新しい生物の界「プロメテ古細菌」を設置! 真核生物の起源に迫る重要な発見

2024.07.12

プロメテ古細菌界 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、「古細菌こさいきん (アーキア)」ドメインの中に、新しい「界」である「プロメテ古細菌界 (Promethearchaeati)」[注1]が設置されたという、中々滅多に無さそうな話だよ!

 

新しい界は新種の古細菌「プロメテアルカエウム・シントロフィクム (Promethearchaeum syntrophicum)」を元に設定されたんだけど、新しい界を与えるにふさわしいぐらい、この古細菌には重要な性質があるよ!

 

なぜならプロメテ古細菌界は、ヒトを含めた身近な生物の大部分を含む「真核生物しんかくせいぶつ」ドメインに一番近いとされており、私たちを含む真核生物の誕生や進化の経緯を知るための重要な情報を持っているかもしれないからだよ!

 

この新しい界に属する古細菌の研究は、「私たちはどこから来たのか?」という、生物学における究極的な疑問の解決への大きなヒントになるかもしれない、かなりスゴい発見でもあるんだよね!

 

ただ、この話は多くの人にとってあまり身近じゃない情報を知ってないと、スゴさがイマイチ理解できなかったりするし、場合によっては間違えて反応しているのもちょくちょく見かけるのよね。

 

ということで、比較的基本の説明から順々に説明していく関係上、合計6000文字以上のかなり長大な解説文になっちゃったよ。だので、ここは十分理解しているやと思うところは飛ばしてもらっていいよ!

 

生物の大分類は「界」から「ドメイン」へ

界に基づく生物の大分類

図1: 生物の分類は、最上位を「界」とするものが歴史上長く続いていたよ。しかし研究が進むにつれ、同じ界であっても多様性が全然違うことが分かってきたので、正直界で大分類を維持するのが難しくなってきたんだよね。 (画像引用元番号②③④⑤⑥⑦⑧⑨)

 

地球にたくさんの種類がいる生物は、比較する生物同士で似ているとか似ていないとかがあるよね?例えばヒトはチンパンジーやゴリラに近く、イヌやネコは遠いけど、それでもゾウリムシや植物よりは近い、といった具合にね。

 

このように生物の特徴で分類する「分類学」は、まさに分類学の父と称されるカール・フォン・リンネ (1707 - 1778) の頃から、その細かい形状は変わっているけど[注2]、それでも脈々と受け継がれているよ。

 

リンネの頃からつい最近まで、生物の分類は最大の分類を「界」、最小の分類を「種」とし、上から順に「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」と階層化していたんだよね。より細かい分類が挟まることはあっても、大枠はこれになってるよ。

 

そして最大の分類である界がいくつあるのかは、その時代における生物の理解度によって大きく変わっていったよ。例えば日本では5界説、アメリカでは6界説が主流な一方で、7界説や8界説なんてのも最近は出ているよ。

 

しかし、生物を調査する手段が高度化し、大量の生物を研究できるようになってくると、従来の界による分類には段々とムリが出てきたんだよね。特に、同じ界と名が付くグループ同士で、規模が全然違うという問題が出てきたよ。

 

例えば同じ界であっても、動物界や植物界の多様性より、原生生物界やモネラ界の多様性がはるかに大きいことが分かってきたよ。初めは細分化で対応したけど、むしろ界より上位の分類が必要なんじゃないかという意見も出てきたよ。

 

また、ここ数十年で遺伝情報の解析技術はどんどん高速化し、生物の分類も伝統的な形態や生態によるものから、遺伝情報の類似性を基にする方法に変化していったんだよね。これにより、ますます多様性の規模が見えてきたよ。

 

3ドメイン説と2ドメイン説

図2: 界での大分類にはムリがある!ということで1990年より本格的に提唱されるようになってきたのが、界よりさらに上位の分類となる「ドメイン」だよ。ドメインの数は真正細菌・古細菌・真核生物の3つだとする説と、真正細菌と古細菌の2つであり、真核生物は古細菌に内包されるという説があるよ。

 

