2025年ノーベル化学賞について分かりやすく解説!『金属有機構造体の開発』

2025.10.09

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(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 画像引用元)

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2025年ノーベル化学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2025年10月8日

スウェーデン王立科学アカデミーは、2025年のノーベル化学賞を以下の者に授与することを決定した。

 

北川進 (Susumu Kitagawa)
京都大学、日本国

リチャード・ロブソン (Richard Robson)
メルボルン大学、オーストラリア連邦

オマー・M・ヤギー (Omar M. Yaghi) 
カリフォルニア大学バークレー校、アメリカ合衆国

「金属有機構造体の開発」に対して。

 

それらの分子構造には、化学反応のための空間がある
2025年のノーベル化学賞受賞者たちは、気体やその他の化学物質が入り込める、広々とした空間を持つ分子構造を創造した。これらの構造、金属有機構造体は、砂漠の空気から水を取り入れたり、二酸化炭素を捉えたり、有毒なガスを溜め込んだり、化学反応を触媒するために使用できる。

 


 

Susumu Kitagawa

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

北川 進 (きたがわ すすむ)
日本国、京都府出身
1951年7月4日生まれ (74歳)
京都大学 (日本国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

Richard Robson

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Richard Robson (リチャード・ロブソン)
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、グラスバーン出身
1937年6月4日生まれ (88歳)
メルボルン大学 (オーストラリア連邦) 所属
賞への貢献度: 1/3

 

Omar M. Yaghi

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

عمر مونّس ياغي (オマー・ムワンネス・ヤギー)
ヨルダン・ハシェミット王国、アンマン出身
1965年2月9日生まれ (60歳)
カリフォルニア大学バークレー校 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/3

 


 

金属有機構造体前史: 3次元構造の化合物の難しさ

私たちが化学を勉強する際に最初に習うのは、H2OやCO2のような単純な分子だよね。これは分子構造の観点から見ると、全体としてはコンパクトにまとまった点、あるいは0次元の化合物だと見ることができるね。ある程度複雑な分子であっても、そこまで縦横に伸びてないという点では0次元の化合物と言う見方ができるよ。

 

では、次元を拡張するとどうなるだろう?例えば、特定の分子構造が線状に繋がった1次元の化合物は、PET樹脂やナイロンのようなポリマー (高分子) に代表されるように、現在では便利な化合物として広く使われているよ。しかしそのような1次元の化合物でさえ、多くは20世紀の発明となっている通り、合成には苦労があったよ。

 

ましてや、2次元や3次元の化合物は取り扱いが困難なんだよね。特に1990年代までは限られた例しか合成されていないのよね。その難しさは、1981年にノーベル化学賞を受賞したロアルド・ホフマン (1937-) の次の言葉で端的に表されているよ。

 

“But in two or three dimensions, it’s a synthetic wasteland”.
(しかし、2次元や3次元は、化学合成の荒野だ。)

 

また、合成自体も難しいけど、合成した化合物の正確な化学構造を知るのも難しい、という別の困難もあったんだよね。現在では構造解析についても改善されているけど、かつては本当に困難な課題で、王立協会フェローやNature誌の編集長の肩書を持つジョン・マドックス (1925-2009) は以下のような発言を残しているよ。

 

One of the continuing scandals in the physical sciences is that it remains in general impossible to predict the structure of even the simplest crystalline solids from a knowledge of their chemical composition.
(物理科学で継続している醜聞の1つは、最も単純な結晶固体の構造さえも、化学組成の知識から予測することが、一般に不可能であるということだ。)

 

こうした困難を前提に歴史を振り返ってみると、合成が難しい化学構造の1つとして「3次元的に分子構造が組み立てられており、構造の中に他の分子が入り込める空間がある化合物」が挙げられるのよね。3次元の化合物は、普通は隙間を作らないように分子を配列する傾向にあるから、隙間がある化合物の合成は難しかったのよ。

 

とはいえ、過去に全く例がなかったわけじゃないよ。例えば「ゼオライト (沸石)」は、天然に存在する空間を持つ3次元化合物だと言えるし、青色顔料として使われる「プルシアンブルー (紺青)」は、人工合成での最初期の例の1つなのよね。そしてどちらも、現在にいたるまで特定の分子やイオンを吸着する目的で使われているのよね。

