「旅行医:トラベルドクター」が考える、患者に寄り添う「医療のかたち」

2023.04.27

みなさんこんにちは!CEなかむーです。

今回は日本国内において「旅行×医療」に取り組み、医師として旅行支援に取り組んでおられる「トラベルドクター.inc」伊藤玲哉先生にお話を伺い、伊藤先生が考える医師のあり方や「旅行支援/移動支援の難しさ」などを記事にしました。

24時間テレビやNHKへのご出演で、移動支援業界では今一番注目されている方へのインタビュー、私自身非常に勉強になりました。大変お忙しい中貴重な機会をいただけましたのでどうぞ最後までお付き合いください!

プロフィール

伊藤玲哉(いとう・れいや)

医師・トラベルドクター

1989年生まれ。東京都出身
昭和大学医学部 卒業
洛和会音羽病院 初期/後期臨床研修
昭和大学病院 麻酔科専攻医・麻酔科標榜医
日本旅行医学会・日本渡航医学会 認定医
介護士初任者研修・ガイドヘルパー
グロービス経営学大学院
経済産業省/JETRO主催
『始動 Next Innovator 2019』5期生

 

 

トラベルドクターになったのは、病院ではできない願いをかなえたかったから

伊藤先生(記事の中では、親しみを込め「伊藤さん」と記載します)は元々は実家のクリニックの後継ぎとして生まれ育ちました。当時から「つらい病気を抱えている方に寄り添う医療」がしたいという想いを根元に持っていた伊藤さんが志したのは「総合診療科」。家庭医・在宅診療などができるような医師になりたいという想いを持って働いていたそうです。

しかし、実際医療現場に出てみるとその壁は高かったのです。"今の医療では治せない病気を抱えた方"に対し、自身で何ができるのかと悩むことも多く、どれだけ医療が発達しても人生には必ず「最期」があり、自分がどういう医師をしようが、どれだけ長く生きることも大事だけど、最後の瞬間まで「どう生きるのか?」というところを考えた時に、今の医療の中だけで出来ることの限界を感じていたそうです。

そんなある日、伊藤さんが担当していた終末期の患者様とお話をしている中で、こうお話されたそうです。

「先生・・ちょっと旅行したいんだけど」

そこで伊藤さんは、"今自分はこの目の前の方の病気を治すことはできないけれども、旅行に行きたいという願いだったら叶えられるんじゃないか?"と感じたそうです。その患者様の想いや願いを叶えることがしてみたいと、上級医や旅行会社、航空会社等あらゆる方面の多くの方に相談に行ったものの、結局どこに行っても答えがありませんでした。

結果的にその方は旅行に行きたいという最期の願いを叶えられずに病室の天井を見上げながら人生の最期を迎えられました。

その時、伊藤さんの中には「人生最期の願いを叶えられなかった」という悔しさが残り、実は患者様の中にはこういう願いを持っている方はいっぱいいるのではないかと仮説を立てました。その時を境に多くの患者様と出会い、会話していく中で、患者さんの想いや願いに寄り添った形で色々質問をしてみたところ「温泉に入りたい」「故郷に帰りたい」「墓参りがしたい」「孫の結婚式に行きたい」「新婚旅行で行った景色を最後にもう一度見たい」・・とそれぞれ色々な願いがあることが分かってきました。

病院ではできないことを考えられる医療をしたいなと思い、その想いをどう定義したらいいかと考えたときに、伊藤さんが思いついたのが「旅行」でした。病気を患った患者様は日々病気の痛みや不安を抱えていて病室や自宅で療養しています。患者様にとっては「日常」である病院や自宅から外に出ること、それがたとえば桜を見るとか、近所を散歩するということであっても、それが「非日常」と思えるのであれば、そうしたちょっとした外出も含めて「旅行」と定義し、その旅行を叶える医療をしてみよう、旅行を叶える医療ができる医師になりたいーと考え、伊藤さんは「旅する医師」=トラベルドクターとして活動を開始することにしたのです。

旅行支援をしたい。当時の周りの反応

「周りは最初、何言ってるんだろうみたいな。伊藤が変なことを言い出したぞみたいな感じで少しからかわれたり、笑われたこともありましたね」と笑って答える伊藤さん。その裏には笑えない苦労も多かったのだと思います。

そんな中、「自分もそういうのを聞いたことある」とか「旅行支援とかできたらいいよね」と応援・共感してくれた医師も多くいたようです。「ただ、これだけ共感してくれる人がいっぱいいても、医師主導の旅行支援は調べても前例はなかなか無かったんですよ」と伊藤さんは語ります。

伊藤さんは、「前例がないわけではなく少ないということは、医療のルールの問題ではなく、きっと必要としている方もいっぱいいるのに、医者としてできない理由があるのではないか?」と考えていました。「日々の診療で忙しいから」「お金がかかる」「家庭があったり、生活があるから」「医者としての責任範囲」など・・・伊藤さんと同じように終末期の患者さんの願いを目の当たりにしても、わかっていても出来ない「やらない理由」がたくさんあって、言うのは簡単だけどそれをいざ実行に移すことこそが「最大の壁」であり、大変と考えている医師が多いのではないかと感じたそうです。