これにより、界は5界や8界どころじゃないほど多数ありそうだということになったから、界より大きな分類を設けた上で界を分類することが1974年に初めて提唱され[注3]1990年からは本格的に言われるようになってきたよ。

 

この、界よりさらに大きな分類は「ドメイン」と呼ばれ、界はその下に置かれることになったよ。一般的なドメインでは、生物の大分類を「真核生物」「真正細菌しんせいさいきん」「古細菌」3つに分けることを提案しているんだよね。

 

なんかどれも聞きなじみがない単語かもだけど、とても大雑把に言えば、ヒトを始めとした、目に見える大きさの生物のほとんどは真核生物となるよ。もちろんミジンコやゾウリムシのように、かなり小さい生き物もいるけどね。

 

一方で真正細菌と古細菌は、一口に細菌と言ってる生物になるよ。ただこれらをドメインで分けたように、実際には細胞の構造レベルで全く違う生物なんだよね!特に古細菌は今回の主役なので、後で詳しく説明するよ。

 

このように、生物の特徴をかなり大きな違いで3種類にグループ分けし、これをドメインというグループ名で、界より上位の生物の分類とする。これが現在で言う「3ドメイン説」なんだよね。

 

かつての界を上位とする分類では、真核生物をそこそこ分けていた一方で、ドメインレベルで違う真正細菌と古細菌を一緒の界にしちゃうものもあったくらいだよ。界の中でも多様性が全く違う、というのがちょっとは分かるかな?

 

ドメインが正式になったのはつい最近!

ドメインの正式な設置

図3: ドメインの内の2つは、2024年1月に正式に認定されたよ!これにより、真正細菌ドメインには4界が、古細菌ドメインには3界が設置され、そして今回新たに古細菌に1界が追加されるよ。一方で今回のお話で真核生物ドメインは管轄外であり、正式ではないどころか、その下の分類すらはっきりしない部分があるよ。 (画像引用元番号⑩)

 

こんな感じで、最も大きな生物の分類をドメインとする説は、比較的多くの支持を受けていたんだけど、それでも本当にごく最近まで正式な分類ではなかったんだよね。

 

2024年1月、つまりこの記事の半年前になって、ようやく真正細菌ドメインと古細菌ドメインという2つのドメインが正式な分類として認定されたよ!実にリンネの提唱に次ぐ分類学の大変革といえると思うよ!

 

これほど最近の話なので、ネット上では今回のニュースを旧来の5界説による界と同等だと勘違いしていた反応がちょこちょこ見られたんだよね。残念ながらそうじゃないんだけど、それでもスゴいには違いない話だよ!

 

またこの認定では同時に、真正細菌には4つ、古細菌には3つの新たな界が設定されたよ。これまで界の下の大分類は、どの界や門が正式なのか暫定なのかはっきりしないあやふやさがあったので、界や門を整理した結果こうなったよ。

 

一方で、ヒトなどのなじみ深い生物が多く所属する真核生物ドメインは、一応まだ正式な分類とはされていないよ。これは大前提として、そもそも真正細菌や古細菌を担当する国際的な規範が違うという管轄外という理由があるよ。

 

ただそれよりも、真核生物はよりなじみ深いゆえに多くの種類を知っていて、だからこそいろんな分類の提案がされている、という感じなんだよね。それゆえに真正細菌や古細菌と違い、そもそもドメインの下が界とは決まってないよ!

 

今のところ、真核生物の界を分割・統合・整理して、界とドメインの間に「スーパーグループ」という枠を設ける提案があるよ。ただ、そのスーパーグループがいくつあるのか?に多くの提案があり、正式には未確定なんだよね。

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また、これは後で詳しく説明するけど、そもそも真核生物は真正細菌や古細菌に並ぶ独立したドメインじゃなくて、むしろ古細菌ドメインの下に位置するものではないか?という「2ドメイン説」も近年では有力視されているんだよね!

 

ひとまず話を整理すると、2024年1月になって、真正細菌と古細菌は最大の分類であるドメインが認定されたこと、この認定の中で、真正細菌には4界、古細菌には3界が設置されたこと、この2つを覚えててくれればいいよ。

 

「古細菌」ってそもそも何よ?

