疲労とどうつきあうか?体と脳の仕組みから考えた疲労回復の方法とは?

2026.02.26

 

はじめに

疲労で悩む人は多い。しかし、これはいったいどのようなものなのだろうか。
前回の記事では、疲労の見分け方と評価方法について詳しく調べた。

その疲れは病的か?疲労の種類のその評価法


今回の記事では、疲労のメカニズムについて深堀りしたい。身体と脳で何が起こっているのか、これを明らかにする。さらには、どんな方法が疲れを取るのに理にかなっているかも考えてみたい。

 

疲労が起こるとき、体の中では何が起こっているのか

疲労というと「エネルギー切れ」を想像する。あるいは「筋肉の消耗」だと思う人もいるだろう。

だが疲労には、もう一つ大事な側面がある。それが免疫の働きだ。

たとえば風邪をひいたとき、熱が出て体が重くなる。何もやる気が起きない。

あれは単なる気分の問題ではない。身体が「いまは戦う局面だから、動きを止めて回復に回せ」と命令している状態なのである。

 

体内で炎症が起こると、行動は”省エネモード”へ切り替わる。

・眠気が出る

・動きたくなくなる

・集中が続かない

こうした反応は不便に見える。だが、身体を守るには理にかなっている。

疲れたときに無理が効かないのは、意志が弱いからではない。

体がそういう設計になっているからなのである(1,2)。

 

精神的ストレスが続くと、なぜ疲れが抜けにくくなるのか

問題は、体の傷や感染だけではない。

「精神的なストレス」でも、同じ省エネモードが入りやすくなる点だ。

 

ストレスを感じると、体は"非常ベル"を鳴らす。ホルモンのリレーを通じてストレスホルモンを分泌する。

いわゆるHPA軸である。

参考記事:Lab Brains | レジリエンスの脳科学:レジリエンスとは?そのメカニズムと鍛え方

この反応は本来、短時間で切り上げて回復に向かうように作られている。

だがストレスが長引くと、調整がうまく働きにくくなることがある。

 

すると体は「ずっと緊張している」状態になる。免疫の働きも落ち着きにくくなる(3)。

・寝ても回復した感じが薄い

・だるさが抜けず、気分も重い

・集中力や意欲が戻りにくい

疲労がしつこいとき、根性が足りないわけではない。

体が回復に切り替わりにくくなっているだけかもしれない。

 

疲労が起こるとき、脳の中はどう変わるのか

疲れてくると、まず起こるのは「頑張りにくさ」だ。

集中が続かない。

判断が遅い。

やる気が湧かない。

このとき脳の中で起きているのは、能力が壊れるというより、「続ける意味が薄くなる」方向への切り替えである(4)。

脳は行動を決めるとき、だいたい次の2つを見積もっている。

・見返り(得)

・コスト(しんどさ)

 

疲労が強まると、同じ作業でもコストが大きく見積もられる。

見返りが小さく感じられる。

結果として「やめたい」「先延ばししたい」が増える。

 

疲労は"できる/できない"というより、"やる気が起きるかどうか"の側面が大きいのである(4)。

ここで鍵になるのが報酬系だ。

報酬系は、達成の快感だけでなく、「もう少し頑張れば良さそうだ」という見通しを作る。行動を前に進める。

中心にいるのはドーパミンで、脳の深い部分の回路に広く影響する(1)。

【Arias-Carrión, 2010, figure 1 を参考に筆者作成】

疲労が強いと、この燃料が出にくくなる。

・報酬があるはずなのに、体が動かない

・取りかかれない

・好きだったことが面白く感じにくい

さらに炎症が強いと、報酬系が影響を受ける。意欲や活動性が落ちやすいことも指摘されている(1)。

つまり疲労とは、「続ける価値」と「続けるコスト」の計算が更新され、回復を優先する方向へ行動が切り替わる現象なのである(4)。

 

疲労のマスキング:感じ方と原因は別に動く

疲労の話がややこしいのは、「疲れの原因」と「疲れの感じ方」が同じではないからだ。

・原因:生体の中に残っている"修復待ち"の負荷(炎症・代謝・自律神経のゆらぎなど)

・感じ方:眠気、だるさ、やる気低下として自覚される感覚

 

コーヒーを飲むと眠気が引っ込む。

「まだいける」と感じやすくなる。

エナジードリンクで元気が出た気がすることもある。

 

だがここで変わっているのは主に「感じ方」のほうである。

原因が同時に減ったとは限らない。

 

ある種の物質は疲れのサインを一時的に見えにくくすることがある。

これが疲労のマスキングである。

 

真の回復とは、感じ方を押し下げることではない。

体の負担が実際に減ることである。

 

疲労回復の三本柱 : 睡眠・軽い運動・栄養

寝る・休む ( 疲労回復の最優先 )

睡眠と休息は回復の土台である。

睡眠を少し延長するだけで疲労が下がることがある、という報告もある(5)。

 

