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皆さんこんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。「ガクチカ」という言葉をご存知でしょうか?これは「学生時代に力を入れたこと」を略した言葉です。就職活動において、面接でよく問われる代表的な質問の一つです。大学生である以上、「学業・研究に力を入れた」というのは当然の大前提です。
しかし、面接官が尋ねているのは、多くの場合「それ以外に力を入れたこと」だと感じています。みなさんは、胸を張って語れるエピソードをお持ちでしょうか?もちろん、就活でガクチカを語るために何かに取り組むという姿勢は本末転倒です。
学生時代だからこそ、社会とのつながりを見つけ、学外活動に取り組むことには大きな意義があります。この記事では、単なる就活対策としてではなく、皆さんの成長につながる学生時代の社会貢献活動について考えていきたいと思います。
大学生が考える「ガクチカ」というと、多くの場合、サークル活動やアルバイト、学内の学生団体での活動などが思い浮かぶでしょう。また、社会貢献活動と聞くと、被災地での復興支援や地域の清掃ボランティアなどを想像する方が多いかもしれません。しかし、学生時代の「社会貢献」は、それだけではありません。皆さんが持っている得意分野やスキルを社会に還元することも、れっきとした社会貢献活動となります。
私の子供が小学生だった頃、息子は地元の野球チームに所属していました。週末の練習には、監督に加えて地元の大学生がコーチとして参加してくれていました。彼ら彼女らは小学生たちにとって親しみやすいお兄さん、お姉さん的な存在で、とても良い雰囲気で指導してくれていました。実はその大学生たちの多くは教員を目指していた学生で、小学生との関わりを通じて実践的な経験を積んでいたのです。これは子供たちと大学生の双方にとって、大変有意義な機会となっていました。
このように、必ずしも従来型のボランティア活動だけが社会貢献ではありません。音楽が得意な方であれば、地域の幼稚園や福祉施設での出張コンサートを開催するのも素晴らしい社会貢献活動となるでしょう。料理が得意な方であれば、地域の食材を使った簡単レシピの動画を制作し、一人暮らしの学生や高齢者向けに動画発信するのも新しい形の社会貢献といえます。
「そんな際立ったスキルは自分にはない」「一人でそんな活動はできない」「大学生だし勉強や研究をおろそかにしたくない」と考える方もいるでしょう。そんな方には、既存の学術研究団体に参加することをお勧めします。これらの団体は、皆さんの研究活動と社会貢献を自然な形で結びつけてくれます。
私が実際に関わっている団体に「海外日本人研究者ネットワークUJA」と「生化学若い研究者の会」があります。どちらも、皆さんの研究活動をより充実したものにしながら、社会貢献の機会も得られる素晴らしい団体です。この二つの団体について具体的に紹介して参りたいと思います。
グローバルな視点で日本人研究者をつなぐプラットフォームとして活動している「海外日本人研究者ネットワーク(UJA:United Japanese Researchers Around the World)」は、2012年に設立された団体です。現在では、北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアにまで広がる大規模なネットワークを構築し、世界中で活躍する日本人研究者をつないでいます。
学生の皆さんにとって特に魅力的なのが、留学支援やキャリア支援プログラムです。「留学のすゝめ」プログラムでは、海外留学を目指す方々に実践的なアドバイスを提供しています。日本分子生物学会などでの年次フォーラムは、すでに10年以上の歴史を持ち、このプログラムをきっかけに実際に留学を実現した研究者も数多く存在します。また、高校生向けにオンラインで実施される「留学"デザイン"Program」は、場所を問わず参加できる新しい形の留学支援として注目を集めています。若手研究者の育成もUJAの重要な活動の一つです。
特筆すべきは、ノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生も審査委員長を務めたことのあるUJA論文賞です。50名を超える専門家による厳正な審査を経て選ばれる受賞者は、国際的な研究コミュニティでの認知度を高める機会を得ることができます。
近年では、研究成果の社会実装に向けた取り組みも注目されています。UJAのTranslational Research Seminarでは、研究者の革新的なアイデアを実際のビジネスへと発展させるサポートを提供しています。経験豊富なメンターによる指導や、投資家とのネットワーキング機会の提供など、アカデミアと産業界の橋渡しという重要な役割を担っています。