こんな感じで、真正細菌と古細菌は正式にドメインとなり、その中に界がいくつか設置されたわけだけど、20247月にJAMSTEC (海洋研究開発機構) 井町寛之氏や延優氏などの研究によって、古細菌にさらに新たな界の設置が認定されたよ!

 

新しい界の設置だけでも十分にスゴいんだけど、そもそも界を加えるきっかけとなった新種の生物自体もスゴいんだよね!ただ、このスゴさを分かってもらうには、まず古細菌についての大雑把な説明をしないといけないかな。

 

さっき一口に細菌と言ったけど、別称として「原核生物げんかくせいぶつ」とも呼ばれるこのグループは、グループとしての名称がある通り、当初は区別されていなかったよ。ところが実際には、ドメインレベルで全然違う生物だと後で分かったんだよね。

 

このため、大腸菌や納豆菌や乳酸菌のように、従来からよく知られていた細菌を真正細菌と呼んだのに対し、見た目には細菌だけど全然違う生物のグループを古細菌と呼ぶようになったんだよね。

 

なぜ古細菌は古い細菌と書くのか。古細菌のほとんどは高熱・強酸・無酸素のような、他の生物はとても生きていけない環境に適用しているんだけど、これは地球に最初の生命が誕生した時の環境と似ているんだよね!

 

つまり古細菌は、それこそ太古の時代に誕生した最初の生命の特徴を部分的に残しているのではないかということで、生命の起源と進化という究極の疑問の手掛かりが得られるかもと、結構研究されていたんだよね。

 

そして1999年、伊豆諸島の明神礁近くの深海で、他の古細菌と比べてもより真核生物に近い特徴をいくつも持っているようなものが見つかったんだよね!同じような古細菌は、その後世界中で次々見つかるようになるよ。

 

暫定的に「アスガルド古細菌 (Asgardarchaeota)」というグループ名で呼ばれるようになったこの古細菌は、真核生物のみが合成するタンパク質を合成するなど、古細菌と真核生物との共通点が次々と見つかったんだよね!

 

共通点があるということから、実は古細菌の一部が真核生物へと進化したのであろう、という大胆な説「E3モデル」が出てくるようになったよ!もしそうなら、アスガルド古細菌は説の検証の重要な手掛かりになるはずだよ!

 

さっき述べた2ドメイン説はこの辺が理由だよ。つまり真核生物は、古細菌とは独立した存在ではなく、古細菌の中で特殊化したグループであるため、古細菌の中に内包されるかもしれない、ということになるよ!

 

いずれにしても、アスガルド古細菌は古細菌としてはかなり異質な特徴を持つので、暫定的に上門に設定されてたよ。また、別の上門である「TACK上門」と併せて「プロテオ古細菌界 (Proteoarchaeota)」に暫定的に分類されてたよ。

 

ただ、これはあくまで暫定的な分類だったし、しかもアスガルド古細菌上門については、これまで1種も正式に学名がついた種がいなかったんだよね。これは新種に正式な学名をつける (記載する) ルールが関係してくるよ。

 

ある古細菌や真正細菌が、誰も知らない未知の種らしいということになったとして、例えば遺伝情報だけとか実物そのものだけを示して新種だと主張しても、それだけでは不確定要素が多すぎてダメなんだよね。

 

古細菌や真正細菌の新種が認められるには、栄養や温度やpHなどの適切な環境を整えた上で、自然に細胞分裂して増殖が起こる「培養」に成功しないといけない、という国際的なルールがあるよ[注4]

 

言うのは簡単だけど、古細菌は住み心地の良い条件を喋ってくれないので、突き止めるのがメチャクチャ難しいんだよね。温度やpHがやたらに極端かつ狭い範囲だったりするので、あたりをつけるのでさえ困難だよ。

 

また、1回の分裂に数十日かかるので、数年かけて実験しないといけないほど増殖が遅いものや、あまり細胞密度が高いと増えないなんてものがザラにいるから、培養実験自体に相当時間な時間が必要になるのよね。

 

これに加えて、それ単独では増殖せず、何か別種の真正細菌や古細菌がいることで初めて増殖できる、という共生の条件まで課せられたら、ほんとに気の遠くなるほど実験を続けなきゃならない、というのは何となく分かるよね。

 

新界新種の古細菌「プロメテアルカエウム・シントロフィクム」の培養に成功!

