2023年ノーベル生理学医学賞について分かりやすく解説!『COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾に関する発見』

2023.10.03

2023 Physiology or Medicine Prize thumbnail

Illustrator: Mattias Karlén; Image Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2023年ノーベル生理学医学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2023年10月2日、カロリンスカ研究所ノーベル賞会議は、本日、2023年のノーベル医学生理学賞を以下の者に授与する事を決定しました。

共同で、カリコー・カタリン (Karikó Katalin)[注1] とドリュー・ワイスマン (Drew Weissman) 。

「COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾に関する発見」に対して。

2人のノーベル賞受賞者による発見は、2020年初頭に始まったパンデミックにおいて、COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) に対する効果的なmRNAワクチンの開発に不可欠であった。受賞者の画期的な発見によって、我々はmRNAが免疫系とどのように相互作用するのかについての理解を根本的に変え、現代における人類の健康に対する最大の脅威の1つが発生している最中に、前例のない速度でワクチン開発が行われた。

選考委員: Gunilla Karlsson Hedestam & Rickard Sandberg

 


Karikó Katalin (カリコー・カタリン)
ハンガリー、ヤース・ナジクン・ソルノク県、ソルノク出身
1955年1月17日生まれ (68歳)
セゲド大学 (ハンガリー) およびペンシルベニア大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/2

 

Drew Weissman (ドリュー・ワイスマン)
アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、レキシントン出身
1959年9月7日生まれ (64歳)
ペンシルベニア大学 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/2

 


 

そもそもワクチンって?軽くおさらい!

感染症を防ぐため、あるいは罹っても重症化を防ぐために接種されるのが「ワクチン」というものだよね。ワクチンにもいろいろあるけど、特にウイルス感染症に対するワクチンは、仕組みにある程度の共通点があるよ。

 

ウイルスの構造も種類によって様々だけど、とても大雑把に言うなら、自分自身の設計図である遺伝情報を含んだ「核酸 (DNAやRNA)」を、タンパク質の殻で覆っている、というものだよ。

 

ウイルスは自力では増殖できないので、細胞内の核酸増殖機能を利用することで増殖を図るよ。一方で乗っ取られた細胞は、正常な機能を失い、やがて死んでしまうよ!これが、ウイルス感染が病気を招く元になるよ。

 

もちろん、身体の側もウイルスを野放しにしないよ。免疫系を構成する免疫細胞は、ウイルスを排除する「抗体」という武器を放出するんだけど、この抗体は特定の物質に結合するようにカスタマイズされたものだよ。

 

抗体がなぜカスタマイズ化されているのかというと、体内に入る物質は多種多様で、身体に必要な成分と毒となる成分は、構造にほんのちょっとした差しかないこともよくあるからなんだよね。

 

もちろん、免疫細胞が抗体を作るには、その物質そのものが免疫細胞に情報として伝わらないとムリ!それに免疫細胞にとってもイチから作る準備をするから、抗体ができるまでに時間がかかってしまうよ。

 

この、感染から抗体生産までのタイムラグの間にウイルスが増殖してしまうと、ウイルス感染症になってしまったり、症状が重くなってしまう、というのがウイルス感染症の基本的な事情だよ。

 

なら、事前に感染っぽい状況を作っておけば、抗体を生産する体制を予め整えられるので、本物のウイルスがやってくるという本番でも有利なスタートを切れるんじゃないか?というのが「ワクチン」という考えだよ。

 

ワクチンにも様々な種類があり、細かい仕組みは違うけど、基本的には抗体を作るために必要なウイルスタンパク質の情報を免疫細胞に届けることを目的としているよ。

 

いわばワクチンは、事前に手配書を配って警戒を促すようなシステムってわけだね。抗体の生産体制が事前に整っていることで、感染を防いだり、仮に症状が出ても重症化や死亡のリスクを減らせる、というモノだよ!

