蚕(カイコ)ってすごい!~繭に包まれた健気なヒーロー~

2022.01.17

蚕(カイコ)という昆虫を知っていますか?小学生の理科の授業で蚕を育てたことがある方もいるかもしれません。

蚕が作り出す繭(まゆ)から生糸を生産する養蚕業は近代日本の発展に大きく貢献しました。残念ながらポリエステルやナイロンといった化学繊維の登場で養蚕業は衰退の一途をたどっていますが、21世紀に入り蚕は医療分野において注目を集めています。

本記事では医薬品創出の担い手として期待される蚕の生態や育て方を紹介します。

この記事はこんな人に向いています

  • 蚕の生態に興味がある人
  • 蚕を育ててみたい人
  • 蚕を使ったタンパク質生産技術に興味がある人

蚕ってどんな生き物?

蚕(カイコ)は蛾(ガ)の一種です。翅はありますが飛ぶことができません。

蚕は蛹(さなぎ)になる過程で繭を作りますが、この繭から糸ができることに注目した人が品種改良を重ねた結果、飛ぶことができなくなりました。また、長らく人によって飼いならされた結果、エサである桑の葉も人が与えないと生きていけない家畜昆虫となりました。

蚕が作る繭の色は白色以外にも桑の葉の色素の影響を受け黄色やオレンジなどさまざまです。1個の繭からは約1,500mもの長さの糸をとることができます。

この糸を数本より合わせたものを生糸(きいと)と呼びます。生糸は2つのタンパク質(フィブロインとセリシン)から主に構成されており、生糸からセリシンおよび汚れを取り除くことで着物の素材としてよく知られている絹(シルク)ができます。

 

繭の写真

蚕の一生

蚕(カイコ)の一生はとても短く、およそ2か月ほどです。その短い期間で、卵から幼虫、さなぎ、成虫へと変わっていきます。

卵は産卵後すぐにふ化する白っぽい”非休眠卵”と次の年の春になるまでふ化しない”休眠卵”の2種類あります。

ふ化した幼虫は桑の葉を食べてぐんぐん大きくなり、5回の脱皮を終える頃には体長が6cmほどになります。脱皮の前には「眠」と呼ばれる、頭を持ち上げて1~2日程度動かなくなる状態が観察できます。

眠状態の蚕

桑の葉を食べ切った蚕は次は頭を左右八の字に振り糸を吐き出し始めます。2~3日糸を吐き続け、繭を作るとその中でさなぎになります。そして最後に羽化した蚕蛾(カイコガ)が繭を突き破って外に出てきます。

繭を突き破る蚕

蚕蛾(カイコガ)は怪獣映画『モスラ』のモデルで、くしの形をした触覚が特徴です。

成虫の蚕                                                                                                                                                                                   

《豆知識①》 蚕の数え方は一頭、二頭
蚕は一匹、二匹ではなく、牛や馬のように一頭、二頭と数える習わしがあります。これは蚕が家畜昆虫として大切な存在として扱われてきた名残があるからです。
馬と牛

《豆知識②》 蚕豆と書いてソラマメと読む
ソラマメのさやが蚕のように見えるから、蚕を育てる時期とソラマメができる時期が同時期だから、など諸説あります。

蚕の育て方

蚕は初心者でも比較的簡単に育てることができます。
ここでは特に気を付けるポイントについて説明します。

その1 桑の葉はたっぷり用意する
一頭の蚕が食べる桑の葉はなんと約25g(20枚程度)!蚕がしっかり成長できるよう餌はたっぷり用意しましょう。また、蚕は非常に繊細な生き物のため桑の葉に農薬や殺虫剤がついている場合は死んでしまいますので気を付けましょう。

その2 室温は25℃以上、暑くても寒くてもだめです
蚕の卵は暖かくならないとふ化しません。また、乾燥していると桑の葉がパリパリになってしまうので、湿度にも気を付けましょう。

