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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、64℃でも活動可能な新種のアメーバ「インケンディアモエバ・カスカデンシス (Incendiamoeba cascadensis)」についてだよ。「炎のアメーバ」という意味の学名が付けられるくらい、極端な高温でも活動可能な生態を持っており、このアメーバにとって25℃以下は寒すぎて休眠してしまうほどだよ。
単純な細胞の真正細菌や古細菌はともかく、複雑な構造の細胞でできた「真核生物」は、これまで60℃より高温で活動することはできないと考えられてきたのよね。ところがこの炎のアメーバの発見により、真核生物の高温の限界は60℃より上に押し上げられたんだよね!
高温に耐える真核生物探しの中では、アメーバの仲間はあまりマークされていなかったので、今後研究が進めば、“炎のアメーバ”よりもさらに高い温度に耐えるものが見つかるかもしれず、真核生物の活動限界がさらに押し上げられるかもしれないよ!
なお今回の研究は、現段階ではプレプリントであることに注意してね。査読という第三者チェックをまだ受けていないので、ここは科学誌に掲載された研究とは意味合いが異なるよ。ほとんどのプレプリントは、そのうちちゃんとした科学誌に掲載されるから大丈夫だとは思うけど、これは念のためね。
CONTENTS

図1: 生命活動に大事な項目の1つとして「タンパク質を正しく運用できるか」があるよ。そしてタンパク質が正しく機能するには、分子の形が重要になってくるんだよね。ところが熱をかけると、タンパク質は変形してしまうよ。このようにして、生命には活動できる限界の温度があることになるよ。 (画像引用元番号②)
生命はどれくらい熱くても生きていけるんだろう?高温の温泉水や熱水噴出孔にも生命が見つかるようになってから、この疑問はますます深まっているのよね。そしてこの疑問は、どういう種類の生命を想定して質問しているのかによって、答えが変わってくるよ。
まず、生命活動に大事な項目の1つとして「タンパク質を正しく運用できるか」があるよ。タンパク質は細胞などを形作るだけでなく、細胞が必要な物質・不要な物質をやり取りしたり、遺伝子の活動を切り替えたりするなどの調整役も担っているのよね。そしてタンパク質は、特定の形をしていないと正常に働いてくれないよね。
しかし、生卵を加熱すれば色が変わって固まるように、タンパク質は高温に晒すと変形 (熱変性) してしまうのよね。こうなってしまうと、タンパク質は正常な機能を失ってしまうので、生命活動もうまくいかず、最悪死んでしまうのよね。つまりタンパク質が変形する温度が、生命が耐えられる高温の限界ということになるよ。
一般論として、細胞の仕組みが単純な生物であるほど、高温に耐える傾向にあると考えられているのよね。例えば、ヒトを含めた「真核生物」よりも、いわゆる細菌と呼ばれる「古細菌」や「真正細菌」の方が、より高い温度の環境でも活動できる (生育可能である) ということが実験的に観察されているのよね。
知られている中で、最も高い温度でも活動できる生物は、古細菌の「メタノピルス・カンドレリ (Methanopyrus kandleri)」で、なんと122℃まで耐えられることが確認されているよね!真正細菌では「ゲオテルモバクテリウム・フェルリレドゥケンス (Geothermobacterium ferrireducens)」が100℃でも活動することが確認されているのよ。