アカデミアだけでなく、ビジネス界で活躍する研究者の体験談も共有され、研究者としての多様なキャリアパスを知ることができます。UJA noteやYouTubeのUJA channelでは現在までに多くのキャリアパスが紹介され、多くの閲覧数を記録するなど、大きな反響を呼んでいます。
UJAは「信頼の見える化によって、研究者のウェルビーイングを育み、すべての日本人研究者が安心して、国際的に活躍するサイエンスの未来を創る」というビジョンを掲げています。学生の皆さんには、各種イベントへの参加はもちろんのこと、UJAの運営にも積極的に携わることで、学生時代から世界で活躍する研究者とつながり、グローバルな視点で自身のキャリアを考えることができます。研究のグローバル化がますます進む中、UJAでの経験は、皆さんの将来の研究活動にとって大きな財産となることでしょう。
1958年に設立された生化学若い研究者の会(通称:生化若手)は、日本の生命科学分野において最も歴史のある若手研究者団体の一つです。日本生化学会の後援のもと、生化学、分子生物学、バイオテクノロジーなど、生命科学に関わる幅広い分野の若手研究者たちが集い、切磋琢磨する場を提供し続けています。
本会の代表的な活動が、1960年から続く「生命科学夏の学校」(通称:生化夏学)です。3日間の滞在型研究会として、毎年100人以上の若手研究者が参加する一大イベントとなっています。多様な講師陣による最新の研究紹介や、若手研究者に必須のスキルを学ぶワークショップなど、充実したプログラムが特徴です。夜には懇親会が開かれ、研究発表や「自由集会」と呼ばれる特定トピックについての討論会が行われます。ここでは研究の話題だけでなく、進路や趣味など、多様な話題で盛り上がり、参加者同士の絆を深める貴重な機会となっています。
若手研究者の声を社会に発信する活動としてキュベット委員会があります。現在は『実験医学』(羊土社)のオピニオンコーナーなどを通じて、若手研究者の視点から見た研究現場の課題や提言を発信しています。また全国8支部(北海道・東北・北陸・関東・東海・近畿・中四国・九州)では、地域の特色を活かした独自のセミナーや交流会を企画・運営しています。
生化若手の特徴は、単なる研究発表の場を超えて、若手研究者の総合的な成長を支援する点にあります。最新の研究手法の習得、キャリア開発、ネットワーク形成など、研究者として必要な様々なスキルと機会を提供しています。また、大学院生を中心としながらも、学部生から企業研究者まで幅広い参加者を受け入れることで、多様な視点と経験の共有を可能にしています。
学生のみなさんが生化若手の活動や運営に参加することで、研究者としての視野を広げ、将来のキャリアを考える貴重な機会になることは間違いありません。
さて、それでは実際にこういった活動に携わっている学生の皆さんは、どのような想いで取り組んでいるのでしょうか。実際に声を聞いてみました(所属はお話を伺った当時)。
■生化若手で見つけた絆 ― 石本太我さんの場合
熊本大学大学院医学教育部博士課程の石本太我さんは、生化学若い研究者の会の九州支部長を務めています。学部4年次に第60回生命科学夏の学校(夏学)に参加したことがきっかけで、そのまま夏学の実行委員と北海道支部に入ったそうです。数年後に夏学の実行委員長を務め、2024年度に熊本大学で大学院進学をしたことをきっかけに九州支部長になりました。
「夏学運営からは、適度にこなすことの大切さを学びました」と語る石本さん。「生化若手の活動をあくまで副業と捉え、本業を疎かにしない仕事の割り振りや、繁忙期にカバーできる体制を整備すること」を心がけたそうです。その結果、余裕をもってスタッフが活動できるようになったと言います。
生化若手の活動の魅力について、「なんといっても知り合いが増えること」だと石本さんは強調します。「研究室配属後は交友関係が狭くなり、人に会う機会が減ってしまいます。ちょっとしたイベントの参加だけでも充分な交流が得られることが生化若手の魅力の一つです」と教えてくれました。
最後に石本さんに「生化若手の可能性」について聞くと、「生化若手は、生命科学分野の若手の会では最大規模の団体です。親学会として日本生化学会を持ち、65年の長い歴史があります。学術的な意見交換だけでなく、申請書やその後のキャリアについても日々情報の交換が行われ、非常に質の高い団体です。夏学や支部で、今後もこの活動が続き、さらに発展していくことを期待しています」と熱く語ってくれました。
■UJAとともに歩む ― 鶴嶋真紅さんの場合
福岡工業大学大学院工学研究科修士課程2年の鶴嶋真紅さんは、UJAのプロジェクトマネージャーを務めています。高校時代から海外留学に興味があり、海外の研究者との接点を持ちたいという想いから大学生の頃からUJAのメンバーに加入したそうです。UJAの活動を通して得たもので最も大きいのは、人と人とのネットワークだと語ります
