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皆さん、こんにちは。サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。
サイエンスコミュニケーターは、「科学と社会をつなぐ」役割とも言われますが、科学と社会が繋がるためには、科学の知を生み出す「アカデミア」と「社会」が様々な形で繋がることが必要不可欠です。アカデミアに近いところで活動しているひとりとして、Open academia(開かれた学術業界)とはどのようなものか、どんな可能性があるのかについて、常々考えています。
そんなわけで今回は、2024年12月20日に開催されたイベント「Open academia Summit 2024 - みんなでつくる研究の未来」を振り返りたいと思います!
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こちらは、「開かれた学術業界の実現」を目指すアカデミストが、挑戦する研究者とその応援団が一堂に会する機会として開催したイベントです。「Open academia」を合言葉に様々なステークホルダーが混ざり合うセッションが多数開催され、研究者や大学院生、研究者との協働を模索する事業会社、研究者のサポーターなど、多くの方が参加されました。
私は「academist アンバサダー」として、アカデミストの活動に参画していることもあり、本イベントでは司会を担当いたしました。この日開催された多くのセッションについてわかりやすくまとめられた公式レポートはこちらでご覧いただけますので、こちらの記事では私が個人的に印象に残った企画について紹介していきたいと思います!
公式レポート▶︎https://note.com/academist/n/nf5a03ff973ae
このセッションでは、24名の様々な分野の研究者による「Visionトーク」として、それぞれの研究内容やVisonが熱く語られました。
「突然死による悲しみを、減らしたい。」というVisionを掲げ、academist Prize 4期生として月額課金型のクラウドファンディングにも挑戦中の福嶋さんは、「亡くなった方からの遺伝情報は、家族を守るための贈り物かもしれない」と言います。
亡くなった方からの遺伝情報をご家族へ届けることは、死因究明と予防、二つの意味を持ちます。日本国内ではまだ大きく推進されていない死後遺伝学的検査を前進させるための研究プロジェクトに挑戦されています。
また、ご自身の研究プロジェクトの中でも、「遺伝カウンセラー」「救急医」「法医」「ICU看護師」「循環器内科医」「ご家族を突然死で亡くされた当事者の方」など、領域や立場を超えて対話をすることが重要性であると話されました。
他にも様々な分野の発表が行われました。
「たとえ隕石が落ちてきても地球防衛できる世界を」
「日本における「中東」表象を増やす」
「昆虫標本を資産化し、未来へ残す」
「研究室に議論の場を創造する」
こちらはその一部ですが、タイトルをご覧いただくだけでも、研究分野やVisionの多様性を感じていただけるのではないでしょうか。
ラボブレインズ読者の皆様の中には、研究者や大学院生の方も多くいらっしゃることと思いますが、現役で研究に携わっておられる方でさえ、ご自身の研究領域から離れた分野については、「具体的にどういうことを研究しているのか」「どうやってそれを研究するのか」など、想像することが難しいのではないでしょうか。
かく言う私も生物系の出身のため、特に人文社会科学系の研究に対しては「そんなふうに研究をするのか〜」と驚いたり感心したりして、時々司会進行の役目を忘れてしまいそうになりながらも、どうにかその役割を全うしました。
Open academiaというと、産官学連携などによる大掛かりなものを想像されるかもしれませんが、まずはこうしたイベントに参加して、研究者同士が異分野の方の研究を知ることであったり、「隣の研究室で何をやっているのか覗いてみる」ようなことが、その基盤になるのではないかと改めて感じました。
怒涛の研究ピッチの後は、ポスターを首から下げて移動しながらポスター発表を行う「動くポスター」を実施しました。
こちらのポスター発表の時間では、研究者同士だけでなく、企業の方や大学生、大学院生も含めて、立場を超えた交流がまさに実現していました。
学会で行われるポスター発表では、元々学会ごとに分野が分かれている上、ポスターもさらに細分化された分野ごとに整理されています。そのことの利便性もありますが、「混ざり合う」という点に関して、「動くポスター」の可能性を大いに感じました。
こちらのセッションでは、昨今、科研費などの公的資金のみで基礎研究を維持・発展していくことが難しい中で、民間企業による長期投資という形で基礎研究を支えていくことについて、議論が交わされました。さわかみ投信株式会社CIOの黒島光昭さんが「投資する側」として、筑波大学の野村佳祐さん、萩原大祐さんのお二人が「投資される側」として、双方の視点で議論が進行します。
黒島さんは元研究者として、金融業界に転身されたご経験から、金融業界のアカデミアに対するリテラシーの低さに愕然としたそうです。業界内で基礎研究の性質や重要性を周知することの大切さについて語られました。また、研究者、投資家の方々も含めて三人四脚で、ひいては社会全体で、基礎研究への応援投資を広げていくことが重要であると指摘し、そのための秘訣について問われると「かっこいい大人が増えること」だと即答されました。
