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みなさんこんにちは! CEなかむーです! 今回は、心臓手術を行うときに使用されている生命維持管理装置「人工心肺装置」について深掘していこうと思います。
臨床工学技士のお仕事の中でも特に「花形」と言われているのがこの人工心肺業務です。これから臨床工学技士を目指す学生さんも、一度は憧れるお仕事かもしれません。
実際の現場ではどのような医療機器を使用し、臨床工学技士はどんなことをしているのか? 一緒にみていきましょう!
それではどうぞご覧ください!
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心臓の弁・血管などに異常が見つかり、手術しなければならない場合、一般的には心臓を停止させて手術を行う必要があります。しかし、みなさんもご存じの通り心臓は生命維持のために必要な機能を担っている大事な臓器なので、一時的でも停止するようなことはあってはいけません。
『心臓を停止させて手術を行う必要があるのに、一時的にも心臓の機能を止めるわけにはいかない』という問題に対する答えの1つとして、人工的に造ったデバイスを用いて、心肺機能を人の手によって代行するという方法があります。この方法ならば心臓を停止させても安全に手術を行うことができます。これを「体外循環治療」と呼び、心臓の手術領域で行うものを特に「人工心肺業務」として、臨床工学技士が携わっています。
心臓手術の際に使用される人工心肺装置(Cardiopulmonary Bypass Machine:CPB)は、心臓の機能を一時的に代替し、手術中に患者の血液を人工肺を通して体外で酸素供給し、循環させるための医療機器です。
以下に、人工心肺装置の主要な要素と機能について説明します。
人工心肺装置の中核的な要素で、心臓の代わりに血液を全身に供給します。心臓手術中、患者の心臓は一時的に停止されているため、この人工ポンプが血液を送り出し、全身への酸素供給を維持します。このポンプは、体外循環ポンプとも呼ばれます。
チューブをしごいて血液を送り出す機械的なローラーポンプ、血球の損傷が軽微で遠心力を利用した遠心ポンプなどがあります。また、手術中の臓器や血管など(術野)がはっきり見えるように漏れ出た血液などを吸引するベントポンプなどもあります。
熱交換器(Temperature Control)一体型装置は体温を制御するための装置で、手術中に患者の体温を適切に維持します。体温を下げたり上げたりすることで、心臓の手術中に必要な体温環境条件を作り出すことができます。
さらに、人工心肺装置には様々なパラメータをモニタリングし、制御するための装置も含まれています。これには血圧、酸素濃度、血液流量、圧力などの監視が含まれ、医師と看護師が手術中に患者の状態を確認できます。もちろん臨床工学技士もこの種々のパラメータを逐一チェックしながら、手術の動向や臓器の状態を観察、人工心肺装置の操作を的確迅速に行っています。
膜型人工肺と血栓フィルターからなる「貯血漕:リザーバー」と呼ばれるシステムです。患者側から人工心肺回路を通して取り出した血液から二酸化炭素を除去し、酸素を供給するための装置です。
血液は膜型人工肺を通され、酸素と二酸化炭素の交換が行われます。これにより、酸素飽和度が高い血液が患者の体に戻されます。術野から吸引した血液などもこちらに回収されます。血液フィルター(Blood Filter)が組み込まれているため、微小な血栓や異物を除去でき、血液の清澄度を保つことで手術中に問題が起きにくくなります。
このほかにも、心臓を停止させると少なからず心臓の筋肉にダメージを与えてしまうため、心臓の筋肉の保護を目的として投与される心筋保護液注入装置、手術中に出血した血液を吸引して、異物や血栓を除去した後、再度体内に戻せるように血液を洗浄する自己血回収装置(CellSaverⓇ)などの専用医療機器も同時に使用します。また、患者様の容体や血液データによっては人工透析も同時並行で行うこともあります。
