2024年ノーベル生理学医学賞について分かりやすく解説!『マイクロRNAの発見および転写後の遺伝子発現の調節における役割の解明』

2024.10.08

2024年ノーベル生理学医学賞サムネイル

(Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén) (画像引用元)

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2024年ノーベル生理学医学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2023年10月2日、カロリンスカ研究所ノーベル賞会議は、本日、2024年のノーベル生理学医学賞を以下の者に授与する事を決定しました。

 

共同で、ヴィクター・アンブロス (Victor Ambros)とゲイリー・ラヴカン (Gary Ruvkun) 。

「マイクロRNAの発見および転写後の遺伝子発現の調整における役割の解明」に対して。

 

今年のノーベル賞は、遺伝子活動の調節方法を支配する基本原理を発見した、2人の科学者に贈られる。

私たちの染色体に保存されている情報は、体内の全ての細胞の取扱説明書にたとえることができる。どの細胞にも同じ染色体があり、全く同じ遺伝子セットがあり、全く同じ指示書が含まれている。しかし、筋肉細胞や神経細胞など、異なるタイプの細胞は、非常に異なる特徴を持っている。これらの違いはどのようにして生じるのか?その答えは、各細胞が、関連する命令だけを選択できる遺伝子発現の調節にある。これにより、様々なタイプの細胞に対する正しい遺伝子セットのみが活性化される。

ヴィクター・アンブロスとゲイリー・ラヴカンは、様々なタイプの細胞がどのように発達するのかに関心があった。彼らは、遺伝子調節に重要な役割を果たす、新しい種類の小さなRNA分子である「miRNA (マイクロRNA)」を発見した。彼らの画期的な発見は、遺伝子調節の全く新しい原理を明らかにし、それがヒトを含む、多細胞生物にとって不可欠であることを明らかにした。現在、ヒトゲノムには1000以上のmiRNAをコードしていることが分かっている。彼らの驚くべき発見は、遺伝子調節の全く新しい側面を明らかにした。miRNAは、生物の発達と機能において、根本的に重要であることが証明されている。

 


Victor Ambros

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Victor R. Ambros (ヴィクター・R・アンブロス)
アメリカ合衆国、ニューハンプシャー州、ハノーバー出身
1953年12月1日生まれ (70歳)
マサチューセッツ大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/2

 

Gary Ruvkun

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Gary Bruce Ruvkun (ゲイリー・ブルース・ラヴカン)
アメリカ合衆国、カリフォルニア州、バークレー出身
1952年生まれ (71-72歳)
マサチューセッツ総合病院 (アメリカ合衆国) およびハーバード大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/2

 


 

細胞は遺伝情報をどのように読んでいる?

2024年ノーベル生理学医学賞図1

遺伝子の情報から転写や翻訳を行うと、細胞は必要なタンパク質を合成し、様々な生理活動を行うことができると。ところが、約2万個の遺伝子の中から必要なものを選ぶ方法には、未知の部分がたくさんあったよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

 

生物が生物として正常に活動をするには、細胞の働きが正常に行われないといけないよ。細胞の活動が好き勝手ではバランスを崩してしまうので、必要な時に必要なだけ細胞が活動している必要があるんだよね。この機能の解明は、生物がいかにして生きているのかを知るための極めて根源的な疑問に関わっているよ。

 

さて、細胞の活動を調整するのは、細胞が持つ遺伝情報がカギになってくるよ。染色体に刻まれた遺伝情報は、細胞における取扱説明書であり、この時にはこうせよという命令が無数にコードされているんだよね。細胞は遺伝情報を読み、細胞の活動を調整するよ。

 

ではどのようなプロセスが働いているのか?細胞の遺伝情報は「DNA」に刻まれているけど、これは保存に特化した、非常に分厚い辞書みたいなものなので、使い勝手が悪いよ。そこで細胞は、一時的に遺伝情報を書き留める使い捨てのメモである「mRNA (メッセンジャーRNA)」を合成し、必要な遺伝情報をメモする「転写てんしゃ」を行うよ。

 

mRNAに転写された遺伝情報は、必要な細胞内で読み取る「翻訳ほんやく」にかけられるよ。翻訳ではmRNAの遺伝情報を元に、使用される工具である「タンパク質」を合成し、身体構造の維持、物質の輸送や貯蔵、化学反応の制御、免疫など、書ききれないほど多くのことを行うよ。この転写と翻訳、及び調節の流れを「遺伝子の発現はつげん」と呼ぶよ。

 

mRNAについては、ちょうど2023年のノーベル生理学医学賞が「COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾に関する発見」という、mRNAに強く関連したテーマなので、よろしければ合わせてこちらも読んでみてね!

