修士課程で論文8本書いた研究者がIT起業家に転身したわけ

2024.02.16

一般的には、修士課程2年間で論文を1本投稿できれば「成果を出した」と言われるものです。しかし、修士課程の2年間で8本も論文を書いた研究者でありながら、現在はIT起業家として研究開発そのものを変えようと活動している人物がいます。

それが株式会社Co-LABO MAKER代表取締役の古谷優貴氏。古谷氏はその成果について「自身の努力というよりも“環境”にある」と言い切ります。2年間で論文を8本書けた理由や、なぜIT起業家に転身したのかを聞きました。

 

研究のハイパフォーマンスは「環境」が大事

ーCo-LABO MAKER代表の古谷氏は東北大学の修士課程2年間で査読つき主著論文8本執筆(他に特許5本、国内外学会発表・共著論文多数)という成果を出したそうですね。どのようにしてその成果を出せたのでしょうか。

 

古谷:この成果は自分だけの努力では成し得なかったですね。所属していた研究室内に複数の専門家が居て、師事する先生もネットワークが強かったことなど「環境の要因が大きい」と感じています。

 

研究は好きでやっていたので特に無理をした記憶はありません。自然とGoogleスカラーやサイエンスダイレクトで論文を漁り、よく引用されている論文を見つけると原典にあたり、研究室で「こんなアイデアどうですか?」と提案し調査し、実験に必要な器具やサンプルを調達し実験を行い、結果を出すことを繰り返しました。

 

そのサイクルのなかで「研究室の誰がこの分野に詳しいか」「実験の手順やノウハウを持っているか」「どの研究室でこの実験ができるのか」といった必要な事柄をキャッチアップしやすい環境にいて、それを余すことなく享受できた結果だったと思っています。

 

一般的な修士課程の学生にはネットワークもノウハウもないものです。実験のためにどこかの研究室と共同研究の話をつけ、アポを取り実験を行い、評価のためのサンプルを作りフィードバックをもらうと数か月単位で時間がかかるものだと思います。私の場合、一晩で結晶サンプルを作り、翌日隣の部屋の装置を借りて評価を行い……と数日単位のサイクルで実験できたのが良かったのです。

 

その後、昭和電工(現レゾナック)を就職先に選び、半導体(SiC)単結晶ウエハを作るパワー半導体プロジェクトに5年間従事していました。結晶成長工程の立ち上げを試作工場で行ったり、品質・生産性向上の研究開発を共同研究先で行っていましたが、学生の頃よりは苦労したものの、社内の年間特許取得数でトップランカーに入るなど、それなりには活躍していました。

 

ー研究者としてのキャリアはある意味、順風満帆だったと思いますが。なぜIT起業家という道を選んだのでしょうか?

古谷:「日本の科学・学術研究のポテンシャルをもっと引き出したい」という想いがあったからですね。

 

実は大学で研究していたときも、企業に就職してからも、常に「研究設備はフル活用されておらず余っていてもったいない」と課題感を持っていました。1台につき何千万円~数億円の装置があっても、稼働が月に2~3回だけ、ということもザラにあります。

 

同時に「企業内の研究者には選択肢がない」という課題感もありました。アイデアを思いついて「実験をしたい!」と考えても、すぐに実験はできないものです。他部署から借りようとしても、製品の製造に使っていたりするのでおいそれと貸してもらえません。設備がなければ購入のための予算を承認してもらうべく、上に説明に行ったりもしますが、「今年の予算の使い道はもう決まっているから……」と断られて、本当は今必要な実験が翌年になったりすることもあります。様々な制約で縛られているのです。

 

「活かされていない研究設備」と「借りたい企業」をマッチングできれば、日本の研究開発における負をいくつも解決した上でより大きな成果が得られる。「日本の科学技術をもっと前に進められる、最高に解く価値のあるエキサイティングな課題ではないか!」と思ったのが、Co-LABO MAKERを創業したきっかけです。

 