 

一度感染症に罹ると次回は罹りにくくなる、という知識は紀元前から存在したらしいけど、現代の基準で言う世界初のワクチンは、エドワード・ジェンナーによって開発された1796年の天然痘ワクチンになるよ[注2]

 

mRNAワクチン登場前のワクチン事情

2023 Physiology or Medicine Prize Fig1

mRNAワクチンが登場する前、ワクチンには「弱毒化ワクチン」「不活化ワクチン」「サブユニットワクチン」「ウイルスベクターワクチン」が存在したよ。これらは免疫細胞を刺激することで、本番の感染に備えるよ。 (Illustrator: Mattias Karlén; Image Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / 日本語訳は筆者による)

 

ジェンナーの時代より、ワクチンは様々なウイルスに対して作られてきたけど、ウイルスタンパク質を体内に送り込むという基本的な仕組みは長年ほとんど変わらなかったよ。

 

よく知られているのは「弱毒化ワクチン (生ワクチン)」と「不活化ワクチン」だね。特定の細胞で培養したり、化学処理を加えて、ウイルスの毒性を弱めたり失わせたりして作られたワクチンだよ。

 

弱毒化ワクチンには麻疹・流行性耳下腺炎 (おたふく風邪) ・風疹に対する「新三種混合ワクチン (MMRワクチン)」や「黄熱ワクチン」があり、強力な免疫が長期間続くものの、稀に起こる副作用が重いという難点もあるよ。

 

一方で、不活化ワクチンには「ダニ媒介性脳炎ワクチン」や「A型肝炎ワクチン」などがあるよ。不活化ワクチンも十分強力なものの、弱毒化ワクチンほど効果は長続きせず、何回か接種しないといけないという難点もあるよ。

 

弱毒化ワクチンも不活化ワクチンも、ウイルスそのものを送るので本番とほぼ同じ状況を作れる、という点で、製造が最も容易であり、ワクチンの歴史の大部分はこの2タイプで接種が行われていたよ。

 

一方で科学の進歩により、ウイルスへの抗体を作るには1種類のウイルスタンパク質の情報のみで十分なケースが多くあること、そのタンパク質を比較的自由に合成できるようになり、新たなワクチンも開発されたよ。

 

最初に登場したのは「サブユニットワクチン」だよ。これはウイルスそのものではなく、ウイルスタンパク質を送り込むワクチンで、しばしば1種類のウイルスタンパク質のみを体内に送り込むよ。

 

免疫細胞が抗体を作るには、特定のウイルスタンパク質のみでいいということにヒントを得たものだよ。1種類のウイルスタンパク質なら、ウイルスそのものを作るよりずっと簡単という利点が生かせるよ!

 

世界初のサブユニットワクチンは1986年に承認された「B型肝炎ワクチン」で、続いて2006年には最初のタイプの「ヒトパピローマウイルスワクチン (子宮頸がんワクチン)」も承認されているよ。

 

B型肝炎ウイルスもヒトパピローマウイルスもがんを引き起こすウイルスであり、それに対して1種類のタンパク質だけを接種するサブユニットワクチンがとても効果的であることが分かっているよ。

 

更に、これらとは別のアプローチとして「ウイルスベクターワクチン」があるよ。これはウイルスやウイルスタンパク質ではなく、ウイルスタンパク質の設計図情報となる遺伝物質を接種するタイプのワクチンだよ。

 

遺伝物質である核酸を細胞に送り込むと、細胞は設計図に従いタンパク質を作るよ。ところがそれはウイルスタンパク質なので、免疫細胞は異物と判断し、それに合わせた抗体を作るよ。

 

タンパク質をこちらで作って送るのではなく、細胞が元々持つタンパク質合成機能を使うので手間が省けるよ。また、核酸はカスタマイズしやすいので、ウイルスが変異しても変異に合わせたワクチンを製造できるよ。

 

ただ、遺伝物質だけを送り込んでも細胞は取り込んでくれないので、何かしらの工夫が必要だよ。ならば、ウイルスの感染能力を使ってみようじゃないかというアイデアがウイルスベクターワクチンだよ!

 

ウイルスが細胞に感染すると、自分自身の設計図である遺伝物質を細胞に送り込むよね。ここで、ウイルスの中身を目的のタンパク質の設計図だけにしてしまえば、感染能力はあっても病原性はない、という状況になるわけ!