軽く運動する ( 回復を " 進める " 刺激 )

ここで言う運動は追い込むことではない。

軽い運動(アクティブリカバリー)が回復にプラスに働く可能性が示されている(6)。

散歩や軽いストレッチは、体と脳を回復モードへ切り替える合図になる。

 

必要な栄養を取る ( 回復は「材料の仕事」 )

疲労回復は、気分を持ち上げる作業ではない。身体が「修復して、整えて、戻す」という生理学的な仕事を進めるプロセスである。つまり回復には、きちんとした材料が必要になる。

まず前提として大切なのは、基本的なバランスの取れた食事である。

主食・主菜・副菜をそろえ、エネルギー代謝や修復に必要な栄養が安定して入る状態を作ることが、回復の土台になる(1)。

そのうえで、疲労との関係が比較的よく整理されている栄養素として、次のようなものが挙げられる。

 

ビタミン B1

糖質をエネルギーに変換する過程で不可欠な補酵素である。

不足するとエネルギー産生が滞り、疲労感が強まりやすい。

豚肉、玄米、大豆などに多く含まれる(1)。

 

ガンマオリザノール

ガンマオリザノール玄米に含まれる成分で、抗酸化や自律神経系への影響を通じて、

疲労やストレス反応と関係する可能性が指摘されている(1)。

 

アンセリン

アンセリン鶏むね肉やマグロなどに含まれるイミダゾールジペプチドの一種である。国内研究を中心に、疲労低減との関連が報告されている成分である(1)。

 

これらは「これさえ摂れば疲れが取れる」という特効薬ではない。あくまで、回復が進むための条件を整える補助材として位置づけるのが適切だ。

 

カフェインなどで疲労をマスキングするよりも、身体が回復の仕事を進められるだけの材料をきちんと入れること。それが、遠回りに見えて、もっとも理にかなった疲労対策だと言える。

おわりに

ではここまでの内容をまとめてみよう。

・疲労は「壊れたサイン」ではなく、体と脳が「いったん止まれ」と出してくるブレーキである。

・カフェインなどでラクに感じても、それは疲労が消えたのではなく、隠れているだけの場合もある(マスキング)。

・疲労を本当に回復させるには、休養と運動と栄養が王道である。

 

疲労が厄介だと思う人もいるかも知れないが、私自身は疲労ほど親切なものもないと思っている。なぜなら身体が壊れてしまう前に「止まれ止まれ」と教えてくれるからだ。

 

もしひどい疲れが抜けないのであれば、「本当にこれはわたしが望んでいる生き方なのか」と立ち止まってほしい。

 

進むよりも止まることが大事な場面は多い。

疲れに耳を傾けて、一度歩みを止めてみるのもいいのではないだろうか。

 

 

【参考文献】

(1)Felger, J. C., & Treadway, M. T. (2017). Inflammation effects on motivation and motor activity: Role of dopamine. Neuropsychopharmacology, 42(1), 216241.

(2) Dantzer, R. (2018). Neuroimmune interactions: From sickness behavior to fatigue. Nature Reviews Neuroscience,19(8), 543–556.

(3)McEwen, B. S. (2007). Physiology and neurobiology of stress and adaptation: Central role of the brain. Physiological Reviews, 87(3), 873–904.

(4) Kurzban, R., Duckworth, A., Kable, J. W., & Myers, J. (2013). An opportunity cost model of subjective effort and task performance. Behavioral and Brain Sciences, 36(6), 661–679.

(5)Mantua, J., Simonelli, G., & Spencer, R. M. C. (2019). Sleep extension reduces fatigue in healthy, normally-sleeping young adults. Sleep Science, 12(1), 21–27.

(6)Ortiz Jr., R. O., Sinclair Elder, A. J., Elder, C. L., & Dawes, J. J. (2019). A systematic review on the effectiveness of active recovery interventions on athletic performance. Journal of Strength and Conditioning Research, 33(8), 2275–2287.

(7)Woolf, K., & Manore, M. M. (2006). B-vitamins and exercise performance. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 16(5), 453484.

(8)近藤一博(2023)『疲労とはなにか――すべてはウイルスが知っていた』講談社(ブルーバックス)

 

著者紹介:佐藤 洋平(さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
脳科学・医学的知見を企業のマーケティングコミュニケーションに活用する専門家。理学療法士として15年の臨床経験を持ち、筑波大学大学院にてコミュニケーションに関わる脳活動の研究で博士号を取得。 2012年より、企業の製品・サービスの価値を科学的エビデンスに基づいて説明するコンサルティング業務を展開。「なぜそれが効果的なのか」「どこに価値があるのか」を神経科学・医学生理学・心理学の研究知見から解明し、 ステークホルダー向け資料やマーケティング素材として翻訳・構成・監修することを専門とする。多くの大手企業への学術支援実績を持ち、研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboではパートナー研究者として活動。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」運営者。

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