魚類の学名をほぼ網羅しているサイト「Catalog of fishes」を、マンボウ研究者と一緒に見てみよう!

2024.07.03

 生物の学名は日々更新されていく。もう変わらないだろうと思っていた種の学名がある日コロッと変わっていることなど、生物分類学では日常茶飯事だ。これはその生物の最初の命名者を尊重する生物分類学の基本概念に基づく行為なので仕方がない。

 最初に命名=最初の発見者の偉業を称えることは、どこの業界でも同じことだろう。しかしながら、今、自分が知っている学名が最新の情報かどうかを確認するためには、最新の文献を調べなければならず、少し手間が掛かる。

 インターネットが無い時代だったら、本を取り寄せたりして本当に大変だったことと思う。しかし、現代は現代で、インターネットを活用しようにも、サイトがたくさん溢れているので、どこを参照したらいいのか分からない人も多いことと思う。そこで、今回は魚類の最新の学名を確認するためにとても有用なサイトを紹介したい。

魚類の学名検索に特化したサイト

 「Eschmeyer's Catalog of Fishes」というサイトは、アメリカのCalifornia Academy of Science(カリフォルニア科学アカデミー)が運営する魚類の学名検索に特化した非常に有用なサイトである。

 私自身このサイトを使いこなせてはいないのだが、私が知る限りの情報をお伝えしたいと思う。このサイトは、California Academy of Scienceが1998年に出版した『Catalog of fishes』という全3巻、全2905ページに及ぶ学術書をベースに作られている。

 この本の主著者であるWilliam Neil Eschmeyer博士はアメリカの偉大な魚類学者で、California Academy of Scienceに所属し、このサイトの主な開発、更新を行ってきた。最初のサイトの名前は「Catalog of Fishes」だったが、Wikipediaによると2019年に「Eschmeyer's Catalog of Fishes」にリネームされたとのことだ。私も随分お世話になっているサイトだが、いつから名前が変わったのか把握していなかった。もしかしたら、Eschmeyer博士が定年を迎えてサイトの主編集者が交代したタイミングでサイトの名前をリネームしたのかもしれない。

 このサイトは魚類の学名を網羅していると言っても過言ではないと私は思っている。サイトの更新は毎月行われ、魚類の学名に関する世界的な情報が常に更新され続けている。

 

努力の賜物たるサイト

 魚類の学名検索について、私が使っている方法を紹介しよう。英語のサイトだが、使い方が分かればそんなに身構えなくても大丈夫だと思う。まず、トップページの右端の一覧に「Search Eschmeyer's Catalog」という項目があるので、こちらをクリックする。すると、ページが進んで検索画面が出てくる。検索画面の下の方には丁寧な検索の仕方の説明が載っている。


 私がこのページにアクセスした2024年6月27日時点では、「version of 11 Jun 2024」と書かれていた。学名は日々更新されていくので、バージョンの履歴が記されているのはありがたい。ここで注目して欲しいのが、私がこのページにアクセスした時点の有効な魚類の種数は「We record 36,867 valid fish species, including 18,738 valid fish species with the tag ‘Habitat: freshwater’.」と書かれていたことだ。

 

 もちろん分類学的に問題のある種を含んでいる数値だが、世界には36867種の魚類が確認されていると明確に示されているのは本当に努力の賜物だと思う。ここで一つ注意が必要なのは、「Search Eschmeyer's Catalog」で検索できるのは現存種のみであり、化石種は含まれていないことである。

 

検索の”ワザ”

 さて、ここで自分が確かめたい魚の学名を検索すればいいのだが、その前にちょっとした裏技的な検索方法があるので、先に読者の方に教えておこう。検索画面には種(species)と属(genera)しかないのだが、科(family)レベルで過去の学名を調べたい場合は、「SPECIES」にチェック、「Include unavailable names」の項目にチェック、そして「入力ボックス」に科名(マンボウ科の場合はMolidae)を打ち込んで「searchボタン」を押すと、「[ 57 ] records」と検索結果が返ってくる。これはマンボウ科全体では過去に57個の学名が新種として記載されたことを意味する。



 ここで注意が必要なのは、この57種は記載された学名の総数であり、実際に現存する種数ではないことだ。新種と思って学名を付けたが、後に同種だったということはよく起きており、そうなると1つの種に2つの学名が存在することになる。その被った学名はシノニムと呼ばれる。

 学名は基本的に早い者勝ちなので、先に命名した方が採用され、後に命名した方は仮の名前として保留されることになる。研究が進んで先に命名された方の学名が何らかの事情で不適切となった場合、保留されていた方の学名が繰り上げされてその種の学名として採用されるといった感じのことが起こる(実際はもっと複雑)。