 

つまり、ウイルスを遺伝物質の運び屋 (ベクター) とするのがウイルスベクターワクチンだよ。このワクチンは開発から安全性の確立までずいぶん時間がかかり、登場したのはつい最近だよ。

 

初めて承認されたのは2019年のエボラ出血熱ワクチンで、水疱性口内炎ウイルスをベクターとするものだったよ。これはすぐにアデノウイルスをベクターとするタイプのエボラ出血熱ワクチンも作られたよ。

 

しかし、弱毒化ワクチン、不活化ワクチン、ウイルスベクターワクチンには共通の問題もあったよ。どれも何かしらのウイルスそのものを使うので、細胞で培養しないと増やせず、製造に時間がかかるという問題だよ。

 

一方でサブユニットワクチンは比較的製造が簡単だけど、免疫系を刺激するウイルスタンパク質の種類は結構複雑で、場合によっては免疫の刺激がうまく行かなかったり、製造が困難であるという問題もあるよ。

 

また、ウイルスベクターワクチンはウイルスを運び屋とする関係上、ベクターに対する抗体も作られてしまうので、ベクターの感染が抑えられてしまい、連続の接種では効果が薄くなる恐れがあるという問題もあったよ。

 

そんなわけで、体内に遺伝情報を送り込み、体内のタンパク質合成機能を使ってウイルスタンパク質を作るという、サブユニットとウイルスベクターの良いところどりみたいなワクチンに研究者は注目してたよ。

 

「どの核酸を体内に送り込むか」問題

ところでウイルスベクターワクチンでチラッと説明したように、細胞にはタンパク質合成機能があるよ。タンパク質は核酸に刻まれた遺伝情報が設計図として機能するけど、核酸には大きく分けて2つの種類があるよ。

 

1つは知名度の高い「DNA (デオキシリボ核酸)」、もう1つはそれと比べるとやや知名度に劣る「RNA (リボ核酸)」だよ。この名称は、核酸が「塩基」・「糖」・「リン酸」の3つの基本単位でできているからだよ。

 

塩基はいわば文字であり、その並びによって遺伝情報を刻んでいるよ。塩基と結合し、核酸の骨格となるのが糖とリン酸で、特に塩基と糖の組み合わせは「ヌクレオシド」と呼ばれるよ。

 

DNAとRNAでは、例えば4種類の塩基のうちの1種類だけが違ったり、糖がDNAならデオキシリボースでRNAならリボースという違いももちろんあるけど、もっと簡単に役割や安定性の違いもあるよ。

 

細胞がタンパク質を作ろうとした時、最初に参照されるのは「細胞核」に存在するDNAだよ。細胞は外側の世界と細胞膜で仕切りがあるけど、細胞核は更に核膜という仕切りで細胞 (細胞質) から区切られた特別な部屋だよ。

 

タンパク質を作るには、細胞核の外側にある別の場所 (細胞内小器官) に情報を届けないといけないよ。しかし、必要な情報はDNAのごく一部の領域だし、DNAは細胞核という特別な部屋の中にあるよ。

 

DNAはいわば持ち出し厳禁な分厚い辞書。これをいちいち持っていくのは大変だよね?なら、必要な情報だけをメモ書きして持っていく方がはるかに手間が省けるよね。このメモ書きに相当するのがRNAだよ。

 

特に、タンパク質を合成するために必要な情報だけを持っていくので、この過程で合成されるメモ書きに当たるRNAは「mRNA (メッセンジャーRNA / 伝令RNA)」と呼ばれるよ。

 

ウイルスベクターワクチンのように、ウイルスタンパク質を合成するのに必要な遺伝情報さえ送り込めば、細胞はタンパク質を合成し、それに合わせた抗体を作る、という仕組みを利用できないかが注目されていたよ。

 

これにはいくつかの利点があるよ。技術の進歩により、特定の遺伝情報を持つ核酸を合成するのが、タンパク質を合成したり、ウイルスそのものを培養するのと比べたらずっと楽になった、というのはそれだけでも大きいね!

