著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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CONTENTS
本日紹介する論文
2日間、AIの話題が続いたので、今日は全く異なる分野、10億年以上前の生物についての超古生物学に関するカナダ・McGill大学と米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文を紹介することにした。
タイトルは「Early fossil eukaryotes were benthic aerobes(初期の真核生物化石から酸素を必要とする底生生物である事がわかる)」だ。
解説と考察
地球は酸素を合成するシアノバクテリアの誕生で24億年から20億年に酸素の存在する環境へと変化する。これと呼応して20億年ほど前に真核生物が誕生したとされている。何故真核生物誕生時期がわかるのか?というと、まず単細胞でも化石化されると、細胞の構造痕跡がのこっており、真核細胞か原核細胞かを判断することができる。まず大型の細胞化石はほぼ真核生物と言え、さらに表面の複雑性や、核を含む細胞内器官の痕跡を特定することで、真核生物かどうかを判断している。もちろん遺伝子を調べることはできないが、ステランと呼ばれる脂質を中心とするステロール解析からも、真核生物と判断できる。
この研究で問われたのは、真核生物(おそらくミトコンドリアを備えている)は早い時期から酸素を必要としたのか?、すなわち20億年以降急速に進んだ真核生物の多様化や複雑化に酸素呼吸は必要だったか?だ。さらに、形態的真核生物化石の特定と、真核生物のステロールによる化学的特定(10億年前)までに、10億年近いギャップがある点も説明しようとしている。
この目的のために、17億年から13億年までのミクロ化石が集積している北オーストラリアの堆積盆地をボーリングし、地質学的酸素環境と真核生物化石の相関を調べている。発掘した環境について、酸素環境だったか、それとも還元環境だったかをまず明らかにし、そこに存在する化石の種類を調べている。素人が驚くのは、細胞レベルの化石がきちっと分類されていることだが、示された写真を見ても、地層の中からよくまあ特定できるなと、科学的蓄積の豊かさに驚く。
結果は予想通りで、酸素の少ない環境からも真核生物は検出されるが、圧倒的多数の真核生物化石は酸素環境から見つかる。これらは生物の死骸が堆積している底で棲息する底生生物だが、酸素の存在する岸に近い領域にのみ見つかることから、17−13億年前の真核生物は、現在のような水に浮かんで棲息するプランクトンは存在しないことが示唆された。この結果から、基本的に13億年以上前の真核生物のほとんどは酸素環境で化石化したため、その過程でステロールが酸素のために残らなかったのではと考えている。そして岸辺の酸素環境の中で進化する過程で、プランクトン型の真核生物が生まれると、これらは海を漂うことで、深い酸素のない海の底に沈殿することが出来、結果真核生物化学マーカーであるステロールを保持した化石が出来たと考えられる。
まとめと感想
以上が結果で、古生物学と言っても極めて専門性の高い、おそらく研究者も少ない領域だと思う。それでもAI時代に、この小さな研究領域が、多くの研究者を魅了するのも科学の素晴らしい特徴と言える。