六角形の分子を分離!高性能な「有機金属構造体」を発見

2023.03.03

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、工業的に重要な「シクロヘキサン」を、未反応の「ベンゼン」から分離する優れたMOF (有機金属構造体) を見つけた、というお話だよ。

 

ちょっとピンとこない単語が多いけど、シクロヘキサンはナイロンの原料として、シクロヘキサンの原料のベンゼンは有毒な揮発性物質として、それぞれ関心の高い物質だよ。

 

これまではコストも環境負荷もかかる分離方法しかなかったけど、新規の多孔性物質であるMOFの分析で、とても強力な性能を持つものが見つかったよ!

 

MOFによるシクロヘキサンとベンゼンの分離 サムネ

(画像引用元: University of Manchester / WikiMedia Commons (Public Domain) (ベンゼン) (シクロヘキサン) )

 

似たような分子「ベンゼン」と「シクロヘキサン」

シクロヘキサンとベンゼンの分離は困難

シクロヘキサンは合成繊維のナイロンの原料になる、化学工業で重要な素材だよ。一方でシクロヘキサンはベンゼンから作られる分子だけど、シクロヘキサンから未反応のベンゼンを取り除くのは困難だよ。 (画像引用元: WikiMedia Commons (Public Domain) (ベンゼン) (シクロヘキサン) )

 

六角形の単純な構造を持つ炭化水素の「ベンゼン」は、化学工業において重要だよ。その役割の1つは、触媒を通じて水素を添加し、「シクロヘキサン」にすることだよ。

 

シクロヘキサンは更に数段階の反応を経て、最終的にはナイロン6やナイロン6,6といった合成繊維になるよ。このため、ベンゼンやシクロヘキサンは化学工業における重要な分子だよ。

 

ところが、ベンゼンとシクロヘキサンの関係性は結構厄介だよ。ベンゼンからシクロヘキサンを作る関係で、どうしても未反応のベンゼンがシクロヘキサンに混ざってしまうよ。

 

シクロヘキサンを使う反応においてベンゼンは邪魔な上に、ベンゼンそのものは毒性の強い揮発性物質なので、未反応のベンゼンはちゃんと取り除く必要があるんだ。

 

ところが、シクロヘキサンとベンゼンはどちらも六角形の似たような形の分子だよ。単に見た目だけでなく、性質もすごく似ているから、分離には多大な手間がかかるよ。

 

例えば、工業的にシクロヘキサンからベンゼンを分離するには、沸点 (沸騰する温度) が異なることを利用し、沸騰させてお互いを分離する「蒸留[注1]と呼ばれるプロセスが使われているよ。

 

ただ、シクロヘキサンとベンゼンの沸点の違いはわずか0.6℃しかないよ!このため、分離プロセスには大量のエネルギーを使い、二酸化炭素を消費する点で、とても問題になるよ。

 

多孔質材料による吸着は利点も難点も多い

手間もコストもかかる蒸留に代わるものとして、長年研究されていたのが「吸着」だよ。これは隙間の多い多孔質材料に通すことで、異なる分子を分離するプロセスだよ。

 

吸着には、蒸留のように多大なエネルギー投入や手間のかかる調整は不要で、ただ分離したい物質を通せばいいという点で、とてもコストが低いよ。

 

また、吸着では物質の組成を変化させる化学反応が起きているわけではないから、吸着した物質を多孔質材料から分離すれば、また再利用できるという点でもとても経済的だね!

 

とはいえ、そんな簡単な方法が今使われていないのは、もちろん理由があるよ。それは物質の種類や状況によっては、吸着効率がとても悪いことだよ。

 

多孔質材料といえば活性炭やゼオライト (沸石) が代表的だけど、シクロヘキサンとベンゼンの分離の場合、ほとんど実用に適さないことが分かっているよ。

 

シクロヘキサンに混ざっているベンゼンはとても少なく、ここからベンゼンのみを吸着するスピードは、活性炭やゼオライトではとても遅いことが分かっているよ。

 

このため、吸着に適した多孔質材料が新規に開発されない限り、問題のある蒸留プロセスを使うしかない、というのが今の状況だよ。

 

デザイン可能な多孔質材料「MOF」

そこで近年注目されているのが「MOF (Metal Organic Framework)」[注2]と呼ばれる材料だよ。日本語では「金属有機構造体」と呼ぶように、有機金属化合物であることが多いよ。

 

MOFは結晶として比較的容易に合成することのでき、頑丈で再利用もしやすいなど、多孔質材料としての利点をいくつか持っているよ。

 

MOFの最大の利点は、結晶構造を調整し、好きな大きさの穴を作ることができる点だよ。これにより、特定の分子のみを吸着し、他は吸収しない、という機能を調整しやすいよ!

