【細菌学クイズ】病気を起こす細菌① Listeriosisを引き起こすListeria monocytogenesについて4つのクイズで楽しく学ぼう!

2023.08.21

こんにちは!細菌が好きすぎて気がついたら博士号をとっていたさいぼうです!

そんなわたしがつくる、楽しく学べる細菌学クイズ!

これまで5回にわたり細菌とは何なのか?ヒトの細胞やウイルスとは何が違うのか?

細菌の一般的な特徴を紹介してまいりました。

(今までのクイズはコチラ

今日からは単一の細菌種について紹介!特に病気を引き起こす細菌について紹介していきますよー!

今週体調悪いな…。

それ、Listeria monocytogenesがからだの中で増えているからかも!?

今回もクイズに答えて楽しく細菌について学びましょう!

Listeria monocytogenes(イメージ)

 

クイズ1: Listeria monocytogenesとはどのような細菌であり、どのような症状を引き起こす原因となる細菌ですか?

  1. a) 胃腸炎を引き起こす細菌
  2. b) 肺炎を引き起こす細菌
  3. c) Listeriosisを引き起こす細菌
  4. d) 膀胱炎を引き起こす細菌
  • 正解: c) Listeriosisを引き起こす細菌

 

~解説~

Listeria monocytogenesが健常者に感染した場合は軽度の胃腸炎で済むことがほとんどです。

しかし免疫が低下した宿主においては、Listeriosisとよばれる髄膜炎や敗血症を引き起こす細菌性疾患です。妊娠中の女性においては、感染が胎児に伝わる可能性があり、流産や新生児の早期敗血症を引き起こすことがあります。

散発的なListeriosisの発生率は通常、年間100万人あたり2〜3件と言われています。

Listeria monocytogenesは過去にさまざまな食品を介して集団感染を引き起こした事例があります。以下に代表的な感染例をいくつか挙げてみましょう。

 

1985年のメキシカンチーズ感染事件:
アメリカのカリフォルニア州で、生乳を原料とした乳製品(主にチーズ)からListeria monocytogenes感染が広がりました。感染者数は86人以上で、29人が亡くなるという大規模な集団感染となりました。

2011年のコロラド産メロン感染事件:
アメリカ全土(28の州)で、コロラド州産メロンからListeria monocytogenes感染が広がりました。感染者数は約147人で、最終的に33人が死亡しました。

2016年のヨーロッパの感染事件:
ヨーロッパ各地でフレンチソフトチーズからListeria monocytogenes感染が広がり、感染者数は2536人に上りました。この事件では、感染ケースが複数の国で報告され、欧州各地に広がった集団感染となりました。

2016年のアメリカの冷凍野菜感染事件:
アメリカで、冷凍野菜からListeria monocytogenes感染が広がりました。感染者数は9人で、3人が死亡しました。感染源とされる冷凍野菜製品を販売していたブランドは製品をリコールしました。

これらの事例の共通点から、Listeria monocytogenesが生鮮食品や乳製品、加工食品を介して感染を引き起こすことが分かりますね。

Listeria monocytogenesの感染の原因になる食品

 

チーズだって冷凍野菜だって、冷蔵庫や冷凍庫にしまってあるのになぜListeria monocytogenesは感染を引き起こすことができるの?

それは低温環境下でも増殖することができるから。では次のクイズ!

 

クイズ2: Listeria monocytogenesはなぜ低温での増殖が可能?

  1. a) 低温に適応した酵素を持つため
  2. b) 高塩濃度下での生育が難しいため
  3. c) 呼吸によるエネルギー生成が不要なため
  4. d) 低温下でも代謝を維持する能力を持つため
  • 正解:d) 低温下でも代謝を維持する能力を持つため

 

解説

Listeria monocytogenesは低温(冷蔵庫温度)でも増殖する能力を持つ特異な細菌です。これは、この細菌が低温下でも代謝を維持し、増殖が可能な適応能力を持っているためです。そのため、原因食品が冷蔵保存されている状態でも増殖し、感染のリスクが高まります。

冷蔵保存されていた野菜中で増殖するListeria monocytogenes(イメージ)

 

Listeria monocytogenesが低温でも増殖可能な分子メカニズムは、その代謝の適応能力に関連しています。通常、多くの細菌は低温では代謝が鈍化し、増殖が困難になる傾向がありますが、Listeria monocytogenesはその特異的な特性により低温下でも生育できるのです。

この特性を2つ紹介しましょう。

  1. 遺伝子の発現制御:低温下での増殖には、特定の遺伝子の発現を制御するメカニズムが関与しています。Listeria monocytogenesは低温下で特定の遺伝子群の発現を増加させ、その遺伝子産物を通じて低温耐性を維持します。

2. 細胞膜の調整:低温下では細胞膜の流動性が低下する傾向がありますが、Listeria monocytogenesはこの影響を軽減するために、細胞膜中の特定の脂質組成を調整することで、膜の構造と機能を維持します。

温度で変化するリン脂質

 

これらのメカニズムにより、Listeria monocytogenesは低温下でも生存し、増殖することができるのです。この特性がListeria monocytogenesの食品への汚染や感染のリスクを高める一因となっています。したがって、食品の取り扱いや加工、調理の際には十分な注意が必要です。

クイズ3: Listeria monocytogenesの運動性に関する特徴は何であり、どのような構造がその運動を可能にしていますか?

