ベートーヴェンは鉛中毒ではなかった!?家系の秘密も判明!? "ホンモノの髪の毛" 探しから始まった研究

2023.03.31

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、有名な作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの遺伝子を詳細に調べてみた研究だよ!

 

ベートーヴェンは遺言として、有名な持病である難聴を調べてほしいと遺しているけど、その謎は今でも解決していないよ。

 

そして、長年言われている鉛中毒説を含め、ベートーヴェンの様々を知るための根拠となる髪束については、ホンモノかどうかきちんと判明していないという問題があったよ。

 

ということで、今回は本物かどうかを検討した上で調べたところ、予想外なことまで判明したんだよ!

 

ベートーヴェンの髪の毛から遺伝子検査

それは本物のベートーヴェン?

1827年3月26日、ドイツの作曲家「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」 (1770-1827) が亡くなったよ。その翌日、2人の知り合いが、机に隠されていた文書を発見したよ。

 

死の25年前の1802年10月6日に書かれ、現在では「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれるこの文書は、ベートーヴェンの持病として有名な難聴を始め、自身の健康問題に関する苦悩が書かれていたよ。

 

そして、20代半ばから始まったとされる進行性の難聴について、ベートーヴェンの死後、お気に入りの医師であったヨハン・アダム・シュミット (1759-1809) が解明し、公表することを望む内容が書かれていたよ。

 

残念ながら、シュミットは1809年に亡くなっているため、その願いは果たされなかったものの、有名な人物であったベートーヴェンの健康問題は、その後の科学者の関心を常に引いていたよ。

 

最も有名な説は、鉛などの重金属障害だよね。酢酸鉛[注1]はワインの味を良くする添加物であり、禁止されているにも関わらず添加することは横行していたよ。加えて、ベートーヴェンはワインを相当飲んでいたよ。

 

ベートーヴェンは肝臓に問題があったこと、アルコール依存症であったこともよく知られていることから、ワインの飲み過ぎによる鉛中毒が難聴や死の原因になった、は一般的によく知られている説でもあるよ。

 

それは本当にベートーヴェンの髪の毛?

ベートーヴェンは難聴を患っていたことで有名で、鉛中毒説が原因としてよく知られているよ。ところが、ベートーヴェンの髪の毛と伝えられているものが、本当に本人の物であるかは本当の意味では未証明の状態だったよ。 (画像引用元: ワインのイラスト (いらすとや) 、ベートーヴェンの肖像画 (WikiMedia Commons / Public Domain) 、ヒラー髪束 (論文Methods S1G) )

 

ところが、このような説の根幹となる毛髪や頭蓋骨の分析には問題があることも指摘されているよ。というのは、分析された毛髪や頭蓋骨がベートーヴェン本人のものかわからないというのがあるんだよ。

 

例えば、頭蓋骨を元にした研究のうち、2つについては本物ではないことが判明しているよ。また、毛髪についても研究が進むにつれ、その真贋に疑問符が付き始めたよ。

 

ということで、根幹の問題が解決しない限り、ベートーヴェンの健康問題を解明することが難しいよ。

 

ベートーヴェン本人かどうかをどう検証?

ベートーヴェンの髪の毛候補8つ

今回の研究では、ベートーヴェンの毛髪だとされている8つの髪束を調べたよ。その結果、5つが同一人物のものであることから、状況的にこれらがベートーヴェン本人の毛髪だと仮定されたよ。有名な鉛中毒説の証拠となった毛髪は女性のものであり、これは完全にニセモノだったよ! (画像引用元: 論文Methods S1A-S1H)

 

マックス・プランク人類史科学研究所のTristan James Alexander Begg氏などの研究チームは、まずはこの研究に当たって、まずは本物であるかどうかを調べたよ。

 

今回の研究では、公的に保管されたり個人的にコレクションされている、ベートーヴェンの毛髪とされる髪束8つを分析し、まずはどれが本当にベートーヴェンのものかを調べたよ。

 

と言っても、ベートーヴェン本人と確実に証明する他の証拠はないので、まずはこれらの髪束を比較し、同じ遺伝子的特徴を持つ髪束、もっと言えば同じ人物に由来する可能性が高い髪束がどれなのかを絞り込んだよ。

 

8つの髪束は、もちろんどれもベートーヴェン本人からのものだと主張しているので、死の前後のベートーヴェンを起点としているよ。そして、それぞれ異なるルートを辿って保管されたよ。

 

よって、これらの一部はともかく、全てがベートーヴェンとは異なる個人である可能性は低いと考えられるよ。そうなると、同一人物に由来する髪束は、ベートーヴェン本人のものである可能性が高いということだよ!

