陽子内部に "陽子より重いクォーク" を発見したかも?矛盾や勘違いしやすい内容を解説!

2022.08.23

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、陽子内部に "陽子より重いクォーク" を発見したかも?という、一見して難しい上に、なんだか矛盾しているような内容だよ。

これは前提となる知識が多いし、内容も難しめだから、いつもより本文が長いけれど、ぜひ最後まで読んでほしいんだよ!

これは物理学者が40年も前に予想し、しかしながら証明が難しかった内容について取り組んだもので、確定した科学的成果ではないとはいえ、非常に注目すべき内容なんだよ!

固有チャーム表紙

私たちを作る基本的な素粒子「クォーク」

私たちを含め、身近な物質は全て原子でできているよね?この原子は、中心にある原子核と、外側にある電子に分かれているよ。

そして原子核はさらに、陽子中性子という2種類の粒子の組み合わせでできているよ。ではこれが最小単位かと言えばそうではなく、更に内部構造を持つよ。

陽子や中性子を作る最小単位はクォーク[注1]と呼ばれる素粒子で、陽子や中性子はこのクォークが3個結合してできた複合粒子だよ (ちなみに電子は、それ自体が素粒子だよ) 。

陽子と中性子の中身

身近な物質は原子でできていて、原子の中心には原子核があるよ。そして原子核を構成する陽子や中性子は、アップクォークとダウンクォークの組み合わせでできているよ。

クォークの種類と質量

クォークは全部で6種類あるよ。アップクォーク・ダウンクォーク・ストレンジクォークは陽子より軽く、チャームクォーク・トップクォーク・ボトムクォークは陽子より重いよ。(※陽子の○○倍は、静止しているクォーク1個の質量だよ。ペアで出現する固有クォークはこの2倍でカウントするし、運動しているクォークは相対性理論の効果によりこれより増えるよ!)

クォークは全部で6種類あり、それぞれアップクォークダウンクォークチャームクォークストレンジクォークトップクォークボトムクォークと名前が付けられているよ。

アップクォークとダウンクォークは軽いクォークで、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個でできていることが分かっているよ。

一方でその他のクォークは重く、より軽い粒子へ崩壊しようとするから不安定だよ。このため重いクォークは、普通は粒子加速器でエネルギーを与えて合成しないと現れないよ。

ミクロの視点では “何もない空間” は “ない”

この、エネルギーを与えると重いクォークが現れる、というのがミクロの世界の不思議なところで、マクロの世界に住む私たちからすると不思議な感じがするよ。

例えば、真空というのをマクロの世界から見ると、物質もエネルギーもない空っぽの空間に見えるよ。ところがミクロの世界では真空は決して空っぽじゃないよ。

真空は泡立っている!

ミクロの視点では、真空は何もない空間ではなく、仮想粒子が空間からエネルギーを借りて出現し、すぐさま返済して消滅を繰り返している "泡立った空間" だよ。これは真空だけでなく、陽子内部などでも発生しているよ。エネルギーを与えれば、仮想粒子を実在粒子として取り出すことができるよ。

ミクロの世界では不確定性原理というものがあって、何かしらの値が絶対に固定されることはなく、ある程度の範囲内で確率的に揺れ動いている、と説明しているよ。

これは真空にも適用されるよ。真空において物質もエネルギーもゼロという固定された値になることはなくて、常にゼロではない値で素粒子が泡のように現れては消え、を繰り返しているよ。

不確定性原理で現れる素粒子は、実際には空間からエネルギーを "借りて" 現れているので、一瞬にして "借金" を返済して消えることから、これを仮想粒子と呼んでいるよ。

ところが、粒子加速器で粒子同士をぶつけるなどしてエネルギーを外部から与えると、空間から "借りた" エネルギーを返済した状態になるから、仮想粒子は実在粒子として現れることができるよ。

粒子加速器で重い素粒子を合成する実験というのは、このようにしてエネルギーの代返によって仮想粒子を "取り出している" と考えることができるよ。

なお、ある粒子1個を取り出すには、その反対の性質を持つ反粒子1個も必ず取り出さないといけないことから、最低でも粒子2個分のエネルギーが必要になるよ。

これは簡単に言えば、粒子を+1個と数え、反粒子は-1個と数えるというルール[注2]があるからだよ。真空は粒子が0個で、現れた粒子も合計すると(+1個)+(-1個)=0個になるからね。

