初発見の褐色矮星「グリーゼ229B」は連星であると観測的に証明! 30年続いた謎を解決

2024.11.01

グリーゼ229B サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、初めて発見された褐色矮星の1つ「グリーゼ229B」が、実は連星だと観測的に証明できた、というお話だよ!何がスゴいってこれ、ファーストケースなのに謎過ぎる性質を持ってた褐色矮星であり、実に30年もの間、謎が未解決のまま残されていたんだよね。

 

グリーゼ229Bには明るさに関する謎があり、連星ならば解決の見込みがあったんだけど、観測的な証明が難しくて今日までもつれ込んじゃったんだよね。しかしようやく証明できたことで、グリーゼ229Bの明るさにまつわる謎が解決したんだよ!

 

恒星と惑星の中間的天体「褐色矮星」

褐色矮星の性質の概要

「褐色矮星」の性質は、まさに惑星 (巨大ガス惑星) と恒星の中間にある感じの天体だよ! (画像引用元番号②)

 

宇宙には文字通り星の数ほど天体があり、その性質によって様々なタイプに分類されるよね。最も身近な分類は「恒星」と「惑星」であり、ざっくり言えば恒星は自ら光 (電磁波) を放出する天体、惑星は自らは光を放出しない天体だ、と言えるわけだね。

 

もちろんこれはかなーり大雑把な話。もっと正確に言えば、恒星の場合には中心部で核融合反応が発生し、その時に発生したエネルギーを光として出しているんだよね。中心部で核融合反応が発生するには、超高温・超高圧を維持するために、周りから重力によって押しつぶす必要があるので、ある程度の質量が必要になってくるよ。

 

その意味では、恒星と惑星って、実は質量以外にそんなに大きな違いはないんだよね。地球という岩石が主成分の惑星にいると想像がつきにくいけど、木星や土星のように水素やヘリウムを主成分とする「巨大ガス惑星」は、元素としての成分割合は、恒星である太陽とほとんど差がないんだよね。

 

なのでこの話では今後、惑星と言えば地球のような岩石惑星は基本的に無視して、木星や土星のような水素やヘリウムを主成分とする巨大ガス惑星のことを指す、と言う意味で話を進めるよ。余談だけど「ガス」という単語も、惑星科学用語では水素とヘリウムだけを指す用語なんだよね。

 

さて、天体物理学の研究が進むと、天体の中心部で核融合反応が進む条件も段々と見えてきたんだよね。宇宙に豊富にある水素で核融合反応が起きるには、最低でも太陽の8%・木星の80倍の質量が必要そうだと分かり、ここが恒星の質量の下限だ、となったわけ。

 

一方で、水素は水素でもこれは軽水素の話であり、稀に存在する水素の同位体である重水素は、もう少し小さな質量でも核融合を起こすんだよね。こちらの条件面の理解には苦労したんだけど、重水素で核融合反応が起きるには、最低でも太陽の1%・木星の13倍の質量が必要そうだ、と徐々に分かってきたんだよね。

 

このような性質から、軽水素の核融合反応が起こる天体を恒星、何も核融合反応が起こらない天体を惑星と呼ぶのに対し、重水素の核融合反応が起こる、まさに恒星と惑星の中間的な性質を持つ天体を「褐色矮星」と呼ぶよ。このような天体の存在は1962年にShiv S. Kumarによって最初に予言されたんだよね。[注1]

 

しかし、理論提唱からしばらくの間、褐色矮星を見つけるのは苦労したよ。まず重水素は極めて量が少ないので、核融合反応はすぐに停止し、後は余熱を徐々に放出し、冷えていく一方だよ。なので褐色矮星はほとんど可視光線を出さず、熱という形で赤外線を放出しているんだけど、赤外線放射が弱いということが問題になるよ。

 

そのような不在の状態は数十年続いたんだけど、ようやく1994年になって、18.8光年離れた恒星グリーゼ229Aを217年周期で周回する褐色矮星「グリーゼ229B」が見つかったんだよね。これは同時期に発見された「テイデ1 (Teide 1)」と共に、初めて発見された褐色矮星に名を連ねたんだよね。[注2]

