気づいていないだけかも?”都市生態系”。

2023.06.01

さて、突然ですがクイズです。「生態系」を見てみたい。生態系を感じてみたい。そんな時、どこへ行けばいいのでしょう。山でしょうか。それとも川?

 

「山とか川とか海とか大自然」と思った方は、家から一歩外へ出て周りをよく見渡してみてください。

そうすると、建物の隙間や公園の花壇などで、人目に触れず逞しく生きる生き物たちがユニークな生態系を作り上げていることに気づくかもしれません。


人々の生活の側にある生態系

手付かずのジャングル、美しい珊瑚礁、雄大なサバンナ。「生態系」という言葉を聞いて、すぐに思いつくのはこの様な光景なのではないでしょうか。

しかし生態系とは、そこに住む多くの生き物同士や無機環境との関わり合いを一つのシステムとして捉えたもののことなのです。

つまり、人の影響が多く及んでいないところだけではなく、人の影響が大きく働いているところ、例えば牧場、水田、畑地、人工林、そして都市にだって多くの生き物が生きていますし、独自の関わり合いを持ちながら生態系を作り上げています。

手付かずの自然に対する人が与える影響の良し悪しはさておき、そんなのお構いなしに生き物たちは必死に生きているのも事実。そんな生き物たちの逞しさが垣間見ることができるのが、都市生態系(Urban Ecosystem)なのです。

と言っても、都市生態系は他の生態系と比べて、どの様な特徴があるのでしょうか。今回はそんな都市生態系の特徴を3つピックアップしてご紹介したいと思います。

生き物だってお金持ちの人が好き?

お金持ちが多く住む地域、憧れませんか?私は俗物なので、そんな地域に一度は住んでみたいなぁと思ったりするのです。

でもそれは私だけでなく、どうやら生き物たちも同じみたいで。

画像はイメージです!当然ながら「紙幣」が好きでお金持ちに集まってきているわけではありません。

 

都市生態系の特徴として、都市の中でも住人の所得が高い地域ほど生息する生物種の数が多いことが知られています。

こんな現象を「ぜいたく効果(Luxury Effect)」と言います。なぜそんなことが起こるのでしょうか?やっぱりお金持ちが好きだから?

実は理由は簡単で、1つは質の高い緑地がある地域に高級住宅街ができることが多いから。もう1つは、富裕層は広い庭付きの家を作ることが多く、そこにさまざまな植物を植えるので生き物が集まってくるからです。

理由を聞くとそりゃそうだと思ってしまいますが、人の所得と生物種の数に相関関係があるというのは都市生態系ならではの現象。

ちなみにこれは日本限定の話ですが、日本の都市を調査した際、地価と生息種数の組み合わせが最も高くなる場所には、決まってあるランドマークがあるというのです。

そのランドマークとは、城跡です。

日本の都市は元々城下町として栄えたという歴史を持っていることが多く、城跡の周囲は昔から由緒ある地域で現代でも中心地となっていることが多いため、地価が高くなる傾向があります。

それに、城跡は昔から様々な植物が植えられて公園の様になっているところも多いため、生息する生物種数が多くなるのです。

②都市に生息する生き物の種数は意外と多い

意外かもしれませんが、例えば日本でも大都市と呼ばれる地域に生息する生き物の種数は、地方に比べても数が多かったりします。

大都市は特に植物の種数が多い傾向にあるのですが、それはなぜか。

理由は、外来種がとても多いからです。

都市の特徴として、周辺の農村地域と比べて在来種の生息種数は減る傾向にあります。ただ、それを上回る勢いで外来種が増えるため、全体としては種数が増えるという現象が起こりうるのです。

例えば東京だと多摩川がタマゾン川と呼ばれるくらい外来種の魚類・水生植物が多く、ある意味で多様な生態系を作っているのが有名です。

また海外の場合だと、都市周辺の農村が劣化してむしろ都市の方が生き物が住みやすい環境になった、みたいなこともあるのだとか。日本の畑とは比較にならないほど広大な農地に単一の作物を育てるような地域だと、その作物を食べる昆虫くらいしか一帯に住めないため、生息できる種数が減ってしまいます。

