フレンドリーなお姉さんが運営する新宿の魚特化型本屋「SAKANA BOOKS」に行ってみた

2022.12.16

 最近、新宿に魚特化型の小さな本屋ができ、そこには話し好きのフレンドリーなお姉さんがいるらしい……そんな噂を聞き付け、私は今回その真相を探るべく、曙橋駅に降り立った。新宿にあるといっても新宿駅近くではないことに注意が必要だ。その本屋の名前は、SAKANA BOOKS。いかにも魚類の本がたくさん置いていそうな名前だ。Twitterでもある時話題になったし、魚類学者の端くれとして一度は足を運んでおきたいと思っていた。

 

SAKANA BOOKSに到着

 SAKANA BOOKSの開館情報は主にTwitterで発信しているとのことで、ツイ廃の私にとっては有難い。事前に訪問日を伝えておいた。訪問日当日、「開館が10分ほど遅れます」との連絡が! 既に近くまで向かっていたのだが、問題ないと返事を返した。Google地図を頼りにSAKANA BOOKSを探していると……四角いガラス張りの白い建物に到着。



 とりあえず重い荷物を雨に濡れないような場所に置かせて頂いて周辺を探索すると、釣り地蔵なるものが!



 そう、SAKANA BOOKSとは、株式会社週刊つりニュース本社の一部署で、2022年7月2日にグランドオープンした本屋だったのだ! 釣りを扱う会社だからこそ釣られる魚を供養する地蔵もあるのかと感心した。
 しばらく建物の外で待っていると、開館したとのツイートを発見。早速中に入ってみることに……。

 

 むっ、これだけか……噂で小規模とは聞いていたが、確かに小さい……。想像していたよりも小規模だったので実はちょっとがっかりしたのだが、棚に陳列している本を見ると結構知らない本や最新の本が揃っていた。こ、これはついつい本を手に取って中を覗いてみたくなるぞ! 専門書はそれなりに高いし、中を覗いてみてから購入するかどうかを検討したいという人にも有難い。

この店唯一の店員であり、未来の名物店長?と会う

 一通り本を物色して、いよいよ受付にいる噂のお姉さんに話し掛けてみる。事前にTwitterでやり取りしていたので、お姉さんも私のことをすぐ察して頂けたようだ。SAKANA BOOKSはこのお姉さんと社長の二人で運営しているとのことだが、このお姉さんが店長かつ唯一の店員になるので、お姉さんの都合によって開店が遅れたりするとのことだった。とりあえず現場に取材に行ったという証拠に一緒に写真を撮らせて頂いた。



 笑顔が板についている、この滲み出るフレンドリーさは写真からでも伝わるのではないだろうか? 噂に聞いていた通り、店長は話好きで、結構しゃべる。このトーク力はもしや……と思って聞いてみたら、ヲタク気質との自認があった。SAKANA BOOKS唯一の店員であり、名物店長としてこれから人気が出てくる気配を感じたため、店長を少し深掘りしてみる。店長のフットワークは結構軽く、北海道に行った数日後に沖縄に行くということは普通にするらしい。水族館が大好きで、既に75館訪問したとか。推し水族館の生きものが他の水族館へ引っ越してしまうと聞きつけ、水族館ヲタク仲間とその引越しを追いかけたこともあるらしい。最推しの魚はカエルアンコウ。今年7月に新標準和名が提唱されたばかりのピエロカエルアンコウも既に知っており、その魚が飼育されている沖縄美ら海水族館にも既に訪問済みだ。奈良に引き籠っている私とは大違いである。今まで推しのカエルアンコウがいたのだが、約1年ぶりに再訪した別の水族館で店長の指の動きによく反応してくれたカエルアンコウ個体に最近心が揺らいでいるのだとか。確かにペットも構ってくれる方が嬉しいですよね。カエルアンコウの好きなポイントは胸鰭の付け根の部分(人間で言うと脇的な部位)らしい。野望はカエルアンコウの本をSAKANA BOOKSに並べることで、書いてくれる研究者を絶賛大募集中だ! 釣りも好き、魚を飼うのも食べるのも好きと、話を聞けば聞くほどさかなクンにも引けを取らない伝説がいろいろ出てくる(さかなクンはまだ来店していないとのことで、いつか来るその日を楽しみにしているそうだ)。最近この手の人と会っていなかったので店長の話はとても面白かった。てっきり水産系の大学出身かと思いきや全くそんなことはなく、週刊つりニュースで長年働いているのかとも思いきやSAKANA BOOKSのスタッフ募集を見付けて今年転職してきたばかりだった。今回初対面であるが、店長は天職を得たのではないかと私は感じた。読者の方もSAKANA BOOKSに行った際は、店長に気軽に話し掛けてみることをおススメする。楽しいぞ!

