隠れた真実を暴き出せ! 犯罪捜査を科学する!

2024.01.11

 年が明けて早くも10日以上が経った。いつだって心穏やかな毎日を過ごしていたいものだが、悲しい事に犯罪に巻き込まれてしまう事もある。犯罪の被害に遭った時に頼る所といえば、もちろん警察だ。これを忘れないため毎年1月10日は110番の日に設定されている。

 

 被害に遭った際に、何が起きたのかを客観的な視点から明らかにするのはとても大切だ。しかしながら、事件が明らかになった時、大抵の場合ことは済んだ後であり、過去を遡らなければその時の様子を見る事はできない。それでは、警察ではどのように全貌を明らかにしているのだろう? 

 そこで今回は、犯罪捜査にどのような科学技術が利用されているのかについて解説していく。

 

 

少し詳しく 〜犯行現場で何が起きたか?〜

 2024年1月現在、私たちは時を遡って過去に行くことはできない[注1]。しかしながら、過去に何が起きたかを見ることは一部だが出来る。すなわち映像の記録だ。

 

 とはいえ、すべての映像が鮮明に映っているわけではない。画質や画角などの問題で、何かが起きているのは分かるが細かい部分はよく見えないというパターンも多々ある。そのため、映像から正確に情報を得るには、解像度を上げてやる必要がある。それではどのように解像度を上げるのだろうか?

 

 そもそも、不鮮明に見えているというのはどういう状況なのだろう。

 

 現代のカメラの映像データは、ピクセルという正方形に色を付けたものを無数に並べて一枚の画像にし、画像を時系列順に並べて1つの動画にするというものだ。

 

 鮮明に見えている場合、異なる物のピクセルはそれぞれくっきりと異なる色になる。一方、不鮮明な映像の場合、それぞれの物の境界のピクセルは中間色のような色になってしまう。そのため境界線が不鮮明になり、ボヤけてしまうのだ。

 

 しかしながら、動画は連続した画像の集合だ。ある瞬間の画像では中間色を出力したピクセルであっても、次の瞬間では本来の色を出力したピクセルになっているかもしれない。

 

 そうして本来の色を出力したピクセルだけを選んでいけば、やがて本来の色だけで構成された一枚の画像が出来上がる。これによって、不鮮明な映像から鮮明な画像を作り事ができるというわけだ。

 

 このように、複数の画像のピクセルを選び、鮮明な画像を作り出す手法をマルチフレーム超解像処理という[注2]

 

 マルチフレーム超解像処理により、不鮮明な映像を鮮明な画像に出来る事がわかった。しかしながら、これは結局データ上で行われた処理である。現実世界で確かに起こった出来事だと明らかにするには、犯行現場から実際に見つかった物を明らかにする必要がある。それでは、犯行現場から見つかった物質は、どのように分析されているのだろうか?

 

 続いて、正体不明の物質を分析する手法について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜犯行現場で何が見つかったか?〜

 正体不明の物質は、当たり前だが正体不明だ。毒か無毒かといった性質以前に、混合物か純物質かすら判断できない。そのため分析はまず、それぞれの物質の分離を行うところから始まる。

 

 どのように分離を行うのかを考えるため、こんな実験を考えてみよう。

 

 用意するのは、同じ長さに切りそろえて、まっすぐに張った2本のロープだ。1本の先端には鉄を、もう一本の先端には同じ重さの紙の束を括り付けてやる。これらを同じくらいの力で巻き取って欲しいのだが、ここで1つ考えてほしい。

 

 もしも道中のあちこちに強力な磁石が設置されていたら、巻き取る速さはどう変わるだろうか? 

 

 紙の束の場合は特に問題なく巻き取れるだろう。けれども鉄の場合、あっちでバチン、こっちでカチンと少し進む度に磁石に吸い寄せられて中々進まない筈だ。

 

 この、物の性質によって同じ環境でも進み方が変化するという方法は、物質の分離にも利用できる。

 

 正体不明の物質を水に溶かし、油に馴染みやすいビーズにかけてやる。するとどうなるだろう。薬品の中に含まれる水に溶けやすい分子は水と一緒にすぐ流れ出てしまう。しかしながら、油に溶けやすい分子は中々流れ出てこない筈だ。水に溶けているよりビーズに吸着している方が馴染むからだ。すると、物質を同じように水に溶かした筈なのに、進み方に違いができる。ちょうど、鉄が磁石に吸い寄せられて進まなくなったのと同じだ。

 

 このように物質の吸着性の違いを利用して、混合物から物質を分離する手法をクロマトグラフィーという[注3]。分離した物質はさらに質量分析という装置にかけられ、分子構造が同定される。こうして、どんな物質が犯行現場から見つかったかを明らかにする事ができるという訳だ[注4]

 

 クロマトグラフィーによって、混合物から物質を分離可能な事がわかった。これにより、何が起きたか、何が見つかったかを明らかにする事ができたわけだが、まだ根本的な部分が明らかになっていない。そこに誰がいたか、だ。これは科学捜査の花形であるDNA鑑定によって行われる。

 

 続いてDNA鑑定がどのように行われているかについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜犯行現場に誰がいたか?〜

 DNAはヌクレオチドという物質が長く繋がったひも状の物質だ。ヌクレオチドには塩基と呼ばれる物質が含まれており、生物の場合アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類を利用している[注5]。このA・T・G・Cの塩基配列の組み合わせや長さが生物種だったり、個体を形成するのに重要となるわけだが、配列の中には同じ塩基が繰り返されている領域がいくつか存在する。

 

 繰り返し領域は、誰もが持っているが、何回繰り返されているかは違うという特徴がある。そのため、この繰り返しの回数を調べる事で、本人しか持ち得ないDNAの型をとる事ができるという訳だ[注6]

 

 とはいえ、ここで1つ疑問が浮かぶ。いくら繰り返し回数に個人差があると言っても、1回〜数十億回までの幅で網羅しているのだろうか? もちろんそんなことはない。それでは、同じパターンがあるかもしれない繰り返し配列を使って、なぜ個人を識別する事ができるのだろうか?

