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タンジェンシャルフロー・フィルトレーション(TFF)は、主にタンパク質や核酸といった生体分子やウイルス、微生物、球状粒子を迅速で効果的に分離精製できる方法です。そのため、TFFは分子生物学、生化学、微生物学といった幅広い生物学分野や化学分野にて使用され、その技術は展開、応用されています。ラボスケールのTFF では50 mL程から数十リットル容積のサンプル溶液の濃縮と脱塩が可能です。生体分子のサイズ分画、細胞懸濁液の回収、発酵ブロスや細胞上清の清澄化にも使用できます。このろ過方法は、動的なろ過であるため、ろ材のサンプルの目詰まりを抑制し、大容量のサンプルろ過に向いています。この章では、このTFF技術に関する内容を紹介します。
CONTENTS
TFFは別名クロスフローフィルトレーションとしても知られ、ろ過したい溶液サンプルをメンブレン表面に対して平行方向に還流することで、メンブレンに対して一定の圧力を生み出し、メンブレン孔径よりも小さい粒子を透過させる方法です。このTFFと一般的な直接フローろ過を比較したイメージを下図に示しました。直接フローろ過は、シリンジフィルターや遠心ろ過フィルターのようなメンブレン面に対して上から下方向に向かって液体を通過させる方法です。このろ過方法の場合、サンプル中に含まれる微粒子がメンブレン表面や内部に捕捉され、堆積していきます。メンブレンに堆積した微粒子は目詰まりの原因となり、サンプルに対する過剰な圧力負荷を生み出します。一方、TFFはメンブレン面に対して平行方向にサンプルを常時還流するため、メンブレン孔径よりも大きい粒子や分子はメンブレン上流に滞留します。そのため、メンブレンに微粒子が堆積することを抑制するため、サンプルに対する負荷が少なく、大容量のサンプルろ過に適しています。
TFFでは一般的に限外ろ過膜と組み合わせて、タンパク質の分画や機能性粒子の濃縮・精製に利用されます。またこの分画・濃縮工程において、脱塩やバッファー交換を行なう透析ろ過への応用展開も可能です。この透析ろ過には2種類の方法が存在します。連続的にろ過を行なう方法では、ろ過を行なうサンプルと同じ流量速度でサンプル容器に水またはバッファーを供給します。この方法では、サンプル容器の液量を一定に保持した状態でメンブレン孔径よりも小さい分子 (塩類) を洗浄することができます。例えば、脱塩の用途の場合、追加する透析ろ過容量*1 (Diafiltration Volume : DV) ごとに塩濃度は減少します。イオン強度99%削減するためには、透析ろ過容量5 DVで行なう必要があります。非連続的な透析ろ過では、先にサンプルを希釈し、サンプルを開始時の液量まで濃縮します。この希釈と濃縮の過程を、サンプル容器に残存している塩類が必要とされる濃度に薄まるまで繰り返します。DVを追加することで塩濃度は減少します。
*1 処理開始時のサンプルと等しい液量の水またはバッファーをサンプル容器に供給し、開始時の液量に薄めることを1 DVと表します。例えば、500 mLのサンプルでろ過を開始する場合、1 DV = 500 mLとなります。
透析ろ過過用量(DV) | 連続透析ろ過塩除去率(%) | 非連続透析ろ過塩除去率(%) |
1 | 63.2 | 50.0 |
2 | 86.5 | 75.0 |
3 | 95.0 | 87.5 |
4 | 98.2 | 93.8 |
5 | 99.3 | 96.9 |
6 | 99.8 | 98.4 |
7 | 99.9 | 99.2 |
近年、限外ろ過における精製では、タンパク質や核酸のような高分子だけでなく、それ自体が機能性を持つ粒子 (ウイルスや細胞外小胞など) に対しても実施されています。例えば、多胞性エンドソームから放出されるエクソソームは、30-200 nmの直径を有する細胞外ナノ小胞であり、他の細胞に取り込まれると、受容細胞の生理活性を調節することが知られています。2000年初頭に、DNA、RNAなどの核酸がエクソソーム内に含まれることが報告され、これがブレイクスルーとなり、miRNAを専門にしていたがん研究者がエクソソームに着目するようになりました。現在ではがん研究のみならず再生医療分野にもエクソソームが注目されています。このエクソソームの精製には、従来、超遠心法が用いられていますが、回収率が低いことが示唆されています [1]。このことは超遠心による圧力によってエクソソームが破壊されることや、粒子が均一化することが原因であると考えられます [2]。そのため、サイズ分画が可能な限外ろ過による精製が実施されています。特にTFFを用いる精製では、サンプルに対する過剰な圧力負荷が少ないため、超遠心法と比べ回収率が高いことが示唆されています [2]。最近の研究では、MSC細胞の培養液からエクソソームをTFF (分画分子量100 K) を用いて精製した事例も報告されています [3]。
[1] Ueno, et al., High recovery method of exosome from cell culture supernatant and the storage stability of exosome at 4 degrees Celsius. JSH Technical Review. No.125, 12-16 (2018).
[2] Busatto, S. et al., Tangential Flow Filtration for Highly Efficient Concentration of Extracellular Vesicles from Large Volumes of Fluid. Cells. 7, 273–283 (2018).
[3] Sung, SE. et al., Comparisons of Extracellular Vesicles from Human Epidural Fat-Derived Mesenchymal Stem Cells and Fibroblast Cells. Int J Mol Sci. 22, 2889-2900 (2021).
TFFは限外ろ過膜と組み合わせることでサンプル負荷の少ない効率的な分離精製が可能です。タンパク質や核酸精製だけでなく、透析ろ過やエクソソームの分離・精製にも活用されています。下記に資料がありますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
監修:Cytiva ディスカバリー
タンジェンシャルフローろ過アプリケーションカタログ