タンポポは未来の戦略物資⁉︎

2023.05.18

戦略物資という言葉をご存知でしょうか?

戦略物資とは国家の安全保障上において重要な物資や資源のこと。それが不足すると通常の経済活動はもちろん、戦争など安全保障上の危機の際ににっちもさっちもいかなくなる、そんな物資のことです。

具体的な例を挙げると、石油やレアメタル・食料、最近だと半導体やタンポポなども含まれます。

…え?タンポポも含まれるのかって?

確かに、今はまだタンポポは戦略物資に含まれないかもしれません。

しかし、後数年もすればタンポポが戦略物資の仲間入りをする…。そんな未来が待っているかもしれません。

その名もロシアタンポポ

タンポポはキク科タンポポ属の植物の総称で、日本には在来種のカントウタンポポやカンサイタンポポ、外来種のセイヨウタンポポなどが多く自生しています。

そんな多くのタンポポの全てが未来の戦略物資なのかというと、残念ながら違います。

タンポポはタンポポでも、カザフスタンやウズベキスタン、キルギスといった西トルキスタンの一帯に自生しているロシアタンポポが未来の戦略物資として注目されているのです!

なぜロシアに生えてないのにロシアタンポポなのか?
それは、これらの国がかつて現在のロシアを中心に存在したソビエト連邦の構成国の一つだったから。

和名が命名された当時はまだソ連だったため、ロシアタンポポとなったというわけです。

さてこのロシアタンポポ。なぜ戦略物資として注目されるようになったのでしょうか。

ソ連もナチスドイツもタンポポを研究していた

第二次世界大戦前後、ソビエト連邦やナチスドイツ、アメリカ合衆国がこぞってタンポポを研究していた時代がありました。

なぜかというと、とある戦略物資がロシアタンポポから生産できると判明したからです。

それは、戦闘機や爆撃機といった航空機から軍用車両や戦車までも広く使われ、しかも産出が一部の国々に偏ってしまっている戦略物資、天然ゴムです。

天然ゴムは、主に車両や航空機などに使われるタイヤの主原料の一つで、例えば日本は現在その調達を輸入に100%頼っている重要度の高い物資。現在でも戦略物資として備蓄をしている国もあります。

 

タンポポ研究に躍起になるワケ

そんな天然ゴムですが、原料はほぼ全てをパラゴムノキという植物に依存しています。

ちなみに観葉植物として人気のゴムノキの多くはインドゴムノキという植物。

どちらも幹を傷つけるとラテックスと呼ばれる天然ゴムの素となる白色乳液が採れますが、パラゴムノキはトウダイグサ科でインドゴムノキはクワ科と、両者はそこまで近い仲間ではありません。

それでもどちらもゴムの利用に使えるので、和名はどっちも〇〇ゴムノキと仲間かのような名前になっています。

ただ、繰り返しますが、現在天然ゴムの原材料はゴムとしての質が高く生産効率も高いパラゴムノキがほぼ全てとなっています。


そんなパラゴムノキは原産国がブラジルで、現在の主要産出国はタイ、インドネシア、ベトナムなど東南アジアなどの熱帯の国々。そしてこの状況は第二次世界大戦前後でも同じで、東南アジアに大きく依存していました。

当時、東南アジアの国々の多くはイギリス領もしくはフランス領だったため、これらの国々と対立するようなことがあれば完全に供給網を絶たれるという状況。

そんなわけで列強国たちは必死にパラゴムノキに匹敵する天然ゴムを採取できる代替植物を探していました。

そんな中で代替植物として白羽の矢が立ったのがロシアタンポポ。パラゴムノキを上回るような非常に質の良い天然ゴムが採れることがわかり、原産地を領土として持っていたソ連で特に熱心に研究されていました。

しかし、想像できるようにタンポポは図体の大きい植物では無いため、一株から採れる天然ゴムの量はわずか。
いかに大量にタンポポを生産するかが実用化の鍵だったわけですが、第二次世界大戦の終了や合成ゴム工業の発達も相まって、採算が中々とれないことから本格的な実用化に至るまでにはならず。

長らくロシアタンポポの研究は日の目をあたることなく長らく忘れ去られていました。

パラゴムノキ


ロシアタンポポ研究が復活!

そんなロシアタンポポですが、近年になって再び日の目を浴びることになります。

パラゴムノキという一種に依存していること、そしてその生産を主に東南アジアの国々に依存しているというリスクを孕んでいることは今も昔も変わりません。

2012年ごろには米国でオハイオ州立大学と民間企業がロシアタンポポの研究を推進していくためのコンソーシアムを開催したり、日本でもブリヂストンや住友ゴムといった大手タイヤメーカーがロシアタンポポの研究を開始しているのです。

ロシアタンポポは日本のような温帯でも栽培可能なため、この研究が進んだ暁には日本も貴重な戦略物資生産国として名を連ねるかもしれません。

そして現在問題になっているような耕作放棄地もタンポポの黄色い花でいっぱいに埋め尽くされる日も近いのかもしれませんね。


余談

天然ゴムの原料であるパラゴムノキですが、実は過去に全滅の危機を迎えていたことがあります。

パラゴムノキの原産地がブラジルだということは先述しましたが、19世紀末まではブラジルの貴重な産業資源としてパラゴムノキの国外流出が厳しく禁止されており、ブラジルによる独占状態になっていました。

そんな独占状態を打破しようとしたのが当時のイギリス。なんとかパラゴムノキの種子をこっそり持ち出して植民地だった東南アジアで栽培し天然ゴムを生産しようと目論みます。

そのために何度も植物学者をブラジルに派遣してはこっそり持ち出そうとするのですが、何度も検閲の目を逃れることができず失敗に終わっていました。

そんな中1876年にヘンリー・ウィッカムという方がイギリスに無事(?)種子を送り届け、イギリスは順調に東南アジアでのパラゴムノキの栽培を成功させていくことになります。

そのあと大変だったのがブラジル。元々ブラジルではパラゴムノキが罹ってしまう南米葉枯れ病という病気があります。

自然に自生しているパラゴムノキは、仮に一株が南米葉枯れ病になっても他の株との距離があるため全滅するようなことは中々起こらないのですが、生産量を上げようとプランテーションで栽培した場合は密に植えられるため、一気に感染が広がり全滅しうるのです。

そんな悲劇にあった一人が、フォード・モーターの創設者である「自動車王」ヘンリー・フォードです。
天然ゴムのイギリスによる独占を危惧し、ブラジルに広大なパラゴムノキプランテーションを造成しましたが、南米葉枯れ病により全滅。


現在でもブラジルはパラゴムノキの原産国であるにもかかわらず、わずかに自生しているパラゴムノキからラテックスを採取するしかないという状況です。

ブラジル側からしたら盗人猛々しいと言われてもおかしくないヘンリー・ウィッカムのおかげで、現在我々はパラゴムノキ由来の天然ゴムの恩恵を受けて現代文明を享受しているのです。

参考文献

総説 天然ゴムのサステナビリティ ーJSTAGE

特論講座 ゴムの工業的合成法 ーJSTAGE

「ゆる生態学ラジオの生き物あっぱれ!」シリーズ

【著者紹介】よしのぶ

生き物が好きな人。オーディション企画「ゆる学徒ハウス」から誕生したYouTube及びPodcast番組「ゆる生態学ラジオ」に出演中。生き物の凄さ・可愛さ・面白さをゆるく楽しく紹介します。

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