 

 たしかに、一箇所あたりの繰り返し回数はせいぜい数回程度だ。そのため、ある一箇所だけで見れば赤の他人と型が一致してしまうことは十分あり得る。一箇所だけで断定できないのなら、調べる箇所を増やせば良い。

 

 現在、科学警察研究所すなわち科捜研では、10箇所以上の座位を使ってDNA型を調べている。これによって4兆人以上の中から、特定の1人だけが持つDNA型が鑑定できるという訳だ。

 

 ここまで、犯罪捜査に使われる科学技術について解説してきたが、いかがだっただろうか? もちろん、ここで紹介した方法や技術が科学捜査の全てではない。筆跡鑑定や心理学的な分析など様々な面から証拠を見つけていく。ドラマなどで証拠が見つかった時、どういう手法で明らかにしたものなのか想像してみるのも良いかもしれない。

 

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが防犯に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜防犯を考える〜

省エネな防犯カメラ

 防犯カメラの普及に伴って、施設や店舗のみならず家庭用のものを設置している家庭も増えてきている。導入に際して気にすることと言えば、価格はもちろんのこと何より性能(ルビ:スペック)だろう。解像度やフレームレート、消費電力、連続録画時間など気にする項目は山のようにある。「画質は8k相当ですが、稼働するまでに3分かかって2分しか撮れません」ではお話しにならないからだ。

 

 防犯カメラの性能の項目の1つに、CPUすなわちコンピューターへの負荷の大きさがある。余力の小さい防犯カメラを常時稼働させておくことは、エネルギー的にもコンピューターに対してもメリットがないからだ。この課題に対し、低負荷な防犯カメラをパーツ構成とシステムの両面から構築しようという研究がある。省エネルギー高スペックの防犯カメラが一歩ずつ実現しているようだ。

 

 

防犯ガラスの性能を評価する

 私たちは普段、『家』という名の巨大な箱の中に、貴重品や宝物をしまっている。しかしながら世の中には、それを無理やりこじ開けて中の物を奪って行ってしまう不届き者もいる。ご存知、泥棒だ。

 

 警察庁の報告によると、泥棒の侵入手口として最も多い方法が、無施錠箇所からの侵入。次いでガラス破りと続いている。したがって、戸締りと同じくらい、ガラス窓についても日頃から意識する必要がある。しかしながら、防犯ガラスの性能を意識しろと言われても、少しピンとこない。

 

 防犯ガラスの性能を、光を使って評価しようという研究がある。防犯ガラスは、2枚のガラス板で中間膜という膜をサンドイッチする事で作られている。中間膜とガラスは別の物質なので、吸収する光の波長が異なる。この特性を利用して、防犯ガラスの性能を非破壊で評価できないかという試みだ。

参考文献

  • 平岡 義博. 『法律家のための科学捜査ガイド ──その現状と限界』. 法律文化社.

  • 科学警察研究所

  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

  • 深井 裕二. 『高品質動画処理のための低CPU負荷監視カメラシステムの開発』. 北海道科学大学研究紀要 (49) 43-48, 2021-09-30.

  • 警察庁 住まいる防犯110番

  • 小野川 竜司ら. 『窓ガラスの光学的な防犯性能評価方法の提案』. 産業応用工学会論文誌 2023年 11 巻 1 号 13-21.

脚注

[注1] 「2024年1月現在」という表記をわざわざ入れる必要はあったのだろうか? と思わなくもないが、技術は日進月歩なのでもしかしたら完成間近だったりしているのかも知れない。タイムマシンがあったら皆さんは何がしたい? 葉月は100年後とかの未来に行ってみたい。 (本文へ戻る)

[注2] また、防犯カメラは固定されているため、似た人物が複数の映像に出たり入ったりすることもある。明確に同じ人物と分かれば良いが、そうではない場合、歩く様子を解析して同じ人物かどうかを判別する、という技術も開発されている。防犯カメラは我らの街の強い味方なのだ。 (本文へ戻る)

[注3] クロマトグラフィーによる分離は溶けやすさだけに限らない。例えば、細かい穴の開いたビーズを使えば、小さな分子は穴に入って速度が遅くなるが大きな分子は素通りするので早く出てくる、といった分子サイズの違いを利用した方法もある。 (本文へ戻る)

[注4] もちろん、この手法で全ての物質を明らかにしているわけではない。機器分析と同じくらい重要になるのが、五感だ。臭いはどうだったか、目や鼻に刺激はなかったか、発見されたのはどんな場所からだったかなどの情報も考慮して、総合的に判断する。捜査において先入観は禁物なのだ。 (本文へ戻る)

[注5] 「生物の場合」とわざわざ明記したのは、DNA自身はあくまでも物質であるため、様々な構造が考えられるからだ。DNAがただの物質ということは、ヒト由来かアリ由来かといった事に意味はない。DNAに意味があるとすれば、A・T・G・Cの配列だけだ。 (本文へ戻る)

[注6] DNA型の鑑定は個人の識別だけでなく、親子鑑定にも利用されている。DNA型は個人に特徴的な配列のパターンだが、元を辿れば両親から受け継いだDNA配列を半分だけ持っているからだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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