Co-LABO MAKERは、使われていない大学の研究室や受託開発を行っている企業の研究設備を無料で掲載し、「新規事業開発・研究開発推進のために使いたい!」という企業をITでマッチングします。

 

研究自体は好きでしたし思い入れもありました。しかし「なぜ研究が好きか?」を自身に問うてみたら、「新しい価値がある発明を見出して実際に形にする」のが好きだったことに気が付きました。起業家として世の中にまだない「事業を作る」のも世界初の「研究成果を出す」ことも自分にとっては一緒なことですから、迷いながらも起業してみると非常にしっくりきました。

 

「コストセンター」だった研究設備が収益源に

ーCo-LABO MAKERで研究設備のマッチングを事業として行っていて改めて感じることはありますか?

古谷:前述の通り、研究設備を全体的に見てみるとフル活用されていないケースがほとんどです。研究を引き継ぐ方がいなければ、全く使われなくなり、使い方もわからなくなってしまった設備も多くあります。

 

また、そもそも研究開発の部門自体がお金のかかる「コストセンター」と通念的に認識されているのはもったいない話だと私は感じます。BtoCの領域では、民泊やカーシェア、スキルシェアなどシェアリングエコノミーの考え方が一般的になりつつあります。

研究設備も他社にシェアをして収益化できるもの。収益を生み出すプロフィットセンターになれるポテンシャルを秘めています。この事実は声を大にして言いたいですね。

 

ーその一方で、なかなか「理解をしてもらえない」ということはないのでしょうか?

古谷:ええ。創業から数年間はCo-LABO MAKERの事業について説明すると、大学の研究室や企業からは「研究設備のシェアなんて前例がない」や「研究設備をシェアをするためレギュレーションが定まっていないので……」と断られていたりしました。

 

そんなときはいつも「他社・企業との共同研究は行っていますか?」とお伺いしています。研究設備を持つ企業様には少なからずその経験はあるもの。「Co-LABO MAKERは新しい共同研究のカタチです」とお話して、既存の共同研究に関する規定を教えて頂き、それに則ったご提案をするとみなさんご納得していただけます。

 

研究設備を持つ企業は、Co-LABO MAKERに無料掲載するだけのノーコストで受託研究案件を得られ、研究を依頼する企業は、自分たちで研究設備を購入して立ち上げるよりも遥かに廉価で研究成果を得られます。これは双方の企業にとってプラスのサイクルと言えます。このサイクルが回れば、日本の科学技術がさらに進歩します。つまり、「依頼する企業」「受ける企業」、そして「日本の科学技術」にとって三方良しの事業なのです。

 

創業から6年経ちすでにCo-LABO MAKERでは400件以上のマッチング事例があります。研究設備のシェアリングによる論文執筆も、新規事業立上げ(子会社設立)事例もあり成果が出ています。

 

時代は1社だけで物事を解決するのではなく“共創”して成果を出すフェーズに移っています。ただ、共創といっても手探りで「何かをしなければ」と課題感を持っている企業が多いのではないでしょうか。

 

日本の科学技術に対する研究力は世界に誇れるものであり、日本の研究者はみなさん非常に優秀です。しかしながら、国家予算の削減などをはじめとした、“研究環境”という外的要因によって、ここ30年の日本の科学技術は世界に遅れをとってしまっているのが実情だと思います。

 

でも、日本の科学技術力はまだまだポテンシャルを秘めています。Co-LABO MAKERを通じて共創が生まれれば、日本の科学技術の未来はもっと明るいものになる。そう信じて私たちは日本の研究開発にこれからも価値を提供していきたいです。

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コラボメーカーは、機動的な研究開発を可能にする研究リソースシェアリングプラットフォームです。 利用者は、自社に設備や技術がなくても、早く安く外部の研究開発リソース(ラボ・設備・人材)を活用し、研究開発を前に進めることができます。 提供者は、既に保有している設備や人材・技術を活用して、資金獲得・連携先獲得・研究成果獲得の機会を得られます。