MK-D1株の培養に成功

図4: 今回の研究の主人公である「MK-D1」は、2006年に南海トラフの深海で発見されたけど、培養に成功するまでに実に12年もかかったよ!これはアスガルド古細菌の仲間としては初めての培養成功だよ! (画像引用元番号①⑪⑫⑬)

 

ここまですごい長い (4000文字以上!) 前置きを置いてようやく登場する主役が、井町氏や延優氏らが培養に成功したが培養に成功した新種の古細菌だよ。正式な学名が付けられる前、これは暫定的に「MK-D1」株と呼ばれていたよ。

 

MK-D1は、紀伊半島は熊野沖の南海トラフ、水深2533mの深海で2006年に採集されたんだよね。アスガルド古細菌の新たな種だと注目されていたものの、やはり他の古細菌と同じく培養する条件が最初は分からなかったよ。

 

時には全滅させるようなこともありながら、実に12年もかけて培養条件を探り出し、ついに特定の古細菌1[注5]が共生することで増殖するという重要な条件を見つけ、培養に成功したんだよね!

 

それでも、普通なら培養に成功すると水がはっきりと濁るんだけど、MK-D1は1回の細胞分裂に14日から25日もかかるほど増殖が遅いので、最大限増殖してもギリギリ目に見えるかどうかの濁りなんだよね!いかに遅いかがわかるね!

 

古細菌ドメインの中身の変遷

図5: MK-D1の培養成功までに、古細菌ドメインでは色々整理があったんだよね。これによりMK-D1の学名は、そのまま界を新しく設置するほどの大きな影響となっているよ! (画像引用元番号①)

 

さてこんな感じで、ようやくMK-D1はアスガルド古細菌で初めての培養成功種として、新種として正式な学名を付けられる段階になったよ。ただ、他のよくある新種の記載と違うは、その命名がもたらす影響の範囲なんだよね。

 

というのは、MK-D1の採集から培養成功までの12年の間に、古細菌ドメインのあれこれが正式認定や整理された結果、MK-D1の学名が大きな範囲に影響を与える状態となっちゃったからなんだよね!

 

まず、古細菌や真正細菌の学名に関する国際ルールにより、門の名前は基準となる種 (タイプ) の属名にするべきと決められたんだよね。またアスガルド古細菌は、徐々に上門ではなく門じゃないかと言われるようになってきたよ。

 

暫定名アスガルド古細菌門の中では、MK-D1がようやく初めて正式な学名が付けられるようになったので、自動的に基準となる種も1つしかないということで、MK-D1の属名が門の名前になるべき、ということになるんだよね。

 

またこの門の命名は、それより上の界にも影響するよ。先述した通り、当初はアスガルド古細菌上門とTACK上門とでプロテオ古細菌界という界が暫定的に設置したよ。ところがこれ、現在では状況が違うよ。

 

まずTACK上門は、20241月に「テルモプロテウス界 (Thermoproteati)」という界に再定義されたんだよね!つまりこの時点で、プロテオ古細菌界はTACK上門が分離し、アスガルド古細菌上門のみが属する状態だったんだよね。

 

しかし、アスガルド古細菌は上門ではなく門だというし、どちらにしても暫定名だから正式じゃないので、正式な門の設置に当たっては、ルールに基づいて名前をきちんと付ける必要があるよ。

 

そして、アスガルド古細菌門の更に上であるプロテオ古細菌界も暫定名だったわけだから、アスガルド古細菌門の名前が変更されれば、自動的にプロテオ古細菌界も新たな界の名前に変更されるということになるんだよね!