その3 最期まで責任を持って育てましょう
蚕は家畜昆虫のため、自身でエサをとったりすることはできません。蚕は人の手がないと生きることができない、ということを念頭に覚悟をもって飼育しましょう。

繭から糸を取りだす方法

繭から糸を取りだす場合(“糸引き”といいます)は繭を鍋で煮てほぐします。さなぎの状態の蚕を殺してしまうことになりますが、完全に羽化してしまうと繭を突き破って成虫が出てきてしまうため糸を取りだすことができません。
立派な繭を作ってくれた蚕に感謝しつつ生糸を回収しましょう。

糸引きに必要な道具は以下の通りです。

・鍋
・歯ブラシ(筆でも可)
・ペットボトル(表面に凹凸がないもの)
・黒い画用紙(ペットボトルに巻いた糸が見えやすいようにするため)
・繭(蚕が繭を作り始めてから10日ほどたったもの、繭を振った時にカタカタと音がする状態)
・竹串

糸巻き器はペットボトルに黒い画用紙を巻きます。この時ペットボトルと画用紙の間に竹串を数本、均等な感覚で入れると最後に糸がペットボトルから外しやすくなります。

鍋に繭と水を入れ沸かします。沸騰したら火を止めて水を継ぎ足し60~70℃くらいのお湯になるように調整します。
次にお湯の中で繭表面を歯ブラシでこすります。最初にとれる糸は繭の外側にある”キビソ”という蚕が最初に吐き出す固い糸になるので取り除きましょう。

しばらく糸を引っ張ると、1本の糸が出てくるのでそれをペットボトルに巻きつけます。繭は1個だけでも構いませんが、5~10個合わせて茹で、糸をより合わせるとより太い糸を取りだすことができます。

糸車

 

蚕が人を救う!

非常に安価なポリエステルやナイロンといった化学繊維の爆発的普及により養蚕業を営む養蚕農家の数は非常に減少し、蚕(カイコ)は私たちの身近な生き物ではなくなったかと思われましたが、近年医療分野で脚光を浴びています。

その一番の要因は遺伝子組換え技術により蚕に特定のタンパク質を作らせることができるようになったことです。下記に挙げた特長から蚕を使ってこれまでなかった医薬品を作る研究・開発が進んでいます。

遺伝子組換え

 

【蚕がほかの生物よりタンパク質生産で優れている点】
①飼育が容易…飛べないので逃げる心配がなく、エサも桑の葉のみ
②スケールアップが容易…タンパク量を増やしたい場合は蚕の数を増やすだけ
③哺乳類のタンパク質に近いものが得られる…哺乳類と同じようなタンパク質の翻訳後修飾(※)が起こる

また医療分野以外にも、食料分野においてスーパーフード(昆虫食)としても蚕は注目されています。もともと養蚕業が盛んな地域では蚕を食べる習慣がありましたが、見た目や味に工夫を凝らした昆虫食の開発が現在盛んに行われています。

(※)翻訳後修飾とは…
DNAから転写・翻訳を経て合成されるタンパク質の特定の部位に分子(リン酸・アセチル基など)がついたり、構造が変わったりすることで機能を発揮できる状態になること。タンパク質合成系でよく使われる大腸菌や酵母は安価で大量発現が可能な一方、翻訳後修飾が起こらない、起こっても修飾が哺乳類と異なるといった問題点があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

蚕(カイコ)がいかにすごい生き物かお分かりいただけたでしょうか。

蚕を利用したタンパク質の大量生産技術で医薬品開発を目指す九州大学発のベンチャー企業・KAICO株式会社についての記事や食用コオロギパウダーを使って将来の食糧問題の解決に挑戦する高崎経済大学発ベンチャー企業・FUTURENAUT株式会社についての記事もありますので、ぜひご覧ください!

 

【参考文献】横山 岳 (2014) 『大研究カイコ図鑑 (大研究図鑑シリーズ)』国土社

 

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