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こんにちは!サイエンス講師の山﨑実香です。
私は、理系情報サイトのサイエンスライターや、小学生用オンラインスクールの理科実験講師などとして活動しています。
今回は「初心者が研究を進める際におさえるべきポイント」を解説します。実際に、私が指導している中学生にも伝えている内容です。
教育機関や研究機関の研究者、必見!
CONTENTS
しかし、なぜ私はこの記事を書くことになったのか? それには、千代田国際中学校(※)でのLAP(Liberal Arts Projects)という授業が関係しています。
(※次年度より千代田中学校に名称変更を予定)
近年、私が力を入れているのがこの学校での授業。
LAP授業では、私のような外部から派遣された社会人講師が指導にあたります。内容としては「中学生たちと、リベラルアーツの学びを意識した探究プロジェクトに臨む」というもの。
そんなLAPの授業が、2024年度も始まりました。
中学2年生・3年生で行うプロジェクトは特殊で、"2024年4月〜2025年3月の1年間に渡り、生徒それぞれが自分の探究学習を進める”というゼミナール形式の内容です。
このLAP授業の中に、生徒15人が所属する「生物研究ゼミ」があります。その講師が、私と千代田国際中学校の理科教諭 名取慶先生!
ちなみに、私は複業先生(※)という教育特化型の複業案件プラットフォームから派遣されています。
(※複業先生:これまでの仕事や経験を、学校現場で分かち合いたい人がスポットで「先生」の仕事ができるサービス|株式会社LX DESIGN運営)
LAPの活動頻度は約2時間×月3回ほど。基本的には、タブレットを持ち寄り教室で活動します。
それぞれの研究内容は
・自宅で飼っている犬について
・ゴキブリの生息地
・魚のウロコ
など様々。
教室を飛び出し、屋外、自宅、実験室、外部施設で研究をするのもOK、特殊な実験道具を使用することもOKです。
中学生は、言うなれば「研究初心者」です。しかし、ポイントさえ押さえれば、初心者であっても研究活動をすることは可能です。
そのポイントは「研究計画書の構成を意識すること」これだけ!
研究計画書の構成とは基本的に
①テーマ(具体的で深く)
②背景(先行研究の不足点を指摘)
③目的(社会的課題の解決)
④研究対象と方法(実行可能性を持たせる)
⑤期待される成果(予想される結果とそれによる社会貢献)
⑥参考文献
という6つの項目を含みます。欲を言えば、これらの項目以外にも気をつけたいポイントはあるのですが、最重要ポイントはこれらの項目と言えるでしょう。
研究を進めるために、なぜ研究計画書の構成が重要なのでしょう?
それは「研究活動を進めるうえで、押さえるべき6つの項目」がまとまっているからです。
そもそも研究計画書とは、研究活動を開始する前に作成する書式。実験をしたり、論文を書いたりするのは、その後です。
分かりやすく言うと、研究計画書=家の設計図。設計図があるからこそ、理想の家が建築できますよね。ここで、家の建築=研究活動にあたります。つまり、研究計画書があるからこそ、理想の研究が進められるのです。
例えば、研究計画書の項目のうち重要な要素の1つが「参考文献の調査」。
この調査をすることで
・自分の研究に新規性を持たせることができる
・実行できそうな手法を考えるヒントになる
などのメリットが得られます。
生物研究ゼミ15人のうち、4人で1つのテーマの研究を進めるチームがあります。
それが「恐竜の研究」!
メンバーは3年 K.Hくん、3年 D.Nくん、2年 F.Tくん、2年 M.Rくんの4人。
彼らが作成した研究計画書を例に、6つの項目を参照しながら研究のポイントについて考えていきましょう。
生徒が書いた内容
「恐竜から鳥への骨格の進化の歴史」
このままでも、何がやりたいのかは、十分に伝わります。しかし、研究テーマはもっと具体的かつ深く設定すべきです。
その理由は
・新規性を持たせるため
・タスクに落とし込むため
・業界全体で課題解決を進めるため
などなど。
たとえば「恐竜博物館に貯蔵されている恐竜と鳥類の骨盤骨格から、進化の過程が探れるか」ぐらい具体的に書いた方が良いです。
・5W1H( いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように )
・キーワードを足す( 恐竜博物館、骨盤など )
などを意識すれば、具体性を持たせられます。
生徒が書いた内容
「自宅でオカメインコを飼っている。それを見て、どのようにして恐竜時代の獣脚類から現在の鳥の容姿、骨格になったのかについて興味を持った。先行研究によると、鳥は獣脚類であり恐竜から進化している。しかし、骨格についての研究は多くない。」
良い感じです!「理由」+「先行研究の不足点」という構成は、正に背景の型であるため。
意識すると更に良くなるポイントとして、本当に骨格についての研究は多くないのか?という観点で、もう少し参考文献を調査しても良いかもしれません。
生徒が書いた内容
「骨格の変化を元に、恐竜が鳥類になったことを証明する。この結果により、鳥類を恐竜にすることができるようになる。」
"目的"にはなっていますし、良い感じ!しかし、これだけでは新規性と社会的意義が弱いです。
・鳥類が恐竜の一部であることは、既に一般的に証明されている。骨格を元に証明する意味は?