 

ただ、欠点と言うか、まだ登場して間もない材料なので、よくわかっていない点があるよ。その1つは、あまりにも候補が多すぎるという点だよ。

 

自由に穴の大きさを変えられると言うことは、ほぼ無限な候補があるということになるよ。これに加えて、多孔質材料は吸着した状態を研究するのが難しいという問題もあるよ。

 

物質の吸着というのは、化学反応のように分子同士がガッチリと結合しているわけではないものの、それでも分子同士が引き合うことで起こる現象だよ。

 

吸着は化学反応ほどはよく理解されていない現象だし、多孔質材料の内部に入ってしまうので、分析で結合の状態を測定する、というのがとても困難だよ。

 

なので、狙いの物質を吸着するMOFの候補を絞り込もうにも、データが不足しているので絞り込みができず、候補が無数にある状態を中々回避できないよ。

 

有力候補「MFM-300」と「UiO-66」が見つかる!

MOFによるシクロヘキサンとベンゼンの分離

多孔質材料であるMOF (有機金属構造体) を通すと、シクロヘキサンからベンゼンを取り除けるよ。ただ、MOFの研究は始まったばかりであり、何が良い候補なのかはよくわかっていないよ。 (画像引用元: 原著論文 Graphical abstract)

 

マンチェスター大学などの研究チームは、多数あるMOFの候補の中で、「MFM-300」と「UiO-66」という2つのMOFのグループが、ベンゼンの吸着に最適であると見つけたよ!

 

MFM-300とUiO-66は、穴のサイズがベンゼン分子の大きさとほぼ同じなので、他の物質からベンゼンのみを選択して吸着する有力な候補だよ。

 

また、水に浸しても壊れない、分離からの再利用での寿命が長い、物理的に丈夫など、工業化で障害となりそうないくつかの問題をクリアしているよ。

 

なお、MFM-300とUiO-66はあくまでグループ名で、実際には含まれる金属元素の違いによって、さらに複数の候補に分かれるので、今回はそれらの違いも検証したよ。

 

研究では、MFM-300は7種類、UiO-66は4種類を用意し、シクロヘキサンとベンゼンの混合物から、ベンゼンのみをどの程度吸着してくれるのかを調べたよ。

 

シクロヘキサンとベンゼンの混合物は、気体、液体、水に溶けた状態の3種類を用意したよ。これは工業における分離だけでなく、他の応用も想定しているよ。

 

例えば、ベンゼンは不純物として、工場内の空気や、工場からの排気・排水に含まれる可能性があるよ。実験条件は、これらから微量のベンゼンを吸着するといった環境対策も想定しているよ。

 

分離性能が高いMFM-300とUiO-66

シクロヘキサンとベンゼンの混合物に、今回の研究で見つけた有力候補のMOFであるMFM-300とUiO-66を通すと、かなりの精度でベンゼンのみを吸着したことが分かったよ。これまでの研究で知られていた最も高性能なMOFよりも高い性能を示したものもあったよ! (画像引用元: 原著論文 Fig2)

 

実験の結果、全ての材料がベンゼンをよく吸着し、シクロヘキサンをあまり吸着しないという、欲しい性能を満たしていることが分かったよ。

 

そして、ほぼ全ての材料が、これまでに研究されてきた多孔質材料 (MOFとそれ以外の両方) よりも優れた吸着の性能を示したことも分かったんだって!

 

特に、シクロヘキサンを吸着せずにベンゼンのみを吸着する性能では、スカンジウムという元素を含んだMFM-300(Sc)は、これまでの研究で最高記録であったMOFすらを上回る性能を発揮したよ!

 

また、2価の銅を含んだUiO-66-CuIIは、かなり低濃度で存在するベンゼンも吸着してくれるという、別の性能がとても高いことを発見したよ!

 

また、今回の研究では、MOFとベンゼンやシクロヘキサンの吸着について正確な分析ができた、というのも大きな成果になるよ。

 

今回示された性能は、限りあるデータの中で見つけた候補の中から選択されたものだよ。ということは、まだ知られていない、もっと高性能なMOFもあるかもしれないよ。

 

ということは、今回の分析データが、他の有力候補を探る重要な手掛かりとなるかもしれないよ!その意味で、この研究はこれからも続いていくはずだよ!

 

文献情報

[原著論文]

  • Yu Han. "Control of the pore chemistry in metal-organic frameworks for efficient adsorption of benzene and separation of benzene/cyclohexane". Chem, 2023. 10.1016/j.chempr.2023.02.002

 

[参考文献]

注釈

[注1] 蒸留 ↩︎
後述する通り、シクロヘキサンとベンゼンの沸点はとても近いため、正確には共沸蒸留や抽出蒸留といったより洗練された方法が利用されている。

[注2] MOF ↩︎
多孔質材料の研究では、金属元素を含まないものも研究されている。このため、MOFの代わりに「多孔性配位高分子 (PCP / Porous Coordination Polymer)」という名称が使用される場合もある。

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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