4万6000年前の新種の線虫の復活に成功! 数万年の休眠は珍しくない可能性も?

2023.08.04

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、4万6000年ものクリプトビオシス (休眠状態) から復活した線虫のお話だよ!うち1種は新種と判明し「パナグロライムス・コリマエンシス」と名付けられたよ!

 

なんだかこれだけでもすごいけど、モデル生物として有名な線虫の「カエノラブディティス・エレガンス」と遺伝子を比較することで、超長期のクリプトビオシスは線虫一般の性質である可能性が出てきたよ!

 

生態系の根幹をなす線虫の新たな特性の発見かもしれず、生態系の維持や絶滅後の生物の復活を考える上でも重要な発見であるともいえるよ!

 

生きることを止める生存戦略「クリプトビオシス」

生物は水、酸素、栄養素などを消費して活動し生きているわけだけど、ではそれが失われたらどうなるかな?それがヒトの場合はそのまま死を待つばかりだけど、全ての生物がそうとは限らないよ。

 

生きるために必要な物質が枯渇したり、高温、凍結、塩分濃度の増大など、生存を脅かすような危険な状況に晒されると、通常とは異なる活動状態になって生き残りを図る、というのは様々な生物で見られるよ。

 

その代表的なものの1つが「クリプトビオシス」だよ。 "隠された生命活動" を意味するこの言葉は、代謝を下げてほとんどゼロにし、見た目には死んでいるとしか思えない仮死状態に自らなる能力を指しているよ[注1]

 

恐らく有名なのはクマムシユスリカの例だね。身体の水分をほとんどゼロにして干からびたミイラのようになるけど、水を与えると吸収して復活する、というのはよく知られているよ。

 

クリプトビオシスは、代謝をゼロにすることで環境悪化による死を回避し、再び環境が改善された時に復活するチャンスに賭けるという、生物の環境適応の極端な例の1つとして知られているよ。

 

クリプトビオシスの状態になった生物は、普段活動して生きている時に晒されたら死んでしまうような劣悪な条件にも耐えられるから、復活するチャンスもそれだけある、ということにもなるね。

 

クリプトビオシスで短い命を長く持たせる

このクリプトビオシスという状態、数週間から数ヶ月の寿命の生き物が数年後に復活するなど、復活できるまでの時間的な長さがとんでもないことでも知られているよ!

 

クリプトビオシス以外にも、長期の休眠状態から復活する例は様々で、例えば2500万年前から4000万年前の琥珀に閉じ込められた細菌の培養に成功し、1000年前から1500年前のハスの種が発芽した、なんて例があるよ!

 

多細胞生物での長期の休眠の例は、例えばタフな生物の例であるクマムシは最長5年とされているけど、体長数mmの「線虫[注2]はもっと長くて、これまでの最長記録は39年とされているよ。

 

いくつかの生物にはこれより更に長い記録もあるものの、それらは結果に不確かな部分があるなどして、正式には認められていないものもあるよ。

 

クリプトビオシス (又は一般的な休眠状態) からの復活記録
生物種 分類 休眠期間 状況 出典

ハロシンプレックス・カールスバデンス
Halosimplex carlsbadense

真正細菌 2億5000万年? 岩塩結晶中より取り出し培養
(結果は疑問視されている)
[3] [4]

リシニバシラス属の1種
Lysinibacillus sp.

真正細菌 2500万年 - 4000万年 琥珀に閉じ込められた
ミツバチの体内より培養
[2]

パナグロライムス・コリマエンシス
Panagrolaimus kolymaensis

線虫 4万6000年 永久凍土のサンプルから復活
100世代に渡って培養
今回
パナグロライムス・デトリトファグス
Panagrolaimus detritophagus
線虫 3万年 - 4万年 永久凍土のサンプルから復活 [10]
スガワラビランジ
Silene stenophylla
被子植物 3万1800年 (±300年) 永久凍土に埋まっていた
種子から発芽
[11]
ピソウイルス・シベリクム
Pithovirus sibericum
ウイルス 3万年 永久凍土のサンプルから復活
(現状、ウイルスは生物ではない)
[9]
ナツメヤシ
Phoenix dactylifera
被子植物 2000年 遺跡内の壺に保管された
種子から発芽
[6]
ハス
Nelumbo nucifera
被子植物 1300年 (±270年) 地層に埋まっていた
種子から発芽
[5]
タイレンチュス・ポリハムス
Tylenchus polyhypnus
線虫 39年 乾燥標本から復活 [1]
プレクトゥス・マーライイ
Plectus murrayi
線虫 25.5年 -20℃で保管された
南極の苔の標本から復活
[7]
クマムシ (緩歩動物門)
Tardigrade
緩歩動物 5年 実験的に確実な値
(より長い記録は怪しい)
[8]

 

4万6000年もクリプトビオシスにあった線虫を発見!?