「デフレマインドがあるから不安な気持ちになる。日本を、世界を元気にしていこうよ!という元気でかっこいい大人が増えていかないといけない」と熱弁される姿は、まさにかっこいい大人の一人であるように感じました。
応援される側として、筑波大学の野村さんは、経済的なところだけはもちろん、何より精神的な支えになったというのが大きかったと強調されました。修士2年の時に、「フロンティアを目指して、よりインパクトの強い研究をやろう!」という強い想いから、新しいテーマで研究をスタートしたという野村さん。方法論から作るような開拓的な研究で、なかなか進捗が生まれず苦労したそうです。そんな中、自分の研究をアカデミア外の誰かが客観的に評価してくれることを確認できたことが大きな支えとなり、それによって研究も次第に軌道に乗っていった、とのこと。
また、萩原さんは筑波大学に着任した時に寄附講座であったことが転機だったと言います。
社会の応援を最も受けているという身分だと感じ、その講座が終わる頃には応用研究で社会の役に立ちたいという想いが芽生え、基礎研究から応用研究、さらには事業化へとあゆみを進められています。事業化を目指したタイミングで、周囲からの応援の声が大きくなったことも実感されたそうです。
社会から、世間の一人一人から応援されることで研究者のマインドが変わり、研究者がより一層社会に向き合うことにも繋がる。そうなることで、良い循環が生まれていく。
もちろん、基礎研究は好奇心ドリブンであることも多いですし、全ての研究者が応用研究や事業化に向かっていくべきであるとは思いません。しかし、そうした選択肢を多くの研究者が認識することは重要であり、また、社会と向き合い、社会に積極的に発信していくことで、研究業界を盛り上げていける可能性を強く感じました。
皆さんは、“Reseach Relations” という言葉をご存知でしょうか?「研究者と共にVisionをつくり、ステークホルダーを巻き込むことで、資金の循環を生み出すことを担う職種」を、アカデミストでは「Research / Researcher Relations(Re:Rel=リレル)」と呼んでいます。
このセッションでは、まさにRe:Relとして活躍されている「Stellar Science Foundation」「tayo」「デサイロ」の御三方に、それぞれの活動を通して見えてきた景色を共有いただきました。
Stellar Science Foundationは、傑出した研究者を発掘してコミュニティを形成し、世界最高レベルの環境や機会を提供されています。一方、tayoは研究者向けのコミュニケーションプラットフォームを運営し、幅広い研究者のネットワーク構築を支援されています。その中で、若手女性研究者に特化した起業支援プロジェクト「WISER」について紹介いただきました。デサイロは、人文社会科学系の研究者と社会をつなぐ「アカデミックインキュベーター」として人社系の研究者と企業を繋ぎ、研究の知見を企業に活かすような取り組みについてお話いただきました。
実際にRe:Relとして活動されている御三方が、なぜ(どういうモチベーションで)現在の取り組みを行っているのかという質問に対しては、以下のような回答がありました。
・元々研究が好きで、研究者と関わりたい
・研究者のパッションを感じたり想いを聞くのが好き
・研究者として研究に取り組むより幅広い分野に触れられる
・人間の好奇心の多様性に触れられる仕事がしたかった
・未来がどうなっていくかに興味があり自分自身が研究者にヒントをもらえた
たくさんの人がこのように感じるような機会、きっかけがあれば、より多くの人がRe:Rel的な立場で、研究者と共に学術業界を盛り上げていけるのではないでしょうか。そのためには、私のようなサイエンスコミュニケーターを介して研究や研究者の魅力を社会に届けていくことも大事ですが、やはり研究者が自らのビジョンや研究について語る機会も重要であるように感じました。
他にも様々なセッションがあり、2つの会場で5時間にわたって繰り広げられたイベントは、最後まで熱気を帯びたまま終了の時を迎えました。
実に様々な立場の人々が集まり、議論の内容も多岐に渡りました。このことからも、Open academiaの実現のためには多くの人が立場を超えて、あらゆる切り口での実践をしていく必要があるということを感じました。前向きに捉えれば、あらゆる人がこのムーブメントに参加できるということでもあります。
サイエンスコミュニケーターという立場からでも、Open academiaの実現に向けて、関われることが大いにあるように感じました。一方で、現状の私を含むサイエンスコミュニケーターの活動の多くは、子ども向けのサイエンスショーなど、青少年を対象にしたイベントやコンテンツが多いことが度々指摘されています。こうした機会に私自身も少しずつ視野を広げていければと思いました。
さいごに告知ですが、アカデミスト主催のイベント「若手研究者の ”1,000 True Fans” 実現企画会議 - みんなでつくる研究の未来」が4月24日(木)に開催されます!”1,000 True Fans” の実現を目指している若手研究者7名による研究ピッチや個別セッションなど、様々な企画が実施される予定です。
Open academia Summit の延長線上の議論とも言える内容で、研究の未来について考えます。私は司会を担当いたします。皆様、ぜひ会場でお会いしましょう!
イベント詳細・お申し込みはこちら
https://peatix.com/event/4315131