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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「マラリア原虫」の中で回転する結晶の謎を解いたというお話だよ。マラリア原虫の体内には「ヘモゾイン」と呼ばれる有機金属化合物の結晶があるんだけど、なぜか高速かつ不規則に回転するのよね。その理由は長い間謎だったよ。
今回の研究の結果、結晶を回転させる原動力は「過酸化水素の分解」によるものだと分かったのよね。これはちょうどロケットエンジンと似たような仕組みで力を得ていることから、研究チームはプレスリリースでこの知見を「マラリア原虫の体内に小型ロケットエンジンを発見」とたとえているのよ。
今回の研究は、微生物の体内にロケットと同じ仕組みを見つけたという面白い部分だけじゃないよ。マラリア原虫は、世界的に深刻に見られている感染症「マラリア」の病原体なので、その生態を深く知ることは、マラリアの治療を行う上でも重要な知見を与えてくれるのよね。
過酸化水素は生体にとって有毒であり、速やかな分解が必要。今回の発見を元に、もし過酸化水素の分解を阻害できるような方法が見つかれば、マラリア原虫を退治する新たなマラリアの治療法を見つけることに繋がるかもしれないよ! 単なる面白研究に留まらないのよね。
CONTENTS

図1: マラリアはマラリア原虫を病原体とする感染症で、多くの患者がいる深刻な病になるよ。現在では熱帯・亜熱帯地域が中心だけど、気候変動によって分布が拡大することが懸念されているよ。 (画像引用元番号②)
「マラリア」とは、全世界で毎年2億人が感染し50万人が死に至るとされる、熱帯・亜熱帯地域を中心とした感染症になるよ。その病態には細かい違いがあるけど、周期的な発熱がメインで、倦怠感、頭痛、嘔吐などを伴うよ。重症化すると脳症、腎障害、肺水腫、重症貧血などの深刻な合併症を生じ、死に至ることもあるのよ。
マラリアの原因は「マラリア原虫」[注1]と呼ばれる生物で、蚊の吸血行為に伴って血液中に入り込むことが一般的な感染ルートになるよ。入り込んだマラリア原虫は、無性生殖を行う上で肝細胞や赤血球に侵入・増殖・破壊を繰り返し、これがマラリアという病気が現れる原因となるよ。

図2: マラリア原虫の体内を見ると、有毒なヘムを無毒化して生じた「ヘモゾイン」の結晶があるのよね。この結晶、なぜか高速かつ不規則に回転しているんだけど、その原動力は長年の謎となっていたよ。 (画像引用元番号①)
ところで、マラリア原虫は赤血球に侵入する際、「ヘモゾイン」と呼ばれる物質を作ることが知られているのよね。これは鉄を中心とした有機金属化合物の結晶であり、その大元は、赤血球が酸素を運ぶのに必要な鉄タンパク質の「ヘモグロビン」、さらに言うとヘモグロビンの中心部分である「ヘム (ヘム鉄)」になるよ。
マラリア原虫は赤血球を食べることで増殖するけど、その過程でヘモグロビンの分解物としてヘムが生じるのよね。このヘムはマラリア原虫にとって有害なので、マラリア原虫はヘムを無害化して生きながらえなきゃならない。この無害化過程でできるのがヘモゾインという結晶なのよね。
マラリア原虫は、「食胞 (food vacuole)」と呼ばれる細胞内の構造にヘムを集め、ヘモゾインへと変換することで無害化するよ。逆に言うと、この過程を阻害するとマラリア原虫は生きることができないのよね。このような過程を阻害するマラリア治療薬が、クロロキンやメフロキンなどのキノリン系薬剤になるよ。
さて、マラリア原虫は食胞内でヘモゾインを作っているので、約1µmの食胞を見てみると、最大で0.5µmにもなる立方体のヘモゾイン結晶がいくつか観察できるのよ。ヘモゾインは結晶サイズがある程度大きくなれば細胞の外へと捨てられるんだけど、その成長中の結晶を見てみると興味深いことが分かるんだよね。
どういうわけか、ヘモゾイン結晶はマラリア原虫の体内でかなり高速かつ不規則に回転しているんだよね。結晶を回転させる原動力はよく分かっておらず、マラリア原虫の細胞活動が動かしているのか、それとも細胞活動とは無関係の食胞内の物理的・化学的な力が動かしているのか、それすらも良く分かっていなかったんだよね。