 

2023年ノーベル生理学医学賞について分かりやすく解説!『COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾に関する発見』

 

しかし、細胞が遺伝情報を読み取るという、根本的な部分には謎があったよ。細胞が持つ遺伝情報は、どのような種類の細胞であっても全く同じだよ。しかし、特定の細胞が必要とする遺伝情報はその中の一部なんだよね。私たちが電子機器の分厚い説明書を必要な部分だけ読むようなことを、細胞も行っているはずなんだよね。

 

身体を構成する細胞が1個しかない単細胞生物ならともかく、多くの細胞で構成されている多細胞生物ではこの謎は困った事態になるよ。筋肉・神経・内臓・皮膚など、それぞれの細胞が必要とする遺伝情報は異なっており、中には間違った細胞で使われてしまうと、細胞自体が壊れてしまい、病気となるような情報も含まれているからね。

 

つまり、細胞が適切な遺伝子発現をする、つまり遺伝情報を読み取るには、それを制御するための何らかの機構が必要となると考えられるよ。この種の研究は何十年も行われており、その先駆けとなったのはフランソワ・ジャコブ氏とジャック・モノー氏による1961年のラクトースオペロンに関する研究だよ。

 

ジャコブ氏とモノー氏は、DNAに結合する「転写因子」と呼ばれるタンパク質が制御を担い、必要なmRNAを合成するのを制御することを1961年に示したんだよね。これは遺伝子の発現に関する極めて基礎的かつ重要な発見であり、1965年にノーベル生理学医学賞が贈られたよ。

 

1961年の重要な発見の後、転写因子は何千個も見つかったことから、遺伝子の発現を制御する主なメカニズムは解明された、と多くの科学者は思っていたんだよね。しかし実際には、これ以外にも重要なメカニズムが細胞内にあることは、そのメモ書きの小ささから見落とされてきたんだよね。

 

遺伝子が変異した線虫の不思議な性質

2024年ノーベル生理学医学賞図2

体長約1mmの線虫「C. エレガンス」は、多細胞生物のモデル生物として有名だよ。この線虫の研究中に見つかったlin-4遺伝子およびlin-14遺伝子の変異とお互いの関係性が、miRNAを発見するための重要なヒントを与えたよ。 (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ところで、生物に関する研究を行う際には、多数の研究で比較検討がしやすいように、取り扱いがしやすい「モデル生物」を対象に研究を行うよ。代表例の1つが線虫の「カエノラブディティス・エレガンス (Caenorhabditis elegans)」で、しばしばC. エレガンスと呼ばれるよ。

 

C. エレガンスは体長約1mmの透明な体を持ち、細胞数が約1000個と少なく、繁殖も容易なことから、多細胞生物のモデル生物として多用されているんだよね。世代交代が速いため、特定の遺伝子の働きを調べたい時に、その遺伝子が変異したタイプを簡単に作り出せることも多用される理由の1つだよ。

 

モデル生物としてC. エレガンスを見出し、2002年に制御された細胞死 (アポトーシス) に関する研究でノーベル生理学医学賞を受賞することになるシドニー・ブレナー氏は、1974年に「lin-4」と呼ばれる遺伝子が変異したC. エレガンスを見つけ、それに注目したよ。

 

4回の脱皮を経て幼虫から成虫へと成長するC. エレガンスだけど、lin-4遺伝子が変異した個体は成長速度の遅れで身体の構造が異常になり、卵が身体の中に蓄積する顕著な異常が現れるんだよね。これは、幼虫の期間でのみ発生する、特定の細胞の発達が異常に繰り返されることによって起きるよ。

 