 

恒星の核融合反応ではすぐに消費されて消えてしまうリチウムや、不安定すぎて分解してしまうメタンなど、恒星にはないけど褐色矮星にはあるとされる物質が見つかったことが、グリーゼ229B (およびテイデ1) が褐色矮星と認定される決め手となったんだよね。天文学の歴史において、これはかなり重要な発見だよ。

 

ファーストケースが異質という問題

グリーゼ229Bの謎

「グリーゼ229B」は、初めて発見された褐色矮星の1つなんだけど、その割に性質が変だ、という問題があったんだよね。その観測的な解決も中々難航していたよ。 (画像引用元番号③④)

 

しかし、グリーゼ229Bには大きな謎があったよ。最初に発見された褐色矮星ということで、褐色矮星の性質を研究するための重要な観測対象になり、他の褐色矮星と観測値の比較もされるようになったんだけど、ところが比較研究が進むと、グリーゼ229Bにはおかしな性質があることが分かってきたんだよね。

 

というのは、グリーゼ229Bの質量は木星の約70倍であると推定されたにも関わらず、その明るさは質量と年齢からの推定値と比べて2分の1から6分の1程度と、異常に暗いことが分かったんだよね。明らかに何かがおかしいんだけど、その理由がずっと不明だったんだよね。

 

考えられる背景の1つは、グリーゼ229Bが何か特別な性質を持っているという仮説だね。グリーゼ229Bは年齢を考慮するとあまりにも冷えすぎているので、何らかの性質が普通より冷めやすくしているのか、もしくは私たちの褐色矮星の性質に関する理解があまりに不十分なために異常に見えているかになるね。

 

もう1つとしては、グリーゼ229Bはそもそも1個の天体じゃないという可能性だよ。木星の約70倍の質量を持つ1個の褐色矮星ではなく、例えば木星の約35倍の質量を持つ2個の褐色矮星の連星ならば、この異常に低い表面温度を説明できるんだよね。ただしその場合、今まで連星として見えていない点が問題となるよ。

 

連星であるべき天体が1個にしか見えないということは、望遠鏡の解像度を下回るほどお互いが接近しているということになるね。しかも地球から18.8光年しか離れていないことを考えれば、その接近距離は相当に近いことを意味するから、観測自体が相当大変だということになるよ。

 

いずれにしても、グリーゼ229Bは褐色矮星のファーストケースでありながら、全体としては例外であるという相当ヘンな例をひきあてたことになるんだけど、そのヘンな部分について証拠を上げて解明する、というのが極めて難しいという難題を抱えたままだったんだよね。

 

グリーゼ229Bは連星だと観測的に証明!

グリーゼ229Bは連星だった

グリーゼ229Bを改めて詳しく観測してみた結果、極めて接近した連星であることを示す証拠を得られたんだよね!実に30年かかって解決した謎だよ! (画像引用元番号①⑤)

 

カリフォルニア工科大学のJerry W. Xuan氏などの研究チームは、発見から30年目の節目となるこの2024年になって、ついにグリーゼ229Bの謎を解いたんだよね!先に結論から言っちゃえば、グリーゼ229Bは1個の褐色矮星ではなく、ほぼ同じ重さの2個の褐色矮星の連星であることを今回明らかにしたんだよね。

 

もちろん、それ自体の予想は何年も前からされていたので、今回の研究では観測的に証明するという難題に挑戦したんだよね。これを実現するために、ヨーロッパ南天天文台がチリのパラナル天文台に設置した4台の望遠鏡「VLT (超大型望遠鏡)」に設置した2種類の観測装置を駆使したよ。

 

1つ目の装置である「GRAVITY」は、VLTを構成する4台の望遠鏡のデータを結合し、ごくわずかな観測データの違いからグリーゼ229Bの分離を試みたよ。2つ目の装置である「CRIRES+」は、褐色矮星がお互いを公転する時の動きで生じるドップラー効果から、波長のわずかな変化を検出したんだよね。

 

