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(画像引用元番号①)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「トナカイ」が紫外線が見える理由は、主食の「ハナゴケ」を見つけるためかもしれない、という研究だよ!
哺乳類では紫外線が見えることが珍しい上に、紫外線は細胞に有毒なうえ、夜行性ではなく、北極圏という環境も合わせると、なぜ見えることに利点があるのかが不思議なんだよね。
今回の研究からは、ハナゴケを主食にするというトナカイの珍しい生態が、紫外線の視覚を持つ大きな理由となった可能性があるよ!また、ハナゴケは紫外線が見えることのデメリットを緩和するかもしれないよ。
つまり、真っ赤な鼻はサンタクロースの役に立つかもしれないけど、トナカイの青い目はクリスマスの仕事を終えた後の食料探しに役立つかもしれない、ということになるよ!
CONTENTS
「トナカイ (Rangifer tarandus)」は北極圏に生息する大型の動物で、出会う機会はそうそうないけど、サンタクロースのソリを引く存在として知名度はかなり高いよね。
ただ、トナカイってその知名度の割にはかなり変わった特徴を持っていて、そのために生態に謎な部分があるよ。よく注目されているのはトナカイの目だよ。
目がモノを見るためには、網膜が光を受ける必要があるよ。そして一部の動物は、網膜の裏側に輝板 (タペータム) という光を反射する組織があるよ。暗闇でネコの目が光って見えるのは、目に輝板があるためだよ。
輝板があると、網膜は外から来た光に加え、輝板の反射光も受け取るチャンスがあるので、光が少ない暗い環境でもモノがよく見えるようになるよ。なので輝板を持つ動物は、主に夜行性な動物を中心にそこそこいるよ。
しかしトナカイの輝板は、季節に応じて色が変わるという唯一の性質を持っているよ!輝板の色が変わることで、トナカイの目は夏の間は黄金色、冬の間は青色になるよ!
ではなぜ色が変わるのか?どうやらこれはトナカイの目の別の仕組みと関連がありそうだよ。実は、トナカイの目は320nmまでの紫外線を見ることができるんだよ。これは哺乳類ではかなり珍しい性質だよ!
そもそもとして、紫外線は細胞にとって有害な性質を持つので、多くの動物は目の正面にある核膜や水晶体で99%以上の紫外線を吸収し、網膜に紫外線によるダメージがいかないようにしているよ。
だから紫外線が見える動物というと、目の仕組みが全く異なる昆虫ならば聞くけれども、紫外線が見える哺乳類というのはトナカイ以外だと一部の齧歯類、コウモリ、有袋類が報告されているのみで、かなり珍しいよ!
一方で、トナカイの目は紫外線を約40%しか吸収せず、結果的に約60%が網膜まで到達するよ。これはほとんど防いでいないも同然の数値で、デリケートな目の機能を考えるとかなり珍しいよ!
ではなぜ、トナカイは紫外線が見えるんだろうね?これは、トナカイが北極圏という自然光の状況が極端に変化する環境にいることと関わりがあると考えられているよ。
ウィンタースポーツをやってる人なら良く知っている通り、雪原で適切なサングラスやゴーグルをしてないと雪目 (雪眼炎) に悩まされるよね?これは雪の紫外線反射率が90%と極めて高いことに由来しているよ。
ただ、北極圏のように極端に緯度が高い地域だと、太陽が地平線の下にいる時間が長いので、日出前や日没後くらいの薄暗く空が青っぽく見える「ブルーアワー」[注1]と呼ばれる時間帯が長く続くよ。
実際、この時間帯はオゾン層の影響で青い光の成分が増えているので、青色がよく見えるのは有利ということになるよ。そしてこれは青い光よりも更に波長の短い光、つまり紫外線にも当てはまることになるよ。
つまり、青い輝板は紫外線を含めた波長の短い光を反射しやすいので、紫外線も見える視覚というのは、冬の薄暗い時間帯でもよく周りが見えるようにする適応である、と考えることができるよ。
一方で夏場は明るい時間帯が長いので、冬と同じ視覚だと周りが明るすぎることになるよ。トナカイの目の色が夏と冬で異なるのは、紫外線を含めた波長の短い光の反射率を変化させる対応だと考えることができるよ。
