【細菌学クイズ】 炭疽菌の謎に迫る!4つのクイズに答えて細菌学を楽しく学ぼう!

2023.09.07

こんにちは!細菌が好きすぎて気がついたら博士号をとっていたさいぼうです!

そんなわたしがつくる、楽しく学べる細菌学クイズ!

本日は前回に引き続き病気を引き起こす細菌③!

Listeria monocytogenesについての記事はコチラ )

Mycobacterium tuberculosisについての記事はコチラ )

Bacillus anthracis(炭疽菌)にフォーカスしてみましょう!

この菌は、炭疽として広く知られる疾患を引き起こす重要な病原体です。

4つのクイズに答えて炭疽菌について楽しく学びましょう!

炭疽菌(イメージ)

 

クイズ1: 炭疽菌の感染経路に関する問題

炭疽菌の感染経路は、どのような経路を通じて広がるでしょうか?

a) 動物または土壌から人間への感染
b) 汚染食物からの感染
c) ヒトからヒトへの空気感染
d) 水からの感染

  • 正解: a) 動物または土壌から人間への感染

 

~解説~

炭疽菌の感染経路は、主に動物または土壌から人間への感染です。炭疽菌は、野生動物や家畜、特に草食動物の表面に付着し、そこから人間へ感染が広がることがあります。そのため特に肉や毛皮を扱う人々や農場労働者がリスクを抱えることが多いですね。

報告されている炭疽菌の感染経路は「皮膚」「肺」「腸」であるため、感染場所にちなんで病名が「皮膚炭疽」「肺炭疽」「腸炭疽」と呼ばれています。

皮膚炭疽 (Cutaneous Anthrax)

皮膚炭疽は、炭疽菌の感染経路のうち最も一般的なものであり、感染リスクも比較的低い形態です。

感染経路:動物から人間への感染が主な経路です。感染した動物の皮膚や毛皮を扱うこと、もしくは昆虫を介して細菌が人間の皮膚に侵入します。また、炭疽菌が含まれる土壌や環境からも感染することがあります。

症状:感染部位に発疹や腫れ、赤みが現れます。次第に疹が膨らみ、中央が黒くなって潰瘍となることがあります。他の皮膚感染症と似た症状が現れるため、早期に炭疽菌による感染と診断することが重要です。

皮膚炭疽の特徴的な黒い潰瘍

 

肺炭疽 (Pulmonary Anthrax)

肺炭疽は、吸入によって発症する感染形態で、最も致命的な炭疽の形態とされています。

感染経路:炭疽菌芽胞が空気中に舞い上がり、人間がこれを吸入することで感染が起こります。特に炭疽菌を処理する作業や感染動物の死骸を扱うことでリスクが高まります。

症状:初期症状は風邪に似ており、発熱、咳、倦怠感などが現れます。しかし、感染が進行すると重症化し、呼吸困難や胸痛が現れることがあります。肺炭疽は急速に進行するため、早期に適切な治療を行うことが重要です。

腸炭疽 (Gastrointestinal Anthrax)

腸炭疽は、炭疽菌を含む食品を摂取することで発症する感染形態です。

感染経路:汚染された生肉や未加熱の肉を摂取することで感染が起こります。特に食肉の適切な調理が行われていない場合にリスクが高まります。

症状:腸炭疽は腸管症状を引き起こします。患者は腹痛、嘔吐、下痢、発熱などの症状を経験します。感染が進行すると重症化し、腹膜炎や敗血症を引き起こすことがあります。

感染経路ごとに炭疽の症状や進行の仕方が異なることが分かりましたね。感染予防のためには、動物からの感染を避ける、適切な食品処理を行うなどの対策が重要です。

炭疽菌への感染経路まとめ

 

クイズ2: 炭疽菌の特徴的な能力に関する問題

炭疽菌は他の細菌と比べてどの特異的な能力を持っているでしょうか?

a) 光合成能力
b) 芽胞形成能力
c) アルコールを生成する能力
d) ウイルスを感染させる能力

  • 正解:b) 芽胞形成能力

 

解説

炭疽菌は、その特異的な芽胞形成能力で知られています。芽胞は炭疽菌が厳しい環境条件や外部からのストレスに耐えるための適応的な生存形態です。芽胞形成によって、炭疽菌は不利な状況下でも生存し、環境中での長期間の生存が可能となります。

炭疽菌の芽胞形成過程は以下の通りです。

1. 芽胞の形成(下図Stage I~III):
環境中のストレスや栄養不足が続くと、炭疽菌の細胞は特殊なプロセスに入ります。細胞内で染色体と一部の細胞内成分が凝縮し、中心に向かって芽胞形成に必要な要素が集まります。

2. コートの形成(下図Stage IV~V):
芽胞形成に伴い、炭疽菌の細胞外にコートと呼ばれる保護膜が形成されます。このコートは、芽胞を外部からのストレスや攻撃から保護する役割を果たします。

3. 細胞分裂(下図Stage V~VI):
芽胞の内部で細胞が分裂します。このとき、1つの細胞が芽胞を形成し、もう1つの細胞が母細胞として残ります。

4. 芽胞の成熟(下図Stage V~VI):
芽胞は成熟する過程でさらにコートが厚くなり、芽胞内部の細胞が凝縮します。この段階で芽胞は非常に耐久性を持ち、高温や乾燥、放射線などの外部ストレスに耐えることができます。