これにより、グリーゼ229Bは1個の褐色矮星ではなく、それぞれ木星の38.1±1.0倍と34.4±1.5倍の質量を持つ2個の褐色矮星の連星であることを突き止めたんだよね!お互いの公転距離はわずか640万kmと、地球と月との距離の16.5倍しか離れておらず、たったの12.134±0.003日でお互いの周りを公転していることも分かったんだよ。

 

18.8光年の距離で640万kmの距離というのは、本当に隣接もいいところなので、これを今までの望遠鏡が見分けられなかったのはムリもないんだよね。しかも近くにはずっと明るいグリーゼ229Aがあるから、観測ノイズもものすごいよ。そういった中で観測データを得られたのはスゴく大きな成果だよ!

 

今回の成果は、奇しくも30年前と同じくNature誌に掲載されたんだよね。実に長きにわたる宿題が解かれた形だよ。

 

実は連星な褐色矮星、他にもあるかも?

実際のところ、ファーストケースが例外であることを突き止めた点でかなり重要な研究だけど、かといって全ての宿題が解かれたかと言えばそうではなく、むしろ謎が増えたということができるんだよね。それは、グリーゼ229Bがこれほどまでに近い連星である理由が分からないという点だよ。

 

これほど長い間連星である事が観測的に分からないほど両者は接近しているわけだけど、まさにこれほどまでに接近しているなら、なんでくっついて1個の状態で誕生しなかったんだろうというわけ。恐らくは原始惑星系円盤の中で、物質が集中する渦が2つに分裂する作用が働いたことでこうなった、とは考えられているよ。

 

原始惑星系円盤でできる天体と言えば惑星か褐色矮星だという点や、恒星には見られない物質があるという点から、褐色矮星はどちらかと言えば巨大な惑星と見なされて研究される例も最近は増えているんだよね。ということは、褐色矮星の研究は、惑星に関する研究の延長にあるとみなすこともできるんだよね。

 

グリーゼ229Bがなぜ単独ではなく連星として誕生したのか。その辺のメカニズムを解くのは、惑星における連星関係も見直すことに繋がるかもしれないよ。また今回の観測手法は、まだ気づかれていない褐色矮星が実は連星だった!という思わぬ発見に繋がることも、また十分に考えられる可能性となるよ。

注釈

[注1] Shiv S. Kumarによる褐色矮星の予言
ただし、Kumarの論文では「褐色矮星 (Brown dwarf)」という名前は登場せず、代わりに「黒色矮星 (Black dwarf)」という名前が使われています。黒色矮星という名前は、現在では白色矮星が冷え切った際に生じると考えられている天体に使用されています。  本文に戻る

[注2] テイデ1
ただし、テイデ1はスペクトル分類がM8.8であり、M型は赤色矮星 (恒星) と見なす場合もあります。一方でグリーゼ229BはT7およびT8であり、T型は議論の余地なく褐色矮星となります。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

 

<参考文献>

       

      <関連研究>

      • Shiv S. Kumar.“Study of Degeneracy in Very Light Stars”. Astronomical Journal, 1962; 67, 579. DOI: 10.1086/108658
      • T. Nakajima, et al.“Discovery of a cool brown dwarf”. Nature, 1995; 378 (6556) 463-465. DOI: 10.1038/378463a0

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. グリーゼ229Ba/Bbの軌道を示した想像図: プレスリリースより (Credit: K. Miller (Caltech) & R. Hurt (IPAC) )
      2. 恒星・褐色矮星・惑星の大きさの比較図: NASAより (Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
      3. グリーゼ229Bの初撮影画像: NASA HubbleSiteより (Credit (Left) : T. Nakajima (Caltech) & S. Durrance (JHU) / Credit (Right) : S. Kulkarni (Caltech), D.Golimowski (JHU) & NASA)
      4. 褐色矮星の想像図: NASA Photojournal (PIA23684) より (NASA & JPL-Caltech)
      5. グリーゼ229Bの明るさと質量のグラフ: 原著論文のプレプリントFig3より

       

      彩恵 りり(さいえ りり)

      「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
      本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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