究で6月6日号のCellに掲載された。
タイトルは「An age-progressive platelet differentiation path from hematopoietic stem cells causes exacerbated thrombosis(年齢とともに増加する血小板分化経路が血栓症を悪化させる)」だ。
この研究では、Flk2発現により誘導されるCre組み替え酵素を用いて、それ以前の血液幹細胞と、Flk2発現というイベントを経験した後の血液幹細胞を、赤い蛍光(Tom)と緑の蛍光(GFP)でそれぞれ区別できるマウスを使っている。
通常血液分化ではFlk2発現というイベントを経験するので、血小板も含めて末梢血はGFPを発現する。これは老化したマウスでも同じだが、驚くことに血小板だけ老化とともにGFP陽性細胞が低下し、Tom陽性細胞が5割を占めるようになる。
これは巨核球の前駆細胞レベルですでに起こっており、血小板の分化経路の極めて早い段階で、Flk2発現というイベントを通らない合成経路が老化とともに増えることがわかる。これは血液の老化に存在する新しい様式を示す驚くべき発見だ。
分化経路が違うということは、同じ血小板分化経路「でも発現する遺伝子に違いが出るということで、Tom陽性巨核球はsingle cell RNA sequencingで全くことなるクラスターを形成している。また血液幹細胞特異的遺伝子がTom陽性の巨核球前駆細胞へ分化した後も強く発現していることから、Flk2発現をすっ飛ばした分化経路であることがわかる。
問題は、分化経路が変わったために、血小板としての機能が変化することで、まず増殖能が高く、血小板増加刺激に対して強く反応し、若いマウスと比べ144時間目の血小板数は3倍以上に達する。さらに、血小板機能自体も、活性から血栓形成に至るまでの過程が促進しており、結果血栓形成能が高くなっている。
実際老化したマウスに血管にレーザーで傷をつけて血栓形成を見ると、Tom陽性の血小板の割合が多いことがわかる。すなわち、新しい老化型分化経路で合成されてきた血小板が血栓形成に優先的に関わっていることがわかる。
以上が結果で、おそらく老化に伴うエピジェネティックな変化で巨核球から血小板への分化経路だけが、Flk2を経由する経路から分化し、これが血栓形成能の高い血小板が老化動物だけで見られる原因であることがわかる。
寿命の全くことなる人間でどうかについては、まだまだ研究が必要だが、この経路につながるエピジェネティックな変化がわかれば、明らかになってくると思う。そして、この変化は明らかに老化の指標として使えるので、今後面白い領域へ発展する予感がする。