月の土壌でも植物は育つ!月面長期滞在を見据えて

2022.05.24

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、月の土壌で植物を育てたという研究だよ!

月で長期滞在をする上でいくつかの課題を解決する植物栽培では、土壌が必要になるよね。

果たして月の土壌は植物栽培に利用できるのか、という疑問に対して、どんな答えが出たのかな?貴重なサンプルを使った研究結果だよ!

月で植物栽培 扉絵

近くて遠いお隣さん、月

地球以外の天体で最も近い位置にあるのは、地球の衛星のだよね。

月は長年、人類が地球以外の拠点として利用したい候補の1つになっているよ。それは単に地球のお隣さんであることもあるけど (次に近い火星は、最も接近した時でも150倍も遠い!) 、それ以外の理由もあるよ。

例えば、月は地球の6分の1の重力しかなく、悪天候どころか大気がないから、月の重力を振り切るための重量当たりの燃料は少なくて済むなど、地球から打ち上げるときと比べて、ロケットを打ち上げるコストが少なくて済むよ。

あるいは、月はヘリウム3などの希少な資源の宝庫だから、各国が資源獲得に注力しているよ。これはちょっと前ならSF小説でのお話だったけど、昨今は真剣に月資源の採掘が検討されているよ!

ただ、アポロ計画のような短期滞在ならともかく、ロケット打ち上げ拠点や資源採掘拠点の設置、あるいは拠点建設のような、ある程度人間が月面に長期滞在をするとなると、難題がいくつもあるよ。

人間は当然ながら生き物で、月面に放り出したらたちどころに死んでしまうよ!当然、人間が生きるために消費する水分や食料や酸素など、消費する物質を月面で貯蔵し、あるいは何らかの方法で継続的に調達する必要があるよ。

一番簡単なのは地球からデリバリーすることだけど、地球から月には自転車では行けない分だけ、配送料は非常に高額だよ。初期投資ならともかく、長期滞在中もずっとこれに頼りきりでは、月で活動するメリットを完全につぶしてしまうよ。

植物は様々な問題を解決する、かも?

長期滞在で消費するものを現地で調達するには、月に建てた施設の中で植物を育てるのが一番簡単かつメリットも大きいと考えられていて、実際に様々な国や時代で研究が行われているよ。

植物は、光合成によって二酸化炭素を酸素に変換してくれるし、狭い場所、壁、天井など、適切なスペースや棚があればどこでも配置して育てられるよ。

それに、育てるのを野菜や果物にすれば、植物自体が食料や水分の素になってくれると、いろんな課題に答えてくれるよ!

ただ、これまで宇宙と植物に関する研究は、地球と比べて放射線が強く、重力が小さい環境で植物を育てた場合、どんな突然変異や有害な影響がないかどうかを調べる研究が多く、植物を育てる物資の調達に関する研究は少ないよ。

特に、植物を育てる上で欠かせない土壌をどこから持ってくるのか、という課題については、これまであまりきちんと研究はされてこなかったよ。

地球から土壌を持っていくとか、土壌を必要としない水耕栽培という手もなくはないけど、できるなら土壌を使った栽培方法を行い、そして土壌も現地調達ができた方がいい、というのは変わらないよ。

月の土壌は地球とは全然違うよ

ところで、月に存在する土壌はレゴリスと呼ぶけど、これは地球に存在する土壌とはかなり違う性質を持っているよ。

地球に存在する土壌は、元となる岩石が風化によって細かく砕かれてできたもので、そこに細菌や植物や死骸などの生物の作用が入り込むこともあるよ。

一方、月の土壌であるレゴリスは、鋭く尖った砂のような感じで、激しい気温変化と宇宙線や太陽風による作用でできたものだよ。

地球の土壌と月のレゴリスの大きな違いは、生成に水が関与しているかだよ。水が関与すると、土壌はより水分を含みやすい形態や、植物に必要な無機質を放出しやすい形態になるよ。