「固有クォーク」は見えないけど無視できない

だいぶ前置きが長くなったけど、この仮想粒子が沸き立っている状態、というのは、何も真空の中だけじゃなく、陽子や中性子の内部のような真空ではない場所でも起こっているよ。

例えば、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個の組み合わせでできている、とさっき説明したけど、仮に陽子の中身を実際に見れるとしたら、そうではないように見えるはずだよ。

もし見えたら、陽子を構成している3個のクォークの他に、無数のクォークと反クォークのペアが現れては消え、現れては消え、を繰り返して見えるはずだよ。

ただし、これは仮想粒子である仮想クォークと仮想反クォークの組み合わせだから、陽子を構成する粒子である、と数えることはできないよ。中性子も同じことが起きているはずだよ。

ただ、これは陽子に全く影響を与えない、という意味ではないよ。無数に表れる仮想クォークと仮想反クォークのペアは、沸かしたお湯の泡のようにあちこち揺れ動いているよ。

すると、沸騰が鍋を揺らすように、仮想クォークが陽子全体の運動量に影響を与えることになるよ。実際、3個の構成粒子だけでは陽子の運動量を説明できないことが実験的に示されているよ。

この、構成粒子としては決して現れないけど、陽子全体の運動量など、外部には影響を与えうる仮想クォークのペアを固有クォーク (Intrinsic quark) と呼んでいて、約40年前に予測されたよ。

陽子より重い固有クォークは陽子の内部にある?ない?

固有チャームクォークの影響は?

軽い固有クォークが陽子内部にあることは分かっているよ。では陽子自身より重い固有クォークは出現するのかな?重い固有クォークの中では最も軽い固有チャームクォークを探したのが今回の研究だよ!

さて、さっきクォークには6種類あると説明したけど、このうち3種類は陽子より軽く、3種類は陽子より重いよ。そして陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個と説明したよね。

固有クォークに関する研究では、構成粒子の3個の他に、固有アップクォーク、固有ダウンクォーク、固有ストレンジクォークのペアについては、陽子内部に現れることが分かっているよ。

これらの固有クォークと固有反クォークの合計質量は、陽子1個の質量よりずっと軽いために、固有クォークとして表れることを理論的に説明することは難しくないよ。

軽い固有クォークのペアは陽子の0.005倍から0.2倍の質量しかなく[注3]、その平均的な出現量を理論的に予測したり、計算で導くことが比較的簡単だからだよ。

そしてこの理論的予測や計算結果は、実験結果ともよく合っていることから、軽い固有クォークが陽子内部にどれだけ現れているか、はきちんと理解されているよ。

一方で、固有チャームクォーク、固有トップクォーク、固有ボトムクォークのペアの質量は、軽くても陽子の2.7倍、重いとなんと370倍にもなってしまうよ!

これほど重い固有クォークを理論や計算で扱うことは極めて難しい上に、出現量は極めて少ないことから、実験的に確かめることも相当難しいよ。

そして、これほど重い固有クォークを、固有クォーク=仮想粒子の状態から実在粒子として取り出すには、必要な分のエネルギーを投入すればいいわけだけど、今度は出現場所が問題になるよ。

もしも陽子内部に重い固有クォークがある場合、陽子そのものよりも重いクォークが固有クォークとして表れているということになるから、これは矛盾して聞こえるよね!

不確定性原理で現れる固有クォークでは、こういう一見矛盾した状況も許容するけど、でも陽子そのものより重いクォークが現れるのは変じゃないか、と違和感を持つのは当然だよね。

なので、こういう重い固有クォークは現れず、重いクォークが合成できるのは陽子の外部からだ、という考えもまたあったりして、何十年も議論されているよ。

そして、陽子そのものよりも重い固有クォークが現れるとしたら、その中では最も軽いクォークであるチャームクォークだったら実験的に観測できるのではないか、という予測があったよ。

もしボトムクォークやトップクォークのようなすごく重いクォークの場合、少し数値が大きいだけでも影響大だから、現在の技術で測定可能なほどの影響は与えていないとみられているよ。

一方で、今までの実験では見つからず、とはいえ現在の技術で測定可能なほどの値が出てきそうなのが、比較的軽めのチャームクォーク、というわけだよ。

固有アップクォーク、固有ダウンクォーク、固有ストレンジクォークの影響はよく理解されているので、もし理論と実験値にずれがあれば、4つ目の未知の成分があることになるよ。

4つ目の未知の成分を検出すれば、それはつまり理論的に予測されている固有チャームクォークを見つけた、と言えるわけだよ。

ただし、固有チャームクォークが陽子の運動量に影響を与えるとすれば、それは極めて小さなもので、仮にあったとしても測定は極めて難しいよ。

それに、固有チャームクォークの影響は最大で2%もあるという予測もあれば、最大でも0.5%未満で恐らくほぼゼロという予測もあって、はたして実験的に測定可能なのかすら不明だったよ。

機械学習で固有チャームクォークを捉える!