 

今回は検証の結果、8つのうち5つが、中央ヨーロッパに祖先をもつ1人の男性に由来し、19世紀初頭から保管されたことに一致するDNAの損傷が確認されたよ。

 

このことから、この5つの髪束はベートーヴェン本人に由来するという仮定で、最もDNAの損傷度が低かった、1826年の夏から冬頃に成長した「シュトゥンプフ髪束 (Stumpff Lock)」を元に詳細に調べてみたよ。

 

ベートーヴェンの髪から分かった様々なこと

ベートーヴェンの持病は原因不明

今回の研究では、一番の狙いであったベートーヴェンの持病については、可能性の低い候補を多少挙げることができただけで、原因を特定できなかったよ。 (画像引用元: シュトゥンプフ髪束 (論文Methods S1F) 、胃腸のイラスト (いらすとや) )

 

まず、ベートーヴェンの持病として有名な難聴は、残念ながら今回の研究では原因を特定することはできなかったよ。これは少なくとも、遺伝子を観て明らかな病気を発見することはできなかった、という意味だよ。

 

耳硬化症、骨パジェット病、クーロン病、潰瘍性大腸炎など、難聴の原因とされる候補はいくつもあるものの、今回の遺伝子の研究では、それらに罹っている、あるいは罹りやすかったという証拠は見つからなかったよ。

 

また、ベートーヴェンのもう1つの持病である胃腸の不調についても調べ、セリアック病や乳糖不耐症はほぼ確実に、過敏性腸症候群は恐らくレベルで原因から除外することができたけど、それ以上は特定できなかったよ。

 

これは、遺伝子を調べることが完璧にはできない上に、病気と遺伝子に関する理解も完璧ではないという、人類の科学的知識の限界によるものだから、これは今後の研究に期待するしかないね!

 

鉛中毒の証拠はニセモノ!?

ところで、今回分析されたもののうち、明らかに1つはニセモノであると分かったよ。「ヒラー毛髪 (Hiller Lock)」と呼ばれるこの束は、ポール・ヒラーがそれを所有したことからそう呼ばれているよ。

 

長年本物の毛髪とされ、様々な研究が行われたヒラー毛髪は、ベートーヴェンが鉛中毒に罹っていたという根拠となり、水銀を含む梅毒治療薬や晩年の病気に対するアヘンの処方を否定する根拠ともなっていたよ。

 

ところが今回、ヒラー毛髪は女性だとが判明したために、明確にニセモノだと分かったんだよ!他のサンプルと異なり[注2]、性別の違いがあるヒラー毛髪だけは、残念ながらニセモノだとはっきり言えるよ。

 

ベートーヴェンの死因は肝臓にあり?

ベートーヴェンの死因が判明?

ベートーヴェンの死因は、複合的な要因で発生した肝疾患であるかもしれないことが今回明らかにされたよ。 (画像引用元: シュトゥンプフ髪束 (論文Methods S1F) 、ワインのイラスト (いらすとや) )

 

興味深いことに、毛髪からは「B型肝炎ウイルス」と一致する遺伝子が見つかったよ。これは最近になって、B型肝炎の患者の毛髪にウイルスのDNAが残ることが判明しているよ。

 

また、多くのウイルスと同じく、B型肝炎ウイルスには地域によって遺伝子の差があるけど、今回見つかったB型肝炎ウイルスはヨーロッパのものとよく一致したよ。

 