  1. a) 運動性を持たない細菌である
  2. b) 原形質の収縮によって運動する
  3. c) コメットテイル運動と呼ばれる特異な運動を示し、ActAが関与する
  4. d) 繊毛を持ち、泳動によって運動する
  • 正解:c) コメットテイル運動と呼ばれる特異な運動を示し、ActAが関与する

解説

え?

運動性はべん毛だって前回のクイズで言ってたじゃん!

実はListeria monocytogenesは運動性において特異的なメカニズムを持っており、宿主細胞外と宿主細胞内で異なる運動性を示すことが知られています。

**宿主細胞外での運動性:**
Listeria monocytogenesは、宿主細胞外での運動性においてはべん毛による運動性を示します。つまり、自由に運動して栄養源にたどり着く能力を持っています。せん毛も持っており、これを用いて物質や細胞表面への付着を行います。この特性は、Listeria monocytogenesが宿主細胞への感染や侵入を支援する役割を果たしていますね。

**宿主細胞内での運動性:**
一方、宿主細胞内での運動性においては、Listeria monocytogenesは特異的な運動性を示します。この運動性は「コメットテイル運動(comet tail motility)」として知られています。コメットテイル運動は、Listeria monocytogenesが宿主細胞内に侵入し、宿主細胞内で増殖する際に発現する特異的な運動性です。

 

具体的なメカニズム:

  1. Listeria monocytogenesが宿主細胞内に侵入すると、細胞質内においてアクチンフィラメントと呼ばれるタンパク質のポリマー化が促進されます。
  2. Listriaはこれらのアクチンフィラメントを利用して自らを動かすことができ、細胞質内でアクチンポリマーによる推進力を得て運動します。

3. これにより、Listeria monocytogenesは宿主細胞質内で運動しながら細胞内の移動を行い、宿主細胞間を移動することができます。

Listeria monocytogenesのコメットテイル運動
by Daniel A. Portnoy, Victoria Auerbuch, and Ian J. Glomski

 

この運動性は、Listeriaが宿主細胞内での増殖と宿主細胞間の広がりを支援する重要な特性となっています。

 

クイズ4: Listeria monocytogenesによる胎児感染のメカニズムについて説明してください。

  1. a) 胎盤を越えて感染し、胎児の循環系に直接侵入する
  2. b) 胎盤の外側で増殖し、胎児に感染を広げる
  3. c) 母体の血液中で感染し、胎児に感染を広げる
  4. d) 胎児の皮膚から侵入し、内部に感染する
  • 正解:a) 胎盤を越えて感染し、胎児の循環系に直接侵入する

解説

Listeria monocytogenesは妊婦にとって特に危険な細菌であり、胎児感染を引き起こす可能性があります。妊娠中の女性が感染すると、細菌は胎盤を越えて胎児に感染する可能性があるからです。胎児感染の結果、早産、死産、胎児成長の遅延などのリスクが高まります。

妊婦さんは特にリステリア菌を含む生の食品の摂取を避けることが重要です。

胎盤を通じて胎児に感染することを「母子感染」と呼びます。血液胎盤関門の性質と関連しながら、Listeria monocytogenesの胎児感染について解説していきましょう。

 

胎盤の構造と血液胎盤関門:
胎盤は、母体と胎児の間を隔てる重要な組織であり、酸素や栄養素の交換、代謝物の排泄、免疫情報の伝達などを行う役割を果たしています。血液と胎盤の間には血液胎盤関門と呼ばれる、胎盤内の血液循環を制御するバリアがあり、母体の免疫細胞や一部の微生物が胎盤を通じて胎児に侵入するのを制限しています。

Listeria monocytogenesを突破するメカニズム:
Listeria monocytogenesは、他の細菌と比較して比較的血液胎盤関門を突破しやすいとされています。これは、Listeria monocytogenesが特定の宿主細胞内で増殖する「細胞内寄生菌」であることに起因します。Listeria monocytogenesは、宿主細胞内に入り込んで増殖することで免疫システムの監視を逃れることができ、その際に胎盤を通じて胎児へ感染を広げる可能性があります。

以上のことから、妊娠中の女性は特に食品の取り扱いや食材の選択に注意を払う必要があります。Listeria monocytogenes感染を予防するためには、生の肉や魚、未加熱の乳製品などの摂取を避け、適切な食品の調理と取り扱いを行うことが重要です。また、感染症の症状が現れた場合は早期に医療機関を受診することも大切です。

まとめ

  • 今回のクイズでは、Listeria monocytogenesとその感染が引き起こすListeriosisについて学びましたね。

    細菌の生存能力や進化に驚かされるばかりですね!

    これからも一緒に、クイズを通して細菌学への理解を深めていければと思います。

    それではまた次回の細菌学クイズでお会いしましょう!

【著者紹介】さいぼう

北里大学卒業。獣医学博士。現アメリカメンサ会員。専門は微生物学。博士取得後アメリカ・マサチューセッツ州で博士研究員として働く。趣味は書籍の執筆。最近は実験のかたわら、大学院を目指す方に向けたエッセイ小説を書いている。Twitter space「日曜夜だからってしょげないでよ大学院生!」のメインキャスト。日曜夜7:30から絶賛ライブ配信中!

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