そんな、固有クォークという40年近い難題に取り組んだのが、NNPDFコラボレーションという国際研究チームだよ。

NNPDFでは、過去10年間の約50万回分の粒子加速器の衝突実験データを分析するんだけど、使ったのが機械学習という点で一風変わっているよ。

単に膨大なデータを分析するだけでなく、機械学習によってデータからノイズを取り除き、本質的な物理法則を探し出す、というところを中心に構成されているよ。

その方法論は私には理解も説明も難しいけれど、すごくかいつまんで言えば、2つの計算結果を比べた時のズレの有無を調べた、ということになるよ。

陽子の内部について、1つは固有クォークありの場合、もう1つは固有クォークがなしの場合で計算を行って、結果を差し引きするよ。

もし固有クォークが存在しない場合、計算結果は打ち消しあってゼロになるはずだね。一方でもし存在する場合には打ち消されない部分があるから、これが固有クォークの存在を示唆するよ。

ただ、元々差し引きの結果がゼロに相当近いことは知られているし、固有クォークとは無関係のズレや、ノイズによる影響もあるから、ここが今までの探索を逃れた理由でもあるんだよ。

固有チャームクォークを発見!

左右のグラフを比較してみると、右側はほとんど違いがないのに対し、左側は曲線と縦軸が交差している場所がかなり違うよね?この違いは、固有チャームクォークがあると仮定して計算した場合と、固有チャームクォークがないと仮定して計算した場合による違いが現れたものだよ! (画像引用元: 原著論文 Figure 1 より)

その結果、固有チャームクォークによる陽子への影響は0.62%であると計算されたよ。これはとても小さい値に思えるけど、ゼロではないこと自体が重要だよ!

実際、今回の研究結果を、40年前に行われたEMC実験、そして2022年に発表されたLHCb Z+Charm実験の両方に適用したところ、どちらもよく一致したことがとても大きいよ。

両実験はどちらもチャームクォークに関する実験とは言え、行われた年代はもちろん、ぶつけた粒子の種類やエネルギーの値など、全く異なる実験を行ったんだよ。

全く別条件の実験結果が、今回のNNPDFの結果と偶然一致する、というのはほとんどあり得そうもないことから、実際に固有チャームクォークを発見したかも、っていう評価になったんだよ!

ただ、今回の実験結果は、まだ科学的な成果であると確定させることはできないよ。というのは、今回の実験が正しい確率は99.7% (3σ) だからだよ。

素粒子物理学は膨大な実験回数をこなすことで偶然が起きやすいことから、素粒子物理学で科学的な発見を主張するには99.9999% (5σ) 以上の確かさ[注4]が求められるんだよ!

だから今回の固有チャームクォークについても、あくまでも予備的な結果であって、確定した科学的な発見報告、というわけじゃないよ。

とはいえ、他の実験結果との一致や、理論的な予測との一致が、単なる偶然である可能性はかなり低い、と思われているのが、今回論文が注目されている理由でもあるよ。

素粒子物理学に関する研究を行っている国際研究チームは他にもたくさんあるから、他の研究チームが独自の方法で立証や検証を行うことはとてもありうるんだよ。

今回の成果がもし確定すれば劇的!

今回の成果は、陽子を構成する素粒子の数や種類が変わったわけでも、素粒子物理学の理論が根本から覆ったわけじゃないから、もしかすると歯切れの悪いように聞こえるかもしれないね。

でも、固有クォークという40年の難題の証明まであと一歩まで近づいたことから、今後近いうちに "固有クォークはあるかも" から "固有クォークはある" に書き換わるかもしれないよ!

また、今回は固有チャームクォークに焦点を当てているけど、これは最も軽いとはいえ、陽子の質量より重い、という点が重要だよ。

陽子より重い固有チャームクォークが実験的に確かめられれば、実験的に証明はできなくても、固有トップクォークや固有ボトムクォークがある可能性はとても高くなるよ!

もしそうなれば、これまで物理学者が考えてきた素粒子物理学の基本理論と、その拡張や修正内容が正しかったという証明になるから、これはとてもチャーム (魅力的) な発見なんだよ!