C. エレガンスの成長に異常が出る「異時性変異体」の原因となる遺伝子変異は他にもあるんだけど、lin-4遺伝子の変異による異常はかなり広範囲に渡っていることが、続く研究で示されたよ。これは、lin-4遺伝子による遺伝子発現の調節は、全ての調節の中でかなり上位にあることを示唆しているんだよね。

 

lin-4のような、細胞の発達に異常を示すような遺伝子変異はその後も次々と見つかったよ。特に「lin-14」と呼ばれる別の遺伝子変異体の発見は、今回のノーベル生理学医学賞に深く関わっているよ、発見者の1人には、ブレナー氏と共に2002年のノーベル医学生理学賞を受賞したハワード・ロバート・ホロビッツ氏がいるよ。

 

小さな小さな「miRNA (マイクロRNA)」が大きなカギ

2024年ノーベル生理学医学賞図3

今回ノーベル生理学医学賞を受賞したヴィクター・アンブロス氏とゲイリー・ラヴカン氏はある日、線虫の変異体に関する情報をお互いに交換したよ。2人はすぐに、お互いの研究している遺伝子領域に繋がりがあることに気づいたよ! (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

さて、そんなホロビッツ氏の研究室に、今回ノーベル生理学医学賞を受賞した1人であるヴィクター・R・アンブロス氏が入ったよ。1984年にアンブロス氏は、lin-14遺伝子がlin-4遺伝子とは時間的に逆な働きを持つ遺伝子であるらしいことを発見した、これがその後の研究に大きな影響を与えたよ。

 

lin-4遺伝子の変異は幼虫期の細胞の発生を異常に繰り返してしまうのに対し、lin-14遺伝子の変異は幼虫期をスキップしてしまう、という点で働きが逆なんだよね。しかもそれだけでなく、1989年には、どうやらlin-4遺伝子がlin-14遺伝子の働きを抑える負の調節因子であるらしいことも見つけたんだよね。

 

さて、もう1人の受賞者であるゲイリー・ブルース・ラヴカン氏は、ヨーロッパ旅行中にホロビッツ氏らと協議を重ねた結果、線虫の遺伝学に興味を持ち、1982年にホロビッツ氏の研究室に入ったよ。そしてアンブロス氏と共に、lin-4遺伝子やlin-14遺伝子を研究のために増やすクローニングの方法の模索を行ったよ。

 

特定の遺伝子を増やすクローニングのためには、遺伝情報全体のどこの領域が必要なのかを特定する必要があり、何年もかける必要があったよ。その時間の長さから、アンブロス氏とラヴカン氏はそれぞれポスドク研究員から教授になり、アンブロス氏がlin-4遺伝子を、ラヴカン氏がlin-14遺伝子を自分の研究室で研究するようになったよ。

 

この研究を続ける中で重要な発見があったよ。アンブロス氏はlin-4遺伝子を研究する中で、興味深い発見を見出したよ。遺伝子の領域を絞る中で、どういうわけかタンパク質を合成する領域が無くなっちゃんだよね。普通なら、これは何か研究方法を間違えていると疑うところだね。

 

ただ、変異したlin-4遺伝子を持つC. エレガンスに、特定した領域を入れると異常が無くなることから、どうも突き止めた領域は間違いじゃなさそうだとなったんだよね。苦労の末、lin-4遺伝子が合成するのは、タンパク質について何も書いていない、極めて小さなRNAであることを最終的に突き止めたよ。

 

タンパク質のメモ書きに使われるmRNAは、数百~数千塩基で構成されていることが大半だけど、lin-4遺伝子が合成するRNAはたったの61塩基および22塩基という短さだよ!あまりにも小さいことから見逃されていたこのRNAは、後に「miRNA (マイクロRNA)」と呼ばれるようになるよ[注1]

 

一方でラヴカン氏は、lin-14遺伝子の転写で作られるmRNAの中で、「3'UTR (3'非翻訳領域)」という領域を持たないものを作ってしまう変異を特定したんだよね。これを調べる中で、lin-14遺伝子の変異によるC. エレガンスの異常が発生するタイミングに気づいたよ。

 

3'UTRはmRNAからタンパク質を作る翻訳を制御するんだけど、これを無くしてもタンパク質を作ること自体には影響しなかったことから、lin-14遺伝子の変異で起こる異常は、mRNAを作る転写のタイミングではなく、mRNAが転写されたから翻訳されるまでの間に起こるらしいことが分かったよ。

