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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、西暦1181年に観測された“客星”「SN 1181」の正体に迫った研究だよ![注1]その正体が長年の謎だったんだけど、残骸を「IRAS 00500+6713」、タイプを「Iax型超新星」だとほぼ確定したよ!
SN 1181は『吾妻鏡』をはじめとした歴史書に書かれていたんだけど、正体がずっと謎だったのは、それが滅多にない性質を持つ天体だったからで、まさに古代の記録と現代の技術の合わせ技により成功した研究と言えるよ!
しかも今回は正体の特定だけじゃなく、天体の非常に面白い性質が分かったことで、近い将来に起きるかもしれない劇的なイベントが観測できるかもという期待も出てきたんだよね!非常に面白い研究だよ!
CONTENTS
私たちが住む宇宙の大きさを測る方法はいっぱいあるけど、その中の1つとして「標準光源」を使うものがあるよ。これは、明るさについて一定の性質を持つ天体の見た目の明るさから距離を逆算する方法だよ。
ほとんどの天体は、同じような性質を持っていても明るさは全然違うわけだけど、標準光源として使われる天体は、いつの時代のどの場所で起きた出来事であっても同じ明るさを持つ、という性質があるんだよね。
だから、標準光源としての性質を持つ天体を複数観察した時に、見た目の明るさが異なる場合は、遠いほど暗いという単純な計算で距離を逆算することができるんだよね!スゴく長いものさしがない以上、この方法は重宝されるよ。
この標準光源として使われるものの1つが「Ia型超新星」と呼ばれるもので、この超新星で爆発するのは「白色矮星」と呼ばれる天体だよ。これは、太陽と同じくらいの質量を持つ恒星が、寿命の最後に残す天体なんだよね。
恒星は、中心部で発生する核融合反応によってエネルギーを生産しているけど、太陽くらい軽い恒星は、中心部に炭素や酸素の原子核ができると核融合が停止しちゃうんだよね。これが恒星の寿命の終わりと表現されるよ。
恒星の外層はゆっくりと宇宙空間に逃げていく一方で、核融合の起こっていた中心核は、白熱した高密度の塊として残される、これが白色矮星だよ。大きさこそ地球くらいだけど、平均密度1t/cm3というとても高密度な星だよ!
白色矮星は、もうこれ以上エネルギーを生産しないので、ゆっくりと冷えていく “死んだ星” なんだけど、もし隣に恒星があったりして、ガスなどの物質が継続的に供給されると話が変わってくるよ。
典型的な白色矮星は太陽の約0.6倍前後の質量なんだけど、もしこれが太陽の約1.4倍[注2]を超えると、白色矮星の内部で急激な核融合反応が発生するよ。と言ってもこれは一瞬で起こるので、白色矮星は爆発しちゃうんだよね!
この、白色矮星が質量の限界に達して爆発する現象をIa型超新星と呼ぶよ。注目してほしいのは、少しずつ増えていった白色矮星の質量が限界に達して、点火するタイミングが限界質量で決まっているということ。
つまりこれ、Ia型超新星は爆発の規模が常に一定であり、同じ距離で見た時に同じ明るさの爆発に見えるということなんだよね!これが、Ia型超新星が標準光源として使われることの理由になってくるよ。
例えば、私たちの宇宙は膨張しているだけでなく、速度がどんどん速くなっているということが知られているけど、これは多数のIa型超新星を使い、銀河までの距離が測れたことが研究できた理由なんだよね!
しかし2012年頃から、一見するとIa型超新星っぽいんだけど、実際には同じ距離で見た時にIa型超新星よりずっと暗いものが混ざっているらしいことが分かってきたんだよね!これは「Iax型超新星」と呼ばれているよ。
Ia型超新星は同じ距離でも明るさが一定だからと標準光源に使ってたのに、同じ距離でもずっと暗いIax型超新星が混ざっている!となると困っちゃうわけだよね。だから最近ではIax型超新星の研究も盛んだよ。
Iax型超新星は、Ia型超新星と見た目が似ているだけで全く異なるメカニズムで発生しているものだと考えられているけど、今のところその詳しいメカニズムは解明されていないよ。
ところで、天文記録というのはかなり古代のものであっても見たままを正確に書いていることが多いので、天文学者はしばしば、古い時代に書かれた歴史書の内容を見ることがあるよ。
そして非常に面白いことに、これまで歴史書に具体的に書かれていたものの、その正体自体が判明していなかった天体について、実は古代のIax型超新星の観測記録ではないかというものが見つかったんだよね!
それは「SN 1181」と名付けられた超新星だよ。これは西暦1181年に記録されたことからそう名付けられているよ。これって日本では平安時代から鎌倉時代へと移る過渡期のころだね!
