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2026年4月上旬、SNS上で動物の豆知識を披露する系のアカウントの投稿が色んな意味でバズって話題になった。このアカウントは様々な動物の豆知識を投稿していたのだが、マンボウに関する投稿もしていて、私がどんなことを言っているのだろうと確認してみたら「水族館で飼育していたマンボウはクラゲしか食べないから冷凍クラゲを解凍して、小さく切って餌として与えている」という旨の内容を書いていた。水族館で飼育しているマンボウに解凍した冷凍クラゲを餌として与えている……? 私はその点に物凄く引っ掛かった。何故なら、私はこれまでに様々な水族館のマンボウ飼育員の人達とやり取りをしてきたが、餌に解凍した冷凍クラゲを与えているという話は一度も聞いたことがなかった。おかしい……。その投稿には他にもインターネット上から得られるマンボウの知識を改変しただけのような内容が書かれていたので、私はバズって注目されたいだけのアカウントではないかと疑問を呈した(どうも生成AIを使った創作だったらしい)。動物の豆知識披露系のアカウントはたくさんあるが、時々怪しい情報が盛り込まれていることがあるので要注意だ。しかし、豆知識が披露されている動物自体に詳しくないと、その情報の真偽を判断することはなかなか難しいと思う。今回は私がマンボウに詳しかったので、「冷凍クラゲを餌として与えている」という情報は偽りだと見抜けたが(詳細は以下)、私も他の動物のことは詳しくないので、それらしい情報を教えられると何の疑問も持たずに信じてしまうかもしれない……。恐ろしいことだ。
では実際のところ、マンボウはクラゲを食べるのか?食べないのか?と聞かれると、野生のマンボウはクラゲを食べている。しかし、クラゲだけしか食べないのか?と聞かれると、答えはノーだ。自然下のマンボウはクラゲ以外にも様々な餌を食べていることが胃内容物調査をはじめとした様々な研究から示されている。ここでは敢えてクラゲだけに焦点を当てて話を進めることにしよう。マンボウがクラゲを食べるなら水族館で餌としてクラゲを与えればいいのではないか?と思われる方もいるだろう。その疑問は正しい。でも普通水族館ではマンボウの餌としてクラゲは与えない。それはどうしてなのか?
理由は簡単。生きたクラゲを餌として仕入れることが大変だからだ。何故大変なのか? マンボウはその巨体を維持するために、1日にものすごい数や量のクラゲを食べると推察される(具体的に1日にどのくらいの数、どのくらいの量のクラゲを食べるのかは分かっていない)。そんな大量のクラゲを活かしてキープしておく場所が水族館には無いし、マンボウのためだけに毎日のように生きたクラゲを取りに行く・仕入れるのはコストがものすごくかかって大変だ。水族館の負担が大きく、生きたクラゲをマンボウの餌として与えるのは現実的ではない。
次に、生きたクラゲが大変ならクラゲを冷凍しておけばいいのではないか?と思う人もいるだろう。しかし、水族館の餌を冷凍できる場所は少なく、他の様々な生き物の餌も冷凍する必要があるので、マンボウのためだけに大量のクラゲを凍らせておくスペースを作ることなんてできない(電気代も掛かるし)。そもそも水族館で飼育されるマンボウは一般的にクラゲを食べなくなる傾向があることが水族館飼育員の間で経験則的に分かっている。飼育しているマンボウにクラゲを与えた水族館はいくつもあるのだが、マンボウの飼育水槽に生きたクラゲを入れてもマンボウが興味を示さなかったり、食べてもすぐに吐き出したりするのだ。これらの話は様々な文献(荒川・益田,1961;荒賀ほか,1973;辰喜ほか,1973;水野,2007)にも実体験として書かれているし、私も水族館飼育員から直接聞いたことがある。何故飼育下のマンボウはクラゲを食べなくなるのか……? その理由はよく分かっていない。飼育下のマンボウは栄養価の高い美味しい餌がもらえるので、グルメになってクラゲを食べなくなるのではないか?などと推測されているが、やはり詳しい理由は分からない。冷凍スペースは限られているのに、マンボウが食べないクラゲをわざわざ冷凍保存しておく意味はない……だから、上述した「水族館で冷凍クラゲをマンボウの餌として与えている」という話はおかしいと断言できるのだ。
しかし、何にしても例外が存在することは押さえておく必要がある。現在海響館で飼育されているマンボウは寂しがり屋として世界的に一躍有名になったが、野外から水槽に入れた後も人馴れしていない状態から定期的にクラゲを与え続けた影響か、この個体は飼育下でもクラゲを与えると食べる。マンボウによって食性や慣れの個体差があるのかもしれない。しかし、この海響館で飼育されているマンボウもクラゲがメインの餌ではなく、不定期に与えているだけと明確に言及している。海響館の場合、通常はエビやイカをミンチ状にして丸めた団子をマンボウの餌として与えているという。ここまでを簡単にまとめると、マンボウは野生ではクラゲも食べているが、飼育する上でクラゲはコスパが悪いので、餌とてして与えていないということになる。

まさかマンボウに与える餌の矛盾から怪しい情報を指摘することに繋がるとは全く予想もできなかった……どんな情報でも正確に知っておくべきだと改めて痛感させられた。と同時に、自分が詳しくない情報は簡単に他者に操作される危険性が孕んでいることも痛感させられた。動物について博識なアカウントはインターネット上に散見され、それなりにフォロワー数も多く人気がある。しかし、投稿スピードが異様に速い場合は疑問を持って欲しい。人間、自分が思っている以上に幅広い知識は頭に詰め込められない。面白い情報の裏には怪しい情報が潜んでいる可能性がある……。
水族館
クラゲを餌に
与えない
マンボウ食べない
コスパが悪い
【参考文献】
荒川好満・益田信之.1961.マンボウの生態.動物園水族館雑誌,3(4): 95-97.
荒賀忠一・田名瀬英朋・森山惣一・太田満・樫山嘉郎.1973.マンボウの飼育例とその生態の考察.動物園水族館雑誌,15(2): 27-32.
辰喜洸・御前洋・宮脇逸朗.1973.マンボウの飼育について.動物園水族館雑誌,15(2): 33-36.
水野芳嗣.2007.魚病OUTLOOK 第46回 水槽で飼育したマンボウの寄生虫症.養殖,44(3): 30-33.
澤井悦郎.2019.マンボウは上を向いてねむるのか:マンボウ博士の水族館レポート.ポプラ社.東京,207pp.