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あなたは「縮退性」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
これはもともと量子力学の概念から来ているのだが、実は実生活においても非常に重要な概念である 1)。
この縮退性さえあれば、あなたの家庭生活も安定し、さらには所得を増やすことも可能である。縮退性は平和と発展の原理なのだ。
今回の記事では、この縮退性がどのようなものか掘り下げて考えてみたい。
縮退性とは、多対一の関係性が成り立っていることである 1)。
多対一というとイメージしにくいので、まず一対一の関係を考えてみよう。
例えば、対応の仕方が一対一で決められているマニュアルのようなものがある。
しかし実生活でこの一対一の対応はうまくいかない。営業マニュアルやデートマニュアルに手を出した人だったら理解してもらえるのではないだろうか。
実生活で本当に役立つには「あれもこれも」の思考形式である。
誰かに断りを入れることを考えても、その伝え方は様々である。状況に応じてそれを使い分けることでスムーズに問題に対処することができるのだ。
このように世界は一対一ではなく、多対一の関係で成り立っている。
そしてこの関係性は体や脳も同じである。
例えばコップを取るといった動作 1 つでさえ、その方法は無限である 2)。何かの病原菌が体の中に入ってきたときも、体の反応の仕方には無限のパターンがある 1)。
それゆえ、右手が骨折したような時も、コップを取ることができるし、体の調子が悪いときでも、体は病原菌に対応することができる。
このように多対一の仕組みというのは、多少のトラブルがあっても柔軟に物事を運ぶことができるのだ。
この多対一の仕組み、縮退性であるが、これはよく聞く冗長性とどう違うのだろうか。
冗長性というのは簡単に言ってしまえばバックアップが多くあることである。
例えばパソコンであればバックアップ用のメモリを積んでおけばトラブルが起こったときも対処しやすい。
これに対して縮退性というのは異なる方法で同じ問題を解決することである。
例えば会議のスケジュールを控えておくことを考えると、パソコンに覚えさせることもできれば、自分で暗記することもできる。紙に書いてしまっておくこともできれば、スマホで録音・録画して取っておくこともできる。
このように複数の手法があることでトラブルがあっても安定して対応することができる 3)。これが単なる冗長性であれば、いくらバックアップがあったとしても電気が止まれば全てが止まってしまうこともあるだろう 1)。

縮退性は家庭で考えるともっとわかりやすい。
例えば例として、夫、妻、中学生、小学生という家庭を考えてみよう。
もし夫が仕事一本で家事は出来ない、妻は専業主婦でお金を稼げない、中学生の子供は勉強ばかりで家事は手伝えないという状況を考えてみよう。
この場合、夫は仕事の、妻は家事のスペシャリストかもしれないが、トラブルには弱い。妻が動けなくなれば家事が回らなくなるし、夫が倒れればお金が入ってこなくなる。
しかし、夫が家事もそこそこできて、妻は仕事でそこそこ稼げる、そして中学生の子供はちょっとは家事ができて、下の子の面倒も見れるという状況を考えよう。
このような家庭であれば、夫が働けなくなっても家計は回りやすい。なぜなら妻の労働時間を増やしたり、その分手薄になった家事や子どもの世話を夫や長男が代替できるからだ。
このように縮退性の高い組織はトラブルに対して対応しやすいし、頑強でもある。そして面白いのはこのような組織は進化しやすいことである 1)。
縮退性と関わる概念で中立ネットワークというものもある。これは一言で言えば「パフォーマンスを変えずとも変われる範囲」である。
例えば、家計を維持するということで考えれば、(夫・妻)の組み合わせで以下のように変化することができる。ちなみに夫も妻も仕事や家事ができることを前提としている。
A:(医療職・医療職)
↕
B:(社会人大学院生・医療職)
↕
C:(医療職+副業・医療職)
↕
D:(個人事業主・医療職)
↕
E:(個人事業主・営業職)
↕
F:(個人事業主・個人事業主)↔ G:(CEO・主婦)
↕ ↕
H:(主夫・CEO) ↔ I:(CEO・CEO)
このように組み合わせは様々であるが、縮退性が高い夫婦は、家計を維持したまま様々なパターンを行ったり来たりすることができる。そして G や H まで来ることができれば大きなリスクをとることなく I に化けることもできる。
このように機能を維持したまま遷移できる可能性のつながりを中立ネットワークという。そして縮退性が高い組織は中立ネットワークが広く、様々な可能性を探索することができるのだ 3)。
魚が陸に上がったのも、鳥が地上から飛び立てるようになったのも、このような中立ネットワークがあったからこそである 1)。
無論、縮退性のない組織でも化けることはできる。
例えば、ある事業に特化した会社が、生き残るために既存の事業を止めて、銀行からお金を借り入れ、一か八かでスピンアウトを図ることもできるであろう。しかしそのためには新しい事業が安定するまで死の谷のような場所を伝って歩く必要がある。
それに対して複数の事業を営んでいる会社であれば、中立ネットワークを通じて大きなリスクを取ることなく、気がついたら事業転換できていたということもあるのではないだろうか。

ではここまでの話をまとめてみよう。
次回の記事では、この縮退性が脳の中でどのように実装されているかについて考えてみたい
1) Edelman, G. M., & Gally, J. A. (2001). Degeneracy and complexity in biological
systems. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(24), 13763–
13768.
2) Sporns, O., Edelman, G. M., & Meijer, O. G. (1998). Bernstein's dynamic view
of the brain: The current problems of modern neurophysiology (1945). Motor
Control, 2(4), 283–305.
3) Tononi, G., Sporns, O., & Edelman, G. M. (1999). Measures of degeneracy and
redundancy in biological networks. Proceedings of the National Academy of
Sciences, 96(6), 3257–3262.