【細菌学クイズ】病気を起こす細菌② Mycobacterium tuberculosis(結核菌)について4つのクイズで楽しく学ぼう!

2023.08.26

こんにちは!細菌が好きすぎて気がついたら博士号をとっていたさいぼうです!

そんなわたしがつくる、楽しく学べる細菌学クイズ!本日は前回に引き続き病気を引き起こす細菌
(前回のListeriosisについての記事はコチラ

Mycobacterium tuberculosis(結核菌)にフォーカスしてみましょう!

この菌は、結核として広く知られる疾患を引き起こす重要な病原体です。

4つのクイズに答えて結核菌について楽しく学びましょう!

結核菌(イメージ)

 

結核の感染は、世界中で深刻な問題となっています。現在(2021年のデータ)、世界で推定何人が結核に感染していると考えられているでしょう?

a) 500万人前後
b) 1000万人前後
c) 2500万人前後
d) 5000万人前後

 

  • 正解: c) 2500万人前後

解説

結核は世界中で広く感染しており、2021年現在、およそ2500万人が感染していると推定されています。特に経済的に発展途上国や貧困層での感染が多く、結核の予防や制御は世界的な健康の課題となっています。

結核は、マイコバクテリウム属の一種である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる感染症です。結核は世界中で広く分布しており、その感染者数と分布について説明していきましょう。

結核感染者数は世界的に多く、WHO(世界保健機関)によると年間約3万人が新たに臨床症状を示しています。特に、低所得国や感染症対策の限られた地域で感染が広がっており、アフリカ諸国、アジア諸国、中南米などで深刻な課題となっています。

この一因が治療にかかる日数

結核の治療には、抗結核薬を6ヶ月以上、場合によっては1年以上にわたって服用する必要があります。これは結核菌の成長サイクルが遅いため、完全な駆除と再発防止のために長期的な治療が必要とされているからです。

このため発展途上国では抗結核薬への治療費が払えずに、適切な期間の服用が厳しいという現状があります。

次は結核菌がどうやって感染を広げるのか見ていきましょう!

結核の感染は、どのような経路を通じて広がるでしょう?

a) 飛沫感染
b) 蚊による媒介
c) 土壌からの感染
d) 血液感染

 

  • 正解: a) 飛沫感染

解説

結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染経路は、主に感染者からの飛沫核、または結核菌に汚染された食品を通じて広がります。

結核菌の感染経路:

1. 飛沫核感染: 結核患者が咳やくしゃみをすると、結核菌を含む微小な飛沫核が空中に放出されます。これらの飛沫核は吸入されることで、健康な人に結核感染を引き起こす可能性があります。

2. 長時間の接触: 結核患者と長時間近くに接触することで感染するリスクもあります。これは感染者が周囲の空気に結核菌を放出するためです。

3. 汚染食品の摂取: 結核菌は、汚染された食品、特に生の乳製品や未加熱の肉類を摂取することによっても広がる可能性があります。

3番目の経口による感染は稀ですが、腸管内で結核菌が増殖したという症例もあるため注意が必要です。

 

胸部レントゲンでの特徴

ここからは結核菌感染のレントゲンによる診断方法を見てみましょう。

結核感染は胸部レントゲンで観察される特徴的な結節で発見することが可能です。健康診断で胸部レントゲンを撮影する目的の1つは結核菌の感染を早期に発見するためですね!

結核菌感染者に観察される結節の特徴:

- 大きさ: 通常、数ミリから数センチメートルの大きさを持ちます。
- 形状: 丸みを帯びた形状をしており、軟らかい綿のような外観を持つことがあります。
- 境界: 結節は周囲の組織からはっきりと区別され、はっきりとした境界線を示します。
- 分布: 通常、肺結核の場合、肺野の上部に集中的に見られることが多いです。
- 石灰化: 長期間にわたって感染が続くと、結節は石灰化することがあり、これによって結節の中心が硬くなります。

結核菌感染者のレントゲン(矢印が結節)

 

これらの結節の特徴は、胸部レントゲン画像を用いた結核の診断に重要な情報です。そのため健康診断では胸部のレントゲンを撮るんですね!

 

さて、続いてはなぜ結核菌の感染者が減らないのか。抗生物質を6ヶ月飲んでいれば直るんじゃないの?そんな簡単ではないのです…。その一因を紹介!

結核菌が特有の性質を持つ中で、治療の難しさを増大させる要因として知られているものはどれですか?

a) べん毛
b) せん毛
c) プラスミド
d) 抗生物質耐性

 

  • 正解: d) 抗生物質耐性

解説

結核菌の抗生物質耐性は、結核治療の重大な問題となっています。抗生物質耐性が発展すると、感染の制御が難しくなり、効果的な治療が困難になる可能性があります。

抗生物質への耐性にもいろいろ種類があるので見ていきましょう!