 

さて、今回の受賞理由である「金属有機構造体 (MOF; Metal-Organic Framework)」に繋がる過去の化学史を振り返ってみると、最初の重要なステップはアルフレート・ヴェルナー (1866-1919) が挙げられると思うのよね。ヴェルナーは「錯体」と呼ばれる化合物の構造を正しく導いたことで、1913年にノーベル化学賞が贈られたのよ。

 

錯体化合物は化学の授業で最初に習う分子構造とはずいぶん違う形をしているので、20世紀に入るまで誰も正しい化学構造を導けなかったんだよね。ヴェルナーは、金属原子の周りに分子やイオンが3次元的に規則正しく並ぶ (配位する) 構造があることを導いたのよ。

 

ヴェルナーが錯体化合物の存在を示したことにより、3次元の構造を持つ化合物に注目が集まるようになったよ。例えばカール・A・ホフマン (1870-1940) は、後に「ホフマンクラスレート」と呼ばれる錯体化合物を合成したよ。これは後世で金属有機構造体と呼ばれる化合物の、最初期の合成例だと言えるよ。

 

ホフマンクラスレートはベンゼンをアンモニアとシアン化ニッケルの溶液に混ぜると生じる結晶性化合物で、ニッケル原子を中心にアンモニアとシアンが2次元のシートを作っているのよね。そしてそのシートの間にベンゼン分子が入り込み、全体としては3次元構造の化合物を作っているよ。

 

大きな空間を持つ“分子でできた分子”を作成!

ヴェルナーによる錯体化合物の発見以降、興味深い3次元構造を持つ化合物はいくつか作られてきたものの、合成や構造解析の難しさから、研究は遅々として進まなかったんだよね。特に分子構造に空間があるような化合物は、ほとんど合成例がなかった状態だったよ。

 

今回のノーベル化学賞受賞者の1人目、リチャード・ロブソン氏は、まさにそんな困難に挑戦した化学者の1人だよ。本人の弁によれば1974年、オーストラリアのメルボルン大学で教鞭をとっていたロブソン氏は、学生が分子模型を作れるように、木製のボールと棒 (原子と化学結合に当たる) を準備していたんだよね。

 

大学の工房に依頼し、棒を刺すための穴が開けられたボールが返却され、しばらく組み立てていたロブソン氏はふと「原子を化学結合によって組み上げたものが分子ならば、分子同士を組み上げたらどうなるだろう?新しい化学構造ができるんじゃないか?」とひらめいたんだよね!

 

ただ、思い付いたはいいものの、実際に実践されたのは10年以上も後のことだったんだよね。ロブソン氏は1980年代末までに、ダイヤモンドの正四面体構造を持ちながら、それよりずっと大きな構造を持ち、分子構造に大きな空間が空いている化合物の合成に取り組んだのよ。

2025年ノーベル化学賞図1

リチャード・ロブソン氏は、銅イオンと有機分子を組み合わせることで、大きな空間を持つダイヤモンド構造の化合物を合成したよ。普通の分子が原子を組み合わせてできているなら、この化合物はさながら「分子を組み合わせてできた分子」のような感じだよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ロブソン氏は、過去の研究結果や、金属原子と分子の相性を考慮し、銅イオンに「4,4',4'',4'''-テトラシアノテトラフェニルメタン (4,4',4'',4'''-tetracyanotetraphenylmethane)」という有機化合物を組み合わせて見たよ。今回は、この名前は覚える必要はなく、「金属と有機物を組み合わせた」という点を抑えればOKよ。

 

当初の予想では、これらを組み合わせても、規則性の無いグチャグチャな構造になるか、空間の無い緻密な結晶ができるかのどちらかだと予想されたよ。しかしロブソン氏が実際に合成してみると、きちんとした規則性があり、大きな空間のあるダイヤモンド構造の化合物が生まれたんだよね!

