2024年は辰年! 迷信の絶えないリュウグウノツカイの実際の生態

2024.01.01

 2024年の干支は「辰」である。水族館では辰に関連するお魚として、タツノオトシゴなどを取り上げると思うが、本記事では冬によく打ち上ったりして話題になるリュウグウノツカイを取り上げよう。

 

 

リュウグウノツカイが打ち上がるのは地震の前兆?

 

「リュウグウノツカイは幻の深海魚で、この魚が打ち上がることは天変地異もしくは大地震の前兆を意味するので、みんな気を付けた方がいい」

 

……誰もがこういった話を一度は聞いたことがあるはずだ。実際、2023年1月にリュウグウノツカイが日本各地で目撃や漁獲、打ち上げられた時には地震と関連付けられたニュースが流されていた。リュウグウノツカイと地震を関連付ける人々は、「深海魚は震源地に近い深海に生息しているので、地震の前兆となるシグナルを一早く感知し、異常行動として表層の方に上がって来る」という一見最もらしく聞こえる話を言ってくるが、その仮説に科学的な裏付けがある訳ではない。

 

 結論を先に言うと、リュウグウノツカイと地震の関係は、Orihara et al. (2019)によって完全な迷信と結論付けられている。何故言い切れるのか? 調べる方法は簡単である。リュウグウノツカイが目撃・漁獲・打ち上げられた後の数日以内に、その場所周辺で大地震が起きていたかどうかについて過去の記録と照合すればいい。前兆は日や場所が離れれば離れるほど関連性が低くなるので、例え日本でリュウグウノツカイが出現した時に海外で大地震が起きたとしても、それは関係が無いと普通は考えるだろう。

 

 Orihara et al. (2019)の結果は言わずもがな、リュウグウノツカイの出現後、大地震はほぼ起きていなかった。これは実際2023年1月に大地震が起きていなかったことからもお分かりいただけることだろう。元々関係の無い複数の出来事を結び付けて相関・関連があると思い込む現象は「錯誤相関」と呼ばれ、リュウグウノツカイと大地震はまさに「錯誤相関」の典型的な例である。

 

 

リュウグウノツカイについて分かっていること

 リュウグウノツカイに関して分かっていることはまだまだ少ないが、現在明らかになっている知見をもう少し深掘りしてみよう。

 

分類と分布域

 リュウグウノツカイはアカマンボウ目リュウグウノツカイ科リュウグウノツカイ属に属する魚類で、日本近海では北海道から沖縄県まで日本各地での出現が記録されている。意外なことに分布域は広いようだ。

 

 リュウグウノツカイ属は従来1属1種とされてきたが、2012年に遺伝的・形態的に異なるRegalecus russelii (Cuvier, 1816) とRegalecus glesne (Ascanius, 1772)の2種が含まれていたことが明らかとなった(「Systematics, biology, and distribution of the species of the ocean oarfish genus Regalecus ( Teleostei, Lampridiformes, Regalecidae」という厚い専門本で提唱された)。

 

 両種とも世界中に広く分布しているが、日本近海では今のところ Regalecus russelii の方しか見付かっておらず、標準和名リュウグウノツカイはこの学名の種に当てられる。日本では見付かっていない Regalecus glesne の方はまだ標準和名が無いようだ。リュウグウノツカイのタイプ標本は1984年8月24日に土佐湾の定置網で漁獲された全長394 cm以上の個体で、高知大学に保管されている。

 

外観による2種の違い

 リュウグウノツカイと Regalecus glesne の分類形質は畑ら(2018)に詳しく書かれているが、外観的に識別しやすい形質は、背鰭せびれ軟条なんじょう数(リュウグウノツカイは333~371本、Regalecus glesne は414~449本)と頭からビローンと長く伸びる背鰭せびれ棘条きょくじょう数+遊離棘ゆうりきょく数(リュウグウノツカイは3~6+1本、Regalecus glesne は6~8+5~11本)である。要するに赤い背鰭せびれが種を識別する重要なポイントだ。

 

 1例として、私が特任マンボウ研究員をやっている海とくらしの史料館にあるリュウグウノツカイ属の剥製(上の写真)が、どちらの種か、背鰭せびれ棘条きょくじょう数+遊離棘ゆうりきょく数で同定してみよう。剥製の背鰭せびれが伸びている部分に注目すると、背鰭せびれ棘条きょくじょうは5本、鰭膜きまくが付いている遊離棘ゆうりきょくは1本だ。これは Regalecus glesne ではなく、リュウグウノツカイ Regalecus russelii の特徴なので、正真正銘リュウグウノツカイと言えるだろう。

 

 また、リュウグウノツカイは体の最後端に小さな尾鰭おびれがあるので、欠損個体かどうかは尾鰭おびれの有無を確認することで判断できそうだ。何故なら、リュウグウノツカイは尾部の骨格構造が緩く、捕食者に対して自切する(自分で体を切り離して逃げる)と考えられている。リュウグウノツカイは腹鰭はらびれを持つが臀鰭しりびれが無い、という点ではマンボウ類とは真逆である。

 