5. 芽胞の放出(下図Stage VII):
芽胞が成熟すると、母細胞は分裂し、1つの細胞が芽胞を外部に放出します。放出された芽胞は環境中で待機し、適切な条件が整うのを待って発芽します。

 

芽胞形成(Sporulation)の過程

 

芽胞形成によって、炭疽菌は不利な状況でも生存可能です。特に土壌中での長期間の生存や宿主への感染において芽胞形成能力は重要です。そのため、感染制御の観点からも研究が行われていますね。

クイズ3:炭疽菌の毒素に関するクイズ

炭疽菌の毒素は、通常、いくつの成分から成り立っていますか?

a) 1成分
b) 2成分
c) 3成分
d) 4成分

  • 正解:b) 2成分

解説

炭疽菌の毒素は、通常、2つの主要な成分から成り立っています。それはエデマ因子(Edema Factor, EF)と致死因子(Lethal Factor, LF)です。これらの成分と共に存在するもう1つの因子が保護性抗原(Protective Antigen, PA)です。

**保護性抗原(PA):**
これは炭疽菌の毒素の中でのキーとなる成分で、細胞への入り口を提供します。PAは、エデマ因子と致死因子が細胞内に侵入するのを助ける役割を果たします。PAは本来単体では毒性を持ちませんが、エデマ因子と致死因子と結合することで活性が引き起こされます。

**エデマ因子(EF):**
エデマ因子は、炭疽菌の毒素の一部として、細胞内のシグナル伝達を調節するためのシクラーゼ活性を持ちます。これにより、体内の液体が細胞外に漏れ出し、浮腫(エデマ)を引き起こす可能性があります。

**致死因子(LF):**
致死因子もまた、細胞内のシグナル伝達を変調させる作用を持つ酵素です。これにより、細胞の生存や免疫応答が妨げられ、重篤な状態に至る可能性があります。

炭疽菌毒素が働くメカニズム
Author Y tambe

 

炭疽菌の毒素は、これらの成分が結合して活性が引き起こされることで、宿主の細胞に対する影響をもたらします。この毒素の影響は、炭疽病の症状の発現に関与すると考えられています。毒素の作用によって、細胞のシグナル伝達経路が崩壊し、宿主の免疫応答が阻害されることで、病原体に対する宿主の防御が削弱されるのです。

 

クイズ4: 炭疽菌の軍事利用に関する問題

炭疽菌は生物兵器としても利用されることがあります。以下のうち、どの出来事がその例として挙げられるでしょうか?

a) 大規模なコロナウイルス感染事件
b) インフルエンザウイルスの世界的パンデミック
c) アメリカ同時多発テロ事件
d) 日本での食中毒の流行

  • 正解:c) アメリカ同時多発テロ事件

解説

2001年にアメリカで発生した同時多発テロ事件では、炭疽菌が粉末状にされて郵便で送りつけられるという形で使用されました。これによって数人が死亡しました。この事件は、炭疽菌が生物兵器としても利用される危険性を示す事例とされています。

しかし炭疽菌は生き物。そんなに人類の思い通りに操作できるものでしょうか?

炭疽菌を兵器として利用した失敗例が1942年にあります。

炭疽菌が兵器として有用だと考えられる理由は以下の4つ

  1. 簡単に培養できる
  2. 短期間(潜伏期間1~7日)で致命的な感染症を起こす
  3. ヒトからヒトに感染(伝染)しないため、味方に感染しない
  4. 1930年に有効なワクチンが開発された

 

イギリス軍は軍はその有用性を確かめるためにスコットランド西岸の無人島・グリュナード島を実験場に選びました。

早速グリュナード島に大量の炭疽菌をばらまくイギリス軍。ばらまかれた炭疽菌は島の土壌で芽胞を形成しました。その生命力はイギリス軍の想像をはるかに超えたため、実験場から炭疽菌を除くことができなかったのです。

炭疽菌は、増殖に適さない環境では「芽胞」を形成して、いわゆる休眠状態に入るのは2問目のクイズで解説しましたね。この芽胞に抗生物質は効果を示しません。

さらにやっかいなのが感染性を残しているということ。

すなわち!

もし炭疽菌を兵器として利用して戦争に勝利したとしましょう。ですが手に入れた土地は炭疽菌の芽胞に汚染されているため使い物になりません。このためグリュナード島はその後40年間、誰も立ち入ることができない島となってしまったのです。

40年後にイギリスは巨費を投じて島全体をホルマリンで消毒することでグリュナード島から炭疽菌を除去しますが、グリュナード島は今も無人島です。

グリュナード島

 

 

まとめ

  • 今回のクイズでは、炭疽菌(Bacillus anthracis)とその感染が引き起こす炭疽について学びましたね。

    細菌の生存能力や進化に驚かされるばかりですね!

    これからも一緒に、クイズを通して細菌学への理解を深めていければと思います。

    それではまた次回の細菌学クイズでお会いしましょう!

【著者紹介】さいぼう

北里大学卒業。獣医学博士。現アメリカメンサ会員。専門は微生物学。博士取得後アメリカ・マサチューセッツ州で博士研究員として働く。趣味は書籍の執筆。最近は実験のかたわら、大学院を目指す方に向けたエッセイ小説を書いている。Twitter space「日曜夜だからってしょげないでよ大学院生!」のメインキャスト。日曜夜7:30から絶賛ライブ配信中!

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