 

更に、遺伝情報をカスタマイズできる点も大きいよ。ウイルスは免疫を回避するようにタンパク質の性質を変える「変異」を起こすので、タンパク質の変異に合わせた新たなワクチンを短期間で製造できるからね!

 

ウイルスという運び屋に頼らず、核酸そのものを体内に送り込むワクチンというアイデアは、1990年代初頭にマウスに対する実験で効果が見られたことから、このあたりから有用性が指摘されていたよ。

 

ただし前途多難でもあったよ。最初に注目されたのはDNAを送り込む「DNAワクチン」だったけど、マウスなどの小さな実験動物で示された有効性が、ヒトでは有効性が見られないという難題が発覚したからだよ。

 

これは、ワクチン内のDNAが送り込まれるためには細胞と外界を仕切る壁である細胞膜と、細胞質と細胞核を仕切る壁である核膜の2つを乗り越えないといけないためだと考えられたよ。

 

一方でmRNAを送り込む「mRNAワクチン」の場合、乗り越えればいい壁は細胞膜だけなのでずっと効率は上がるんだけど、mRNAが不安定で分解しやすいであるという解決困難な壁が立ちはだかったよ。

 

先ほど説明したように、DNAは参照用の情報をまとめた辞書なので保存に特化しており、分子としての安定性はとても高いよ。一方でmRNAはメモ書きであり、使ったらすぐに捨てるので、とても不安定な分子だよ。

 

確かに、細胞に対して直接mRNAを送り込めばタンパク質が合成される、ということ自体は1990年に実証された研究があるけど、実際のワクチン接種の様子とは程遠い実験状況にはなってくるよ。

 

ワクチンは製造後に輸送や保管をしなければならないので、不安定すぎるmRNAを使ったワクチンというのは、当初は中々医学的な注目を浴びず、一部のチームが細々と研究を行っている状況だったよ。

 

mRNAワクチン開発に必要な他の技術

遺伝子に関する研究の多くがそうであるように、mRNAワクチンへとつながる研究は無数にあるよ。例えばmRNAワクチンを製造するには、mRNAを大量合成しないといけないよね?これは1980年代後半までに確立したよ。

 

また、ウイルスに頼らずにmRNAを細胞に送り込むにはどうしたらいいか?mRNAはマイナスの電気を帯びているので、プラスの電気を帯びた油の粒「カチオン性脂質」に包み込むと良いというのが1987年に示されたよ。

 

初期のタイプは重い副作用があるという欠点があったけど、2005年までには副作用の原因となる帯電状態が体内で失われる「脂質ナノ粒子」が開発されたことで、安全にmRNAを送り込む見込みが立つようになったよ!

 

「修飾」の違いを突き止め、mRNAワクチンの可能性が飛躍的に向上!

そういった背景がある中で、1990年代後半からmRNAによるワクチンが製造できるんじゃないかと考えたのが、今回ノーベル生理学医学賞を受賞したカリコー・カタリン氏とドリュー・ワイスマン氏というわけだよ!

 

カリコー氏は分子生物学者、ワイスマン氏は免疫学を背景に持つ医師と、専門が全く違うんだけど、だからこそお互いの足りない部分を補い、偉大な発明に繋がる研究が進んだと言うわけだね!

 

1997年にペンシルバニア大学に入ったカリコー氏とワイスマン氏は、免疫細胞の1種である「樹状細胞」にmRNAを送り込み、AIDS (エイズ) の原因となるHIV (ヒト免疫不全ウイルス) へのワクチンが作れないかを研究したよ。

 

HIVは免疫系を回避して免疫細胞に感染し、長い時間をかけて免疫系を破壊するという特性は、他の多くのウイルスとは異なる挙動なので、特にワクチン開発が難航していたウイルス感染症の1つだと言えるよ。

 

ところが研究を進めると、全く同じ遺伝情報を持つはずなのに、合成されたmRNAは、細胞で培養したmRNAと比べ、免疫細胞の過剰反応である「サイトカイン応答」を引き起こすことが分かってきたよ。

 

免疫細胞の過剰反応はワクチンの重大な副作用となってしまうので、これではワクチンとして実用化するには大きな障害となるよ。なので解決しなければならないけど、これは核酸に対する大きな謎と絡んでいたよ。