月のレゴリスは当然そんな生成環境にはないから、明らかに植物にやさしくない土壌ではあるけど、一方で地球でも、砂漠の砂のような植物にやさしくない土壌でも、全く育たないわけではない場所もあるわけだよね。

発想は簡単、やるのは難しい

ということで、レゴリスを使って植物が育つのか育たないのか、育つならどの程度の成長度合いで、植物が病気や突然変異をしないかなど、いろんな疑問がわくわけだよ。

レゴリスで植物を育てるのは、月面で暮らすのをどれくらい簡単にするかに関わってくるから重要なわけだけど、これはなかなか研究ができなかったよ。

これは少し考えれば納得なお話であるけど、月の土壌がものすごく珍しいから研究ができない、というのがその理由だよ。現在人類が持っている月のサンプルは、アメリカのアポロ計画、および旧ソ連のルナ計画で持ち帰ったものしかなく、非常に貴重だよ。

研究でどうしても失われてしまう分も含め、わずかな重量の変化も厳重に管理されている中、月の土壌で植物を育てるという、それなりに大量に無くなってしまう研究は、当然なかなかできないわけだよ。

今回のフロリダ大学の研究チームが行った研究も、11年間で3回の申請を行い、ようやく承認が下りたという、始める前からかなり大変だった研究だよ!

申請が無事通り、研究チームはアポロ11号・12号・17号で収集されたレゴリス各4gずつを利用できるようになったよ。後は、どのように栽培の研究を行うかだよね。

超貴重な鉢植え実験!

月で植物栽培 実験方法

実験そのものは、実際の月の土壌でシロイヌナズナを育ててみるという単純なものだよ。ただサンプルが超貴重品だから、実験の認可には時間がかかったよ!

まず、1gずつに土壌を分けて鉢植えに入れたよ。この鉢植えは、普段は細胞培養に使われるプレートで、底に排水用の穴を開けたよ。

栽培する植物はシロイヌナズナColumbia-0 (Arabidopsis thaliana Columbia-0) が選ばれたよ。シロイヌナズナは全ゲノムが解読されている代表的なモデル生物で、様々な植物の研究と比較できるから選ばれたよ。

なお、レゴリスで育てたものとの比較対象として、市販の培養土 (もちろん地球の) 、月のレゴリスおよび火星のレゴリスを再現した人工土壌でもシロイヌナズナを育てたよ。

鉢植えの準備が終わったら、シロイヌナズナの種子を土壌の表面に置き、光を当てて、ムラシゲスクーグ (植物の実験によく使われる栄養剤) を毎日与えたよ。

月でもぺんぺん草は生える!

月で植物栽培 比較1

どのレゴリスサンプルに植えた種子でも、シロイヌナズナは無事発芽したよ。
(シロイヌナズナの写真は原著論文より)

最初、レゴリスからシロイヌナズナがちゃんと発芽するかどうかさえ分からなかったよ。ところが実験をやってみると、実験でセッティングした全ての鉢植えで、48時間から60時間の間に全ての種子が発芽したよ!

ここから、シロイヌナズナの種子が発芽するのを促すホルモンやシグナルは、レゴリスの中でも正常に働いていることを示しているよ。

月で植物栽培 比較2

間引きした苗で根を比較すると、レゴリスで育てた苗は、人工土壌で育てた苗と比べて悪かったよ。
(シロイヌナズナの写真は原著論文より)

ただし、その後の成長に関しては、万事順調という感じではなかったよ。レゴリスで発芽したシロイヌナズナは、葉の大きさや根の長さなど、発育が悪かったよ。

この発育の悪さは、普通の培養土だけでなく、月の人工土壌と比較しても悪かったよ。人工土壌はレゴリスの再現なわけだから、元素組成や粒の形など、基本的な成分は同じはずで、普通に考えれば結果を左右しないはずだよ。

視覚的な観察では、レゴリスで育てたシロイヌナズナの葉の色は、発育度合いに関わらず緑色が濃かったよ。これは、シロイヌナズナが強いストレスを受けていることを示す典型的なサインだよ。