このことから、少なくとも死の数ヶ月前からB型肝炎ウイルスに感染していたことを示しているよ。また、B型肝炎は肝硬変やがんの主な原因なので、肝臓に異常があったという所見と一致するよ。

 

ただし、B型肝炎の急性症状による死はとても稀で、通常は感染から数十年後に症状が現れるよ。そして考えられる感染源は母子感染、性的接触、あるいは汚染された器具による手術だよ。

 

B型肝炎ウイルスのDNAは1つのサンプル以外では見つからなかったけど、これはそれ以前の感染を否定するものではないから、果たしてベートーヴェンがいつからB型肝炎に罹っていたのかはわかっていないよ。

 

また、アルコール依存症なことはよく知られていて、最晩年には毎日の昼食に1リットルのワインを飲んでいたとすら言われてるよ!それに加えて今回、遺伝子的にも肝疾患に罹りやすい体質であることも判明したよ。

 

この結果から、確定できるような結果ではないものの、ベートーヴェンの死因は、B型肝炎による肝硬変に加え、大量の飲酒も複合的に合わさった、という可能性が高いことを示しているよ。

 

よって、ベートーヴェンは体質的に肝疾患に罹りやすい上に、長年の深酒と、どこかの段階で感染したB型肝炎が合わさり、肝臓に関連する病気で死亡した、という可能性が高いことになるよ。

 

更に、遺伝子から予想されるベートーヴェンの体質的には、肝疾患のリスクは飲酒量とある程度関係している、と言うことも今回判明したよ。

 

この結果は追加の検証が必要なものの、少なくとも深酒という点は自らの行いだから、大量の飲酒が肝疾患を招き、自分の寿命を縮めてしまった、ということが今回の研究から言えるよ。

 

ベートーヴェン家の家系図にいない人物が判明!?

 

ベートーヴェン家の秘密

ルートヴィヒの7代前のアールト・ヴァン・ベートーヴェンの直系の子孫と比較したところ、Y染色体が不一致であることが判明したよ。これは、ルートヴィヒはアールトの直系の子孫ではなく、どこかの代で父方の婚外子がいた可能性が高いことを示しているよ! (画像引用元: ベートーヴェンの肖像画 (WikiMedia Commons / Public Domain) )

 

今回の研究では、予想外なことも判明したよ。それは、ベートーヴェンの父方の祖先に、家系図にいない人物がいた可能性が高い、ということだよ!

 

今回の研究では、その中でルートヴィヒの7代前の祖先である「アールト・ヴァン・ベートーヴェン (1547-1609)」の直系の子孫5人の遺伝子を調べたよ。

 

その結果、男性のみがもつので、男系でのみ遺伝するY染色体が、ルートヴィヒ本人とアールトの子孫5人とで一致しないという驚くべき結果が出たよ。

 

ベートーヴェンの家系は、ルートヴィヒの父親に当たるヨハン・ヴァン・ベートーヴェン (1740-1792) を除き、少なくとも2つの記録で確認されていることから、家系図そのものには誤りがないとされているよ。

 

このことから、アールトとルートヴィヒの間のどこかで父方の婚外子が存在し、アールトとルートヴィヒが直系の関係ではなくなった可能性がある、と今回判明したよ!

 

このような可能性はもちろん低いものの、それでも1世代あたり1%から2%の確率で発生していたとされているので、否定はできない感じだよ。

 

伝記的には、ヨハンの父親、つまりルートヴィヒの祖父に当たるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (※孫と同名) は、実はヨハンの実の父親ではない、という説が一応はあるよ。

 

ただし、この伝記の記述が正しいかどうかは検証されておらず、また今回の研究では、いつの代で父方の家系が途切れているのかまでは決定することはできなかったよ。

 

ルートヴィヒは生涯未婚で子孫を残さず、その兄弟に関しても男系の家系は途切れている[注3]ことから、Y染色体の検証は不可能で、この謎は当面解決しそうにないよ。

 

いずれにしても、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの持病を調べようとしたら、全く想定外の発見をしてしまったのが今回の研究で、遺伝学の進歩は面白いね!

 

最も知りたかったことを知るにはまだまだ研究が必要!