さらに農薬が撒かれたりするとさらに生息できる生物が減り、結果的に農村地帯から都市部へ生き物たちが流入してくる様な現象も起こっているようです。

③生き物との距離が非常に近い

都会の公園のベンチで休んでいると、どこからともなくハトやスズメがやってきて、足元まで歩いてやってくる。餌がもらえないと分かるや否や、歩いてまた別の人の足元へ歩いていく。
都市部に住んでいる人には見慣れた光景かもしれませんが、実は都市ではない場所だと滅多に見られない珍しい光景なのです。
人が近づいてきた時に、それ以上近づくと逃げるぞ!と生き物が思う距離のことを、逃避開始距離、もしくはFID(Flight Initiation Distance)と言います。

都市生態系は様々な生き物のFIDが非常に近いという特徴があるのです。

私は趣味で鳥や虫の写真を撮りによく出かけるのですが、東京で撮るのと田舎で撮るのとでは特に鳥に近づく難易度が大違い。

東京で鳥の写真を撮ろうと思えば、大抵の種であれば3メートル程度の距離であれば近づくことができます。が、故郷の田舎で鳥の写真を撮ろうと思うと状況は一変。スズメでさえ10メートルほど近づいたと思えば、サッと飛び上がり遥か遠くへ飛び去ります。

あまりに遠すぎて、飛び去る姿をみて鳥がいたことに初めて気づくことも。お値段が張る高性能の望遠レンズがあれば遠くからでも撮ることはできるのですが…。

と、少し話が逸れましたが、東京の鳥と、田舎の鳥のFIDはそんなに違うのです。

都市生態系を知ると、日々の通勤・通学時間に見える景色が変わるかも

今回お伝えしたのは都市生態系の特徴のほんの一部です。

それでも、一部でも知識があると、普段の通勤・通学の時間に見えている景色が変わってみえると思います。
高級住宅街や城跡の近くを通った時には、「ぜいたく効果働いてるかな?」と思うようになるかもしれません。
道端に咲いている植物をみて、「確かに知らない植物がいっぱい生えているな。これって外来種なのかな?」と思うようになるかもしれません。進行方向から逃げてくれないハトを見て、「FID近いなぁ〜。」と思うようになるかもしれません。

もしそう思えるようになれば、これまで無味乾燥に思えたコンクリートジャングルが、生死に溢れた野生の世界に見えてくるかもしれません。

余談・工業暗化

都市という環境が生き物たちに与える影響が、場合によっては短期間で形質の変化をもたらすことがあります。
その一つが「工業暗化」という現象です。

19世紀のイギリスは産業革命により都市の工業化が進み、石炭を燃やすことによって起こる煤煙によって大気汚染が起こり、付近の木々は樹皮が真っ黒に染まるようになりました。

すると、ガの一種であるオオシモフリガは元々体色が白地に黒の淡色型がほとんどだったのですが、大気汚染が始まって以降は全体的に黒い体色を持った暗化型が見られる様になり、ついには一部の都市にいる殆どのオオシモフリガが暗化型になってしまいました。

これは、黒く染まった木々で生きるために、暗化型のほうが生きのびるうえで捕食されづらく有利だったことが主要因で起こったと考えられています。

その後、大気汚染が無くなるにつれて暗化型の割合は減ってきているのだとか。

都市という環境に生きる生き物たちが、いかに人の活動の影響を受けているのかを知るための良い事例なのでした。

参考文献

『Human interest meets biodiversity hotspots: A new systematic approach for urban ecosystem conservation』

『人と生態系のダイナミクス -③都市生態系の歴史と未来-』-飯田 晶子・曽我 昌史・土屋 一彬

『都市で進化する生物たち』-Menno Schilthuizen (著), 岸 由二・小宮 繁 (訳)

「ゆる生態学ラジオの生き物あっぱれ!」シリーズ

【著者紹介】よしのぶ

生き物が好きな人。オーディション企画「ゆる学徒ハウス」から誕生したYouTube及びPodcast番組「ゆる生態学ラジオ」に出演中。生き物の凄さ・可愛さ・面白さをゆるく楽しく紹介します。

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