・鳥類を恐竜にすることができると、社会にとって何か良いことがあるの?
この辺りを、もっと詰めた方が良いでしょう。
生徒が書いた内容
「文献や図鑑で調べる。博物館で恐竜の骨格の写真を撮る。」
実行可能性はありますね!一般人であっても、恐竜の情報に触れられる機会を利用しているためです。
しかし、これだけでは「研究活動」と呼ぶにはいささか薄いです。
例えば「文献や図鑑で調べる」は、あまり研究活動とは呼べず、ほぼ「調べ学習」に留まってしまっています。
研究とは「新しい発見をして、社会的課題を解決する作業」。調べるだけでなく、自分で何か恐竜について新発見をしたいところ。
その観点で方法を見たときに、
・博物館で骨格の写真を撮影するだけで、新発見が得られるのでしょうか?
・実物の骨格を測定できないと、データとして不十分ではないでしょうか?
・中学生が骨格を入手するのは難しいのでは?
・それならば、実現可能性のある手法に変えた方が良いのでは?
など、悩みが尽きません…。
「研究初心者」にも色々な立場の方がいらっしゃると思いますが、こと中学生による恐竜研究を進める場合では″研究の対象と方法″が一番の課題になりました。
生徒が書いた内容
「鳥をベースに恐竜を作る研究に役立てる。これによりジュラシック・パークの実現に貢献できる。 」
④の手法が定まっていないので、まだ結果の予想はできていないようです。
「鳥をベースに恐竜を作る」という点で、③の目的と一貫性がある点はGOOD。
ジュラシック・パークの実現…個人的には大好きです!実は私は、頻繁に恐竜博へ行くほど、恐竜好き。ジュラシック・パークなんて書かれたら、ワクワクするに決まってます♪
しかし、研究計画書における「成果」は、もっと社会的課題の解決になることをうたう必要があります。分かりやすく言うと「人の役に立つこと」をアピールすべき、ということ。
なぜなら、研究をするためには研究費が要るので、恐竜に興味がない人にも「この研究はやる価値がある」と思わせる必要があるからです。社会的意義がない研究には、研究費も払われません。
ジュラシック・パークがあると、何か人にとって良いことがあるのでしょうか?
ここでヒントとなるのは動物園や水族館の存在。これらの施設は何か社会に貢献しているのか?という観点で参考にすることで、色々な落とし所が見つかるかもしれません。
「ジュラシック・パークがあると、鳥の◯◯が分かり…」
「ジュラシック・パークがあると、人の心が◯◯…」
「ジュラシック・パークがあると、産業が◯◯…」
○○…の部分が、非常に重要です。
主に、次の3つを参考文献として載せてくれました。
生徒が書いた内容
青塚圭一、神流町恐竜センター、中生代の鳥類における骨格及び生態の進化、2017 年 12 月 31 日、日本鳥学会誌67(1): 41–55
川上和人、江田真毅 、森林総合研究所、北海道大学総合博物館、鳥類の起源としての恐竜と恐竜の子孫としての鳥類、2017 年 12 月 5 日、日本鳥学会誌67(1): 7–23
・J-STAGEなどの無料論文閲覧サイト
・業界の中でも権威のある団体のサイト
などを参考にしていたようです。
信頼のおける組織を参考にしていて、良い感じ!また、参考文献の内容は、生徒たちの研究と関連性が深いものでした。素晴らしい!
参考文献から「自分たちの研究にも応用できる手法」が見つかると良いので、その観点を意識すると更に良くなります。文献数も3では少ないので、もっと閲覧したいところ。欲を言えば、専門書籍も購入したいのですが、費用との相談です。
これから研究を進めるために、研究計画書の
①テーマ(具体的で深く)
②背景(先行研究の不足点を指摘)
③目的(社会的課題の解決)
④研究対象と方法(実行可能性を持たせる)
⑤期待される成果(予想される結果とそれによる社会貢献)
⑥参考文献
という項目を満たすべく、計画を練っていきます。
しかし、中学校という枠の中ではどうしても限界があるもの。そこで、
・専門家からのアドバイス
・研究費の助成金申請
という次のステップに進もうとしています。
実は、私の知り合いである恐竜学者の山﨑優佑先生からアドバイスをいただくことになりました。
※偶然私と同じ姓ですが、親戚ではありません
また、7月には、生徒と私とで恐竜博物館内で優佑先生からの特別講義を受ける予定です。
その博物館は、先生が講師をされているTCA東京ECO動物海洋専門学校内にあるDINOSAUR MUSEUM。
「ここで、今後の研究に役立つ情報を得られるか?」が行く末を左右しそうです。
この恐竜研究で令和6年度 学校法人武蔵野大学創立100周年記念アワードへの応募も予定しています。狙うは、研究活動に対する助成金の獲得!
恐竜研究は
・どうやって情報やサンプルを得るか?
・そのための費用はどこから出すのか?
など課題を抱えているためです。
さあ、これから専門施設訪問、助成金事業への応募などが待っています。
・研究計画書は整うのか?
・恐竜学者と恐竜博物館から得た情報とは?
・助成金プロジェクトは通るのか?
中学生たちの挑戦に、乞うご期待!