一方で真核生物は、活動できる限界温度は60℃だと長年言われていたのよね。根拠の1つとして、真菌[注1]、紅藻類[注2]、アメーバ[注3]といった幅広い真核生物を調べてみた結果、57-60℃より上の温度では活動できなかったことが、根拠の1つにされているのよね。
また、細胞内の構造 (細胞内小器官) のタンパク質が壊れてしまう限界温度が、理論上は62℃であると推定する研究もあり、これも合わせて「真核生物が活動できる限界温度は60℃」だとする見解が一般的だったのよ。ただ、真核生物が耐える温度の研究は、分類こそ幅広いけど、ごく一握りの種しか見ておらず、見逃しがありうるのよね。

図3: 火山地帯にある水温の高い小川の水から、かなりの高温でも活動するアメーバを見つけたよ!ゲノム解析により新属新種であることが提案され、「カスケード山脈の炎のアメーバ」を意味する学名が付けられたよ。 (画像引用元番号①③)
シラキュース大学のH. Beryl Rappaport氏などの研究チームは、2023年から2025年にかけて、アメリカ合衆国カリフォルニア州にある「ラッセン火山国立公園」の調査を行っていたのよね。調査地域の1つに、水温こそ49-65℃と熱いものの、pHは6-7とほぼ中性という、珍しい性質の小川の水を採集したのよね。
この小川は「ホット・スプリングス川」というそのまんま過ぎる名前の川へ繋がる小さな支流で、どうも過去の研究では調査されていないようなのよね。1kmほど離れた場所には強酸性の熱水が湧き出す湖があることから、それと比べると熱いけど中性という、少し普通の環境であるこの小川にはあまり注目が集まらなかったのかもね。
Rappaport氏らは、この温水に微生物がいないかなと考え、小麦を餌として細菌の培養を試みてみたよ。すると、その繁殖した細菌を食べる、大きさ0.02mmほど[注4]のアメーバ状の生物が見つかったのよね。驚くべきことに、真核生物の活動限界温度であるはずの60℃前後で水温を3週間保っても、このアメーバは生きていたのよ!
ゲノム解析や顕微鏡観察により、このアメーバはこれまで知られていなかった新属新種[注5]であることが分かり、Rappaport氏らはこのアメーバを「カスケード山脈の炎のアメーバ」という意味の「インケンディアモエバ・カスカデンシス (Incendiamoeba cascadensis)」と名付けたよ!
炎のアメーバという学名を与えられただけあって、その耐熱性はスゴいものがあるよ。細胞分裂により増殖できる温度は42-63℃、最も増殖速度が速い温度は55-57℃ということで、とんでもなく熱いよ!ちなみに増殖可能な温度がそこそこ幅広いのは、生息地の水温が上下しやすい小川だからとも考えられるのよね。
むしろ、40℃以下では増殖が止まっちゃう上に、25℃以下では嚢子 (シスト) という休眠状態になっちゃうのよね。インケンディアモエバ・カスカデンシスにとって、25℃はあまりにも寒すぎるので、頑丈な殻を作って、もっと暖かくなるまで休眠しちゃおう、ということになるのよ!さすがは炎のアメーバだね。
では、逆に高温側はどれくらい耐えられるんだろう?実験をしてみると、64℃で増殖はしなくなるものの、活動自体は活発なままなのよね!そして66℃を超えると段々と嚢子を作るようになり、70℃で全ての個体が嚢子を作り休眠することが分かったよ。しかしこれでもなお、60℃まで温度を下げれば休眠状態から復活するよ!
