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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、知られている中で最大のタンパク質となる「PKZILLA」の発見についてだよ!
これは“巨人”を超えるタンパク質界の“ゴジラ”の発見で、まさに『PKZILLA: King of the Protens』とでも呼べそうな感じだけど、これって全然違う研究をした中での偶然の発見なんだよね。
巨大なPKZILLAは、小さな藻類が毒素を産生 (生産) させるために必要なタンパク質なんだよね。どうしてこんな巨大なタンパク質を合成するのか、PKZILLA発見の経緯と併せて解説するね!
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プロイセン王国の思想家フリードリヒ・エンゲルスは、1878年に記した『反デューリング論』にて、「生命とは蛋白体の存在様式である」と述べているよ。
もちろんこれは、タイトルの通りオイゲン・デューリングの思想に反論する形で述べたもので、必ずしも自然科学に根差した意見とは言えないんだけど、かといって全く的外れなことを言っているわけじゃないよ。
「タンパク質」は生命の基本であり、身体を形作るだけでなく、代謝などの化学反応を触媒する酵素、免疫として働く抗体もタンパク質で、酸素などの物質輸送や、鉄イオンの備蓄など、その働きは極めて多岐にわたるよ。
そして、タンパク質は機能だけでなく大きさも様々だよ。タンパク質は「アミノ酸」を最小の部品として、典型的には数百個から数千個結合したものが1つのタンパク質として機能するんだよね。
例えば、酸素を運ぶに欠かせない「ヘモグロビン」は287個、皮膚などを始めとする身体組織の結合に必須である「I型コラーゲン」は1464個のアミノ酸で構成されているんだよね。
小さい方で言うと、アミノ酸の数が大体100個より少なければ小タンパク質と呼ばれるよ。アミノ酸の数の最小記録は、天然では「TAL (tarsal-less)」の11個、人工合成では「シニョリン (Chignolin)」の10個という例があるよ。
では逆に大きいのはどれくらいかといえば、数万個のアミノ酸が結合したタンパク質もあるんだよね。その中でも最大の大きさを誇るものは「チチン (Titin)」と名付けられたタンパク質だったよ[注1]。
ギリシア神話の巨人ティーターンの名に由来するチチンは、ヒトなどの動物の筋肉を構成し、その伸び縮みに関わるタンパク質だよ。チチンは典型的なもので3万4350個、理論上の最大値は3万5991個のアミノ酸で構成されているよ!
そんな感じのタンパク質界隈だけど、これより大きなタンパク質があるのかどうか、あるとしたらどんなものがあるのかは、正直ほとんど分かっていなかったよ。
そんな背景の中で、スクリップス海洋研究所およびカリフォルニア大学サンディエゴ校のTimothy R. Fallon氏などの研究チームは、毒素を産生する藻類を研究している中で、思いがけず面白い研究結果を得たよ。
Fallon氏らが研究を行っていたのは、「プリムネシウム・パルブム (Prymnesium parvum)」というハプト藻の1種だよ。細かい分類は注釈に譲るけど[注2]、ここでは光合成ができる植物プランクトンの仲間と考えてもらっていいよ。
プリムネシウム・パルブムは淡水と海水の両方に見られる藻類だけど、厄介な存在だよ。なぜなら「プリムネシン1」という毒素を産生するので、大量発生による赤潮が発生すれば、水中に大きな被害をもたらすんだよね。
プリムネシン1はエラを損傷するために魚にとっては強い毒素となるんだよね。例えば2022年にポーランドとドイツの国境を形成するオーデル川で発生した赤潮では、500~1000トンの魚が死ぬ環境災害が発生したよ。
このプリムネシン1、画像を見れば分かる通り相当複雑な分子構造をしているんだよね。これを小さなハプト藻が産生しているとは信じられないというか、本当にどうやって合成しているのか、数十年分かってなかったんだよね。
数十年の研究の積み重ねで、プリムネシン1を産生するのに関わっていそうな遺伝子の特定までは何とかできたんだけど、この遺伝子は相当に巨大かつ複雑なので、その全容はまだまだ分かっていなかったよ。
Fallon氏らは、この難しい課題に2019年から根気強く取り組んだよ。まず候補となる遺伝子について、従来とは異なる探索方法を使い、少しずつその機能を確かめていったよ。
その結果、プリムネシン1の産生に関わっている遺伝子を特定したんだよね。これに成功したので、この遺伝子が作り出すタンパク質を推定し、その構造の復元を行ったよ。
タンパク質の構造を推定するのは、これが直接プリムネシン1を作り出すための生体内の化学反応に関わっている可能性が高いからだよ。このタンパク質は化学反応を助けるために、酵素に分類されることになるよ。
Fallon氏らは2つの遺伝子が作り出すタンパク質を推定したんだけど、驚くのはその大きさだよ。片方は4万5212個、もう片方は3万685個のアミノ酸で構成されている巨大なタンパク質なことが分かったんだよね!