 

結局のところ、lin-14遺伝子の機能がlin-4遺伝子で調整されているのは、てっきりmRNAを作る転写のタイミングだと思っていたのに、実際にはlin-14遺伝子が転写を行ってmRNAを作った後にlin-4遺伝子が機能を調整しているらしいと分かったんだよね。これは当時、全く予想外の現象だったよ。

 

1992年6月11日の夜、運命の日がやってきたよ。アンブロス氏とラヴカン氏は、お互いの研究成果であるlin-4遺伝子とlin-14遺伝子の情報をそれぞれ交換したんだよね。すると2人はすぐに、lin-4遺伝子とlin-14遺伝子が、お互いにペアの関係性にあることに気づいたよ。

 

気づいたのは、lin-4遺伝子が合成する非常に小さなmiRNAと、lin-14遺伝子が合成するmRNAの3'UTR領域は、パズルのピースが噛み合うようにお互いが繋がるという「相補性」の関係にあることだよ。miRNAが繋がったmRNAはタンパク質を作ることができなくなるので、これでlin-14遺伝子の働きが制御されている、と分かったんだよね!

 

小さなmiRNAは生物学の大きな発見!

2024年ノーベル生理学医学賞図4

miRNAが発見された当初、この遺伝子発現の調節機能は線虫にしかない特殊なものだと考えられていたよ。しかしラヴカン氏は、ヒトを含めた広範な動物に関連するmiRNAを合成するlet-7遺伝子を発見したことで、少なくとも5億年前にはlet-7遺伝子によるmiRNAが存在したという、極めて普遍的な機能なことを突き止めたよ! (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

この、mRNAに転写後に小さなmiRNAがタンパク質への翻訳を制御するという、全く新しい遺伝子発現の調節方法の発見は、1993年にCell誌に掲載されたけど、当時はあまり注目を受けた研究だとは言い難い状態だったんだよね。というのは、発見されたのはあくまで線虫だから、という点だよ。

 

確かに、このようなmiRNAはC. エレガンスに近縁な他の線虫[注2]にも見られたんだけど、miRNAを作るのに肝心なlin-4遺伝子は線虫にしか見つかっておらず、他の生物には観られないものだったんだよね。だから、miRNAは線虫固有の非常に特殊な遺伝子発現の調節機能であり、他の生物には発展しない、とする見方があったんだよね。

 

2000年になり、この考えを覆す発見があったよ。ラヴカン氏の研究室がC. エレガンスの遺伝子の研究中に、miRNAを合成する別の遺伝子である「let-7」を発見したんだよね。let-7遺伝子で合成される22塩基の長さのmiRNAは、lin-14lin-28lin41lin-42daf-12など、様々な遺伝子が作るmRNAに結合することが分かったよ。

 

重要なのは、線虫固有のlin-4遺伝子とは異なり、let-7遺伝子はショウジョウバエやヒトが持っている遺伝子なんだよね!さらにlet-7遺伝子のmiRNAが結合するmRNAの1つを合成するlin41遺伝子は、それと同じような機能を持つ遺伝子がゼブラフィッシュとショウジョウバエでも見つかったよ。

 

何より、let-7遺伝子が合成するmiRNAが、複数のヒト組織で見つかったことが肝心だったよ。幼虫期の成長を制御する遺伝子であるlet-7遺伝子が、明確な幼虫期がある線虫や昆虫と異なり、明確に幼虫期が存在しない脊椎動物で見つかったわけだからね。

 

線虫とヒトという極めて関係性の離れた生物同士で、同じmiRNAが存在することは、miRNAは線虫固有の特殊な遺伝子発現の調節機能ではなく、生物全体に共通する、極めて普遍的で不可欠な遺伝子発現の調節機能である可能性が高い、ということになるからね!