 

プロメテ古細菌界とその下の分類

図6: プロメテアルカエウム・シントロフィクムの正式な命名により、属も科も目も綱も門も界も一気に命名されることになったよ!最上位のプロメテ古細菌界の新設の根拠となったことから、プロメテアルカエウム・シントロフィクムは新界新種という中々にインパクトのある存在となったよ。 (画像引用元番号①)

 

そんな感じで、じゃあMK-D1にどんな学名が付いたのか?ということで提案された学名は「プロメテアルカエウム・シントロフィクム (Promethearchaeum syntrophicum)」なんだよね!

 

属名は、泥から人類を作り、人類に火を与えたとされるギリシャ神話の神「プロメテウス」と、古細菌を意味する「アルカエア」、種小名は共生関係で増殖することから「共に餌をとる者」を意味する言葉が付けられたよ。

 

そして、プロメテアルカエウム・シントロフィクムは界に至るまでただ1つの種であることから、新属新種ならぬ新界新種と、中々にインパクトのある言葉と共にその記載が論文で報告されたんだよね!

 

今回の新種の記載により、自動的に新属プロメテアルカエウム属、新科プロメテ古細菌科、新目プロメテ古細菌目、新綱プロメテ古細菌綱、新門プロメテ古細菌門、そして新界プロメテ古細菌界が新たに設置されたよ!

新界新種の古細菌「プロメテアルカエウム・シントロフィクム」の培養に成功!

E3モデル概説

図7: 真核生物は、古細菌が真正細菌と共生関係を進めた結果、やがて1つの細胞として合体して誕生したのではないか?という説があるよ。プロメテアルカエウム・シントロフィクムの培養成功により、プロメテ古細菌界の研究が進めば、「私たちがどこからきたのか?」という究極の疑問へ迫れるようになるかもしれないよ! (画像引用元番号①⑭)

 

今回は、新たな界の設置というかなりのインパクトがある論文を紹介したけど、もちろんこれはゴールではなく、スタートにようやく位置した感じだよ。これはプロメテ古細菌界と真核生物の近さがあるからなんだよね。

 

最初の方に述べた通り、真核生物は古細菌から分岐して進化した可能性があり、アスガルド古細菌上門改めプロメテ古細菌界は真核生物に最も近いであろうことが予想されているんだよね。

 

そして、今回は培養に成功したからプロメテアルカエウム・シントロフィクムに正式な学名が付いたけど、培養にこそ成功してないけど明らかに別種な古細菌はめっちゃたくさん見つかっているのよね!

 

1つの成功により、もしかしたら他の古細菌の培養にも成功するかもしれないから、プロメテ古細菌界に属する古細菌の数はこれからどんどん増えていくかもね。とすると、真核生物に近い古細菌のことがどんどん分かってくるはずだよ。

 

ヒトは真核生物の1種である以上、プロメテ古細菌界の研究は、私たちはどこから来たのかという究極の疑問に大きな手がかりを発掘できるかもしれない、と考えることができるわけだから、めっちゃ重要なのは何となくわかるよね?

 

プロメテアルカエウム・シントロフィクムの正式な命名は、新界の設置というインパクトに留まらず、これから多く記載されるであろう様々な新種を通じて、真核生物の理解がより深まる、その序章だと言えると思うよ。

 

研究が進めば、生物の大分類は真核生物・古細菌・真正細菌の3ドメイン説が正しいのか、それとも真核生物は古細菌の中に内包される2ドメイン説が正しいのかが、真核生物の起源と共にはっきりと分かってくるかもしれないよ!

注釈

[注1] プロメテ古細菌界
学名をそのまま字訳して「プロメテアーキア界」、または「プロメテアーキアティ」とも。  本文に戻る

[注2] リンネの分類
リンネのオリジナルの分類は、それを掲載した書籍のタイトルである『自然の体系』から分かる通り、生物というよりも、それより広範な自然界を博物学の知見に基づいて体系的に分類しようとしていました。このためリンネは自然界を「動物界」「植物界」「鉱物界」の3つに大別していました。この内の鉱物界だけは非生物であるために現在では別個とされており、命名規則も全く異なりますが、それでも化学成分で分類を分けるなど、概念は残されています。  本文に戻る