一番大きな理由としては冒頭にも述べたように、心臓を一時的に停止させ、安全に手術を行うためです。心臓はその特性上すべて筋肉でできていて、自動能というメカニズムで全身に血液を供給する臓器です。そのため、心臓自ら一時停止するような機能はなく、動いている間は手術をすることができないというのが一般的です。
人工心肺装置を用いて体外に血液を循環させることで、心臓が機能する必要性が減り、一時的に停止させても人工心肺装置が機能代行しているため外科医が安全に手術を行えるようになります。
冠動脈という心臓の栄養血管をつなぎなおす手術(冠動脈バイパス手術)などにおいては心臓を停止させず、動かしたまま手術を行うなど人工心肺装置を使用しない術式もあります(Off-CABG)。患者様の体の負担が少ないとか手術後の合併症を少なくできるなど、人工心肺装置を使用しないメリットもあるのですが、心臓が動いたまま手術をする執刀医には、非常に高い技術が求められます。医療ドラマなどでは心臓を動かしたまま手術をする心臓血管外科医のすごさが描かれるシーンもあるので、医療ドラマをよくご覧になる方はイメージがつくかもしれませんね。
無事に手術が完了したら、人工心肺装置は停止され、患者の心臓が再び鼓動を取り戻し始めます。状態が安定したら人工心肺装置から離脱し、自身の心臓で体内の血液循環やガス交換を維持していきます。その後、患者は集中治療室(ICU)に移され、回復をサポートするために24時間体制でケアされます。
さて、これまで説明してきた「人工心肺装置」をはじめとした「体外循環業務」の中で、臨床工学技士はどのような役割を持っているのでしょうか?
体外循環業務における臨床工学技士の業務には、以下のようなものがあります。
人工心肺装置で使用する物品が不潔にならないように丁寧に素早く血液回路を組み立てたり、体内に空気が混入しないように血液回路内を丁寧に生理食塩水で満たしながら洗浄したりと、実は事前準備の方が煩雑でとても時間がかかります。
また、身体(術野)側の管(カニューレ)はすべて医師により接続・固定されます。臨床工学技士は手術前に医師の決めた人工心肺装置の操作条件及び薬剤の投与量に従って、人工心肺装置の運転条件等の設定及び変更を行います。
手術中も身体の状況に合わせて様々な変更があるので、こうした指示については人工心肺装置操作前に医師から受ける書面等による指示の他、操作中の指示についても、その都度できる限り具体的に受けなければいけません。心臓手術チームの一員として日ごろから綿密なコミュニケーションが図れるようになることも必要なスキルです。
決して『装置の準備や設定をしておけばいい』というわけではない、という事になります。
人工心肺装置を操作することはもちろんなのですが、複数の医療機器を巧みに操り、時には執刀医の一手先を読みながら微妙なコントロールが要求される場面においても、経験と技術を武器に安全な手術が行えるようサポートしています。
人工心肺装置は、患者の生命を支えるための「生命維持管理装置」なので、故障や誤操作が許されません。そのため、それらを扱うためには装置に精通した高い技術力と機器のトラブルなどの異常を早期発見できる観察力、様々な状況を想定し、臨機応変に対応できる対応力も求められます。
私が「臨床工学技士がかっこいいと思う業務はなんですか?」と、独自にSNS等で医療従事者に調査したところ、実は「手術室関連業務」が一番多かったという結果も出ています。どの業務がかっこいいというわけではありませんし、どの業務も専門性が高いというのは言うまでもありませんが、緊急かつ高度な技術を要する人工心肺業務は、臨床工学技士にとっても非常に重要な業務のひとつです。その役割は医療分野で高く評価されているため、この分野に従事する臨床工学技士は、専門的なスキルと専門知識を活かし、患者様の生命を守る役割を果たしています。
手術室で数十台の医療機器を同時に扱う臨床工学技士の姿を見ていると、臨床工学技士の「花形」の業務と言われる所以がここにあるようにも感じます。
いかがでしたか? 次回も臨床工学技士のお仕事について深堀していきましょう!
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