世界2例目!洞窟に棲む二枚貝「ユーペラ・トログロビア」を発見

2022.06.03

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、洞窟環境に生息する新種の二枚貝を発見したという論文についてだよ!

陸地は海と比べると厳しい環境で、洞窟環境となればその条件はさらに厳しくなるよ。

今回のユーペラ・トログロビアの発見は、二枚貝としては世界2例目の真洞穴性生物の発見だよ!

ユーペラ・トログロビア表紙

貝類はけっこー環境的制約を受けるよ

世界に棲む貝類のほとんどは、硬い殻で軟体の身体を保護する代わりに、移動すること、そしてそれにより生息域に大幅な制限を持つ動物だよ。

貝類の移動速度は遅く、岩場に固着して全く動かないことも珍しくないよ。だから、餌がいつでも手に入る場所じゃないと生きるのが難しいよ。

その手段が豊富なのは浅い海で、光合成によって発生する大量のプランクトンが、波や潮の流れで自分たちに流れてくることをひたすら待っているよ。

陸地に進出する場合でも、餌が流れてくる水の豊富な場所という条件は外せないけど、これに加えて乾燥に対処しないといけないよ。

陸地の水域である川や湖は、海と比べると水量が不安定で、時に水が減少してしまうから、乾燥に対処しなければ死んでしまうよ!

カタツムリなどが代表的な腹足類はまさにその例で、貝類としては移動速度が速く、殻の中に身体を収納すれば、乾燥に長期間耐えることができるよ。

洞窟は生物向きの物件ではないよ

ただの陸地でさえも貝類には厳しい環境だけど、洞窟環境はそれに輪をかけて厳しく、貝類の発見はとても少なくなるよ。

洞窟では光合成が起こらず、それを基盤とした生態系が存在できないことから、餌となる生物も少なくなり、そもそも種類を問わず、生物全般を簡単には寄せ付けてくれないよ。

まして、じっと餌を待つことが多い貝類は、餌の遭遇確率の低い洞窟で暮らすのはあまりにも厳しすぎるよ。

一歩も洞窟から出ず、洞窟内で生涯を過ごす真洞穴性の貝類でこれまで知られているのは、1例を除いて、全て自力でそれなりの移動速度を持つ腹足類だけだよ。

1例を除いて、と書いたけど、過去にたった1例だけ、真洞穴性な二枚貝が発見されているんだよ。二枚貝は固着してほぼ動かないことを考えると、これは非常に例外的な発見だよ。

それは1962年に発見されたコンゲリア・クスセリ (Congeria kusceri) と呼ばれる二枚貝で、クロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナの洞窟で見つかっているよ。

このほかにも数種、洞窟に棲んでいるのではないかと見られている候補はいるけど、今のところ洞窟に生息している確実な証拠がなく、今のところカウントされていないよ。

コンゲリア・クスセリの発見以降、今回解説する論文が出るまでは、真洞穴性二枚貝は未発見の状態が続いていたんだよ。

洞窟で発見された二枚貝

Eupera troglobiaの生息環境

カーザ・デ・ペドラ洞窟の入り口と内部の写真だよ。部分的に水没している洞窟の壁面に、今回見つかった新種の二枚貝はいたよ。水面より下にいるものと上にいるものがいたよ。
(画像引用元: 原著論文Fig35)

今回発見された二枚貝は、ブラジル中央部のトカンティンス州にあるカーザ・デ・ペドラ洞窟で見つかったよ。

この二枚貝は元々2005年に見つかり、南アメリカ大陸に多く見られるユーペラ属 (Eupera) に属することはわかっていたけど、その時には重要な発見であるとは思われていなかったよ。

はじめの方に説明したように、二枚貝は基本的に動かないことから、洞窟環境への適用は極めて厳しいと考えられていたからだよ。

加えて、この洞窟は雨季と乾季で水の量が大幅に変化し、1年のうちの3ヶ月ほどは水がなくなることから、長期間の乾燥も大敵となるよ。

なので最初のころ、これは単に洞窟にたまたま流れてきた二枚貝で、まさか洞窟に棲んでいるとは思われなかったんだよ。

ところが2010年に、この論文の著者の1人であるRodrigo Lopes Ferreiraが、2006年に書かれた当時の報告書を読んで、違和感を抱いたんだよ。

それは、多くのユーペラ属は典型的には明るい茶色をしているけど、この二枚貝は薄い黄色をしていたことだよ。色素沈着の欠如は、洞窟に棲んでいる生物の典型的な特徴だよ。

本当に洞窟に棲んでいた二枚貝!

Eupera troglobiaホロタイプ標本

ユーペラ・トログロビアのホロタイプ標本 MZSP 155717 の写真だよ。幅4.3mmの殻は、厚さも色も非常に薄いよ。
(画像引用元: 原著論文Fig1-6)

ただし、これだけでは洞窟に棲んでいる証拠にはならないよ。そこで2020年に、Luiz Ricardo L. Simoneと共に改めてサーガ・デ・ペドラ洞窟の調査を行ったよ。

すると、部分的に水没した洞窟の壁面から、2006年に発見されたのと同じ特徴を持つ二枚貝を見つけることができたよ。

ここで、真洞穴性生物の典型的な特徴を改めて挙げてみると、色素沈着の欠如、サイズの縮小、薄い殻、卵や胚の数の減少、目の縮小だよ。

二枚貝では目の存在自体が珍しいし、既知のユーペラ属で持っているものはいないからこれは比較ができないけど、他の特徴は複数を満たしていたよ。

最初の違和感の通り、この二枚貝は薄い黄色で、透けるほど薄く繊細な殻だよ。大人の殻のサイズは4mmから5mm (ホロタイプ標本は4.3mm) で、これも近縁種と比較して小さいよ。

また、体内に稚貝を抱えている個体もいたけど (この種は雌雄同体だよ) 、その数は約30個体で、これは近縁種の半分以下だよ。

これらの特徴から、この二枚貝は真洞穴性生物であると考えられるよ。同時に新種であり、2人は洞穴性 (troglobitic) であることにちなみ、ユーペラ・トログロビア (Eupera troglobia) と名付けたよ!

