"独立系研究者"に学ぶ!フリーランス処世術(4)研究所を作っちゃった!?独立系研究者が研究の未来を切り拓く!

2022.08.02 By 佐伯 恵太 監修 小松 正

 

「独立系研究者に学ぶ!フリーランス処世術」今回はどんなお話が聞けるのでしょうか!?

本日は、独立系研究者の草分け的存在、小松正先生にお話を伺いました!

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この連載企画では、フリーランスとして活動している俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太が、「独立系研究者」からフリーランスとしての生き方を学び、皆さまにシェアします!

◎佐伯恵太プロフィール▶︎https://keitasaiki.info/official
◎twitter▶︎https://twitter.com/Keita_Saiki_

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小松正先生 プロフィール

◆本日のゲスト:独立系研究者の第一人者!小松正先生

小松正 博士(農学)

専門:生態学、進化生物学、実験計画法、データサイエンス

小松研究事務所代表。独立系研究者として、さまざまな研究機関(企業、大学、NPO)と請負契約や業務委託契約を結んで研究プロジェクトに参加している。

◎twitter

https://twitter.com/Tadashi_Komatsu

 

過去2回の連載を振り返りますと、1回目は上野動物園で取材、2回目は浅草の路上での取材というまさかの展開になりましたが、今回指定された取材場所は・・・

「多摩大学 情報社会学研究所」・・・多摩大学!?

もしかして、今はもう独立系研究者ではなく、多摩大学の教員になられたのでしょうか!?

だとすると企画の主旨が・・・

こんにちは。よろしくお願いします。

 

 

 

こんにちは。いきなりで大変恐縮なのですが、小松先生は、独立系研究者ですか?

 

 

 

はい。

 

 

 

「多摩大学 情報社会学研究所」というのは・・・?

 

 

 

あ〜。今私、多摩大学の客員教授でもあるんですよ。でも、現役の独立系研究者なので安心してください!

 

 

安心しました。。では、よろしくお願いいたします!

独立系研究者になるまで

先生の研究内容と、独立系研究者になるまでの経緯を教えていただけますか?

 

 

 

独立系研究者の小松正です。私は2004年に独立しまして、多摩大学の情報社会学研究所の客員教授や、いくつかのポストを掛け持ちしながら研究しています。北海道生まれで、家の近所に原生林があるという贅沢な環境の中で、いろんな生き物を捕まえては飼育、観察しているような少年でした。しかし小学校では理科も含めて勉強に興味がありませんでした。当時の学校の授業は正解を暗記することがメインでしたので。

 

理科が好きになるきっかけがあったのでしょうか?

 

 

 

中学で科学部に入ったことですね。そこでは大好きな生物について自分で調べたり、考えたり、実験することが出来たんです。その活動を通して、生物学の専門家を目指すようになりました。その後、北海道大学に進学して、分類学、生態学等の研究を行いました。

 

大学の教員を目指されていたのでしょうか?

 

 

 

生物学をやり続けて生きていくのが目標で、当時は大学の教授になりたいと思っていたのですが、長い間大学にいると、大学の研究室の現実が色々と見えてきたんですよね。

 

 

具体的にはどんな・・・?

 

 

 

当時の大学は分野によっては今より閉鎖的で、実力や実績に見合わないような人事がなされていることが少なからずあるという印象を持っていました。他にも、ちょっと古い体質だなと思う部分もあり、大学とは別の道で研究を続けられないかと思っていた時に、大学で「フーリエの冒険」という一冊の本に出会ったんです。

 

フーリエ変換のフーリエですか?

 

 

 

そうです。言語交流研究所(ヒッポファミリークラブ)という民間団体が出版した本でして、この本に感銘を受けて言語交流研究所の本部にアポ無しで押しかけたんですよ。

 

すごい行動力・・・。それで、言語交流研究所の研究員に?