結核菌の抗生物質耐性の種類:

1. 多剤耐性結核菌(MDR-TB): 現在結核菌の治療に使われている抗生物質はリファンピシンとイソニアジド。これらの抗生物質に耐性を持つ結核菌のことを指して、多剤耐性結核菌と呼びます。

多剤耐性結核菌には強力な抗生物質を使った治療を行わなければなりません。強力ということは予想される副作用も強くなる。そのため、感染者の健康を害さず結核菌を除去するのがとても難しくなります。

2. 広域耐性結核菌(XDR-TB): リファンピシンとイソニアジドに加えて、フルオロキノロンとアミカシンまたはカナマイシンと呼ばれる抗生物質にも耐性を持つ結核菌を指します。

広域耐性結核菌は現代で最も効果的な結核薬に耐性を持つため、感染者ははるかに効果の低い治療オプションを選択するしかありません。特にHIV感染や他の免疫系を弱める条件を持つ人々にとって、広域耐性結核菌は特別な懸念事項です。これらの人々は感染後に結核病を発症しやすく、また結核を発症した際の死亡リスクも高くなります。

3. 抗結核薬耐性の結核菌(Drug-resistant TB): 上記の耐性パターンに当てはまらないが、少なくとも1つの抗結核薬に耐性を持つ場合を指します。

なぜ細菌は抗生物質への耐性を獲得してしまうのでしょうか?

その理由は3つに分けられます。

抗生物質耐性の発生原因

1. 不適切な治療: 抗結核薬を正しく服用しなかったり、治療期間を短縮したりすることで、耐性菌が生存する可能性が高まります。

2. 不適切な使用: 結核以外の病気に対して抗結核薬を不適切に使用することで、結核菌の耐性が発生することがあります。

3. 低品質な薬剤: 品質の低い抗結核薬を使用することで、十分な治療効果が得られず、耐性の発生を促す可能性があります。

抗生物質耐性結核菌の発生により、感染の制御が難しくなり、症状の悪化や死亡率の増加が懸念されています。また、広域耐性結核の場合、治療に使用可能な効果的な薬剤が非常に限られており、治療の成功率が圧倒的に低下します。

結核の抗生物質耐性を管理するためには、適切な治療の確保、患者の治療順守の促進、高品質な薬剤の提供などが重要です。さらに、新しい抗結核薬の開発や、治療の監視と追跡の強化も必要です。結核耐性菌の拡散を防ぐため、国際的な取り組みが求められていますね。

最後に、結核菌特有の病原因子を紹介しましょう!

細胞壁の重要な成分であり、結核菌の生存戦略や免疫逃避に関与するのは何か?

a) グリコーゲン
b) ヘモグロビン
c) ミコール酸
d) グリセロール

 

  • 正解: c) ミコール酸

解説

結核菌のミコール酸は、細胞壁の重要な構成要素!

ミコール酸(Mycolic acid)は結核菌の外膜の構造物(Charles L. Dulberger, Eric J. Rubin, and Cara C. Boutte, CC BY 4.0 , via Wikimedia Commons)

細胞壁は結核菌に特有の厚くて複雑な構造を持ち、細菌の生存と免疫系からの逃避を支援する役割を果たしているのです!

ミコール酸は脂質の一種であり、細胞壁の中に特異的な構造を形成しています。その主な役割は2つ!

1. 免疫逃避: ミコール酸は細胞壁の外層に存在し、これが細胞表面の特異的な形状を作り出すことで、免疫系の攻撃から逃れるのに役立ちます。ミコール酸の構造は、免疫細胞に認識されにくくなっており、これによって細菌が宿主の免疫応答を避けることができます。

2. 薬剤耐性の防御: 細胞壁の構造が抗結核薬の浸透を阻害する一因として、薬剤耐性の形成に関与しています。ミコール酸は非常に疎水度の高い構造物です。ミコール酸によって疎水性が高まった細胞壁が薬剤の侵入を制限することが、結核菌が薬剤に対して耐性を持つ一因となっています。

ミコール酸は結核菌の生存と感染の重要な要素であり、その機能を理解することは、新しい治療法やワクチンの開発へとつながります!

まとめ

今回のクイズでは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)とその感染が引き起こす結核について学びましたね。

細菌の生存能力や進化に驚かされるばかりです!

 

これからも一緒に、クイズを通して細菌学への理解を深めていければと思います。

それではまた次回の細菌学クイズでお会いしましょう!

【著者紹介】さいぼう

北里大学卒業。獣医学博士。現アメリカメンサ会員。専門は微生物学。博士取得後アメリカ・マサチューセッツ州で博士研究員として働く。趣味は書籍の執筆。最近は実験のかたわら、大学院を目指す方に向けたエッセイ小説を書いている。Twitter space「日曜夜だからってしょげないでよ大学院生!」のメインキャスト。日曜夜7:30から絶賛ライブ配信中!

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