[注3] ドメイン
現在のドメインに相当する概念は、1974年にロイヤル・T・ムーア (1930 - 2014) によって提唱された「ドミニオン (Dominion)」が最初です。その後1990年になってカール・リチャード・ウーズ (1928 - 2012) 、オットー・カンドラー(1920 - 2017)、マーク・L・ウィーリス(?)によって3ドメイン説が提唱され、本格的に登場しました。  本文に戻る

[注4] 古細菌や真正細菌の命名ルール
古細菌や真正細菌の学名に関するルールは「国際原核生物命名規約 (ICNP)」によって決められています。培養に成功しなければならないというルールは、動物や植物などと異なり、見た目で判別が難しいことや、基準となるタイプ標本の作製が困難であることに由来しています。また、原則として学名を記載する段階で、培養した株は最低でも独立した2機関で保管しなければなりませんが、培養環境の維持が著しく困難である種や、危険な感染症の原因となるバイオセーフティレベル3以上のような種など、取り扱いが難しい種は例外的に1機関で保管されていても認められます。今回のプロメテアルカエウム・シントロフィクムは、JAMSTECで維持されている1例のみをもって記載が認められています。これは、増殖速度が遅いために細胞収量が著しく悪いことや、増殖の証明にqPCRを使用することが理由です。  本文に戻る

[注5] 共生する特定の古細菌1種
プロメテアルカエウム・シントロフィクムは、メタンを生成するメタン菌の1種「メタノゲニウム・ボオネイ (Methanogenium boonei)」が培地に共にいることで培養に成功しました。このような培養における必須性のため、学名の記載に使用したMK-D1株は単離で維持されていません。これも上述したICNPにおける原則の例外です。  本文に戻る

 

文献情報

<原著論文>

  • Hiroyuki Imachi, Masaru K. Nobu, et al. "Promethearchaeum syntrophicum gen. nov., sp. nov., an anaerobic, obligately syntrophic archaeon, the first isolate of the lineage ‘Asgard’ archaea, and proposal of the new archaeal phylum Promethearchaeota phyl. nov. and kingdom Promethearchaeati regn. nov.". International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2024; 74, 7. DOI: 10.1099/ijsem.0.006435

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Ken Takai, Koki Horikoshi. "Genetic diversity of archaea in deep-sea hydrothermal vent environments". Genetics, 1999; 152 (4) 1285-1297. DOI: 10.1093/genetics/152.4.1285
  • Hiroyuki Imachi, et al. "Isolation of an archaeon at the prokaryote–eukaryote interface". Nature, 2020; 577 (7791) 519-525. DOI: 10.1038/s41586-019-1916-6
  • Markus Göker & Aharon Oren. "Valid publication of names of two domains and seven kingdoms of prokaryotes". International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2024; 74, 1. DOI: 10.1099/ijsem.0.006242

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. プロメテアルカエウム・シントロフィクムMK-D1株の走査型電子顕微鏡画像: Microbiology SocietyのBlog記事より (Credit: H. Imachi, M.K. Nobu & JAMSTEC)
  2. 現代人のイラスト: いらすとやより
  3. ネアンデルタール人のイラスト: いらすとやより (ヒト属の別種として)
  4. チンパンジーのイラスト: いらすとやより (ヒト科の別種として)
  5. ワオキツネザルのイラスト: いらすとやより (霊長目の別種として)
  6. カモノハシのイラスト: いらすとやより (哺乳綱の別種として)
  7. ティラノサウルスのイラスト: いらすとやより (脊索動物の別種として)
  8. ピンポンツリースポンジのイラスト: いらすとやより (動物界の別種として)
  9. モンステラのイラスト: いらすとやより (真核生物ドメインの別種として)
  10. 工事中のマークのイラスト: いらすとやより
  11. 試薬瓶のイラスト: いらすとやより
  12. 腸炎ビブリオのイラスト: いらすとやより (Methanogenium booneiのイメージとして)
  13. MK-D1を採集した際の画像: Science Portalより (Credit: JAMSTEC)
  14. E3モデルのGCモデル: JAMSTEC公式チャンネルの動画よりキャプチャー

     

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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