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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「身近な木材にプラズマを照射することで作られた超黒色材料、その名も『Nxylon』」に関するお話だよ!
これまでの超黒色材料というのは、原料や製造に大きな負担となる部分があるのがネックという感じだったんだけど、今回は原料も製造方法もかなり簡単でコスト軽減につなげられるという利点があるよ!
今のところ小さな面積でしかできてないけど、それでも高級感を出す目的で腕時計が試作されるような感じで、結構面白い動きが既にある感じだね!
そして、これは研究あるあるだけど、今回の発見は全くの偶然からスタートしたよ!
CONTENTS
「超黒色材料」ってみんなは知ってるかな?これは文字通り、とても黒い色の材料だよ。といっても身近な黒いものって入射した光の96 - 98%くらいを吸収するから、それ以上黒さを極めるのか、一見ピンとこないよね?
超黒色材料に厳密な定義はないけど、最低でも99%以上の光を吸収する物質だという見方が大勢だよ。これほどの黒さを求められるのは、分かりやすい分野で言えば望遠鏡や太陽電池のような、光が直接的に関わる物質になるよ。
例えば望遠鏡の内部は黒く塗られているけど、これは淡い星の光のみを捉えるために、関係ない他の光を吸収するためだよ。ところが従来の黒色材料は、わずかに吸収しきれずに反射する光が、観測の邪魔になるんだよね。
観測の邪魔にならない最低水準が反射率1%未満なので、これが超黒色材料に注目が集まる理由なんだよね。そして多くの超黒色材料は、その微細な構造によって低い反射率を実現しているよ。
1回の光の入射では、いくら黒い材料でも反射光が生まれるよ。でもそれが2回3回と増えていけば、吸収される光の量は増えていくよね?構造で黒色を実現する超黒色材料は、まるで剣山のような構造でこれを実現しているよ。
例えば超黒色材料として比較的有名な「ベンタブラック」は、カーボンナノチューブを垂直に生やしたものだよ。また「至高の暗黒シート」と呼ばれるものは、CR-39樹脂をイオンビームで剣山に加工したものになるよ。[注1]
こんな風に剣山のような構造で超黒色材料を作るというアイデアは色々あるんだけど、原料自体や構造の加工に特別な設備がないと製造できないなどで、どうしても製造コストが高額になってしまうという欠点があったんだよね。
それがあるからという感じなのかは分からないけど、黒さで高級感を見出す製品、例えば高級車の塗装とかに使われている感じなんだよね。これについてもコストが下がればハイエンド製品への用途はもう少し広がるかもしれないよ。
こうした背景の中で、ブリティッシュコロンビア大学のKenneth J. Cheng氏などの研究チームは、超黒色材料にまつわる面白い発見をしたよ!といってもこれ、別に最初から超黒色材料を作りたくて始めた研究じゃないよ。
Cheng氏は当初、木材の表面をプラズマ (酸素グロー放電プラズマ) で処理した時に撥水性が高まるかどうか、という全く関係ない実験をしていたんだよね。ところがその実験中に面白いことに気づいたよ。
「アメリカシナノキ (Tilia americana)」という一般的な木材の、年輪などが見える断面に400W以上のプラズマ (最大350℃) を当てたところ、なんだか予想以上に真っ黒になったんだよね!
その黒さは、黒い木材として重宝されている黒檀やアフリカン・ブラックウッドを上回っており、同じアメリカシナノキを単純に炭化させたものよりも黒かったんだよね。
300 - 700nmの波長の範囲できちんと測ってみると、なんと反射率は平均0.68%しかなかったよ!吸収率に直せば99.32%なので、これは超黒色材料だと名乗っていい感じだね!
プラズマ処理したアメリカシナノキがこれほど黒いのは、先ほどの剣山のように、木材の微細な組織構造にあると予想できるね?ということで調べてみようとして、また面白いことが分かったよ。
細かい構造を電子顕微鏡で観察するには、下準備として金とパラジウムの合金を表面にコーティングする必要があるよ。ところが反射率の高い金属を塗ってすら黒かったくらいだから、理由が構造にあることが分かる感じだよ!