当然ながら伊藤さん自身も、「現場で働く医師としてのキャリアを捨て、実家の病院を継がないかもしれない」「給料も減るだろうし、一歩間違えれば医師資格を失うかもしれない」といったリスクを多く抱えている医師の一人でした。

しかし伊藤さんは違いました。

「自分の中でせっかくやりたい形が見つかったのであればむしろやらないでいる方が無駄だ」と思い、とにかく一歩踏み出そうと踏み切りました。「それだけ価値があることだと思ったから思い切って始めた」と本人は語ります。

 

集まってくる仲間、そしてフリーランスCE中村との出会い

前回の記事でも少し触れましたが看護師の中にも「トラベルナース」として、患者さんの移動支援を行う方々はそれなりに多くいて、近年テレビやドラマ等でも取り上げられその認知が拡がってきています。

伊藤さんのように旅行医として活動している医師も、個人事業の形で旅行会社の添乗員のように実施している方もいれば、クリニックを開業されてそのクリニックの中で担当している方など、旅行に携わる医師の形には様々な形があるようです。

しかしながら33万人という国内医師全体の数から比較すると、旅行に携わる医師の数は伊藤さんが知っているだけでもほんのわずかとのことで・・・。

そんな中で起業し、旅行支援を始めた伊藤さんも、当初は旅行中のケアなどをすべて自分でやろうと介護資格の取得などをしていたそうです。でも、やればやるほど一人でできないことの多さを痛感し、看護師や理学療法士などいろいろな職業の方を巻き込んでいきました。

少しずつ仲間が増えていく中で、「自分にできないことで強みを持っている人がいるんだ」と感じることも増えると同時に「医師という立場だからこその強みと、医師にしかできないことがある」とも感じた伊藤さん。

その中で大きい役割だと感じたのは意外にも「"無関心な人の反対"を止められる」ことだったそう。実現できるはずなのに旅行をすることに対して「関心のない方が止めている」というケースが、案外多いそうです。特にその旅行について普段あまり関わりがないような医師などが止めたり、旅行者本人に一番近いご家族は叶えてあげたいけど、ちょっと疎遠な家族が「無理だ」とやめさせてしまったり・・・といったことも起きている。そこに対して、医師の立場から関わり、主治医と対等に関わっていけるというのは、看護師や理学療法士といった「コメディカル」といわれる医療従事者が同じようにはなかなかできないところだといいます。

「在宅医療や人生終末期の患者様にはたくさんの方が関わっていると思います。移動支援の中の最大の関門である主治医に医師という立場で関わること。主治医だけでなく家族の方や周りの方で不安を抱える方を説得できるのが自分の役目というところを感じています。医師が同行するというとやはり信頼してもらえる一つの要因になっていると思っていますね。」と語る伊藤さんの目は熱を帯びていました。

最後に

実は、この「仲間が増えていく」タイミングで、私(「臨床工学技士」の移動支援)の活動も知っていただき、ほんのわずかなお力添えしかできませんでしたが、実際に患者様の旅行の夢を共に叶えることができました。

私自身、今後「旅行医」として伊藤さんが国内旅行支援を先導する医師として中心的な存在となると考えていますが、伊藤さんもまた、臨床工学技士が安全な旅行においてチームの中の大事な地位になると考えていただいているそうで、「旅行支援における臨床工学技士の位置づけの話」も伺ってきたのですが、その内容だけで丸々1本書けてしまうくらいボリューミーなお話でしたので、これはまたまとめてインタビュー後編として出したいと思います。

CEなかむー自身は移動支援についてはまだまだ実績不足ですが、患者様の「行きたい(生きたい)」を叶えられる存在になりたいと考えています。大病院で働き、医療現場で最も必要とされている医師でありながら「やらない理由はたくさんあるけど、価値があるからこそそれでもやるんだ。」と語る伊藤さんの強い想いにすごく共感し、出会ってすぐにファンになってしまいました。

これからも、臨床工学技士として伊藤さんのチームに参戦する機会は増えると思いますが、共にこの「移動支援」について考える仲間として頑張っていきたいと思います!

TRAVEL DOCTOR(トラベルドクター)ホームページ

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この記事を読んで、「臨床工学技士おでかけサービス」や、中村さんに興味を持った方は、ぜひお問い合わせください!

【著者紹介】なかむー(中村 隆志・なかむら たかし)

熊本総合医療福祉学院(現:熊本総合医療リハビリテーション学院)出身
臨床工学技士のフリーランスCE-WORKS 代表
慢性期血液浄化療法からロボット手術まで幅広く臨床工学技士業務従事。
18年の臨床工学技士経験をもとに令和3年4月に国内でもあまり事例がない臨床に携わる
フリーランス臨床工学技士として業務に従事。
病院の「外」でも働ける臨床工学技士の仕事創りに取り組んでいます。
将来の夢は臨床工学技士人材だけで会社を創ること!

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