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本記事はウシマンボウ発見伝三部作の第2回目である。前回の記事を読んでいない方は、先にそちらを読んでいただけると嬉しい。
前の記事:
ウシマンボウが日本近海にも出現することを示唆した相良さんの論文が出版されたのは2005年のことである。この時点でウシマンボウはまだ、マンボウと種レベルで違うということは分かっておらず、『マンボウの種内に存在する遺伝的に離れた集団』というレベルの認識であった。宮城県でしか確認されなかった全長3m前後の大型個体で構成される集団は個体数が少なかったため、詳細を得るためにはさらなるサンプルが必要だった。広島大学での初代マンボウ研究者である相良さんは修士課程を卒業して社会人になったが、その研究を受け継いだ2代目のマンボウ研究者が後輩の吉田さんであった。吉田さんは卒業論文から修士論文完成まで3年間、広島大学でマンボウ研究に打ち込むことになった―――。
CONTENTS
吉田さんは、相良さんが発見した遺伝的に遠く離れたマンボウ2集団について、
という点に興味を持った。そこで、最初は遺伝的に異なる2集団を実際に自分の目で両方確認するために、相良さんがサンプルを得た時と同じ場所、同じ時期にサンプリングを行った。その結果、再び遺伝的に異なるマンボウ2集団が確認されたのである。吉田さんはこの2集団を明確に呼び分けるために、全長3 m 前後の大型個体で構成される集団をA群、全長120 cm 以下の比較的小型個体で構成される集団をB群と呼ぶことにした。吉田ら(2005)では、A群が静岡県からも得られ、他の地域にも出現することが示唆された。一方、これら2集団の体サイズ差は依然としてあったことから、この時点では両者の間で回遊や成長パターンが異なるものと考察された。
その後、Yoshita et al. (2009) で研究はさらに進展し、吉田さんは海外も含め、より幅広い地域からサンプルを集めることに成功した。過去の研究のデータと吉田さんが新たに入手したサンプルを総合してDNA解析(ミトコンドリアDNAのD-loop領域)を行った結果、A群とB群の遺伝的距離は種レベルで離れていることが明らかになった。この時点でようやく別種であることが明確になった。
しかし、日本にはA種(後のウシマンボウ)とB種(後のマンボウ)の2種が出現するが、南半球にはもう1種、遺伝的に離れた種が存在することが明らかとなり、一時的にC種と仮称することにした。
吉田さんはまた日本近海に出現するA種とB種の形態調査も行った。その結果、B種には全長2 m 以上になる大型個体も存在することが明らかになったが、A種の全長1.8m以下の小型個体は吉田さんの調査では確認されなかった。また、C種については形態調査をすることができなかったので、この時点ではどのような形態をしているのかは全く不明だった。
そこで、全長1.8m以上の大型個体に焦点を当てて、A種とB種の形態を比較すると、A種は頭部がでっぱり、舵鰭縁辺部が丸い一方、B種は頭部がでっぱらず、舵鰭縁辺部が波打つという違いがあることが明らかになった。また、両者は体の高さ、舵鰭の軟条数、舵鰭縁辺部の骨板数が異なることも明らかになった。
両者の違いは他にもある。B種は雌雄とも確認されたが、A種は雌しか確認されなかったので、A種は大型化した雌しか日本近海に来遊して来ない可能性が示唆された。加えて、A種はB種より大型化することも示唆された。一方で、A種は東北の個体より小笠原の個体の方が少し体サイズが小さかったので、より南方にいけばもっと小さな個体がいるのではないかと予想した。吉田さんは研究開始当初から、A種とB種は回遊経路が異なるのではないかと推測していたのである。Yoshita et al. (2009) 時点でも、B種は全国各地に出現する一方、A種は沖縄を除く西日本と日本海からの出現が確認できなかったので、B種は黒潮に依存する一方、A種は黒潮に依存しない回遊ルートで日本近海に来遊してくると推察した。
吉田さんは遺伝的に遠く離れたマンボウ属3種の学名も特定しようとしていたが、C種の形態が分からない以上、過去に記載された種と照らし合わせることは困難と考え、学名の特定は保留にした。吉田さんの研究はここでタイムアップとなった。
吉田さんは修士課程を卒業し、社会人になったので、研究の継続は3代目のマンボウ研究者となる筆者に託された。私は子供の頃からマンボウの研究をしたいと思っていたので、Twitterがまだ無かった2006年当時、SNSの主力だったmixiで相良さん、吉田さんと出会い、大学は違えど吉田さんのサンプリングに同行して、マンボウを研究する方法を学んでいった。
吉田さんが大学院を卒業するのと入れ違いに私が大学院に進学し、ウシマンボウの学名を特定するところまで研究が進められた話が、次回のテーマだ。
次の記事:
今日の一首
マンボウと
ウシマンボウは
DNA
サイズ形態
たくさん違う
吉田有貴子・相良恒太郎・西堀正英・国吉久人・海野徹也・坂井陽一・橋本博明・具島健二.2005.日本周辺海域に出現するマンボウのミトコンドリアDNAを用いた個体群解析.DNA多型,13: 171-174.
吉田有貴子.2006a.岩手県沖に同所的に出現するマンボウ2集団の形態学的および生態学的研究.国際沿岸海洋研究センター研究報告,31: 12-14.
吉田有貴子.2006b.マンボウと小笠原諸島.季刊誌i-Bo,17: 18-20.
Yoshita Y, Yamanoue Y, Sagara K, Nishibori M, Kuniyoshi H, Umino T, Sakai Y, Hashimoto H, Gushima K. 2009. Phylogenetic relationship of two Mola sunfishes (Tetraodontiformes: Molidae) occurring around the coast of Japan, with notes on their geographical distribution and morphological characteristics. Ichthyological Research, 56: 232-244.