硫化水素は危険なガス? 硫化水素中毒になる原因と事故事例からみる対策について解説!

2025.03.26

自然界のみならず、最近では産業界においても、一部で注目されている硫化水素について、本記事では、硫化水素の性質を確認しつつ、その危険性と対策について触れていきます。

硫化水素とは、どのような気体?

硫化水素(H2S)は、一般的に次のような性質が挙げられています。

  1. 腐敗した卵に似た強い刺激臭がある(腐卵臭)
  2. 無色
  3. 水に溶けやすい(水溶性)
  4. 空気より重い
  5. 有毒性

以上のような特徴をもつ硫化水素ですが、その危険性・有毒性についてみていきましょ
う。

硫化水素中毒とは?

 硫化水素は、その有毒性から人体に影響を及ぼす気体であり、中毒症状を引き起こす可能性があります。それを「硫化水素中毒」と言います。硫化水素中毒とは、空気中の硫化水素の濃度が百万分の十(=10ppm)を超える空気を吸入することにより生ずる症状が認められる状態を指します。これは、「酸素欠乏症等防止規則 第二条」により規定されています。

 硫化水素は、主にマンホールやピット、水槽内などの腐敗が進行する場所で発生しやすいとされており、閉鎖空間や長い期間にわたって人の手が入っていない箇所で作業する際は十分な注意が必要です。

 硫化水素は高水溶性のため水に溶けやすく、低濃度でも目や鼻、喉などの粘膜への刺激や、「チトクロムオキシターゼ」と呼ばれる細胞膜間貫通タンパク質の阻害作用による肺の酸素分圧低下に起因する呼吸障害(細胞レベルの酸欠)が起こります。濃度によって発症する症状は様々ですが、高濃度の場合は急速に進行しノックダウン現象(※)を引き起こします。
※ノックダウン現象・・・強い毒性により数回の呼吸で昏睡から心呼吸停止に至る現象
吸入はもちろんですが、皮膚から体内へ吸収される経皮吸収でも発症してしまうため、硫化水素の発生する現場では特に注意が必要となります。

参考文献:技術情報 知っておきたいガスのこと|ガス検知器 ガス警報器 理研計器株式会社
参考文献:温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止のためのガイドライン 環境省

なぜ硫化水素は危険なのか?

 硫化水素が一定の濃度以上存在する環境に晒されることになった場合、様々な症状が発生します。

 硫化水素中毒は、前述の通り、10ppmから症状が認められる状態を指しますが、100ppm(=0.1%)を超えると人体への健康被害を及ぼし、長時間の曝露では死亡に至る可能性も出てきます。

 厚生労働省の発表によると、硫化水素中毒による事故は、2004年から2023年の20年間において、68件発生していることが分かっています。そのうち被災者が93名、死亡者が36名となっています。致死率は38.7%と高く、硫化水素中毒を発症した際は、高い確率で死亡事故、もしくは重症となる可能性があります。

参考文献:厚生労働省 酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況

 上図から読み取れるように、硫化水素中毒に関する事故の発生件数は必ずしも被災者数と紐づくわけではありません。硫化水素の発生が想定される作業環境では、硫化水素濃度のモニタリングを行い、硫化水素中毒事故を防ぐことが大切です。

 硫化水素はその特徴として腐卵臭が挙げられますが、前述の通り、無色かつ水に溶けやすい性質を持っております。また、空気よりも重く、下方向に滞留しやすい傾向があるため、閉鎖空間や地下での作業の中において、姿勢を低くする場合には特に注意が必要です。

以下は、濃度別にみた主な硫化水素中毒による症状例です。

参考文献:技術情報 知っておきたいガスのこと|ガス検知器 ガス警報器 理研計器株式会社

 以上のように、硫化水素の濃度によって様々な症状が発生し、人命に関わるような影響が生じることもあります。環境によっては、高濃度の硫化水素に気づかずに、硫化水素中毒を引き起こす可能性があるため、作業における事前の計測や、定期的な測定は欠かすことができません。

硫化水素中毒事故の事例紹介

 硫化水素中毒に関する事故は、様々な環境で発生しています。厚生労働省の調査によると、業種別では、「製造業、建設業、清掃・と畜業が多く、この3業種で全体の約8割を占める」と報告しています。環境や状況が異なった場合も、事前の測定や硫化水素の滞留による異常を感じた際は、速やかに作業場から離れて安全を確保することが重要となります。今回は、自然発生リスクのある屋外作業と、人為的な発生による事故事例についてご紹介します。