最長サイズ

 リュウグウノツカイはその特徴的な赤い背鰭せびれと体サイズから、昔の人がいう人魚を指しているのではないかとも言われている。これは人と同等・それ以上に長いことからきており、最長で8 m弱になることが確認されている。私はリュウグウノツカイ属の最長記録について調査したことがあるのだが、どうも Regalecus glesne の最長記録も8 m弱になるようで、どちらの種がより長いのかは、2種が混同されていた時代の記録なので、よく分かっていないようだ。よって、世界最長硬骨魚はリュウグウノツカイ属と属レベルになっている。

 

 ギネス世界記録では約15.2 m の Regalecus glesne の記録が示されているが、リュウグウノツカイの論文では最長8 mと書かれているものが多かったので、将来的に再検討する必要があるだろう。

 

人工授精・孵化の記録

 リュウグウノツカイは沖縄美ら島財団研究センター(Oka et al., 2020)によって人工授精・孵化に成功した例がある。

 

 2019年1月、定置網に生きたリュウグウノツカイ2個体が漁獲されたが、死亡し、それぞれ解剖すると成熟した卵巣と精巣があったため、卵と精子を合わせて水槽の水温20.5~22.5℃で孵化を試みた結果、いくつかの受精卵は発生を続け18日後に孵化に成功した。

 

 リュウグウノツカイの受精卵は直径 2.07~2.20 mmだったが、孵化仔魚しぎょ脊索せきさく長5.5~6.3 mmであった。リュウグウノツカイの孵化仔魚しぎょ 6 mmが成魚 8 mに育つには1333倍以上長くなることになる。リュウグウノツカイの孵化仔魚しぎょは他の魚類同様に透明で、成魚のように銀色ではない。リュウグウノツカイの仔魚しぎょは主に胸鰭むなびれで遊泳し、餌のプランクトンが体に触れると、尾(まだ尾鰭おびれは形成されていない)を使って素早く移動した。水平に泳ぐこともあったが、下向きの姿勢でいる時間が多かった。

 

 

繁殖のために水面にあがっている可能性も?

 Oka et al. (2020)の事例では親は冬に成熟した個体が漁獲されたが、先行研究では夏にマーシャル諸島周辺でリュウグウノツカイの卵が確認された事例もあったので、産卵期が長いのかよく分からない。また、先行研究では座礁した個体が成熟した生殖腺を持っていたので、Oka et al. (2020)の漁獲例も合わせると、繁殖のために水面に上がって来ている可能性がある。

 

 この仮説は結構当たっているかもしれない。何故なら、2020年2月15日に福井県越前町大樟の漁港でリュウグウノツカイ2個体が寄り添うように泳いでいる映像が撮影されている。また、2023年1月17日、富山県氷見市沖の定置網でも生きているリュウグウノツカイ2個体が同じ網で漁獲されて海に戻された。これら2例はもしかしたら雌雄ペアだったのかもしれない。

 

 また、深海が近い沼津ではリュウグウノツカイの幼魚が水面近くで撮影されており、リュウグウノツカイの胃内容物からはオキアミ類が大量に出てくることから、表層から中深層の間を鉛直移動している可能性も推察されている。意外に表層と深海を行ったり来たりしているのかもしれない。

 

まだまだ謎が多い

 リュウグウノツカイの孵化仔魚しぎょは下向きで主に胸鰭むなびれを使って泳いでいたが、成魚は上向きで背鰭せびれを使って泳ぐことが知られており、泳ぎ方や姿勢が全く異なっている。この理由はよく分かっていない。リュウグウノツカイの孵化仔魚しぎょにワムシとブラインシュリンプを餌として与えたが、全く食べずに全個体死亡した。あくび行動は見られたのに何故餌を食べなかったのかは最大の謎としている。

 

 

このように、リュウグウノツカイもまだまだ研究の余地がある。ニュースでは迷信的な話ばかりで話題になることが多いが……実際の生態の面白さでも話題になって欲しいと思う。

 

ちなみに、リュウグウノツカイも食べられる魚である。

 

 

今日の一首

 大地震
  リュウグウノツカイ
   迷信で
    実際の生態
     まだまだ不明

参考文献

西村三郎.1962.捕獲状況から考察したリュウグウノツカイの生態.横須賀市博物館研究報告, 7: 11-21.

林公義.2013.リュウグウノツカイ科.In: pp. 480, 1866.中坊徹次(編) 日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,神奈川.

畑晴陵・藤井琢磨・本村浩之.2018.奄美大島から得られたリュウグウノツカイ.Nature of Kagoshima, 45: 123-127.

Orihara Y, Kamogawa M, Noda Y, Nagao T. 2019. Is Japanese folklore concerning deep-sea fish appearance a real precursor of earthquakes? Bulletin of the Seismological Society of America, 109: 1556-1562.

Oka S, Nakamura M, Nozu R, Miyamoto K. 2020. First observation of larval oarfish, Regalecus russelii, from fertilized eggs through hatching, following artificial insemination in captivity. Zoological Letters, 6: 4.

小矢野.2022.リュウグウノツカイの謎.ジオフィールド,57: 1-2.

Sawai E, Nyegaard M. 2022. A review of giants: examining the species identities of the world's heaviest extant bony fishes (ocean sunfishes, Family Molidae). Journal of Fish Biology, 100(6): 1345-1364.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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