 

核酸は細胞で培養しようとも人工的に合成しようとも同じ化学分子なはず。なのに免疫細胞の反応が全く違うのは、ヌクレオシドの一部に化学的な構造の違いがある「修飾」によって引き起こされると考えられるよ。

 

核酸は塩基・糖・リン酸が基本構成で、塩基と糖が結合したのがヌクレオシドと少し前に説明したけど、ヌクレオシドは核酸の合成過程で酵素から修飾と呼ばれる化学変化を受けることが知られているよ。

 

修飾ではヌクレオシドに特定の化学構造を追加・除去することで行われ、現在までに100種類以上が見つかっているよ。RNAの修飾はRNAの安定性や機能を変えると言われているけど、修飾の大部分は役割が不明だよ。

 

カリコー氏とワイスマン氏は、原核生物と真核生物[注3] ではRNAの修飾が異なることに着目し、合成mRNAだけでなく、原核生物と真核生物のそれぞれの細胞で培養したmRNAとの機能の比較を繰り返したよ。

 

2023 Physiology or Medicine Prize Fig2

(a) 2005年の研究では、人工的な環境でDNAからmRNAを作る状況をセッティングしたよ。この時、ウリジンをシュードウリジンに修飾したものも用意されたよ。 (b) シュードウリジンがあるmRNAは、免疫細胞の過剰反応を招かなかったことから、シュードウリジンの修飾が重要なことが明らかにされたよ! (Illustrator: Mattias Karlén; Image Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine / 画像bはKarikó et al. Immunity 2005から改変 / 日本語訳は筆者による)

 

その結果、「ウリジン」というヌクレオシドが修飾を受けて合成される「シュードウリジン (Pseudouridine / Ψ)」があると、免疫細胞の望ましくない過剰反応を抑えられることを2005年に突き止めたよ!

 

カリコー氏とワイスマン氏は、真核生物細胞内ではmRNAのシュードウリジンへの修飾が多いのに対し、合成mRNAと原核生物細胞内では修飾が少なく、これが免疫細胞の反応の差の原因になることを突き止めたよ!

 

ウリジンをシュードウリジンへと修飾したmRNAは、修飾していないmRNAと比べ、合成できるタンパク質が多いことが分かったよ! (Illustrator: Mattias Karlén; Image Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine )

 

ウリジンのシュードウリジンへの修飾の利点はそれだけでなく、細胞内でのウイルスタンパク質の合成効率を上げることも合わせて突き止めたよ!この研究結果は、mRNAワクチンの製造に必須となる重大な発見だよ!

 

mRNAは「修飾」の違いで免疫細胞の反応が違うことを証明!

しかし、カリコー氏とワイスマン氏の2005年の発見は、当時あまり注目されなかったよ。先見の明があったのは、2010年までに設立された「BioNTech」社や「モデルナ」社といったバイオベンチャー企業だよ。

 

BioNTech社はがんワクチンに向けて、モデルナ社は組織修復用のタンパク質を合成させるために、それぞれmRNAを利用する研究開発を進めたよ。ベースとなったのがカリコー氏とワイスマン氏の2005年の研究だよ。

 

一方で最初は細々と、ウイルス感染症に対するmRNAワクチンの可能性も同時期に検討されるようになり、2017年には世界初のmRNAワクチンである狂犬病ワクチンが臨床試験でテストされるまでに進んだよ。

 

同時期、妊婦が感染すると胎児に重篤な先天性障害が生じる「ジカウイルス」や、パンデミックの恐れがある鳥インフルエンザの株「H10N8型」と「H7N9型」それぞれに対するmRNAワクチンも臨床試験段階に入ったよ。

 

2023 Physiology or Medicine Prize Fig4

脂質ナノ粒子に包まれたmRNAが細胞に取り込まれると、その情報を元にタンパク質が合成されるよ (翻訳) 。これによって生成されたスパイク糖タンパク質は、免疫細胞 (B細胞) の受容体によって読み取られ、抗体を作る元となるよ。 (Illustrator: Mattias Karlén; Image Credit: The Nobel Committe for Physiology or Medicine )