「普通に大学生活を送っているだけでは出会えなかった人々とのつながりが、自身のキャリアや考え方に大きな影響を与えました。特に、地方の学生は他大学の学生や研究者と直接交流する機会が限られており、学会での発表やイベントなどで関わる程度のことが多いと思います。しかし、UJAではさまざまなバックグラウンドを持つ人々と気軽に交流できる場があり、研究者の先生方や企業の方とも親しく話せる機会が多くありました。親睦会やイベントを通じて、ボーダーレスに交流できる環境が整っていることが、UJAの大きな魅力の一つです」と鶴嶋さんは感じています。
2025年春からは社会人になりますが、就職後もUJAの活動には携わり続け、学生に近い視点からも、UJAが国内外の研究者のキャリアを支えるハブとなれるよう、研究者同士のネットワークづくりに貢献していくと語ってくれました。
■研究と社会をつなぐ ― 西村齊明さんの場合
西村齊明さんは、九州大学理学部生物学科2年生です。「地雷による被害を0に」という大きな目標を持ち、地雷を探知するバイオセンサーの研究開発に携わっています。経済産業省とJETRO共催のJ-StarX 学生社会起業家創出コース「ゼロイチ」を通して幅広く活躍する中で、九州地区の生化若手との接点が生まれ、活動に参加するようになったそうです。
生化学若手会の九州中四国支部合同セミナー(熊本大学)の企画運営(2024年3月)や生成AI活用セミナー(九州大学)の運営サポート(2024年7月)などに関わっています。さらに、生化学若手スラック内で定期開催される輪読会や勉強会にも積極的に参加するなど、多方面で活躍している様子を伺うことができました。
■UJAで広がる可能性 ― 中野香菜さんの場合
福岡工業大学情報工学部2年の中野香菜さんは、もともと福岡工業大学の国際連携室が運営するグローバル人材育成プログラム「グローバルチャレンジプログラム」のメンバーでした。その活動の中でUJAを知り、鶴嶋さんとともにUJAアシスタントプロジェクトマネージャーを務めています。
「留学のすゝめ」をはじめとするUJAの各種イベントでは、ポスター作成や情報発信を担当し、時には演者としてUJAの紹介も行っているそうです。UJAの活動を通して様々なキャリアを積んできた人々と出会い、その経験を学んだことで、視野が大きく広がり、卒業後の進路についても新たな可能性を感じるようになったそうです。自身も学生であることから、今後は特に学生に向けた情報発信などに積極的に携わり、海外に挑戦したいと考えている学生が1歩踏み出せるようなサポートに貢献したいと語ってくれました。
UJAや生化若手で活躍する学生さん
この記事では、学生時代の社会貢献活動について、個人でできることから組織的な活動まで、様々な可能性をご紹介してきました。社会貢献活動は決して特別なものではありません。皆さんの「得意なこと」や「興味があること」が、誰かの役に立つかもしれないのです。また、既存の団体に参加することで、皆さんの研究活動自体が社会貢献につながっていく、そんな可能性が秘められています。
もちろん、学業や研究が最優先であることは言うまでもありません。しかし、だからこそ、その本業と相乗効果を生む活動に挑戦する価値があります。UJAや生化若手のような学術研究団体での活動は、学生としての成長と社会貢献を同時に実現できる絶好の機会となります。
最後に強調したいのは、これらの活動は決して就職活動のためだけのものではないということです。社会とつながり、様々な人々と出会い、新しい視点を得る。そんな経験の一つ一つが、皆さんの人生をより豊かなものにしてくれます。ぜひ、「自分にもできそうだな」と感じた活動から、一歩を踏み出してみてください。その一歩が、思いもよらない発見や成長につながっていくかもしれません。皆さんの挑戦を、心から応援しています。
実は今回、生化若手の九州支部、UJA、そしてco-Lab BRAINSが贈るスペシャルコラボ企画「留学のすゝめ」をオンラインで開催します!
【日時】2025年4月27日(日)17:00~19:00(日本時間)
【形式】Zoom(完全オンライン)
【参加費】無料
本企画では、研究者キャリアの異なる3つの視点から留学体験を語っていただきます:
・大学在学中の短期留学経験
・博士研究員(ポスドク)として海外研究室での研究活動
・海外で独立研究室を立ち上げた日本人研究者の挑戦
講演後には少人数のブレイクアウトルームで講師陣に直接質問できる貴重な機会も!留学に関する具体的な疑問や不安を解消するチャンスです。
これから留学を考えている大学生・大学院生・若手研究者の方はもちろん、将来の進路を探している高校生の皆さんも大歓迎です。研究者の卵としてのグローバルな一歩を踏み出すきっかけになるかもしれません。
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