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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、生物で最も硬い歯と言われるヒザラガイの歯がどのようにしてできるのかに迫った研究だよ!ヒザラガイという生物は知らないかもだけど、ヒザラガイが持つ歯はスゴく頑丈で、鋼鉄やジルコニアさえ削ってしまうほどだから、伊達な称号ではないよ!
ヒザラガイの研究では、歯の中に機能が謎の新しいタンパク質が数年前に見つかっていたんだけど、今回の研究によってその機能が分かったんだよね。歯が硬くなる理由である、磁鉄鉱のナノスケールの結晶を作るのに基盤的な役割を果たしている、と今回の研究で分かったんだよね!
今回の研究は、単にヒザラガイの謎を解明したのみならず、中々穏やかな環境では難しい、金属酸化物のナノスケールの制御を行うという点で、高性能なメモリーやセンサーの製造など、最先端技術に関する工業的な応用のヒントを与えてくれるかもしれないよ!
CONTENTS

生物は柔らかい細胞を保護したり支えるために、有機無機を問わずに硬い物質を作るようになったよ。この中で無機物を主成分とする物質を「生体鉱物」と呼ぶけど、カルシウムとケイ素以外を主成分とするものは珍しいんだよね。 (画像引用元番号③④⑤⑥⑦)
生物の基本単位である細胞は柔らかい物体なので、身を守る、身体を支える、モノを砕いたり削ったりするためには、何か硬いものが必要になってくるよ。生物が作る硬い物質のうち、無機物が主成分なものを「生体鉱物 (バイオミネラル)」[注1]と呼んでいるよ。骨や歯はとても身近な生体鉱物の1つになるね。
リン酸カルシウムでできた骨や歯、炭酸カルシウムでできた貝殻、二酸化ケイ素を含む珪藻や植物など、多くの生体鉱物はケイ素やカルシウムを主成分としているよ。それ以外の元素を主成分とする生体鉱物は結構珍しくて、例えば鉄は、天然に豊富に存在する元素なのに、生体鉱物として利用している例はかなり少なくなるよ。
鉄の生体鉱物を持つ生物の例が「多板綱 (Polyplacophora)」になるよ。和名から「ヒザラガイ (膝皿貝) 類」とも呼ぶんだけど、あまりなじみのない名前だよね?ただ、北海道南部より南なら、全国の磯場で普通に見られる軟体動物になるので、写真を見れば見たことがあるという人も多いかもしれないね。
ヒザラガイは、見た目には小判のような楕円形で、背中側に一列に並んだ8枚の殻があるんだよね。磯場は波が激しく打ち付けるので、しっかりと岩に張り付きながら、岩の表面に生えている藻類を削り取って食べているよ。この時に使われるのが、「歯舌」と呼ばれる、ザラザラした舌のような器官になるよ。
歯舌の表面には硬くて黒い突起物が生えており、しばしば歯と形容されるんだよね。ヒザラガイの歯を調べてみると、タンパク質などの有機物と共に、酸化鉄の1種である「磁鉄鉱 (Fe2+Fe3+2O4)」が含まれていることが分かるよ。酸化鉄の中でも硬い磁鉄鉱を含むことが、歯舌の機能を高めているんだよね。
歯の硬さは尋常ではないよ。磯場の岩を難なく削るだけでなく、ステンレス鋼や炭素鋼、アルミナ (酸化アルミニウム)やジルコニア (酸化ジルコニウム) さえ削ってしまうんだよね!アルミナやジルコニアは、他の物質をすり潰すのに使われる硬質材料として知られているけど、ヒザラガイの歯はそれすら削ってしまうんだよね!
あまりもの硬さから「生物で最も硬い歯」とすら喩えられるほどなんだけど、これは単に磁鉄鉱を含むだけじゃなく、ナノスケールの磁鉄鉱結晶が並んでいることが、歯の強度をさらに高めているんだよね!まさに生体のナノテクノロジーとすら言えるよ!