 マンボウ科はシノニムが多く、シノニムは57個あるが、実際は現状5種しかいない。しかし、この5種に絞るためには、この57個の新種記載された文献(原記載)を全部収集し、これとこれは同種!と学名が被っていることを指摘していかなければならない。私はこの作業を行うのに5年以上かかった。先ほどは「Include unavailable names」にチェックを入れたが、このチェックを外しても53個のシノニムが表示される。unavailable namesは学名として不適切な名前を意味し、命名法的に問題があり、使われることのない学名だが、これも一応チェックしておく必要がある・・

 

閑話休題。「探し方」とその結果

 少し話が逸れてしまったが、57個も表示された学名の内、どの学名が有効なのかをどう確認すればいいかと言うと、太字になっているCurrent statusを見ればいい。例えば「Current status: Synonym of Mola mola (Linnaeus 1758)」となっているものは、マンボウMola molaのシノニムなので、被った側の学名のことを指す。だから、シノニムとなっている学名はその種の現在の学名ではない。

 

 現在有効な学名には「Current status: Valid as Mola mola (Linnaeus 1758).」というように、Current statusに「Valid」と書かれている。マンボウ科はCurrent statusに「Valid」と書かれているものが5つあるので、現状5種が存在しているということになる。

 

 このサイトでは種小名のアルファベット順に並んでいるので、「mola, Tetraodon」といった具合に属名は後ろに表示される形式だ。各学名について文献がたくさんリストされているが、これらは学名や形態、分布に関する情報が書かれている文献で、これらの文献を確認することで、世界的な分布を知ることができる。

 

 各文献について情報が記されているが、初めて見ると何の情報が書かれているか分からないと思う。一例を挙げると、「Sawai 2023:6 [ref. 40027]」は、著者名、出版年、ページ数、このサイトでの文献番号の順に並んでいる。新種記載をする場合は可能な限りここにリストされているすべての文献をチェックする必要がある。時代が進むにつれて文献はどんどん追加されていくので、文献収集・読解するだけでも大変な作業になってくる……。

 

更なる深掘り

 せっかくなので、もう少し深掘りしてみよう。あまり長いと説明が難しくなるので、学名に関する情報が短いものを選んでみた。例えば、Ranzania makuaという学名がかつて記載された。この学名を新種記載した原記載論文に書かれている情報が赤色の下線にまとまっている。

 「Jenkins [O. P.] 1895」は論文の著者と出版年、「779, Pl.(frontispiece); Figs. 1-3」は学名が書かれているページ数や図の番号、「[Proceedings of the California Academy of Sciences (Series 2) v. 5 (pt 1); ref. 18331]」は雑誌の情報とこのサイトでの文献番号、「Mouth of Pearl Harbor, Honolulu, Oahu Island, Hawaiian Islands.」はタイプ標本の産地、「Holotype (unique): USNM 75155.」はタイプ標本のカテゴリーと保存されている博物館等での標本番号を意味する。

 青色の下線は後の研究で、この学名Ranzania makuaが、別の学名Ranzania laevis(クサビフグ)のシノニムと判断されたことが書かれている文献のリストである。上述のように、各文献の著者名、出版年、ページ数、このサイトでの文献番号が示されている。

 最後に、緑色の下線はこの学名に関する結論で、「Current status: Synonym of Ranzania laevis (Pennant 1776)」は、この学名がシノニムであること、「Molidae.」はマンボウ科であること、「Habitat: marine.」は海水魚であることが端的に記されている。サイトの見方が分かると、情報の羅列であることがお分かり頂けることだろう。



 以上のように、自分の知っている学名が最新のものかを確かめるためには、検索ボックスに自分の知っている学名を打ち込んで検索し、「Current status」→「Valid」の学名をチェックすればいい。もし、自分の知っている学名と違っていて不安があれば、「ref.」の文献を参照して論文を探すこともできる。少なくとも私はよく知らない魚種の学名を論文に書く時、このサイトでチェックしてから書くようにしている。


 学名の
  最新情報
   知るための
    便利なサイト
     Catalog of fishes
 

参考文献

Eschmeyer, W. N. (ed), 1998. Catalog of fishes. Vol. 1. Introductory materials, species of fishes, A-L. California Academy of Science, San Francisco. 1-958 pp.

Eschmeyer, W. N. (ed), 1998. Catalog of fishes. Vol. 2. Species of fishes, M-Z. California Academy of Science, San Francisco. 959-1820 pp.

Eschmeyer, W. N. (ed), 1998. Catalog of fishes. Vol. 3. Genera of fishes, species and genera in a classification, literature cited and appendices. California Academy of Science, San Francisco. 1821-2905 pp.

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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