  1. マンホール内における事故
    マンホール内にて発生する事故として、作業者がマンホール内に入った際に硫化水素の濃度が高く、硫化水素中毒を発症してしまうケースが多く見られます。
    このような場合、一般的には作業前に作業環境内の硫化水素の濃度を計測し、十分な換気を行った上で作業を行う必要があります。
    酸素欠乏症等防止規則にも事前の計測は定められており、安全に作業を行うためにも、マンホールを始めとした閉鎖空間での作業は特に注意が必要です。また、作業者だけに留まらず、万が一、救助に行く際にも現場のガス濃度を事前に計測し、二次被害を防止する必要があります。

  2. 温泉による事故

    温泉施設における硫化水素中毒は、源泉周辺の火山活動や、ガス抜き孔から排出される硫化水素が原因で発生します。また、温泉施設内では、主に換気不良や温泉の性質、密閉空間の影響、浴槽の構造、温泉管理の不備などによって引き起こります。浴室内や源泉周辺に硫化水素が滞留し高濃度となると、利用者や従業員が中毒を起こす危険性が高まります。対策としては、換気の強化や定期的な濃度の計測が必要です。硫化水素は空気より重いため下に滞留しやすく、床面近くに換気孔を配置することでより効率よく換気を行えます。また、浴室や源泉周辺の硫化水素濃度を定期的に測定し、安全基準を超えていないことを確認することが重要です。万が一異常値が検出された場合には、直ちに対応を行い、施設の利用者や従業員の安全を確保しましょう。

  3. 火山ガスに関する事故の危険性

    火山地域では、火山活動に伴い硫化水素が放出されます。低濃度ではある程度臭いで感じることは可能ですが、高濃度の場所に立ち入った際には嗅覚が麻痺し気づかないうちに硫化水素中毒を引き起こす危険があります。換気の悪い洞窟や源泉周辺、噴気孔周辺では高濃度の硫化水素が発生している可能性があるため特に注意が必要です。対策としては、ガス検知器や保護具の着用が有効であり、警報機能付きのものを活用することで早期対策が可能となります。また、低地への立入を行わないことや、風通しのよい場所の確保、保護具の着用による吸気や経皮吸収の防止が重要です。
    火山地帯で活動を行う際は、警報や立入規制を遵守し安全に作業を行いましょう。

  4. 全固体電池の実用化に向けた課題

    スマートフォンや電気自動車などに使われているバッテリーは、全固体電池を活用した製品の開発が進められています。全固体電池には、窒化物や酸化物、硫化物と様々な材料がありますが、硫化物を材料として作られている全固体電池では硫化水素中毒となる危険性があります。製造工程で多量の硫化水素ガスを使用し、且つ、製造後の固体電解質もまた水分との接触により、硫化物が反応して硫化水素を発生させてしまうため、厳しい管理が必要とされています。

    全固体電池については、製造時の硫化水素ガスを多用することでの安全性や使用後のリサイクルなど環境への配慮の観点でまだまだ課題が残されていますが、発生する硫化水素を吸着・無害化させるなど実用化に向けた研究開発が日々行われています。

1.~4.にて、様々な硫化水素の発生するケースについてご紹介しました。温泉や火山活動をはじめとした自然的な要因として硫化水素の危険にさらされるケースや、全固体電池のように、モノづくりの過程にて発生する人為的なものも含まれています。前述のとおり、硫化水素の濃度が高い環境での作業は危険であり、上記の環境以外にも類似の環境や、研究・開発の分野でも硫化水素を取り扱う際は十分に注意しましょう。

硫化水素中毒事故の対策:ガス検知警報器を使用することのご推奨

 理研計器では、硫化水素が発生する環境での作業員の安全確保として、様々な製品を展開しております。作業員の安全を確保するために、検知・測定が必要なガスによって適切な製品は異なります。硫化水素濃度の確認、管理についてお困り事がございましたら、ぜひお問い合わせください。
本記事では、様々な環境での硫化水素の危険性についてご説明しました。硫化水素中毒と関連性の高い、酸素欠乏症に関連する情報も発信しておりますので、閉鎖空間での作業をおこなう方は是非あわせてご確認ください。

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