 

その後の発展はスゴいものがあったよ。遺伝子の分離やクローニングの技術革新で、miRNAが次々と見つかるようになったよ。miRNAの遺伝子のデータベース「miRBase」には、281種の生物に渡る3万8000種類以上のmiRNA前駆体と、4万8860種類の成熟miRNAに関するデータが登録されているよ。ヒトだけでも1000種類以上も見つかっているよ。

 

また、後の研究で、let-7遺伝子は三胚葉性動物さんはいようせいどうぶつ、つまりヒトや線虫もひっくるめた左右相称動物で共通して存在するらしいことが分かったんだよね。このことは、少なくともlet-7遺伝子によるmiRNAは、最初の左右相称動物が他の動物と分岐した5億年以上前に出現し、その後ずっと保持されてきたということになるよ!

 

さらに言えば、左右相称動物以外の生物、例えば海綿動物や植物、単細胞の真核生物、ウイルスでさえも、miRNAを持っていることが分かっているんだよね。このことは、miRNAによる遺伝子発現の調節機能は、動物と植物が分岐する10億年前の共通祖先が既に持っていたか、進化の過程で複数回出現したことを示唆しているんだよね。

 

また、miRNAの前駆体を処理するには「Dicer」というタンパク質 (酵素) が関与しているけど、このタンパク質を作るためのDicer1遺伝子が変異している場合、マウスやゼブラフィッシュの胚は発達できず死んでしまうんだよね。miRNAが重要なのはここからも分かるよ。

 

このような、小さなRNAが遺伝子の発現を制御する機構は「RNA干渉 (RNAi)」と呼ばれているよ。関連する話として、アンドリュー・Z・ファイアー氏とクレイグ・キャメロン・メロー氏は、RNA干渉の発見によって2006年にノーベル生理学医学賞を受賞しているよ。

 

miRNAは様々な疾患の診断や治療に使われるかも

2024年ノーベル生理学医学賞図5

miRNAは遺伝子発現を調整する基本的な機能であり、ヒトゲノムの中でも1000個以上見つかっているよ。miRNAは正常な成長や生理機能の調整を行うため、これに変異があれば病気やがんの素になるよ。これを逆手に取り、病気やがんの原因を突き止め、治療する方法が研究されているよ! (Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / Illustration: Mattias Karlén / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

miRNAの研究が進むにつれて、1種類のmiRNAが複数の遺伝子の発現に関わることや、逆に1種類の遺伝子の発現が複数のmiRNAによって調節されることも分かっているよ。最初の発見となったlin4遺伝子はかなり例外的で、実際にはmiRNAと遺伝子はかなり複雑な関係性を持っており、しかも関係性が不明瞭な例もあるらしいんだよね。

 

この複雑さは研究者にとっては研究を妨げる困った性質だけど、一方で個々のmiRNAと遺伝子との関係性が不明瞭なのは、冗長性として有利だとする見方もできるよ。この冗長性は、例えばウイルスによる感染で、遺伝子を簡単に操作されないようにする防御機構だと見ることができるんだよ。

 

また、特定の疾患や症候群にもmiRNAが関与していることも分かってきたよ。例えば先ほどのDicer1遺伝子の変異による「DICER1症候群」は、稀だけど重篤な遺伝子疾患だよ。DICER1症候群の患者は様々な臓器にがんができやすくなる、あるいは小頭症や運動機能の低下などの原因となるよ。

 

他にも、進行性難聴に関連するmiRNA-96の変異、先天性の眼の疾患を伴う「EDICT症候群」に関連するmiRNA-184の変異、先天性の骨格障害をもたらすmiRNA-140-5pの変異など、miRNAが様々な難病に関わっていることについて、多くの理解が進むようになってきたよ。

 

仕組みが分かれば、その治療も見えてくるよ。miRNAに変異があるならば、正常なmiRNAを生産できるようにする治療方法が現在研究されていて、代謝の異常や心血管・神経の変性など、他の方法では治療の難しい疾患の正確な診断や治療方法へ応用することが検討されているんだよね。

 

また、がん細胞にmiRNAを送り込めば、がん細胞の異常性が消え、正常な細胞に戻すことができる方法も研究されているよ。将来的には、miRNAは次世代のがん治療の方法として、医療の現場に登場してもおかしくないんだよね!まさに、生命の基本の仕組みの理解は応用の幅が広いことを示す例だと思うんだよ!