 

特に重要なのは「中東呼吸器症候群」の原因となる「MERSコロナウイルス (MERS-CoV)」へのmRNAワクチンの開発で、この時に行われたウイルスタンパク質の研究が後に重大な意味を持つようになったよ。

 

MERSコロナウイルスは表面に「スパイク糖タンパク質」を持っており、免疫細胞はスパイク糖タンパク質を標的に抗体を作るよ。ただしスパイク糖タンパク質は、細胞に対する特性が違う2つの形を持っているよ。

 

ワクチンによって免疫を作るのに都合がいい形 (膜融合前型) は準安定なタイプで、工夫しないとあまり都合がよくない形 (膜融合後型) に変質してしまうという問題があったよ。

 

この問題は様々なウイルスに対して1990年代後半から2010年代後半にかけて理解され、安定化するように工夫されたMERSコロナウイルスのスパイク糖タンパク質を合成するmRNAの合成に繋がったよ。

 

MERSコロナウイルスで得られたこのノウハウは、図らずも近い系統のウイルスの出現と感染の拡大によって、否応なしに生かされることになってしまったよ。

 

数十年分の研究がCOVID-19に対するmRNAワクチンの迅速な開発に繋がった!

2019年末に発見され、2020年初頭にパンデミックを引き起こした「COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)」の原因となる「SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス)」。この事態にmRNAを研究していた企業は迅速に動いたよ。

 

様々な選択肢がある中で、BioNTech社とモデルナ社は、カリコー氏とワイスマン氏の2005年の研究をベースに、シュードウリジンを含むmRNAを使用したmRNAワクチンの開発に取り組んだよ。

 

BioNTech社はファイザー社と、モデルナ社はワクチン研究センターおよびアメリカ国立衛生研究所と協力し、それぞれが独自のmRNAワクチン「トジナメラン[注4] と「エラソメラン[注5] を開発・承認されたよ。

 

mRNAワクチンの開発は非常に速く、どちらもCOVID-19の発生から1年足らずで承認にこぎつけるほどだったよ。もちろん、状況が状況だけに特別体制の承認体制や多額な投資があったことは理由の1つにはなるよ。

 

ただしこれに加えて、mRNAワクチン開発に繋がる数十年の研究の蓄積があったことはとても大きいよ!もしこの蓄積がなかった場合、これほど迅速なワクチン開発は間違いなくできなかったよ!

 

また、今回の事態はmRNAワクチンが持つ複数の利点が同時に生きたよ。ワクチンの要であるmRNAは、標的となるスパイク糖タンパク質の遺伝情報があればいいので、実物を送らずにデータだけで作ることができるよ。

 

そしてmRNAは化学合成ができるので、細胞培養という時間のかかる方法よりもずっと素早く作ることができるよ。この利点により、世界中で同時に研究開発やワクチン製造ができるようになったよ!

 

この開発や製造の容易さは、変異したウイルスが出現しても、元となるmRNAの情報を書き換えて製造すればいいので、変異株の出現後に対応したワクチンを速やかに供給できるというメリットにも繋がるよ!

 

mRNAワクチンは有効性も極めて高く、2回接種後の有効性はBioNTech/ファイザー社製トジナメランで95% (2020年時点) 、モデルナ社製エラソメランで94% (2021年時点) という驚異的な数値だったよ。

 

有効性が9割以上なんて数字は他のタイプのワクチンでは叩き出せない数値で、これはCOVID-19に限らず、他のウイルス感染症に対するmRNAワクチンを開発する重大な契機となったよ。

 

これに加え、認可された2つのmRNAワクチンは重篤な副反応が極めて稀であることも分かっており、これもmRNAワクチンを拡大する強力な基盤となっているよ。

 

ノーベル賞受賞対象の研究はどれも人類に対する計り知れない貢献があるけど、これほど人々の健康と命に直結する研究への受賞は珍しく、「誰が受賞するか」ではなく「いつ受賞するか」という大方の予想にも表れているよ。

 