ユタ大学医学部のErica M. Hastings氏などの研究チームは、重症化しやすい「熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)」を使い、細胞内でヘモゾイン結晶を回転させる謎の原動力を突き止める研究を行ったよ。ただ、細胞内のヘモゾイン結晶は観察が難しいため、今回の研究はいくつかの課題を克服しながらの研究となったんだよね。

図3: 細胞の中にある複数のヘモゾイン結晶の回転を見るのはかなり難しいよ。そこで、動画を撮影して映像の変化から回転速度を推定する手法を開発し、食胞だけを取り出して引き延ばしてみたよ。これにより、生きたマラリア原虫の体内にあるのと変わらない状態で、結晶の回転度合いを測定することができたよ。 (画像引用元番号③)
まず、細胞内にはヘモゾイン結晶がいくつもあり、1つ1つの回転を見るのがムリだったんだよね。そこで、動画を撮影し、画像の変化速度から回転の激しさを求める評価方法を作ったのよ。その結果、生きているマラリア原虫のヘモゾイン結晶は、死んでいる場合よりも10倍以上も激しく、数ミリ秒単位で回転していることが分かったよ。
次に、ヘモゾイン結晶を含んでいる食胞について、マラリア原虫の体内にある状態と、食胞だけを取り出した場合とで、ヘモゾイン結晶の回転の激しさを比較してみたよ。その結果、取り出す前にマラリア原虫が生きてさえいれば、食胞だけを取り出してもヘモゾイン結晶の回転の激しさは変わらないことが分かったよ。
さらに、食胞を引き延ばす特殊な操作を行って、食胞の大きさを1µmから3µmへと拡張しても、ヘモゾイン結晶の回転は影響を受けなかったのよね。単独で取り出した上に引き延ばしても影響がないなら、その方が観察研究を行いやすいので、以後の研究は生きたマラリア原虫から取り出し、引き延ばした食胞を使って行われたよ。
細胞から取り出した食胞内で回転していることから、ヘモゾイン結晶を回転させるのは細胞活動ではないことが分かるんだけど、では何が原動力なのか? 真っ先に思いつくのはブラウン運動[注2]による影響なので、食胞内の環境を再現したシミュレーションを行い、ヘモゾイン結晶の回転を説明できるかどうかを見てみたよ。
ところが、ヘモゾイン結晶はブラウン運動で説明できるよりもはるかに激しく回転していることから、熱エネルギーはメインの原動力じゃなさそうなのよね。そこでHastings氏らが注目したのは「過酸化水素」になるよ。これはヘムからヘモゾインを作る過程で生成される副産物なのよね。
過酸化水素はとても反応しやすい分子で、細胞を作る有機物を分解する活性酸素になるよ。殺菌剤オキシドールとして使われるくらい苛烈な物質なので、こんなものを細胞内に保持していたらマラリア原虫だって危ないわね。ということでできる限り早く分解させるのが良いとなるよ。
他の生物の場合、過酸化水素を分解するための酵素で対処する例があるんだけど、マラリア原虫の食胞にはそのような酵素が無いんだよね。一方で鉄のような金属元素は過酸化水素の分解を促進する触媒作用があることから、鉄を含んでいるヘモゾイン結晶は過酸化水素を分解してくれる可能性があるよ。
Hastings氏らは、この過酸化水素の分解がヘモゾイン結晶を回転させるんじゃないかと考え、実験を行ったよ。まずはマラリア原虫から取り出したヘモゾイン結晶を15%濃度の過酸化水素水に漬けてみたところ、過酸化水素の分解が観察されたのよね。面白いことに、合成したヘモゾイン結晶よりも分解効率が良かったのよね。
また、実験観察とシミュレーションの両方で、過酸化水素の分解に伴って発生するエネルギーがヘモゾイン結晶の回転を説明できるかどうかを見てみたのよね。結果としては、過酸化水素がヘモゾイン結晶の回転をよく説明するという結果が得られたのよ。
最後に、マラリア原虫を酸素濃度の低い環境で培養し、ヘモゾイン結晶の回転が変化するのかを見てみたよ。酸素濃度を下げた場合、過酸化水素の量が減ってくることが予想され、それに伴ってヘモゾイン結晶の回転速度も遅くなるはずだからね。
結果は予想通り! 酸素濃度2%の環境で培養した場合、マラリア原虫の活動レベルは変わらなかったのに対し、回転速度がおよそ半分に低下したのよ。これらの結果から、「過酸化水素の分解で生じる力がヘモゾイン結晶を回転させる原動力となる」と説明でき、マラリア原虫の細胞活動とは関係ないことが示されたのよ。