大きい方はチチンより25%も大きくて、長さは1µm (1000分の1mm) を超えているよ!小さい方もわずかにチチンより小さいとはいえ、普通のタンパク質の数百倍もあることを考えれば、十分に巨大サイズなんだよね!
そしてFallon氏らは、これら2つのタンパク質はプリムネシウム・パルブムが実際に作り出していることや、239段階もの複雑な化学反応を経てプリムネシン1と全く同じ分子を作り出すことも確かめたよ。
これにより、Fallon氏らは数十年来の謎であったプリムネシン1の生合成の過程を完全に突き止めただけでなく、その副産物としてこれまでに知られている最大のタンパク質を発見した感じだよ!
Fallon氏らは、神話の巨人に因むチチンをも上回るその巨大なタンパク質について、プリムネシン1というポリケチドを合成する、ゴジラくらい巨大なタンパク質という意味の「PKZILLA」という名前を付けたよ!
Fallon氏らは、最大のタンパク質の記録を更新した大きな方を「PKZILLA-1」、より小さい方を「PKZILLA-2」と名付けたよ。どちらもプリムネシウム・パルブムにとってプリムネシン1の生合成に欠かせない酵素となるよ[注3]。
もちろんFallon氏らは、巨大なタンパク質の世界記録を破るためにこの研究をしたわけじゃないよ。重要なのは、プリムネシン1という複雑な化合物を作る過程を解明したことなんだよね。
プリムネシウム・パルブムはどこにでもいて、プリムネシン1という毒素の生産が生態系に影響を与えていることを考えると、毒素が作り出されるのを早めに検知できるといいわけだよね。
ここで、プリムネシン1という生産物を見つけるというのは時間がかかる上に、見つかる頃には水中でそれなりの濃度となっているので既に手遅れ、というのがこれまでだったんだよね。
ところが今回PKZILLA-1とPKZILLA-2が見つかったことで、話が変わってくるよ。プリムネシン1を作るために、プリムネシウム・パルブムの中でこの2つの遺伝子が働くということだからね。
すると、特定の遺伝子が働いていることを検知するフラグというのは、最終生産物を検知するよりもかなり早い段階で、かつ精度よく見つけることができるので、より早期に赤潮を検出することができる、なんてこともできるわけ!
Fallon氏らは、PKZILLA-1をみつけるのに使ったスクリーニング技術を、他の毒素の産生に関わる遺伝子にも使いたいと考えているよ。
例えば年間50万人が影響を受けるシガテラ毒の「シガトキシン」の産生に関わる遺伝子の特定とかに利用できれば、赤潮に限らず、私たちの健康福祉にも役立つかもしれないからね!これは結構重要だよ。
また、プリムネシン1は毒素なわけだけど、こういう複雑な化合物には医薬品として有用な物質も数多くあるんだよね。一方で、どのようにこの複雑な化合物を作るのか、その過程が分かっていないものも無数にあるよ。
PKZILLA-1のようなタンパク質を見つける手法は、複雑な化合物をどのように作るのかを解明することにも繋がるので、将来的な創薬研究において役に立つかもしれないよ。
[注1] 今回の研究以前の最大のタンパク質
カリフォルニア大学バークレー校のJacob West-Roberts氏らは、2023年11月22日付で投稿したプレプリントにて、Omnitrophota属の細菌が産生するタンパク質の中に、アミノ酸の数が3万個を超えるものが46種類あり、その中で最大のものは8万5804個ものアミノ酸で構成されていると主張しています。ただし、現時点でこの研究は査読前です。また、これは真にひとつながりのタンパク質ではなく、複数に分割されるべきであるという意見もあります。この地位の不安定さのため、本記事では今回の研究以前での最大のタンパク質をチチンであると説明しています。 本文に戻る
[注2] ハプト藻
葉緑素を持っているものの、いわゆる植物や緑藻などとはかけ離れた生物です。かつては黄金色藻に分類されていたこともありますが、現在ではこれとも離れた、完全に独立したグループとされています。今回の研究はプリムネシウム目を対象としていますが、比較的知名度があるのは円石藻目です。 本文に戻る
[注3] PKZILLAと名のついたタンパク質
今回の研究では、PKZILLA-1ともPKZILLA-2とも異なる新しいタンパク質も発見されており、これは「PKZILLA-3」と名付けられています。ただしPKZILLA-3は、PKZILLA-1やPKZILLA-2と比べてさらに小さいだけでなく (アミノ酸数2万4439個) 、プリムネシン1の産生には関与していないようであるため、本文からは割愛しました。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)