マンボウの子どもが主役の謎めいたアニメ「すいぞくかんのペイコン」 制作元の東映アニメーションに突撃取材!

2023.12.26

 東映アニメーションと言えば、「プリキュア」シリーズや「ワンピース」シリーズなどで有名なアニメ制作会社である。私も子どもの頃からお世話になっているアニメ制作会社だが、そんな東映アニメーションから、2022年8月1日に突如新作オリジナルアニメ「すいぞくかんのペイコン」が公表された。この情報をX(旧Twitter)で知った私は、水族館系のアニメかと思って映像を見にいって驚いた! なんとマンボウの稚魚が主役なのである。

 

 

これはマンボウ研究者として見逃すことはできない!

今回はこの「すいぞくかんのペイコン」について、じっくり解説していく!

 

 

「すいぞくかんのペイコン」とは?

 アニメの紹介には、

小さいけれど好奇心はだれよりも大きいマンボウのこども「ペイコン」が冒険し
様々な生き物と知り合っていく水族館アドベンチャーコメディ

とあった。

 

 さらに関連情報を調べると、アニメ公表時点で既にサンシャイン水族館、 しながわ水族館、 横浜・八景島シーパラダイスとのコラボイベントが告知されていた。

 

 また、独自のホームページがあり、Youtubeには6分50秒のミニアニメが1本投稿されていた。ミニアニメを見てみると、この後も続くような感じで終了している。これはYoutubeを中心として、定期的にミニアニメが追加されていく最近のアニメ展開なのだろうか……?

 

 

 しかし、最初のミニアニメが投稿されてから、1年以上続編のアニメがYoutubeに投稿されていない。大々的な宣伝も行われている気配が無い。一方で、Xは時折更新され、水族館とコラボしている様子が投稿されている。

 

 そして、2023年12月12日時点でXのフォロワー数は136人。東映アニメーションが運営しているにしてはフォロワー数が少な過ぎる……。

 

 水面下で動いている感が否めないこのコンテンツは一体何なのか? これはもう「すいぞくかんのペイコン」のスタッフに、何を目的としたコンテンツなのか直接聞いてみないといけない! そう思った私は「すいぞくかんのペイコン」の制作スタッフについて調べ、なんとかプロデューサー(以下、谷上P)の方にコンタクトを取ることができた。

そして2023年12月、オンラインでの突撃取材という形で、疑問に思っていることをぶつけてみたのである!

 

 

なぜマンボウの稚魚を主人公にしたアニメを作ったのか?

 私の一番の疑問は、何故マンボウの稚魚を主人公としたアニメを作ったのか? ということである。これについて谷上Pは「元々水族館が好きで、水族館をテーマにしたアニメをいつか作りたいと考えていた」と話を始めてくれた。

 

 谷上Pが主に仕事にしているのは、東映アニメーションの中でも「おしりたんてい」など子ども向けのコンテンツであった。子どもが楽しくアニメを見て、何か学びも得ることができる長期的なアニメの制作を思い描いていた。

そんなある時、横浜・八景島シーパラダイスで泳いでいるマンボウを見て、その体の不思議さに衝撃を受けたという。マンボウという生き物は子どもの頃から知っていたが、その時は異様にマンボウの形態に惹かれるものがあった。マンボウは魚類の長い歴史の中で考えると、比較的最近現れた分類群なのに、どうしてあんな形に進化したのか?と気になった。

 

 脚本家の森崎洸貴さんとアイデアを出し合いながらマンボウに関する情報を調べていくうちに、マンボウの子どもは金平糖みたいな形で、大人の形とは全然違うことを知り、また衝撃を受けた。マンボウの大人は体が大きいのに、子どもはかなり小さい。マンボウの生態はまだまだ謎が多い。マンボウは多くの人が知る身近な存在でありながら、特に子どもはその不思議さを体現しているような存在に思えた。マンボウの稚魚が谷上Pの思い描いていたものと合致した。

 

 ある程度ストーリーが固まってきたところで、キッズ向けの作品になじみがあり、生き物のアニメーション作品を手掛けたことがあるアニメーション作家さんを探し、田中美妃さんに出会った。田中さんとやりとりを重ねながらキャラクター案が固まっていくと、アニメを作るスタジオを探した……という風に、様々な人に声を掛け、巻き込み、一つのアニメプロジェクトとして徐々に形が作られていった。

 

 このように、「すいぞくかんのペイコン」はゼロから自分達で作っていった東映アニメーションの完全なオリジナルアニメなのだ。

 

 

長期的視野を見据えて

 しかし、オリジナルアニメは、既に売れている原作をアニメ化することと違い、知名度が低いという大きな問題がある。特に「すいぞくかんのペイコン」は、若い作り手を積極的に採用し、所謂大御所クリエイターのネームバリューもない。

アニメ制作会社がオリジナルを手掛けるも、知名度の低さに話題になることすらなく1クールで消えていったオリジナルアニメは数知れず……厳しい話だが、そういう現状がまさに今の「すいぞくかんのペイコン」公式Twitterのフォロワー数にも表われている。

 

 普通のアニメならこの現状は結構厳しいと思われるのだが……谷上Pは長期的視野を見据えており、今はそれほど問題視していないそうだ。

 