洞窟にどう適応したのかな?

ユーペラ・トログロビア発見の意義

真洞穴性生物は珍しい環境に適応しているからこそ、興味深い遺伝子を持っている可能性があるよ!
(原著論文Fig1よりユーペラ・トログロビアの画像を引用)

ユーペラ・トログロビアの発見は、世界で2例目の、洞窟に棲んでいることが確実な二枚貝で、その生息環境から適応についていろいろ考察ができるよ。

例えば、発見時の生息地は部分的に水没しており、大部分は水面下にいたものの、水面より上にいる個体も少数ながらいたよ。

サーガ・デ・ペドラ洞窟の水量の変化を考えると、ユーペラ・トログロビアは1年のうち2~3ヶ月ほどは乾燥に耐えられるということになり、乾燥耐性が非常に強いと考えられるよ。

これはまだ未検証であると前置きしつつ、水面よりはるかに上の洞窟の天井近くなどにも二枚貝らしきものがあったことから、乾燥耐性は相当あることが考えられるよ。

また、半世紀以上も前に発見されたコンゲリア・クスセリは南ヨーロッパ、そして今回のユーペラ・トログロビアは南アメリカ大陸中央部に生息していることも重要だよ。

陸生の貝類に占める二枚貝の乏しさと、洞窟環境の厳しさから言えば、真洞穴性二枚貝が非常に少ないことは予測できるよ。

しかしながら、地理的に全く異なる場所、種別も全く異なる二枚貝が洞窟環境に進出できたということは、他にも見つかっていない真洞穴性二枚貝の存在が示唆されるよ。

また、これら2種についてより詳細な研究を行えば、ほとんど動かない二枚貝がどのようにして厳しい洞窟環境に適応したのか、ということへの理解が得られるかもしれないよ。

多少の手掛かりとして、ユーペラ・トログロビアは洞窟の中でも堆積物が豊富に存在する場所で見つかった、という点があるよ。

まだはっきりとしたことは言えないけど、栄養となりうる様々な物質が含まれる堆積物の存在は、ユーペラ・トログロビアが生きるのに必要なものなのかもしれないよ。

こういった極限環境に適応する生物の研究は、決して面白い生物の理解にとどまらず、もっと応用的なことも考えられるよ。

例えば、洞窟環境に適応するにあたって、近縁種には見られない遺伝子の変異があることは珍しくないよ。

これを知ることによって、劣悪な環境にも耐えられるようになるメカニズムや、内臓や代謝機能と言った生物の基本的な器官の発生メカニズムが分かるなど、生物の研究に広範な影響を与えるんだよ!

研究は始まったばかり、保護は急務!

真洞穴性二枚貝と言う、珍しい生物の生息場所は脅かされているよ!

ただ、こういう風に夢のある未来を実現するには、ユーペラ・トログロビアのような特殊化した生物が棲む環境を保護する必要があるよ。

サーガ・デ・ペドラ洞窟は、地上に露出した入口が極めて巨大であることで知られていて、地元の人々が宗教的な目的で毎年11月頃に訪れるよ。

故人を弔うミサに伴い、蝋燭やペットボトルなどのゴミが大量発生するけど、これらから発生する成分が、ユーペラ・トログロビアに有害である可能性は排除できないよ。

また、洞窟周辺の石灰岩が露出した地表部は、農業が行われたことによって、元々の環境から大きく改変されているよ。

雨季の水没時、農地化に伴って流れてこなくなった成分や、農地から流れてくる肥料や農薬などの成分がユーペラ・トログロビアに影響をもたらす可能性もまた排除できないよ。

いずれにしても、影響があるかないか、そもそもユーペラ・トログロビアがどの程度生息しているのかについて、より詳しく研究を継続する必要があるよ。

また、ブラジルの法律では、洞窟環境の管理計画は、使用する人々によって策定されることとなっているから、研究結果の広報も重要となるよ。

生息環境の問題は、先に発見されたコンゲリア・クスセリに対しても起きていることから、貴重な生物の保護は急務ともいえるよ。

ただし、これらの環境汚染は地元住民の生活や文化とも密接である事から、保護政策のやりすぎは地元住民の生活や文化を奪ってしまう恐れもあるよ。

だからこそ、保護と生活のバランスを取るには、なぜ保護するのかという点に関して、人々に理解してもらう事が欠かせないよ。

ユーペラ・トログロビアの発見により、生物多様性がまた広がったけど、生物多様性を維持するには、さらなる研究と、研究者以外への広報と理解もまた必要だよ!

文献情報

[原著論文]

  • Luiz Ricardo L. Simone & Rodrigo Lopes Ferreira. "Eupera troglobia sp. nov.: the first troglobitic bivalve from the Americas (Mollusca, Bivalvia, Sphaeriidae)". Subterranean Biology, 2022; 42, 165-184. DOI: 10.3897/subtbiol.42.78074

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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