脚注

[注1] miRNAの名称
発見当初にmiRNAは命名されておらず、当時の論文では単に「小さなRNA (small RNA)」と表現されていました。  本文に戻る

[注2] miRNAを持つ他の線虫
miRNAがlin-4遺伝子関連でしか見つかっていなかった頃、C. エレガンスと同じCaenorhabditis属に属する近縁な線虫であるC. briggsaeC. remaneiC. vulgarisには、lin-4遺伝子と同じ遺伝子が見つかっていました。  本文に戻る

 

文献情報

<ノーベル財団の公式資料>

 

<受賞理由に関わる主要な論文>

  • Rosalind C. Lee, Rhonda L. Feinbaum & Victor Ambros.“The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14”. Cell, 1993; 75 (5) 843-854. DOI: 10.1016/0092-8674(93)90529-Y
  • Bruce Wightman, Ilho Ha & Gary Ruvkun.“Posttranscriptional regulation of the heterochronic gene lin-14 by lin-4 mediates temporal pattern formation in C. elegans”. Cell, 1993; 75 (5) 855-862. DOI: 10.1016/0092-8674(93)90530-4
  • Brenda J. Reinhart, Frank J. Slack, Michael Basson, Amy E. Pasquinelli, Jill C. Bettinger, Ann E. Rougvie, H. Robert Horvitz & Gary Ruvkun.“The 21-nucleotide let-7 RNA regulates developmental timing in Caenorhabditis elegans”. Nature, 2000; 408 (6808) 86-89. DOI: 10.1038/35002607

 