「すいぞくかんのペイコン」は長期的なコンテンツにしようと考えており、アニメを1本公開したと言えど、今はまだまだプロジェクトも試作段階にあるような状態。今後、シリーズ化の展開も想定しているが、今はまだ大々的な宣伝は行わず、こつこつコンテンツを増やして少しずつTwitterで発信している、ということであった。

 

 この現状が、私が水面下で動いているように感じられたプロジェクトの裏側であった。

 

 

水族館との積極的なコラボ

 一方で、少しずつ認知度を上げていくためにも、水族館などとのコラボは積極的に行っている。このアニメの監修は四国水族館が行っており、既に四国水族館、横浜・八景島シーパラダイス、しながわ水族館、サンシャイン水族館、海と日本プロジェクト、幼魚水族館、桂浜水族館、私が以前記事を書いたSAKANA BOOKSともコラボを行っていた。

 

 これは谷上Pをはじめとして、「すいぞくかんのペイコン」の制作スタッフは、水族館好きが集まっていることとも関係している。「すいぞくかんのペイコン」は子どもが見て楽しい作品にしたいとの思いがあり、制作現場もみんなで和気藹々と楽しい雰囲気でやっているそうだ。スタッフの作品愛も強いのだという。

 

 現状ではまだ本のしおりとステッカーしかグッズはないが、試作品として作ったぺイコンのぬいぐるみは可愛らしく、スタッフもお気に入りで、今後グッズ化したいとのことだ。マンボウの稚魚グッズは非常に少ないので貴重である。私も欲しい。知り合いの海外のマンボウ研究者も喜びそうだ。

 

 ちなみに、ぺイコンの名前は、マンボウの稚魚が金平糖に似ていることに由来して発案されたのだという。

 

 

水生生物をメインに描く挑戦作!

 映画を除き、魚のアニメと聞かれてパッと思い浮かぶものはあるだろうか? 水族館や釣りのアニメはいくつかあるが、それらは結局人間ドラマである。主役は魚類ではない。

 

 漫画もそうだが、魚類が主人公のエンタメは何故か人気が出ずにすぐ終わってしまう印象がある。そんな中で「すいぞくかんのペイコン」は人間ではなく、魚をはじめとした水生生物(擬人化させている部分もあるが)をメインに推している! これは今までにない、ある意味アニメ界の穴場のコンテンツであり、挑戦的な試みだと私は感じている。

 

 谷上Pも魚類はある程度デフォルメしないと……特に正面顔は表情を付けるのが難しいと言っていた。また、例えばライオンは強い、ウサギは寂しがり屋等、ある程度動物による性格のイメージが付いている哺乳類はキャラクター化がしやすいことに対し、魚類はどんな性格をしているか分からないため、今までキャラクター化しにくかったのではないかと分析していた。

 

 

こだわりと、込めた願い

「すいぞくかんのペイコン」を作る上での密かなこだわりとして、アニメではキャラクターをデフォルメしつつも、水族館で実物を見た時に、そのキャラクターだとすぐに分かるような形態的特徴は残したいと語っていた。

また、水族館の生き物をテーマとしたアニメは大抵、最後は水族館から出て自然の海へと帰っていく作品が多いが、「すいぞくかんのペイコン」は水族館から出ない方向で作っていきたいという。

それはこの作品を通して、水族館は新しい好奇心に出会う場所であることを、子どもをはじめとした多くの人に知って欲しいという願いが込められているからである。「すいぞくかんのペイコン」から感じて欲しい一番のメッセージは好奇心なのだという。

 

 ぺイコンは最近のアニメによくあるチート系の優秀なキャラではないが、何事にも好奇心を持って、困難があればうまくいかなくても諦めずに自分なりに考えたことをやってみるという、そういうキャラクターである。

 

 

10年後、20年後も続いていってほしい

 好奇心が原動力なのは研究者も同じだ。谷上Pに今後研究者とコラボすることはどうなのか?と聞いてみたところ、大歓迎とのことだった。

子ども向けのアニメとなると、アニメの中に内容の詳しい解説を盛り込むことは難しく、また子どもが見て楽しんでもらうためには娯楽的要素を強くする必要があり、情報の正確性と簡略化の塩梅も難しくなる。必要な時に研究者も巻き込んで、監修であったり、一緒にやるというのも良いのかもしれない。

 

 倉地ら(2004)によると、長く使われ続けている子ども向けのオリジナルキャラクターは、昔から擬人化された動物が多いと示唆されているので、10年後、20年後もこのアニメがずっと続いていくことを期待したい。私は応援している。

 

 それに、フォロワー数が少ない今なら、まだまだこのアニメを初期から知っていた古参と言い張ることができるだろう。

 

 この記事を読んで興味を持った方は是非、「すいぞくかんのペイコン」のTwitterをフォローして、過去の投稿にも目を通して欲しい!

 

参考リンク

すいぞくかんのペイコン【公式】(X:旧Twitter)

公式サイト

 

 

今日の一首

 東アニの
  新しい企画
   ぺイコンは
    マンボウの稚魚が
     主役のアニメ

参考文献

倉地辰幸・長谷川恵子・今西千恵子.2004.子ども向けオリジナルキャラクターデザインの開発.愛知県産業技術研究所研究報告,(3): 90-93.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

このライターの記事一覧