さて電子顕微鏡で観察してみれば、黒さの理由が細かく分かったよ。そもそも木材は細胞や導管などの細長いパイプ構造が束のように集合しているので、元から剣山っぽい構造になっているのは予想ができるよね?
ただ、プラズマ処理をしたアメリカシナノキの断面を見てみると、細胞の外側を作る「細胞壁」が表面から薄く突き出してトンガリ構造をしているという特殊な構造が見られたんだよね。
このような薄い細胞壁のトンガリは、プラズマと同じ350℃での通常の炭化処理では現れない構造だけど、2023年の研究では1500℃という超高温に晒せば生成する構造であることが分かっているんだよね。
Cheng氏らは、この2023年の研究の存在は、論文を書き始めて初めて気づいたらしいけど、この内容と比較すると、大体以下の内容が考察されるよ。
先述の通り、木材は細胞の集合体がパイプの束のような感じなんだよね。これが超高温のプラズマ処理によって、一部は燃焼しても、一部は残されることで、このようなトンガリ構造が残ると考えられるよ。
2023年の研究から考察するに、このトンガリの正体は、木材を構成する成分のうち、リグニンに富む部分の名残がそのような構造を作るらしい、と考察されるよ。
Cheng氏らは、アメリカシナノキのプラズマ処理でできるこの超黒色材料を、ギリシャ語の夜の女神、および木を意味する言葉を合わせて「Nxylon (ニクスアロン)」と名付けたよ。
Nxylonは木材をプラズマ処理して作るという点で、他の超黒色材料とは違う点があるよ。まずアメリカシナノキはかなり身近な木材で、原料自体が安価という点自体、分かりやすいメリットだよね。
また、製造にプラズマ発生装置を使うという点も有利だよ。従来の超黒色材料の製造方法と比べたら、そこまで高価で特別な装置を使うわけでもないから、超黒色材料をわりかし安価に実現できるんだよね。
ただ、天然の木材を使う以上は、どうしても反射率にムラは生じるよ。例えば年輪付近の肉厚な部分はあまり反射率が低下しないので、周りと比べて年輪が目立ってしまうんだよね。
また、この黒さは表面の1mmもない領域にしか現れないので、摩擦で簡単に黒さを失ってしまうよ。これは明確に弱点と言えるね。
とはいえこれは使いようで、例えば黒檀やアフリカン・ブラックウッドのように希少性が高すぎて規制がされているような木材に代わって、高級感のある素材としての使い方というのは考えられるよ。
既にCheng氏らは、文字盤にNxylonを使った腕時計の試作品を作っているよ。腕時計はしばしば高級感を求められるし、Nxylonの表面はガラス面で覆われていて直接の摩擦から守られているので、いいアイデアだよね。
このような構造による弱点は、一部の超黒色材料にも共通しているので、ある意味で共通の課題とも言えるね。なので用途を工夫すれば、Nxylonは使われる場所が広がると思うんだよ。
Cheng氏らは、Nxylonが天井や壁へ使えるように、タイルサイズくらいの広い面積でもNxylonを作れるかどうかを検討しているよ。これはより商業的利用法を広げるために、ぜひ成功してほしいものだね!
またCheng氏らは、大学のあるブリティッシュコロンビア州では、木材産業は斜陽だと表現しているんだよね。Nxylonを通じて産業が復活してほしい、という願いがこもっている研究でもあるわけだね!
[注1] 超黒色材料の反射率
至高の暗黒シートよりも反射率の低い材料はいくつか作成されています。ただしそれは、本文で挙げたような超黒色材料よりもさらに脆かったりするなど、実用に適さない弱点を多く抱えています。実用に適するほどの強度を考えると、反射率0.02%至高の暗黒シートが最も黒い超黒色材料としての軍配が上がります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)