実際のところ、紫外線が見える哺乳類のほとんどは夜行性であり、昼間活動するトナカイはかなり珍しいよ。紫外線によるダメージを考えると、むしろ目にとっては不利だからね。
低緯度地域より太陽が昇っている時間が長いことを考えると、冬の青色の目は紫外線が明るすぎるので、夏は黄金色で紫外線を抑えている、と考えると合理的ではあるよね。
ということで、トナカイの目が紫外線を見ることができるのは、冬の暗闇でも周りを見通すのに有利になるための戦略である、とこれまでは考えられてきたよ。
ただ、トナカイの視覚の仕組みは本当にそうなのか?という疑問もあったよ。確かに周りが見えることは有利だし、それは特にオオカミのような捕食者を見つける上で有利であると考えることができるね。
オオカミは人間にとっては白い色で、周りの雪と区別がつかないけど、オオカミの毛は紫外線を吸収するので、紫外線で見ればオオカミは雪よりずっと暗く見えるよ。これは、一見合理的な考えだね。
ところが、オオカミはトナカイばかりを食べているわけではなく、ヘラジカ、ジャコウウシ、ノロジカなど他の動物 (有蹄類) も襲って食べているよ。
これらの有蹄類についてのきちんとした研究はないけど、今のところは紫外線が見えているという証拠は見つかってないよ。同じ被食者の側であるなら、同じような目の仕組みを持っててもおかしくないので、これは変だね。
なので、トナカイの視覚がオオカミを見つけるのに有利であるとしても、捕食者を見つけやすくするために紫外線の視覚を発達させたわけではなさそうだ、と考えることができるよ。
ダートマス大学のNathaniel J. Dominy氏、およびセント・アンドリューズ大学のCatherine Hobaiter氏とJulie M. Harris氏の研究チームは、トナカイの視覚の仕組みに関する研究を行ったよ。
研究チームはイギリスで唯一のトナカイ生息地であるスコットランドのケアン・ゴーム (Cairn Gorm) や、その他の場所の地衣類の調査を行い、チームが立てた仮説の検証を行ったよ。
仮説というのは、トナカイの珍しい食性に焦点を当てたものだよ。というのは、トナカイは「ハナゴケ (Cladonia rangiferina)」をほぼ唯一の食料とする珍しい生態を持っているからだよ。
ハナゴケという名前やその外観はいかにも植物っぽいけど、実際は菌類と藻類が共生関係にある「地衣類」だよ。地衣類は植物と比べるとより厳しい環境にも適応し、北極圏でも様々な地衣類が生息しているよ。
北極圏ではまともな植物が生えないので、地衣類を食べる動物自体は珍しくないよ。ところがトナカイは、調査地に生息する約1500種の地衣類の中で、ほぼハナゴケ1種類のみを食べているという点が珍しいよ。
トナカイとハナゴケの関係は深くて、学名に共通の "rangifer" があることにも表れているね!後述する通り全く他のものを食べることもあるけど、普段はほぼハナゴケだけを食べているよ!
食料事情の厳しい北極圏でえり好みをするのはかなり珍しいので、これはトナカイにとってハナゴケが何らかの有利な点を持っている可能性がある、と考えるのは自然なことだよね?
そこで研究チームが着目したのは、数種類の地衣類の紫外線吸収率だよ。私たちの視点で見ると、ハナゴケは白っぽい色をしているので、やはり雪と同じように見えるけど、より注目したいのは雪解け水との違いだよ。
トナカイは寝床を作るため、地面の雪を掘って穴を作るよ。地面が露出してより日光を吸収するようになるので、しばしばこの辺は局所的に雪解け水による小さな水たまりが形成されるよ。
遠くから見ると、ハナゴケが群生しているエリアは、雪解け水の穴とかなり似ているよ。実際、研究者も現地調査を行った際、どこにハナゴケが生えているのかわかりにくくて苦労したみたいね。
でも、紫外線で見ると話は別だよ。雪解け水は雪と変わらず紫外線をよく反射する一方で、ハナゴケは紫外線を吸収するので、ハナゴケは雪解け水と比べて暗く見えることになるね。
より詳しく調べて見ると、太陽の高度が低くて薄暗い時間帯によく現れる光の波長の、330nmから370nmの紫外線をよく吸収することが分かったよ。
つまりトナカイの視覚にとっては、ハナゴケと雪解け水を区別するのはさほど難しくないということになるよ。これはトナカイが食料を見つけるのに有利ってことになるね!