 

 

 

最終的にはそうなのですが、すぐに雇ってもらったわけではなくて。というのも、この団体、赤ちゃんが母国語を耳で覚えるような要領で、多言語を自然習得することを実践している団体なんです。

 

 

赤ちゃん、多言語、自然習得・・・

 

 

 

わかりやすく言うと、英会話教室をめちゃくちゃユニークな方法でやっている団体というか。それで自分たちが実践している、多言語を音で聴くだけで自然に習得することのメカニズムを解き明かしていきたいということで、言語交流研究所と名付けているわけです。

 

実態としては、研究者がいて、論文を書いてっていう組織じゃなかったんですね。

 

 

 

研究者でもなければ理系でもないです。それでも、言語の研究をするには音の解析が必要、そのためにはフーリエ変換を学ぶ必要がある!ということにたどり着いて、その彼らが学ぶ過程が綴られていたのが「フーリエの冒険」です。初学者にもわかりやすくて面白い本でした。30年以上前ですから、当時そんな本は他になかったので衝撃的でした。

 

今で言う、サイエンスコミュニケーションですよね。でも、実態として研究所ではないのに、どうやって研究員になられたのでしょうか?

 

 

最初に本部に押しかけてから5年ほど様々なやりとりをしている中で、彼らの研究への強い想いを感じていたので、思い切って「これからは今までのように既にある理論を学ぶだけではなく、本気で研究に取り組むべき。そのためにはちゃんとプロの研究者をスタッフに入れる、つまり私を雇うべきです!」ってプレゼンしてみたんです。

 

ポストを作りにいったわけですね!

 

 

 

でも研究者を雇う方法は知らないだろうということで、具体的に3つの方法を提示したら、その中の1つを選んでもらえて研究者として雇ってもらえることになりました。

 

 

もはや就職活動ではなく、研究所を作っちゃった話ですね。想像の斜め上です。。言語交流研究所ではどんな研究をされていたのでしょうか?

 

 

人のコミュニケーションの研究です。大学時代の研究で、統計学の分野で生まれた「データマイニング」という解析技術を取り入れたりしていましたので、研究テーマが変わっても活かせる知識やスキルが色々ありました。

 

そこから独立されるのはどういう流れだったのでしょうか?

 

 

 

職場が東京になったので北海道から引っ越してきたのですが、学部卒で東京の企業に就職した友人が多くて、歓迎してもらえたんです。それで、みんなで飲んだりする時に、やっぱり研究の話とかしますよね。

 

 

好きなことだから話しますよね。

 

 

 

そうしたらすごく興味を持ってもらえて。それで仲間内での飲み会に限らずいろんな質問や相談にも答えていたら、正式にアドバイザリー契約を結んでもらえたり、プロジェクト単位での依頼がいただけるようになってきたんです。

 

 

営業用の資料を作って、企業の問い合わせフォームからまず連絡して、とかじゃないんですね。

 

 

実は未だにそのスタイルの営業をしたことがないんです。外部からいただくお仕事が増えてきたので、言語交流研究所は業務委託に切り替えて、小松研究事務所を構えて独立しました。

ご自宅でも研究をする小松先生

 

独立されてからのお仕事について教えていただけますか?

 

 

 

まずお仕事の形態が色々ありまして、研究そのものが仕事になっていることもあれば、データ解析などの研究スキルを使った仕事、それから、研究の知見や研究者としての視点を使ってコンサル業務をすることもあります。他には、書籍や記事の執筆ですね。

 

独立系研究所!?

小松先生は独立系研究者でありつつ、大学の客員教授でもあるということで、肩書きがあることや、大学に籍があることの利点はあるのでしょうか?

 

 

大学に籍があることで、科研費等の公的助成金に応募しやすい場合があります。また案件ごとに個人で受けるか、情報社会学研究所で受けるかの判断ができるのも利点です。それと、この情報社会学研究所という組織が何より面白くて、ここって独立系研究所なんです。

 

大学の資金で運営していないということでしょうか?

 

 

 

大学への外部資金の導入自体は全国的に盛んになっているのですが、情報社会学研究所は、人件費も含めて独立採算でやっているんです。

 

 

大学に独立採算の研究所というものがあるんですね。財源は学生、社会人向けの有料講座などでしょうか?

 

 

そういう授業料を財源にしている研究所もありますが、情報社会学研究所の場合は研究活動によって自活していて、他では聞いたことがない形態です。だから研究所の思想やスタイルが自分にマッチしているのだと思います。とても居心地の良い職場です。

 

独立系研究者×独立系研究所

バイオロギングデバイスの開発について語る小松先生

人間行動進化学とは?