しかしそうなってくると、ヒザラガイはどのようにしてそのようなナノテクノロジーを生体内で実現しているかが問題になってくるよ。このような材料は、工業的には高温環境や有害廃棄物を伴って合成することがしばしばあるけど、そんな環境が生体内にある訳ないからね。
岡山大学の根本理子氏などの研究チームは、この謎に迫る研究を行っていたよ。例えば根本氏らは2019年に、「オオバンヒザラガイ (Cryptochiton stelleri)」と呼ばれるヒザラガイの仲間を対象に研究を行い、歯に含まれる22種類のタンパク質群を見つけたんだよね。
22種類のタンパク質の中には、「歯舌マトリックスタンパク質1 (RTMP1)」と名付けられた新しいタンパク質候補も見つかったんだけど、RTMP1のはっきりとした働きや、他のヒザラガイにも含まれているかなど、当時では分からないこともたくさんあったんだよね。
そこで根本氏らは、別の3種類のヒザラガイ[注2]を対象に調査を行い、RTMP1の有無とその働きを調べたんだよね。ところでなぜヒザラガイが研究対象なのかと言えば、磁鉄鉱を含む歯を持つことも理由の1つだけど、もっと根本的には歯舌が研究に都合の良い構造を持つからなんだよね。
いくら生物で最も硬い歯を持つと言っても、硬いものを削れば歯も少しずつ摩耗するよ。なので摩耗した歯は抜け落ち、代わりの新しい歯が現れるんだよね。そしてそのために、2列に並んだ新しい歯が常に控えているよ。なので奥に進めば進むほど、作られかけの歯を簡単に観察できる状況になるんだよね。
例えば、歯舌の先端にある歯は磁鉄鉱を含んでいるから黒いんだけど、最初に作られるのはキチン繊維とタンパク質を主成分とする白い歯なんだよね。次に、段々と酸化鉄が入り込むんだけど、これは磁鉄鉱とは違って結晶度合いが低いため (より厳密には、水酸化鉄の組成を持つため) 、赤茶色をしているんだよね。
この赤茶色の歯は、酸化鉄の結晶化が進み、磁鉄鉱が形成されるに従って黒くなるよ。今回の研究では、RTMP1が他種のヒザラガイにあるのかを見つけるとともに、歯の成長のどの段階で関与するのか?という機能面の謎も解決することを試みたよ。

調査の結果、RTMP1は歯が作られた早い段階でキチン繊維に付着していることが分かったんだよね。さらに、結晶度の低い酸化鉄を結合させ、磁鉄鉱の結晶が成長する下地を作っているんだよね! (画像引用元番号⑫)
まず根本氏らは、2019年の研究とは異なる3種類のヒザラガイを調べ、全てにRTMP1を見つけたよ。次にRTMP1がどのタイミングでどこにあるのかを調べるため、RTMP1に結合する物質 (抗体) を投与してみたよ。するとRTMP1は、合成された後、歯のキチン繊維に存在することが分かったんだよね。
重要なのはタイミングと場所。RTMP1はキチン繊維に酸化鉄がくっつく前から、酸化鉄がくっつく予定の場所に溜まっていて、RTMP1はキチンと酸化鉄の両方に結合する性質を持つようなんだよね。そして歯が成長するに従い、酸化鉄の結晶度が増し、結晶度の低かった酸化鉄が磁鉄鉱へと変化するよ。
実際、キチンに結合させたRTMP1を取り出して鉄溶液に浸してみると、実際に酸化鉄の粒子が作られたんだよね。このことから、RTMP1は歯の構造の骨格となるキチン繊維に結合し、その後の歯の成長に伴って取り込まれる酸化鉄と結合し、頑丈な歯を作るための基盤となることが示唆されるんだよね。
今回の実験結果から、RTMP1はヒザラガイの頑丈な歯を作るのに欠かせない役割を持っており、室温で磁鉄鉱のナノスケール結晶を成長させるのにも間接的な役割を果たしていると推定されるんだよね。これは、磁鉄鉱を利用する私たちにとっても興味深いよ。
砂に磁石を近づけるとくっつく砂鉄の正体が磁鉄鉱なように、磁鉄鉱はかなり強い磁気を帯びる性質があるんだよね。この特性を利用し、私たちは磁鉄鉱の微粒子や微結晶をハードディスク、MRI造影剤、細胞分離、DNA抽出などの製品に利用しているんだよね。
これらの便利な磁鉄鉱の製造は、高温や有害廃棄物を伴うなど、環境負荷があまりよろしくないのよね。しかしヒザラガイは穏やかな環境で磁鉄鉱を作っていることから、何か穏やかな環境で磁鉄鉱を製造するヒントになるかもしれないよ。
また、金属酸化物をナノスケールで狙った場所に配置するのは、高精度なセンサーやメモリーを開発する上で欠かせない技術なのよね。RTMP1のように金属酸化物を引き寄せる物質があれば、そのパターン化をもっと簡単にできるようになる可能性があるよ。
さらに言えば、鉄は生物に欠かせない金属元素な一方で、過剰な鉄はがんや神経変性疾患にも関わりがあるとされているのよね。RTMP1のようなタンパク質は、鉄の量が関わる疾患の治療などの研究に、何か手掛かりをもたらす可能性も期待できるのよね。
[注1] 生体鉱物
なお、「生体鉱物 (Biomineral)」と「鉱物 (Mineral)」は別の概念です。鉱物はその定義上、生物が直接作り出した物質を排除しているためです。Biomineralと書きますが、栄養素の「ミネラル (無機質)」の方に意味合いが近い概念です。
[注2] 3種類のヒザラガイ
「ヒザラガイ (Acanthopleura japonica)」「ヒメケハダヒザラガイ (Acanthochitona achates)」「ババガセ (Placiphorella stimpsoni)」の3種類。
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)