じゃあ地衣類を食べる他の動物はどうなのかって話だけど、研究チームはそこを調査したよ。というのは、地衣類が紫外線を反射するのか吸収するのかは、実は種によって全然違うことが分かったんだよね。
例えば、私たちの視覚ではハナゴケと同じく白色に見えるフクロゴケを紫外線で見てみると、紫外線をよく反射するので、ハナゴケと違って明るく見えるよ。
いくつかの地衣類を調べて見ると、ハナゴケに近縁、または北極圏のような寒い場所に生息する地衣類は紫外線を吸収するのに対し、温暖な場所に生息する地衣類は紫外線を反射しやすいことが分かったよ。
これらを合わせると、白っぽい外観の地衣類が、トナカイも同じ色に見えているとは限らない、ってことになるね。つまりトナカイが紫外線が見えるのは「ハナゴケを探すのに有利だから」という理由が考えられるよ!
これは、目の仕組みが全然違うとはいえ、同じく花の蜜や花粉という食料を探しやすい視覚として、紫外線が見える目を持つ昆虫とどことなく似ている感じはあるよね!
『赤鼻のトナカイ』の歌詞では、赤鼻が夜道の案内に役立つとサンタクロースに言われるわけだけど、トナカイ自身はむしろ青色の目が食料探しに役立つ、ということが今回の研究で示されているわけだね。
無論、先述の通り、紫外線が見える目というのは、紫外線への防御が薄くなるという意味で、良い影響ばかりではないよ。実際、飼育しているトナカイでは、紫外線の影響によると思われる白内障の症例報告が珍しくないよ。
トナカイはこの不利をどう克服しているのか。どうも調べてみると、やはり主食のハナゴケに秘密があるんじゃないか、と考えられるよ。
トナカイはほぼハナゴケ1種類のみを食べているといったけど、数少ない他の選択肢としてホッキョクヤナギ (Salix arctica) とヒメカンバ (Betula nana) のつぼみや葉が挙げられるよ。
これらの地衣類や植物に共通するのは、ビタミンCなどの抗酸化物質が多いこと。これは紫外線が細胞組織に当たって発生するフリーラジカルを除去し、結果的に細胞毒性を抑える働きがあるよ。
ということは、トナカイがハナゴケを選んでいる理由の1つが、紫外線が見える目の弱点を補うため、と考えることもできるわけだね!
いずれにしても、トナカイの視覚と食料の関連というのはとてもユニークで、哺乳類には珍しい目や視覚の仕組みの裏付けや、ハナゴケを多く食べる理由の解明にもつながるかもしれないよ!
[注1] ブルーアワー ↩︎
ブルーアワーは正式な科学用語ではなく、口語表現です。日中の空が青いのは大気分子の散乱によって起こりますが、ブルーアワーが青く見えるのは、高高度のオゾン層の影響によるものです。オゾンはシャピュ帯と呼ばれる、450nmから850nmの波長の光を吸収します。これは可視光線の大部分と赤外線の一部にあたり、吸収されずに地表に届くのは非常に波長の短い可視光線と紫外線となります。
<原著論文>
<参考文献>
<関連研究>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)
可視光線と紫外線それぞれのケアン・ゴームの写真: プレスリリースより (Nathaniel Dominy撮影)
ハナゴケ: iNaturalist (Autor: Tomas Pocius / CC0)
夏と冬それぞれで採集されたトナカイの輝板: R. A. E. Fosbury & G. Jeffery, Proc. Royal Soc. B (2022), Figure 3 a & c よりトリミング
暗闇で光るネコの目: flickr (Autor: Elma / CC BY 2.0 DEED)
可視光線と紫外線それぞれのフクロゴケの写真: 原著論文Figure 2 (b) よりトリミング
ヒメカンバ: WikiMedia Commons (Autor: United States Department of Agriculture / Public Domain)
ホッキョクヤナギ: WikiMedia Commons (Autor: LeRoy Sowl & USFWS / Public Domain)