 

この構造は、まさにロブソン氏が最初に構想したアイデアを実現しているよ。本物のダイヤモンドは炭素原子が正四面体構造を作っているけど、炭素原子を銅イオンと4,4',4'',4'''-テトラシアノテトラフェニルメタンに置き換えたものがこの分子だからね。これはまさに「分子で組みあがった分子」と言えるよ。

 

しかもこの化合物は、分子構造に空間がありながら比較的頑丈で、かつ分子やイオンの出入りが可能な柔軟性を持つという特徴があったよ。例えばこの化合物は、比較的大きなイオン (BF4-) を空間の中に保持できるし、立体構造を崩すことなく別の種類のイオン (PF6-) に置き換えられるんだよね!

 

ロブソン氏はその後も研究を続き、広々とした内部空間を持つ、他の3次元構造を持つ化合物を次々と合成したよ。そのうちの1つは、最初に合成したものと同じように異なる種類のイオンに置き換えられることを実証し、このような性質を持つ分子が他にも無数にあることを示唆したのよね。

 

ただ、ロブソン氏が合成した3次元構造の分子は、比較的頑丈とは言ったけど、それはあくまで比較論としての話だったのよ。有機金属化合物として一般的に見れば、ロブソン氏の化合物は不安定ですぐに崩壊してしまうという欠点を抱えていたのよ。

 

なので、ロブソン氏が合成した化合物は、分子で組みあがった分子という点では興味深いけど、多くの化学者は、これが何かの役に立つとは考えてなかったんだよね。しかしながら一部の化学者はそうではないと考えたよ。今回ノーベル化学賞を受賞した2人もそういった人たちだよ。

 

役に立たないものの有用性を見出すには?

今回のノーベル化学賞受賞者の2人目、北川進氏は研究者として「役に立たないものの有用性を見出す」という原則を貫いていたよ。これは若い学生時代に、1949年のノーベル物理学賞受賞者である湯川秀樹 (1907-1981) の著書を読み、その中で引用された荘子の言葉に影響されたからだよ。

 

このため北川氏が、ロブソン氏が作ったような化合物の可能性を探求し始めた時、特に用途は考えずに研究したんだよね。実際、1992年に合成された最初の化合物は、正直有用な物とは言えず、相変わらず不安定な構造をしていたんだよね。

 

2025年ノーベル化学賞2

北川進氏は1997年に、直線状の空間を持つ開口チャネルが交差した金属有機構造体の合成に成功したよ。これは構造に影響を与えることなく、様々な種類の気体分子を出し入れすることができるよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

具体的な用途が見いだせない上に不安定な化合物ということで、研究資金申請が却下される憂き目にもあったけど、北川氏はあきらめずに研究を続けたよ。その結果1997年には、直線状の空間を持つ、お互いの分子が交差した構造の3次元化合物の合成に成功したよ。

 

この化合物はこれまでの化合物と比べて安定しており、乾燥させて水を抜くと、直線状の空間は安定しており、形状を変えることなくメタン、窒素、酸素のような一般的な気体を吸収・放出することができるんだよね。気体を可逆的に吸収・放出できる安定した化合物は当時珍しく、注目を集めたよ。

 

しかし、それでもこの研究の価値は中々理解されなかったよ。というのは、気体の交換をしたいのなら、天然物として (特に火山国の日本では) 豊富に存在するゼオライトを使えば良いのであり、わざわざ人工物を合成して使うほどのメリットがなかったんだよね。これは別に難癖とは言えず、正当な評価だったよ。

 

2025年ノーベル化学賞図3

1998年に北川進氏は、金属有機構造体の構造は柔軟に変形する可能性があることを提案したんだよね。これは気体分子の捕捉が可能な従来の材料にはない特性になるよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

この評価を踏まえ、北川氏は1998年にBulletin of the Chemical Society of Japan誌にて自身のビジョンを掲載したよ。特に強調したのは、 (まだ金属有機構造体という名称が定着する前だった) これらの化合物には、化学構造に柔軟性があるという点だよ。これはゼオライトのような従来の化合物とは大きく異なる点なんだよね。

 

ゼオライトのような化合物の場合、化学構造は頑丈なんだけど、頑丈過ぎてほとんど構造が変化しないのよね。それに対し金属有機構造体は、私たちのスケールで見れば相変わらず硬いものの、分子のスケールで見れば柔軟に変形し、分子の出し入れで空間の大きさを変化させられる、という特徴があるんだよね。