<授賞理由と関わりの深い研究論文>

  • François Jacob & Jacques Monod.“Genetic regulatory mechanisms in the synthesis of proteins”. Journal of Molecular Biology, 1961; 3 (3) 318-356. DOI: 10.1016/S0022-2836(61)80072-7
  • S. Brenner.“The genetics of Caenorhabditis elegans”. Genetics, 1974; 77 (1) 71-94. DOI: 10.1093/genetics/77.1.71
  • Victor Ambros & H. Robert Horvitz.“Heterochronic Mutants of the Nematode Caenorhabditis elegans”. Science, 1984; 226 (4673) 409-416. DOI: 10.1126/science.6494891
  • Edwin L. Ferguson, Paul W. Sternberg & H. Robert Horvitz.“A genetic pathway for the specification of the vulval cell lineages of Caenorhabditis elegans”. Nature, 1987; 326 (6110) 259-267. DOI: 10.1038/326259a0
  • Victor Ambros.“A hierarchy of regulatory genes controls a larva-to-adult developmental switch in C. elegans”. Cell, 1989; 57 (1) 49-57. DOI: 10.1016/0092-8674(89)90171-2
  • G. Ruvkun, V. Ambros, A. Coulson, R. Waterston, J. Sulston & H R Horvitz.“Molecular genetics of the Caenorhabditis elegans heterochronic gene lin-14”. Genetics, 1989; 121 (3) 501-516. DOI: 10.1093/genetics/121.3.501
  • Gary Ruvkun & John Giusto.“The Caenorhabditis elegans heterochronic gene lin-14 encodes a nuclear protein that forms a temporal developmental switch”. Nature, 1989; 338 (6213) 313-319. DOI: 10.1038/338313a0
  • B. Wightman, T. R. Bürglin, J. Gatto, P. Arasu & G. Ruvkun.“Negative regulatory sequences in the lin-14 3'-untranslated region are necessary to generate a temporal switch during Caenorhabditis elegans development”. Genes & Development, 1991; 5, 1813-1824. DOI: 10.1101/gad.5.10.1813
  • P. Arasu, B. Wightman & G. Ruvkun.“Temporal regulation of lin-14 by the antagonistic action of two other heterochronic genes, lin-4 and lin-28”. Genes & Development, 1991; 5, 1825-1833. DOI: 10.1101/gad.5.10.1825
  • Amy E. Pasquinelli, Brenda J. Reinhart, Frank Slack, Mark Q. Martindale, Mitzi I. Kuroda, Betsy Maller, David C. Hayward, Eldon E. Ball, Bernard Degnan, Peter Müller, Jürg Spring, Ashok Srinivasan, Mark Fishman, John Finnerty, Joseph Corbo, Michael Levine, Patrick Leahy, Eric Davidson & Gary Ruvkun.“Conservation of the sequence and temporal expression of let-7 heterochronic regulatory RNA”. Nature, 2000; 408 (6808) 86-89. DOI: 10.1038/35040556
  • Mariana Lagos-Quintana, Reinhard Rauhut, Winfried Lendeckel & Thomas Tuschl.“Identification of Novel Genes Coding for Small Expressed RNAs”. Science, 2001; 294 (5543) 853-858. DOI: 10.1126/science.1064921
  • Nelson C. Lau, Lee P. Lim, Earl G. Weinstein & David P. Bartel.“An Abundant Class of Tiny RNAs with Probable Regulatory Roles in Caenorhabditis elegans”. Science, 2001; 294 (5543) 858-862. DOI: 10.1126/science.1065062
  • Rosalind C. Lee & Victor Ambros.“An Extensive Class of Small RNAs in Caenorhabditis elegans”. Science 2001; 294 (5543) 862-864. DOI: 10.1126/science.1065329
  • Emily Bernstein, Sang Yong Kim, Michelle A Carmell, Elizabeth P Murchison, Heather Alcorn, Mamie Z Li, Alea A Mills, Stephen J Elledge, Kathryn V Anderson & Gregory J Hannon.“Dicer is essential for mouse development”. Nature Genetics, 2003; 35 (3) 215-217. DOI: 10.1038/ng1253
  • Erno Wienholds, Marco J Koudijs, Freek J M van Eeden, Edwin Cuppen & Ronald H A Plasterk.“The microRNA-producing enzyme Dicer1 is essential for zebrafish development”. Nature Genetics, 2003; 35 (3) 217-218. DOI: 10.1038/ng1251
  • Sébastien Pfeffer, Mihaela Zavolan, Friedrich A. Grässer, Minchen Chien, James J. Russo, Jingyue Ju, Bino John, Anton J. Enright, Debora Marks, Chris Sander & Thomas Tuschl.“Identification of Virus-Encoded MicroRNAs”. Science, 2004; 304 (5671) 734-736. DOI: 10.1126/science.1096781
  • Andrew Grimson, Mansi Srivastava, Bryony Fahey, Ben J. Woodcroft, H. Rosaria Chiang, Nicole King, Bernard M. Degnan, Daniel S. Rokhsar & David P. Bartel.“Early origins and evolution of microRNAs and Piwi-interacting RNAs in animals”. Nature, 2008; 455 (7217) 1193-1197. DOI: 10.1038/nature07415
  • Benjamin M. Wheeler, Alysha M. Heimberg, Vanessa N. Moy, Erik A. Sperling, Thomas W. Holstein, Steffen Heber & Kevin J. Peterson.“The deep evolution of metazoan microRNAs”. Evolution & Development, 2009; 11 (1) 50-68. DOI: 10.1111/j.1525-142X.2008.00302.x
  • Foteini Christodoulou, Florian Raible, Raju Tomer, Oleg Simakov, Kalliopi Trachana, Sebastian Klaus, Heidi Snyman, Gregory J. Hannon, Peer Bork & Detlev Arendt.“Ancient animal microRNAs and the evolution of tissue identity”. Nature, 2010; 463 (7284) 1084-1088. DOI: 10.1038/nature08744
  • William D. Foulkes, John R. Priest & Thomas F. Duchaine.“DICER1: mutations, microRNAs and mechanisms”. Nature Reviews Cancer, 2014; 14 (10) 662-672. DOI: 10.1038/nrc3802
  • Yehu Moran, Maayan Agron, Daniela Praher & Ulrich Technau.“The evolutionary origin of plant and animal microRNAs”. Nature Ecology & Evolution, 2017; 1 (3) 1-8. DOI: 10.1038/s41559-016-0027
  • Ana Kozomara, Maria Birgaoanu & Sam Griffiths-Jones.“miRBase: from microRNA sequences to function”. Nucleic Acids Research, 2019; 47 (D1) D155-D162. DOI: 10.1093/nar/gky1141
  • Brian DeVeale, Jennifer Swindlehurst-Chan & Robert Blelloch.“The roles of microRNAs in mouse development”. Nature Reviews Genetics, 22 (5), 307-323. DOI: 10.1038/s41576-020-00309-5

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
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