ただ、休眠の長さは、その環境が長く保たれるかどうかもカギである事が分かっているよ。そういうわけで、安定した低温乾燥気候が数千年も続く「永久凍土」は、長期の休眠が維持される可能性のある場所だよ。

 

ロシア科学アカデミーのAnastasia Shatilovich氏などの研究チームは、過去10年間の永久凍土層の研究により、長期間にわたってクリプトビオシスの状態となっていた線虫を発見し、培養にも成功したと報告したよ!

 

ロシアのシベリアを流れるコリマ川沿いのドゥヴァニー・ヤール (Duvanny Yar) 露頭には、化石化したホリネズミの巣穴がかなり深くまで存在するよ。今回は、地下40mの凍結した層の巣穴の化石から採集を行ったよ。

 

この採集したサンプルからは2種類の線虫が見つかり、驚くべきことに解凍すると活動を再開したよ!堆積物に含まれる植物の年代から、この2種の線虫は約4万6000年[注3]もの間クリプトビオシスの状態になってたみたいだよ!

 

これが正しい場合、2018年にここと近い場所の永久凍土で発見された3万年前から4万年前の線虫を上回り、多細胞生物におけるクリプトビオシスの最長記録を更新することになるよ!

パナグロライムス・コリマエンシス 概要

今回見つかった線虫パナグロライムス・コリマエンシスは、約4万6000年前に堆積した後、ずっと凍っていた永久凍土層から採集されたよ。だから4万6000年もの間クリプトビオシスにあったと推定されるよ! (画像引用元: 原著論文Fig1 (地図および地層) & Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics (パナグロライムス・コリマエンシス) )

 

今回見つかった2種類の線虫は、暫定的にパナグロライムス属 (Panagrolaimus) とプレクトゥス属 (Plectus) に分類されたよ。この中のパナグロライムス属について、更に詳細な分析を行ってみたよ。

 

パナグロライムス属の線虫は単に復活しただけでなく、100世代に渡って培養に成功しているよ!これにより十分な生態を調べるため、また遺伝子を分析するための大量の個体を入手することができたよ!

 

遺伝子検査から、これは未知の種であることが判明し、発見地のコリマ川に因んで「パナグロライムス・コリマエンシス (Panagrolaimus kolymaensis) 」と名付けたよ。

 

数万年ものクリプトビオシスは線虫では普通!?

パナグロライムス属は研究が進んでおらず、比較できる遺伝情報が存在しないことから、これだけではどうして数万年に渡るクリプトビオシスが可能なのか、その秘密を知ることはできないよ。

 

そこで、同じ線虫であり、長年に渡ってモデル生物として使われている「カエノラブディティス・エレガンス (Caenorhabditis elegans) 」[注4]の遺伝子と比較することにしてみたよ。

 

すると、クリプトビオシスになるために重要なトレハロースの合成や分解など、クリプトビオシスに関わるいくつもの遺伝子が全く一緒、または同じ機能を持つものが存在することが分かったよ!

 

パナグロライムス・コリマエンシス 遺伝子の比較

パナグロライムス・コリマエンシスの遺伝子をカエノラブディティス・エレガンスと比較すると、クリプトビオシスになるために必要な複数の遺伝子がとても似ていると分かったよ。なので数万年に渡るクリプトビオシスは、線虫では珍しくないかもしれないよ。 (画像引用元: Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics (パナグロライムス・コリマエンシス) , WikiMedia Commons (カエノラブディティス・エレガンス) & いらすとや (DNA / ドライアイス) )

 

過去の研究から、低温乾燥な環境でクリプトビオシスになるには、まずは乾燥状態となって身体の水分を失い、代わりにトレハロースを合成することが重要であることが分かっているよ。

 

先に凍結を置いてしまうと、身体の中で凍結した水分が氷の結晶となり細胞を壊してしまうことから、乾燥状態からの低温環境というのが重要と言うわけ。

 

そこで、パナグロライムス・コリマエンシスの条件を調べてみると、軽度の乾燥状態に置かれた後に-80℃に置かれると、幼虫でも成虫でもクリプトビオシスの状態となることが分かったよ。

 

カエノラブディティス・エレガンスについても同じ条件に置くと、幼虫状態であるという制限はあるものの、最大で480日間クリプトビオシスの状態を維持し、何の問題もなく復活することがわかったよ!

 

これはつまり、数万年ものクリプトビオシスは特定の線虫に見られる特別な能力ではなく、多くの線虫に共通した広く一般的な生存戦略である可能性を示しているよ!

 

線虫だけでなく生態系全体に影響するかも?