 

つまり北川氏は、金属有機構造体の研究を進めれば、ゼオライトのような従来の化合物では実現困難な、あるいはまったく不可能なこともできるようになるはずだと考えたんだよね。金属有機構造体の特徴を発展させれば、「ゼオライトでいいじゃん」という意見に正面から対抗できるのよ。

 

このようなビジョンを発表した後、北川氏はそのアイデアを実現するための研究に取り組んだよ。ここで話を、3人目の受賞者であるオマー・ムワンネス・ヤギー氏に移すね。ヤギー氏は金属有機構造体の名付け親であり、研究において重要な歴史の転換点を築いた1人でもあるのよ。

 

MOF-5: 歴史の転換点となる金属有機構造体を合成!

ヤギー氏の幼少期は、電気も水道もない小さな部屋で多くのきょうだいと暮らす、過酷な生活だったんだよね。そんなヤギー氏にとって、学校は避難所と言えたよ。ある日、図書館の中から1冊の本を出して読んでみると、理解できないながらも魅惑的な絵……つまりは分子構造に釘付けになったんだよね。

 

ヤギー氏は15歳で、厳しい父の指示に従ってアメリカへと留学。そこで化学を学んだよ。新材料を設計する技術に魅了されたものの、一方で新しい分子を作るための従来の手法は、目的としない様々な不純物を伴う、あまりにも予測不可能な作業だと感じたんだよね。

 

1992年にアリゾナ州立大学の研究チームのリーダーになったヤギー氏は、従来の予測不可能な作業を改善し、より制御された新材料の合成方法を見つけたいと考えたのよね。目標としたのは、まるでレゴブロックを組み立てるように、異なる化学物質を組み合わせることで、大きな結晶を作ることなんだよね。

 

2025年ノーベル化学賞図4

1999年にオマー・M・ヤギー氏は、立方体状の空間を持ち、とても安定した化合物である「MOF-5」の合成に成功したよ。これはわずか数グラムで、サッカーコートほどの広さの表面積を持つんだよね。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustrations: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ただ、レゴブロックをただ混ぜてもくっつかず、できてもせいぜい意味のないグチャグチャな塊ができるのと同じように、ヤギー氏の目標は相当な困難を抱えているよ。それでも研究を重ねた結果、ついに1995年になって「MOF-5」と名付けた化合物の合成に成功したんだよね!

 

MOF-5のMOFは、ヤギー氏がこのような構造を持つ化合物に「金属有機構造体 (MOF; Metal-Organic Framework)」という名前を付けたことに由来しているよ。MOF-5も、金属として亜鉛イオンを含んでおり、有機分子によって構成された立方体構造の角に位置しているのよね。

 

MOF-5の合成は、多少の追加手順があるとは言え、核となる部分は「材料を混ぜて加熱する」という比較的単純な操作で完結しているよ。その簡単さの割に、広大な空間を持ちながら、満たれた部分の無い結晶構造体ができるのは、「レゴブロックを入れた袋を適当に振ったら家ができていた」と匹敵するくらいの驚きがあるんだよね。

 

また、従来の金属有機構造体は不安定だったのに対し、MOF-5は空間部分に何も含んでいないスカスカな状態でも、300℃に加熱しても壊れないくらい頑丈なんだよね!何より、内部の空洞の表面積は1グラムで2900m2もあるほど広大で、これは数グラムの中にサッカーコート1面分の面積が含まれていることに匹敵するよ!

 

表面積の大きさは、何かと比較されてきたゼオライトよりもずっと広いもので、金属有機構造体にはゼオライトよりも大量の気体を吸収できる可能性が秘められているのよね!ゼオライトよりも気体を安定して保持する固体結晶は魅力的であり、多くの研究者が金属有機構造体の作成に取り組んだよ!

 

新たに開発された金属有機構造体の中には、気体を吸収すると構造が柔軟に変化するものが次々と見つかったけど、このような化合物を最初に送り出した人の1人が、先ほどの北川氏なのよね。構造が柔軟に変化するということは、まるで肺のように気体が出入りするということで、非常に興味深い性質を持っているのよ!

 

金属有機構造体は空間をカスタマイズできる!