この結果なら、死んだマラリア原虫から取り出した食胞内のヘモゾイン結晶の回転が遅かったことの説明になるのよ。過酸化水素は放置しても徐々に分解していくので、死んだマラリア原虫の食胞内では過酸化水素の量が減っていたと考えられるからね。

図5: ヘモゾイン結晶は有害な過酸化水素を減らす作用を持つ一方、過酸化水素は結晶を回転させることで結晶同士がくっつくことを防いでいるみたいなのよね。もし過酸化水素の分解を阻害する方法が見つかれば、新たなマラリア治療法になるかもしれないよ。 (画像引用元番号②)
ユタ大学医学部のプレスリリースでは、今回の研究を「マラリア原虫の体内に小型ロケットエンジンを発見」とたとえているのよね。これは、過酸化水素を分解して運動する力を得るという過程が、ロケットのエンジン内部で起きているロケット燃料の反応と同じような感じだからなんだよね。
実際、Hastings氏らによれば、ヘモゾインという金属を含むナノ粒子が、生体内で運動する力を得て回転しているという例は知られておらず、マラリア原虫で初めての発見例だと主張しているのよね。ただし、この生体内小型ロケットエンジンは、マラリア原虫にのみあるものだとは限らないのよ。
ヘモゾインは、住血吸虫や一部のサシガメのような生物の体内にも見つかっているのよね。全ての吸血生物がヘモゾインを作るとも限らず、ヘモゾイン結晶を持っていてもマラリア原虫と同じだとは言えないかもだけど、一方で共通のメカニズムを持っている可能性も無くはないからね。
また、過酸化水素を分解して推進力を得るという機構を小型ロケットエンジンとたとえたけど、本当に小型ロケットエンジンに使えるかもしれないよ。例えばとても小さなロボットを作った時、それを移動させるための力として使われる可能性は十分にあるからね。
また、マラリア原虫と戦っていく上で今回の研究が新たな治療法を提供してくれるかもしれないよ。マラリア原虫のヘモゾイン結晶の回転は意味がないわけではなく、むしろヘムを無害化してヘモゾイン結晶を成長させることを手助けしている可能性があるからだよ。
食胞内のヘモゾイン結晶は大抵複数個あるんだけど、複数の結晶が合体してしまうと、ヘムがくっつく表面積が減ってしまうので、無害化が遅くなってしまう恐れがあるのよね。過酸化水素を分解するついでに、ヘモゾイン結晶を回転させて合体を防ぎ、ヘムの効率的な無害化をしている可能性があるのよ。
もし、ヘモゾイン結晶が促進している過酸化水素の分解を阻害するような方法があれば、マラリア原虫は体内の過酸化水素だけで死んでしまう可能性もあるのよね。これはヘムの無害化を抑えるのと同じく、マラリア原虫にのみ存在する生理プロセスを狙い撃ちする可能性が高いので、人間には副作用を伴わない薬剤となるかもしれないよ。
近年の気候変動により、マラリア原虫を媒介する蚊の分布が拡大していることから、これまで見られなかった地域や、かつて土着していたものの姿を消していた地域で再流行する恐れが高まっているのよね。これは、かつて土着が見られていた日本も含まれる話よ。
マラリア原虫の体内にある小型ロケットエンジンの発見は、生体内のミクロな世界で発見されたとても興味深い現象を明らかにすると共に、拡大の懸念があるマラリア原虫の新たな治療法を開拓する可能性があるのよ。その治療法は、同じ生態を持つ他の寄生虫感染症にも応用できる可能性もあるかもね!
[注1] マラリア原虫
アピコンプレックス門の生物。門レベルの近縁性ですが、トキソプラズマやクリプトスポリジウムが近い仲間となります。 本文に戻る
[注2] ブラウン運動
液体中や気体中を浮遊する微粒子が不規則に運動する現象。その正体は、液体や気体を構成する分子が不規則に衝突することで発生する運動であり、分子の動きは温度が高くなるほど激しくなることから、大元は熱エネルギーとなります。ブラウン運動はしばしば「水中で花粉が不規則に動く」と説明されることがありますが、実際には「花粉の中にある微粒子」の動きです。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)