鎌倉時代に成立した歴史書『吾妻鏡』には、この頃の出来事が書かれているよ、もうすぐちょうど843年前の出来事となる西暦1181年8月7日 (治承5年6月25日) に目撃された “客星” に関するこんな記述があるよ。
廿五日 庚午 戌尅客星見艮方鎮星色靑赤有芒角是寛弘三年出見之後無例云々
現代語訳「(治承5年6月) 25日 (西暦1181年8月7日) 午後8時頃、客星を北西の方向に見る。鎮星 (土星) のような明るさで、光の筋があった。このような例は寛弘3年 (西暦1006年) に現れた後に例が無いという。」[注3]
客星とは、超新星や彗星のような、それまでその位置で観測されたことのなかった星を指す言葉でだよ。肉眼で見える超新星なんて滅多にないことだから、何らかの (しばしば不吉なことの) 前兆として記録されていたんだよね。
例えば、本文に書かれている西暦1006年の客星は、現在では「SN 1006」と名付けられていて、Ia型超新星であると考えられているよ。現在では爆発で生じた超新星残骸がおおかみ座の方向にあることで、正体が特定されているよ。
ところが主題のSN 1181は、『吾妻鏡』以外にも日本と中国の複数の記録に書かれているにも関わらず、正体が長らく分からなかったんだよね。従来はカシオペヤ座にある電波源「3C 58」がその正体じゃないかとされていたよ。
3C 58は、Ia型超新星ともIax型超新星とも異なるタイプの超新星爆発[注4]の痕跡なんだけど、後々の観測により、どう頑張っても爆発から約800年という年代には合わない性質がある[注5]、ということで段々怪しくなってきたんだよね。
そんな状況の中で、同じくカシオペヤ座で新たに2017年に見つかった天体「IRAS 00500+6713」が、もしかするとSN 1181に関連づいているんじゃないか、という説が浮上してきたんだよね。
2019年頃からの追加観測と研究により、2021年にはIRAS 00500+6713がSN 1181の正体である可能性が高いと分かったんだよね!星雲の膨張速度からすると、爆発時期が西暦1181年をカバーする範囲となったよ!
ただ、IRAS 00500+6713は同時に、かなり変わった性質を持っていることが悩ましかったよ。普通の超新星残骸とは全然違う性質がいっぱいあったからね。
残骸を見る限り、IRAS 00500+6713の中心部には白色矮星「WD J005311」があるとされたよ。ただ、通常のIa型超新星では、白色矮星は粉微塵に吹き飛んで痕跡が残らないので、白色矮星があること自体が珍しいよ。
加えてIRAS 00500+6713の中心部では、WD J005311から噴き出す猛烈な風が見つかったんだよね。その速度は何と1万5000km/sで、これは光の速さの5%に匹敵するよ!
さらにWD J005311の風には、通常の白色矮星からの風と比べて、重い元素がより豊富であるという特徴があるんだよね。白色矮星が残っていること、風が猛烈なこと、重い元素が多いこと。これは1つの可能性を示唆するよ。
それは、SN 1811はIa型超新星ではなくIax型超新星であり、その原因は2個の小さな白色矮星が合体し、より大きな白色矮星である現在のWD J005311ができたんじゃないか?という説だよ。
これほど強烈な風を出すような白色矮星は相当重くないといけないんだけど、単純計算の上ではWD J005311の質量は、Ia型超新星を起こしてしまう質量の限界以上の値となってしまうんだよね。
しかし、2個の小さな白色矮星が合体するような状況では、合体後の白色矮星に強烈な磁場や高速の自転が発生するので、これによって発生する力が、白色矮星が潰れずに形状を保つ原因になるのではないか、と考えることができるよ。
また、白色矮星同士の衝突によって発生するエネルギーは、Ia型超新星と比べるとずっと小さいので、これがエネルギーの低いIax型超新星として、西暦1181年に観測されたのではないか、とは考えることができるよ。
ただ、これはあくまで予測。Iax型超新星に不明瞭な点はいっぱいあるので、SN 1181がIax型超新星なのか、WD J005311はIax型超新星で生じたのか、とかの質問にはすぐには答えられなかったんだよね。
東京大学大学院理学系研究科の黄天鋭氏などの研究チームはこの謎を解決するため、IRAS 00500+6713のX線観測データを分析し、これを下に天体の理論モデルを構築、実際の観測データと比較する研究を行ったよ。
今回の研究では、ESA (欧州宇宙機関) の「XMM-Newton」と、NASA (アメリカ航空宇宙局) の「チャンドラ」の観測データを使ったよ。どちらも優れたX線望遠鏡なんだよね。
これらの観測データを重ねてみると、IRAS 00500+6713のX線で輝いている部分は、タマネギのように何層にも重なっていたんだよね。この細かい構造が分かることで、その後の理論モデルを構築するために重要になってくるよ。
特に、中心部では非常に強いX線の放射があるんだけど、これは他の超新星残骸では見られないもので、IRAS 00500+6713の中心部にWD J005311があることによるかなり特別な構造なことがうかがえるよ。
そこで、中心部からの放射や物質の流れを組み込んだ理論モデルを構築すると、X線だけでなく赤外線など、他の波長で観測した構造にも一致するモデルを構築することに成功したんだよね!