そこで、発現している遺伝子を調べてみると、塩分・重金属・活性酸素種・リン飢餓に関連するストレスに反応する遺伝子が発現していることを示していたよ。レゴリスで育てたシロイヌナズナの遺伝子の発現度合いは、基本条件が同じはずの月の人工土壌よりも強かったよ。

月で植物栽培 比較3

全体を通した成長度合いは、レゴリスで育てた苗は、人工土壌で育てた苗と比べて悪かったよ。また、ミッション間でも成長度合いがバラバラで、アポロ11号のサンプルで育てた苗は12号や17号と比べても成長度合いが悪かったよ。
(シロイヌナズナの写真は原著論文より)

一方で面白いことに、同じ月のレゴリス同士で比較しても、採集したミッションによって育ち度合いが違うことも判明したよ。各ミッションでは異なる場所でレゴリスを採集したわけだから、レゴリスの質の違いを反映している可能性があるよ。

特に、アポロ11号のミッションで採集されたレゴリスで育てたシロイヌナズナは、12号や17号のものと比較しても、目に見えて成長が悪かったよ。

更に、同じミッションで採集されたレゴリス同士で比較しても、成長度合いに大きなばらつきがあることも分かったよ。

なぜ月の土壌は “悪い” のか

研究チームは、レゴリスでの成長の悪さと、ミッションによっても育ち具合が違うのを、次のように推定したよ。

月には大気がないので、宇宙線や太陽風など、強いエネルギーを持つ粒子線がダイレクトにレゴリスに直撃する宇宙風化が起こるよ。

高エネルギー粒子線にさらされると、レゴリスを構成している金属元素、例えば鉄原子などが、化学結合を切断され、イオン化されるよ。

そして、水にさらされると金属イオンとして放出され、植物のような生物細胞に対してダメージを与えることになるよ。シロイヌナズナが示したストレスは、宇宙風化で生じた金属イオンが原因であると考えられるよ。

アポロ11号のレゴリスは、12号や17号のレゴリスと比較して、より宇宙風化が進んでいる場所で採集されていることが分かっているよ。したがってストレスの素となる金属イオンも豊富に含まれると推定されるよ。

だから、11号のレゴリスがあまり育たなかったのは、12号や17号と比較してより植物に優しくない土壌だったから、と考えることができるよ。

月で農業ができるかはまだわからない!

今回の研究では、月のレゴリスで植物は育つのだろうかという、基本的だけど重要な疑問について、1つの答えを出したよ。

基本的には、月のレゴリスは植物に対して優しくない、ということになるよ。また、サンプル数が少ないからまだ言い切れないけど、成長度合いもかなりバラバラであることが分かったよ。

一方で、レゴリスはぺんぺん草も生えぬ不毛の土壌というわけでもないことも今回分かったよ (ぺんぺん草はナズナの別名だよ) 。レゴリスは、もしかすると地球から持っていく土壌を最小限にしてくれるものかもしれないよ!

今回、実際に育ててみるまでは、どんな結果となるのか予想がつかなかったのと同じように、この研究がどう発展していくかもまた未知数だよ。

例えば、レゴリスで植物を育てていくうちに、レゴリスが変質してより良質な土壌に育つのか、それとも完全に使い物にならなくなるかはまだわからないよ。ここは地球の土壌も同じだよね。

また、今回シロイヌナズナが示したストレス反応が、他の植物ではどうなるのか、もし野菜や果物だった場合、人間にとって有害な突然変異などを起こさないかどうかも、また未知数の問題だよ。

「月で植物は育つ?」という質問に、とりあえず「はい」と答えられる研究ではあるけど、「月で農業はできる?」については、まだまだ研究しないと答えを出すことができないよ!

文献情報

[原著論文]

  • Anna-Lisa Paul, Stephen M. Elardo & Robert Ferl. "Plants grown in Apollo lunar regolith present stress-associated transcriptomes that inform prospects for lunar exploration". Communications Biology, 2022; 5, 382. DOI: 10.1038/s42003-022-03334-8

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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