今回の発見は、南極大陸や鉱山の地下数kmを含む、世界中広く一般に生息する線虫の生存戦略や進化を考察する上で重要な発見であると言えるよ。

 

線虫の寿命は数週間だけど、数万年もの間クリプトビオシスになれるということは、地表にいる個体が絶滅しても、地中にいる個体が生き残り、数万年後に復活するチャンスがあるということになるよ。

 

線虫は有性生殖も無性生殖もできるから、有性生殖する相手に出会うまでは無性生殖で増えることで、クリプトビオシスから復活後に個体数を増やし、再度絶滅してしまう恐れを回避する、とも考えられるよ。

 

線虫は生態系に広く浸透していて、線虫は細菌やその他生物の死骸を分解し、ある時には別の生物の餌となり、ある時には寄生虫として悪さをするなど、様々な生物と関わりがあるよ。

 

しかも、線虫は地球上に数百万種いるとされている中で、見つかっているのはわずか5000種ちょっとということを踏まえると、その多くが超長期のクリプトビオシスに入れるという影響はとても大きいよ。

 

ということで、線虫が何万年も休眠してから復活すること、それが線虫の一般的な性質であるということは、生態系の一部に組み込まれている私たちにとっても無関係ではないという意味で、とても重要であると言えるよ!

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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注釈

[注1] クリプトビオシスの代謝 ↩︎
クリプトビオシスになる代表的な生物であるクマムシの場合、クリプトビオシスの代謝率は平常時の0.01%以下となり、事実上測定不能なほど低下する。

 

[注2] 線虫 ↩︎
線形動物門に属する動物の総称。文字通り細長い身体を持ち、無色透明で体長数mmと小さい。地球のほぼどこでも生息する。なじみ深い種は人間に対する寄生虫としてであり、回虫、蟯虫、アニサキスが代表的。また、モデル生物として有名なカエノラブディティス・エレガンスを含む。

 

[注3] 約4万6000年 ↩︎
線虫そのものの年代は測れないため、今回は線虫が見つかった場所に埋没していた植物を放射性炭素年代測定することで年代を割り出した。正確な年数は45839-47769 cal BPであり、2023年から見て45912年前から47842年前となる。

[注4] カエノラブディティス・エレガンス ↩︎
生物学的研究で標準的な試料と見なされるモデル生物の1つ。多細胞生物では初めて全ゲノムが解読された。特に和名はなく、学名をそのまま読んだ「C. エレガンス (C. elegans) 」で呼ばれることが多い。

文献情報

<原著論文>

  • Anastasia Shatilovich, et.al. "A novel nematode species from the Siberian permafrost shares adaptive mechanisms for cryptobiotic survival with C. elegans dauer larva". PLoS Genetics, 2023; 19 (7) e1010798. DOI: 10.1371/journal.pgen.1010798

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  1. G. Steiner & Florence E. Albin. "Resuscitation of the nematode Tylenchus polyhypnus, n. sp., after almost 39 years' dormancy". Journal of the Washington Academy of Sciences, 1946; 36 (3) 97-99.
  2. Raúl J. Cano & Monica K. Borucki. "Revival and Identification of Bacterial Spores in 25- to 40-Million-Year-Old Dominican Amber". Science, 1995; 268 (5213) 1060-1064. DOI: 10.1126/science.7538699
  3. Russell H. Vreeland, William D. Rosenzweig & Dennis W. Powers . "Isolation of a 250 million-year-old halotolerant bacterium from a primary salt crystal". Nature, 2000; 407 (6806) 897-900. DOI: 10.1038/35038060
  4. David C. Nickle, et.al. "Curiously Modern DNA for a ``250 Million-Year-Old'' Bacterium". Journal of Molecular Evolution, 2002; 54 (1) 134-137. DOI: 10.1007/s00239-001-0025-x
  5. J. Shen-Miller. "Sacred lotus, the long-living fruits of China Antique". Seed Science Research, 2007; 12 (3) 131-143. DOI: 10.1079/SSR2002112
  6. Sarah Sallon, et.al. "Germination, Genetics, and Growth of an Ancient Date Seed". Science, 2008; 320 (5882) 1464. DOI: 10.1126/science.11536
  7. H. Kagoshima, et.al. "Multi-decadal survival of an Antarctic nematode, Plectus murrayi, in a -20°C stored moss sample". Cryo Letters, 2012; 33 (4) 280-288.
  8. Diego Fontaneto, Nils Bunnefeld & Martin Westberg. "Long-Term Survival of Microscopic Animals Under Desiccation Is Not So Long". Astrobiology, 2012; 12 (9) 863-869. DOI: 10.1089/ast.2012.0828
  9. Matthieu Legendre, et.al. "Thirty-thousand-year-old distant relative of giant icosahedral DNA viruses with a pandoravirus morphology". Proceedings of the National Academy of Sciences, 2014; 111 (11) 4274-4279. DOI: 10.1073/pnas.1320670111
  10. A. V. Shatilovich, et.al. "Viable Nematodes from Late Pleistocene Permafrost of the Kolyma River Lowland". Doklady Biological Sciences, 2018; 480 (1) 100-102. DOI: 10.1134/S0012496618030079
  11. Harald Brüssow. "Bioarchaeology: a profitable dialogue between microbiology and archaeology". Thematic Issue on Synthetic Microbiology, 2020; 13 (2) 406-409. DOI: 10.1111/1751-7915.13527