地球から約7500光年離れた距離で、モデルから予測される規模の爆発が起こると、地球ではちょうど土星くらいの明るさになるんだよね!これはまさに『吾妻鏡』で書かれていた内容と一致するね!
この研究により、『吾妻鏡』に書かれた治承5年6月25日 (西暦1181年8月7日) の客星SN 1181の正体はIax型超新星であり、その残骸はカシオペヤ座のIRAS 00500+6713であることがほぼほぼ確定することになるよ!
今回の研究では、しかもさらに面白いことが分かったよ。紹介した光の速さの5%に達する風は、どうも最近吹き始めたようなんだよね!モデルによれば、風が吹き始めたのは爆発から810~828年後、つまり西暦1990年頃からになるよ!
たった数十年前というのは天文学ではまさに一瞬も一瞬な話なので、こんな最近起きた変化を観測できているという偶然は確かにすごいよ。そしてこのような偶然を見出した理論モデルの構築はさらにすごいね!
これを踏まえると、この先の進化がむしろ気になる感じだね。風が吹き始めたことにより、WD J005311が800年くらい保ってきた環境が変化し始めているからね。この先どうなるかはとても気になることだよ。
最も考えられる可能性としては、WD J005311が潰れてしまうことだよ。今までは危ういバランスで形を保ってきたけど、今は風を放出することでどんどんエネルギーを失っているからね。
すると、重力に対抗する力が失われることで潰れ、中性子星[注6]というより高密度な天体に変化するかもしれないよ。そんな極めて珍しい劇的な変化を観測できたら、今後もWD J005311には目が離せない感じだね!
また、SN 1181が興味深いIax型超新星と分かったので、これ自体の研究ももしかしたら進むかもしれないよ。Iax型超新星はまだまだ珍しい存在なので、今はデータが欲しい所だからね。
だから今回の研究は、昔と今を繋げるだけに留まらず、これからも継続的に注目される天体になると思うんだよ!
[注1] 天体の名称
今回の記事では、1つの天体や現象に対する名称が複数あってややこしいため、ここで一度整理します。「SN 1181」は超新星という現象そのものに与えられる名前です。超新星は一般的に爆発の跡に残骸を残しますが、この超新星残骸には「IRAS 00500+6713」という名前が付けられています。そしてIRAS 00500+6713の中心部には、白色矮星という天体「WD J005311」が存在します。現代で観測された超新星は、現象の名前が残骸や中心部にある天体に転用される場合もありますが、今回は観測時期のズレなどの理由で、全て別々に命名されています。 本文に戻る
[注2] 白色矮星の限界
白色矮星は「電子の縮退圧」と呼ばれる力によって重力で潰れるのを防いでいますが、太陽の約1.4倍の質量で限界を迎え、爆発で粉微塵となるか、より高密度な天体である「中性子星」に変化します。この限界を「チャンドラセカール限界」と呼びます。 本文に戻る
[注3] 『吾妻鏡』の現代語訳
今回の現代語訳は「五味文彦・本郷和人 (2007) 『現代語訳 吾妻鏡1頼朝の挙兵』吉川弘文館」を参考に、少し改変しています。特に「青赤」の解釈については、直訳すればそのような色を示す場合もありますが、今回は明るさであると解釈した訳をしています。 本文に戻る
[注4] 異なるタイプの超新星
中性子星を生じるような超新星爆発は「II型超新星」と呼ばれ、II型超新星は太陽の8倍以上の恒星の寿命の終わりに発生します。 本文に戻る
[注5] 3C 58がSN 1181の候補から外された理由
星雲の膨張速度の逆算から推定される爆発時期が少し合わないことに加え、中心部にある中性子星の表面温度が、800年という時間経過にしては冷えすぎており、おそらく数千年前に作られたと考えるのが妥当だ問題がありました。中性子星ではなく「クォーク星」という異なるタイプの天体であるという説もありますが、クォーク星の実在は今のところ証明されていません。 本文に戻る
[注6] 中性子星
太陽よりずっと重い恒星の中心核の名残の天体であり、その意味では白色矮星と似ている天体です。ただしずっと高密度であり、10億t/cm3程度となります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)