カリコー氏とワイスマン氏の2005年の研究は、mRNAワクチンの開発に対する重大なターニングポイントとなり、COVID-19パンデミックという未曾有の状況と戦うための強力な武器を与えることになったよ。

 

mRNAワクチンのこれから

mRNAワクチンの開発は、ジェンナーによるワクチンそのものの発明に匹敵するほどの感染症対策のターニングといえ、他のウイルス感染症へも応用される可能性はとても高いと思われるよ。

 

ただし、mRNAワクチンもメリットばかりではないよ。mRNAの不安定性で従来のワクチンより更に低温で保管しないといけない点もそうだけど、何より重篤ではない副反応の問題は重大だよ。

 

注射した部位の一時的な痛みなどの軽い副反応は従来のワクチンにも見られるもので、これは許容されるものだよ。しかし発熱・筋肉痛・頭痛などの炎症反応は望ましくなく、重篤ならば許容できなくなるよ。

 

死亡や後遺症を起こすほど重篤ではなく、一方ですぐには治らない炎症反応はmRNAワクチンの重大なデメリットの1つで、有効性の高さや感染症そのものの危険性との天秤となっているのが現状でもあるよ。

 

重篤ではない副反応の問題への対処は、他のウイルス感染症にmRNAワクチンを拡げるために必須とも言える課題であり、mRNAを包む脂質ナノ粒子の工夫や、mRNAの形状や修飾を変更する研究で対処が検討されているよ。

 

同時に、mRNAがタンパク質の設計図であるという特性を利用し、がんの退治、組織修復、免疫機能調節に関わるタンパク質の合成を誘導するためのmRNA送達という研究も進んでいるよ。

 

ワクチンにしても他の用途にしても、mRNAが望ましくない副作用を引き起こしたり、タンパク質の生産効率が悪ければ効果を発揮しないので、ここでもカリコー氏とワイスマン氏の研究が重大な意味を持つよ。

 

カリコー氏とワイスマン氏の2005年の研究は、当時の注目度の低さとは裏腹に、発表から十数年後の人々の健康への脅威に対する強力な武器を与えたよ!とても重要な研究であり、ノーベル賞も当然だと言えるね!

 

今回の研究結果はCOVID-19に限らず、他の様々な感染症や健康上の問題に対処できる可能性を秘めており、今後の研究次第ではmRNAによるワクチンや治療法が当たり前になっている時代が来るかもしれないよ!

脚注

[注1] Karikó Katalin< ↩︎
ハンガリー語での姓名語順では「Karikó Katalin」表記となるため、日本語表記はそちらを優先した。一方でノーベル財団の公式資料、および所属のペンシルベニア大学では「Katalin Karikó」となっているため、アルファベット表記はそちらに合わせた。

[注2] 世界初のワクチン ↩︎
天然痘患者の膿や発疹を接種すると免疫が得られることはかなり古くから知られており、これに基づく「人痘接種法」の最古の記録は紀元前1000年のインドに残る。しかしこれは天然痘ウイルスそのものに接触するため、稀に重篤化や死を招く危険な方法でもあった。これに対しエドワード・ジェンナーが開発した「牛痘接種法」は、天然痘ウイルスと似た牛痘ウイルス (またはワクシニアウイルス) を含む牛由来の発疹を接種する方法で、健康上のリスクが極めて低い異種ウイルスワクチンである。

[注3] 原核生物と真核生物 ↩︎
細胞内に細胞核がある生物を真核生物、ない生物を原核生物と呼ぶ。ヒトを含む "目に見える大きさの" 大部分の生物は真核生物。一方でいわゆる "細菌" である真正細菌と古細菌は原核生物である。原核生物という区分はもはや古いと考えられているが、よく使われる。

[注4]トジナメラン ↩︎
販売名「コミナティ筋注 (Comirnaty)」、コードネーム「BNT162b2」、別称「ファイザー-バイオンテックCOVID-19ワクチン」。

[注5] エラソメラン ↩︎
販売名「スパイクバックス筋注 (Spikevax)」、コードネーム「mRNA-1273」、旧販売名「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」、別称「モデルナCOVID-19ワクチン」。

 