 

併設されている釣り文化資料館へ

 SAKANA BOOKSは元々週刊つりニュースの応接室だったが、コロナ禍で来訪者も減り、スペースが勿体ないので何か活用できないかと考えた結果、本屋がいいのではないかという考えに至った。SAKANA BOOKSの隣には「釣り文化資料館」があり、こちらは建て替える前の1989年から開設されていたという。私も東京には何度も来たことがあったが、この資料館の存在は今回初めて知った。釣り文化資料館はSAKANA BOOKSと同じ開館時間内で、無料で入館できる。釣り文化資料館の方にも入ってみた。

  竿、リール、ウキ、網、籠……私はすっかり釣りをやらなくなった人間なので、昔はこんな釣り具だったのかーという一般の人と同じような感想しか抱けないが、釣り人など見る人が見れば結構面白い展示物なのではないかと思う。こういうありふれた消耗品は時代と共に姿を消していくものだ。寄贈品も結構あった。私が釣り文化資料館の中で気になったのは、釣り具よりも寧ろ本棚の方である。古書はあまり出回っていないものもある。マンボウ類の情報が載っていないかとつい気になってしまう。いつか時間がある時に古書を調べさせてもらおうかなと思った。

魚、水族館への愛と、思わぬつながり

 再び、SAKANA BOOKSの方に戻り、今度はじっくり拝見させてもらう。と、一番気になったのは全国の水族館パンフレットが一覧に置かれているコーナーだ。ここまで大規模に水族館パンフレットが集まっているところは見たことがない。店長に話を聞くと、1館1館問い合わせて、パンフレットを送ってくれるようにお願いしたのだという。素晴らしい地道な努力だ。また話を聞くと、私の運営しているマンボウなんでも博物館ホームページの「日本の水族館マップ 」も活用していたのだとか。いやー、思わぬ形で活用されていて日本全国の水族館マップのページを作って良かったと嬉しくなった。



 あ! 私の所属している海とくらしの史料館のチラシもあった!

 

 本を見て回っていると、色紙にサインを書いたものがいくつか置かれていた。私の著書も置いて下さっていたので、図々しくも来店記念のサインを書かせて頂いた。

 来店記念のノートは置かれていないのだが、代わりに「おさかなポスト」というコーナーがある。ここに来店記念の感想を書いて入れると、後日、Twitterで店長がコメントしてくれるとのことだ。過去には恋愛相談の投書もあったらしい。

 

「SAKANA」に込められた想い

本棚は魚の本がメインであるが……実は魚以外の本もちょこちょこ混じっている。来店者にイルカやペンギンの本はないのか?と聞かれるそうだ。ここは魚の専門店だぞ!と私なら言うところだが、SAKANA BOOKSのSAKANAは魚類だけを指すのではなく、魚を取り巻く海洋生物、環境、文化など広義な意味で使っているとのことだ。窓口を広く開いておいて、魚好きな人がもっと増えるような架け橋的な場所としてSAKANA BOOKSを使って欲しいという願いが込められている。店長は有言実行タイプだそうで、何かアイデアがあれば相談するとSAKANA BOOKSで面白いイベントが実現できるかもしれない。私も何かマンボウ的なイベントを開いてみたいと感じた。今回はたまたまマンボウ類の小型標本を持ち歩いていたので、店長に見せてあげると、大きく目を開いて「苦しいぃぃ~」と悶えていた(ヲタク特有の急激な感情起伏反応)。東京海洋大学の学生が利用者の中でも多いと聞いたが、標本を店に持って来たのはどうも私が初めてだったようだ。SAKANA BOOKSはまだ今年開店したばかりで半年も経っていない。願わくば、すべての魚の本を揃える勢いでもっと大きくなって、魚好きの憩いの場になって欲しい。ちなみに、店長の名前は「宥海(うみ)」と言うそうだ。


 親しげな
  お姉さんいる
   釣り会社
    SAKANA BOOKS
     皆集まれ


参考文献

宮本圭・和田英敏・長坂忠之助・髙野はるか・本村浩之・瀬能宏. 2022. 沖縄島および屋久島から得られた日本初記録のAntennarius biocellatusピエロカエルアンコウ(新称). Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 22: 9-13.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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