今回の研究では、残念ながら最も知りたかったことは未解決のまま残されたけど、それでも予想外な成果が得られたんで、今回の研究はユニークだね。

 

例えば、家系のどこかに婚外子がいたらしいとか、鉛中毒の根拠となったホンモノとされる毛髪が実はニセモノと判明したなど、これまで分からなかったことが一気に判明したよ!

 

今回の研究でわからなかった点は、あくまで今の技術の限界を示すものだよ。つまり、将来的にもっと遺伝子の理解や解析技術の進歩があれば、持病の原因やB型肝炎の罹患時期などが判明するかもしれないよ。

 

また、このような有名人の体組織サンプルを調べる際には、その真贋をきちんと調べるべき、という教訓も今回の研究では与えているよ。

 

何しろ、多くの人に知られている鉛中毒の根拠となった髪の毛が、そもそも性別からして違うニセモノであったと判明したのだから、真贋鑑定はとても大事だ、ということになるね。

 

もちろん、この毛髪がよく研究された頃には今ほどの遺伝子解析技術はないけれども、今はそうじゃないのだから、まずは相互確認による真贋鑑定がものすごく大事になるね!

 

今回の研究が引き続き行われれば、ベートーヴェンの健康問題について、遺言とはちょっと異なる形だけど、答えを墓前に報告できる時期がいつか来るかもしれないね!

文献情報

[原著論文]

  • Tristan James Alexander Begg, et.al. "Genomic analyses of hair from Ludwig van Beethoven". Current Biology, 2023. DOI: 10.1016/j.cub.2023.02.041

 

[参考文献]

  • Josef Eisinger. "The lead in Beethoven's hair". Toxicological & Environmental Chemistry, 2007; 1-5. DOI: 10.1080/02772240701630588
  • Michael H. Stevens, Teemarie Jacobsen & Alicia Kay Crofts. "Lead and the deafness of Ludwig van Beethoven". The Laryngoscope, 2013; 123 (11) 2854-2858. DOI: 10.1002/lary.24120
  • Meredith, William. "The History of "Beethoven's" Skull Fragments: Part Two". The Beethoven Journal, Scan Jose, 2015; 30 (1) 25-29.
  • Christian Reiter & Thomas Prohaska. "Beethoven’s death—the result of medical malpractice?". Wiener Medizinische Wochenschrift, 2021; 171, 356–361. DOI: 10.1007/s10354-021-00833-x
  • Takumi Harada, et.al. "Hepatitis B virus DNA in the fingernails and hair of children with acute hepatitis B". Journal of Infection and Chemotherapy, 2021; 28 (1) 82-86. DOI: 10.1016/j.jiac.2021.08.014
  • Haruki Komatsu, et.al. "Signature of chronic hepatitis B virus infection in nails and hair". BMC Infectious Diseases, 2022; 22, 431. DOI: 10.1186/s12879-022-07400-8

脚注

[注1] 酢酸鉛 ↩︎
古い時代のワインは、その製法上酸味が強い傾向にあった。そのため、酸味を和らげる添加剤として、甘みを持つ酢酸鉛が添加されていた。古代ローマより使われていたこの手法は、鉛の毒性が判明し、添加が禁止された中世ヨーロッパでも中々使用禁止が定着しなかった。

[注2] 他のサンプル ↩︎
分析した8つの髪束のうち、1つはDNAの損傷が激しく、性別すら判明しなかった。残り7つのうち6つは男性であり、そのうち5つは同一人物である可能性が高い。これらはベートーヴェンのものではないと否定する根拠がないために、わずかながらその可能性が残っている。一方で女性の物であると判明したヒラー毛髪は、明確な矛盾点があるためにニセモノであると断定できる。

[注3] 男系の家系は途切れている ↩︎
ルートヴィヒの弟であるカスパール・アントン・カールは、結婚して子孫を残しているが、後の代で男系が途絶えている。Y染色体は原則として男性しか持たないため、男系が途絶えている時点で、ルートヴィヒに近いY染色体のサンプルは存在しないことになる。

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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