独立されてから、研究内容は変わりましたか?

 

 

 

独立する前から徐々に研究テーマは増えていたのですが、主に人や社会と関わる研究ですね。選挙の際に候補者の表情が有権者の投票行動に与える影響の研究というのもありました。最近はネットいじめに関する研究など、インターネットやSNSに関わる研究も増えてきています。

 

どれも大切な研究ですよね。一方で、子供の頃から生き物好きだったということで生物学研究もやりたくなったりしませんか?

 

 

昆虫や様々な動物も好きなのですが、ヒトにも元々興味があった、というより、ヒトの研究は生物学とは別物という感覚が私にはないんですよね。大学に入った頃は、ヒトの研究には統計学やデータ解析などの手法があまり使えなかったのですが、近年は、いわゆる社会科学の分野に自然科学的な手法が使えるようになり、それが非常に面白いところです。

 

自然科学出身の強みを活かして、元々興味があったヒトへもアプローチできるようになったというわけですね!

 

 

それと、私が大学でやっていたのは生物学の中でも生態学や進化生物学ですが、現在主に取り組んでいるのは「人間行動進化学」という分野です。人間の心理や行動も環境適応で説明できるなら、広い意味での進化学として捉えられるはずなんです。だから実験のスキルだけではなくて、研究の概念、考え方というところでも繋がっていると思います。

 

今後の目標

最後に、今後の目標を教えていただけますか?

 

 

 

現在は、企業のビジネスに直結するような、応用的なところで関わらせていただくことが少なくないのですが、やはり根本的なところにアプローチするには基礎研究だと思っています。基礎から応用まで繋がる全体のネットワークが作れるんじゃないかと思っているので、そういったことを様々な企業や団体さんと実現していきたいです。

 

腰を据えて研究ができる環境を自分で作る!ですね。研究への情熱を感じるのですが、モチベーションはどこにあるのでしょうか?

 

 

やはり研究が大好きだということですね。それと、研究者って新たな知を産み出していく、言わば「情報の生産者」だと考えています。研究を通して新たな情報を生産し続けることが価値だと思っていますし、実際、直接収入が得られない研究も中にはあるものの、それでも様々なお仕事に繋がっています。

 

新たな情報を産み出す価値は何者にも変え難いですよね。

 

 

 

今、独立系研究者としてやってきて18年になりますが、注目していただける機会も増えてきました。最近では私の研究活動について、JST[注1]さんから「非従来型、非政策主導での取り組み」の調査対象としてヒアリングいただいたりもしています。研究内容はもちろん、研究者としての生き方や活動スタイルも含めて、何か若い世代に残せるものがあれば嬉しいです。私もまだまだ研究、頑張ります!

 

ありがとうございました!

 

 

 

佐伯の自宅ではなく情報社会学研究所です

 

[注1]JST(科学技術振興機構):文部科学省所管の国立研究開発法人。日本の科学技術振興の中枢的機関として、イノベーション創出に向けた研究開発戦略の立案などを行う。

インタビューを終えて

研究者としての雇用や一つ一つのお仕事に関して、待ちの姿勢ではなく自ら動くというスタイルに感銘を受けました。小松先生が研究チームの立ち上げに参画された言語交流研究所では、今でも研究が続けられていて、2021年には東大、MITとの共同研究「外国語習得の脳科学的効用」に関する論文が『Scientific Reports』に掲載されたそうです。今も新たな知を産み出し続けている言語交流研究所のこれからも楽しみです。

↓東大・MITとの共同研究 関連動画

私も、俳優・サイエンスコミュニケーターとしての活動において、選ばれる側という固定観念に囚われず、自分が必要とされるシチュエーションを自ら提示し、アピールしていくような攻めの姿勢で、これから挑戦していきたいと思います!

(コラボ動画公開)

前回のゲスト、フィールド言語学者の伊藤雄馬先生と、佐伯が手がけるYouTube番組「らぶラボきゅ〜」のコラボ動画が完成しました!言語学者が使う「国際音声記号」を使って、あることに挑戦しています。お楽しみいただけましたら幸いです。

【検証】言語学者なら逆再生した歌も余裕で歌える説

 

それではまた次回、お会いしましょう!