文献情報

[ノーベル財団の公式資料]

 

[受賞理由に関わる主要な論文]

  • Katalin Karikó, Michael Buckstein, Houping Ni & Drew Weissman. "Suppression of RNA Recognition by Toll-like Receptors: The Impact of Nucleoside Modification and the Evolutionary Origin of RNA". Immunity, 2005; 23 (2) 165-175. DOI: 10.1016/j.immuni.2005.06.008
  • Katalin Karikó, Hiromi Muramatsu, Frank A Welsh, János Ludwig, Hiroki Kato, Shizuo Akira & Drew Weissman. "Incorporation of pseudouridine into mRNA yields superior nonimmunogenic vector with increased translational capacity and biological stability". Molecular Therapy, 2008; 16 (111) 1833-1840. DOI: 10.1038/mt.2008.200
  • Bart R. Anderson, Hiromi Muramatsu, Subba R. Nallagatla, Philip C. Bevilacqua, Lauren H. Sansing, Drew Weissman & Katalin Karikó. "Incorporation of pseudouridine into mRNA enhances translation by diminishing PKR activation". Nucleic Acids Research, 2010; 38 (17) 5884-5892. DOI: 10.1093/nar/gkq347
  • Bart R. Anderson, Hiromi Muramatsu, Babal K. Jha, Robert H. Silverman, Drew Weissman & Katalin Karikó. "Nucleoside modifications in RNA limit activation of 2'-5'-oligoadenylate synthetase and increase resistance to cleavage by RNase L". Nucleic Acids Research, 2011; 39 (21) 9329-9328. DOI: 10.1093/nar/gkr586
  • Katalin Karikó, Hiromi Muramatsu, János Ludwig & Drew Weissman. "Generating the optimal mRNA for therapy: HPLC purification eliminates immune activation and improves translation of nucleoside-modified, protein-encoding mRNA". Nucleic Acids Research, 2011; 39 (21) e142. DOI: 10.1093/nar/gkr695
  • Markus Baiersdörfer, Gábor Boros, Hiromi Muramatsu, Azita Mahiny, Irena Vlatkovic, Ugur Sahin & Katalin Karikó. "A Facile Method for the Removal of dsRNA Contaminant from In Vitro-Transcribed mRNA". Nucleic Acids - Molecular Therapy, 2019; 15, 26-35. DOI: 10.1016/j.omtn.2019.02.018

 

[授賞理由と関わりの深い研究論文]

  • Waldo E. Cohn & Elliot Volkin. "Nucleoside-5′-Phosphates from Ribonucleic Acid". Nature, 1951; 167 (4247) 483-484. DOI: 10.1038/167483a0
  • De-chu Tang, Michael DeVit & Stephen A. Johnston. "Genetic immunization is a simple method for eliciting an immune response". Nature, 1992; 356 (6365) 152-154. DOI: 10.1038/356152a0
  • Frédéric Martinon, et al. "Induction of virus-specific cytotoxic T lymphocytes in vivo by liposome-entrapped mRNA". European Journal of Immunology, 1993; 23 (7) 1719-1722. DOI: 10.1002/eji.1830230749
  • Lloyd B. Jeffs, et al. "A Scalable, Extrusion-Free Method for Efficient Liposomal Encapsulation of Plasmid DNA". Pharmaceutical Research, 2005; 22 (3) 362-372. DOI: 10.1007/s11095-004-1873-z
  • Margaret A Liu & Jeffrey B Ulmer. "Human clinical trials of plasmid DNA vaccines". Advances in Genetics, 2005; 55, 25-40. DOI: 10.1016/S0065-2660(05)55002-8
  • Jesper Pallesen, et al. "Immunogenicity and structures of a rationally designed prefusion MERS-CoV spike antigen". Proceedings of the National Academy of Sciences, 2017; 114 (35) E7348-E7357. DOI: 10.1073/pnas.1707304114
  • Kizzmekia S. Corbett, et al. "SARS-CoV-2 mRNA vaccine design enabled by prototype pathogen preparedness". Nature, 2020; 586 (7830) 567-571. DOI: 10.1038/s41586-020-2622-0
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彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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