63℃でも増殖し、64℃でも活発に活動し、70℃でも休眠はしつつも復活できる。これは真核生物が活動できる限界温度とされてきた60℃をあっさり上回っているのよね!ちなみに、インケンディアモエバ・カスカデンシスが嚢子の状態でも耐えられず復活できない、命の炎が消える限界は80℃付近みたいだよ。
こんなとんでもない高温に耐える炎のアメーバ。その高温耐性はどこから来るんだろうね?遺伝子を調べてみると、まずは、熱でタンパク質が変性してしまうのを防ぐ「熱ショックタンパク質」がたくさん見つかったのよね。熱ショックタンパク質は様々な生物にあるけど、高温環境に生息する生物ほど豊富に持つ傾向があるよ。
また、タンパク質が熱変性する温度を予測するツール「TemBERTure」を使って解析してみると、インケンディアモエバ・カスカデンシスが持つタンパク質は、同じく高温に耐える近縁種のアメーバよりも熱変性しにくい可能性があることが分かったんだよね![注6]
さらに、タンパク質の構造解析を行うツール「Alphafold2」で解析すると、インケンディアモエバ・カスカデンシスが持つタンパク質はプラスの電気を帯びている傾向にある (正味の表面電荷が有意に高い) と分かったよ。プラス同士の電気が反発し合うことで、タンパク質の変形を防いでいる可能性があるのよ。

図5: 今回の発見により、真核生物の活動限界温度は少なくとも64℃に引き上げられたよ。あまり注目されていなかったアメーバでこのような事例が見つかったということは、まだまだ知られざる高温耐性を持つ真核生物がいる可能性を示唆しているのよ。 (画像引用元番号①)
現段階ではプレプリントとはいえ、炎のアメーバことインケンディアモエバ・カスカデンシスの発見は、Nature誌が独自にコラム記事を出すくらいには注目されてるよ。真核生物の限界温度を超えたという点が何よりも驚きであり、これまでの常識を改めないといけない、という点で重要だからね。
また、真核生物で高温に耐えるものといったら、これまでは真菌か紅藻類と相場が決まってたのよね。ところが実際には、ノーマークとまでは言い過ぎだけど、あまり積極的に調査されていなかったアメーバで王者が見つかったのよ。となれば、炎のアメーバを超える高温耐性を持つアメーバが、まだ見つかってない可能性があるのよね。
実際、インケンディアモエバ・カスカデンシスと同じ遺伝子配列は、ニュージーランドのタウポ火山帯にもあることが今回の研究で分かっているのよね。これほど離れた地で炎のアメーバがいるならば、他の場所でも極端な高温耐性を持つアメーバが見つかってもおかしくないよね。
そして、この話は若干発展的だけど、真核生物の進化を考える上でも重要かもしれないよ。真核生物でも比較的高温に耐えられるなら、生まれたての熱い地球でも真核生物がいたかもしれないし、あるいは複雑な地球外生命体の存在を考える上でも、何か重要な示唆を与えるかもしれないよ。
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[注1] 真菌
ケタマカビの仲間の「カエトミウム・テルモピルム (Chaetomium thermophilum)」。60℃まで活動可能なことが確認されています。 本文に戻る
[注2] 藻類
単細胞性紅藻の「シアニディオスキゾン・メローラエ (Cyanidioschyzon merolae)」。60℃まで活動可能なことが確認されています。学名のカタカナ字訳は「シアニディオシゾン・メロラエ」と書かれることが多い。この種に「イデユコゴメ」という和名を当てる文献もある一方、別種に同じ和名が割り当てられている場合もあります。 本文に戻る
[注3] アメーバ
ツブリネア綱エキナメーバ目の「エキナモエバ・テルマルム (Echinamoeba thermarum)」。57℃まで活動可能なことが確認されています。 本文に戻る
[注4] インケンディアモエバ・カスカデンシスの大きさ
アメーバ状の体形の時が23.5±7.9µm、棒状の体形の時が38.7±9.4µm。 本文に戻る
[注5] インケンディアモエバ・カスカデンシスの上位分類
インケンディアモエバ・カスカデンシスの上位分類はツブリネア綱エキナメーバ目エキナメーバ科。 本文に戻る
[注6] インケンディアモエバ・カスカデンシスのタンパク質の熱変性
タンパク質の50%が熱変性する温度で比較すると、インケンディアモエバ・カスカデンシスは50.9±6.6℃と、近縁である「ウェルマモベア・ウェルミフォルミス (Vermamoeba vermiformis)」の46.9±5.1℃よりも有意に高い温度となっています。また、60℃で50%が熱変性するタンパク質について、インケンディアモエバ・カスカデンシスがウェルマモベア・ウェルミフォルミスと比較して5倍以上大きいと予想されます。ただしこれらの温度は、あくまで全体の傾向を捉えるための指標であり、個々のタンパク質の熱変性温度を正確に予想しているわけではないことに注意が必要です。 本文に戻る
<原著プレプリント>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)