脚注

[注1] クォーク ↩︎
物質を作る素粒子のグループで、電子やニュートリノを含むレプトンと対をなすよ。全ての原子は陽子・中性子・電子の組み合わせでできていることから、私たちからみて身近な物質は、全てアップクォーク・ダウンクォーク・電子のたった3種類の素粒子の組み合わせでできている、と言い換えられるよ!

[注2] 粒子を+1個と数え、反粒子は-1個と数えるというルール ↩︎
より厳密に言えば、素粒子の種類に紐づけされたフレーバー量子数という物理量があり、これで+1個とか-1個とかを数えているよ。質量エネルギー保存則のように、量子数も粒子の反応の前後で保存される量である (厳密には成り立たないものもある) 、という概念から生み出されたものだよ。

[注3] 軽い固有クォークのペアは陽子の0.005倍から0.2倍の質量しかなく ↩︎
この説明は少し注意が必要だよ。計算してみると、陽子や中性子を構成しているクォーク3個の質量の合計は、全体の質量の約1%にしかならないよ。では残りの約99%の質量はどうなっているのかと言うと、クォークが光に近い速度で運動することにより発生しているものだよ!これは相対性理論の効果である、光に近い速度で運動している物体の質量は増大する、という影響だよ。なので、このお話で言う陽子よりも重い・軽いという表現は、クォークが静止していると仮定した場合の質量で比較しているよ。

[注4] 99.9999% (5σ) 以上の確かさ ↩︎
素粒子物理学は、他の科学分野とは比較にならないくらい極めて大量の実験回数をこなし、膨大なデータを分析をすることから、偶然にも何か意味ありげな結果っぽいものが出る可能性も、他の科学分野よりも高いという問題があるよ。例えば、普通のサイコロを10個振って10個全部で1が出る、というのはとてもありそうにないから、これはサイコロの不具合か投げた人のマジックかインチキを疑うよね。ところが素粒子物理学の実験では10個はおろか1万個くらいのサイコロを振るようなものだから、1を出しているサイコロが10個近くに固まってるエリアが発生する可能性は、サイコロに一切不具合がなくてもありうるよ。このような偶然にも結果っぽいものが出ているだけの可能性を防ぐために、素粒子物理学では他の科学分野よりも厳しい条件を課しているんだよ。

文献情報

[原著論文]

  • The NNPDF Collaboration. "Evidence for intrinsic charm quarks in the proton". Nature, 2022; 608 (7923) 483-487. DOI: 10.1038/s41586-022-04998-2

[参考文献]

  • S. J. Brodsky, P. Hoyer, C. Peterson & N.Sakai. "The intrinsic charm of the proton". Physics Letters B, 1980; 93 (4) 451-455. DOI: 10.1016/0370-2693(80)90364-0
  • The European Muon Collaboration. "Production of charmed particles in 250 GeV μ+-iron interactions". Nuclear Physics B, 1983; 213 (1) 31-64. DOI: 10.1016/0550-3213(83)90174-8
  • P. Jimenez-Delgado, T. J. Hobbs, J. T. Londergan & W. Melnitchouk. "New Limits on Intrinsic Charm in the Nucleon from Global Analysis of Parton Distributions". Physical Review Letters, 2015; 114 (8) 082002. DOI: 10.1103/PhysRevLett.114.082002
  • S. J. Brodsky, A. Kusina, F. Lyonnet, I. Schienbein, H. Spiesberger & R. Vogt. "A Review of the Intrinsic Heavy Quark Content of the Nucleon". Hindawi Publishing Corporation Advances in High Energy Physics, 2015; 231547. DOI: 10.1155/2015/231547
  • Tom Boettcher, Philip Ilten & Mike Williams. "Direct probe of the intrinsic charm content of the proton". Physical Review D, 2016; 93 (7) 074008. DOI: 10.1103/PhysRevD.93.074008
  • Tie-Jiun Hou, Sayipjamal Dulat, Jun Gao, Marco Guzzi, Joey Huston, Pavel Nadolsky, Carl Schmidt, Jan Winter, Keping Xie & C.-P. Yuan. "CT14 intrinsic charm parton distribution functions from CTEQ-TEA global analysis". Journal of High Energy Physics, 2018; 59. DOI: 10.1007/JHEP02(2018)059
  • LHCb Collaboration. "Study of Z Bosons Produced in Association with Charm in the Forward Region". Physical Review Letters, 2022; 128 (8) 082001. DOI: 10.1103/PhysRevLett.128.082001
彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事