2025年ノーベル化学賞図5

オマー・M・ヤギー氏は2000年代初頭に、MOF-5の様々なバリエーションの合成に成功したよ。これは結合する分子の種類を変えることで、空間の大きさをカスタマイズできることを特徴としているんだよね。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

もちろんヤギー氏も研究を進め、特に2002年から2003年にかけて発表した研究は、金属有機構造体にさらにインパクトを与えたよ。一連の論文の中でヤギー氏は、MOF-5の立方体構造にある辺の分子構造を置き換えることで、立方体の辺の長さを変えた、16種類ものバリエーションを作成したんだよね!

 

立方体の辺の長さが変われば、空間の大きさも変わり、吸収できる分子の種類や量を調整することができるんだよね。分子そのものではなく、分子構造によって生じる空間をカスタマイズして機能を持たせるという点で、金属有機構造体はこれまでの化学分子とは全く異なるフェーズに位置すると見ることができるのよね!

 

空間をカスタマイズし、その性質を利用するという点で、金属有機構造体はこれまでの物質では難しかったことができるようになったよ。例えば電子産業で使用される有毒ガスを吸収し、中には分解する性能を持つものがあるんだよね。また、地球温暖化対策として二酸化炭素を吸収するものも開発されているよ。

 

2025年ノーベル化学賞図6

金属有機構造体は現在、様々な用途に使われることが検討されており、実用化に向けた試験も始まっているよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

これまでに合成され、研究が進められている金属有機構造体は無数にあり、その用途は様々だよ。例えば、以下のようなものが、実用化を見据えて研究開発が行われているよ。

 

  • MOF-303: 夜間に砂漠の空気から水蒸気を吸収できる。朝日を受けると加熱され、水分を放出する。
  • MIL-101: 汚水に含まれる原油や抗生物質を分解する触媒となる。また大量の水素や二酸化炭素を貯蔵できる。
  • UiO-67: 汚水に含まれるPFAS (有害な有機フッ素化合物) を吸収できる。
  • ZIF-8: 廃水から、希少な元素である希土類元素を回収する用途が試験されている。
  • CALF-20: 二酸化炭素の貯蔵に優れた性能を発揮し、カナダの工場で試験運用されている。
  • NU-1501: 常圧で水素を貯蔵・放出できる。高圧タンクなしで燃料電池車を動かせる可能性がある。

 

このように、金属有機構造体は魅力的な性質を持っているけど、広く実用化された例というのはまだそんなにないのよね。実際に選考を行ったスウェーデン王立科学アカデミーの公式プレスリリースでも「21世紀の材料となるほどの大きな可能性を秘めている」と、あくまで期待を込めた受賞であることを認めているのよね。

 

ただ、金属有機構造体は、分子構造や立体構造、有機化学と無機化学の知識、化学反応や結晶構造分析など、これまでの化学の研究を全部ミックスしたような非常に複雑な現象を取り扱っているのよね。金属有機構造体を偶然に頼らずに設計するための技術は、20世紀末までは実質的に存在しなかったと言えるくらいの難易度だよ。

 

そして、ここ数十年で進歩を遂げた金属有機構造体だけど、その進歩があったのは、今回ノーベル化学賞が贈られた北川氏、ロブソン氏、ヤギー氏による独創的な研究があってこそなんだよね。もし彼らがいなければ、金属有機構造体の登場は遅れていたかもしれないよ。

 

金属有機構造体が、アルフレッド・ノーベルの遺言通り「人類に対して大きな貢献」を果たし、私たちの生活を向上させるのは、まだもう少し先かもしれない。けれどもその未来は決して遠いものじゃないと思うのよね。

 

六角形の分子を分離!高性能な「有機金属構造体」を発見

文献情報

<ノーベル財団の公式資料>

 

<受賞に関わる主要な論文>

  • Bernard F. Hoskins & Richard Robson.“Infinite polymeric frameworks consisting of three dimensionally linked rod-like segments”. Journal of the American Chemical Society, 1989; 111 (15) 5962-5964. DOI: 10.1021/ja00197a079
  • B. F. Hoskins & Richard Robson.“Design and construction of a new class of scaffolding-like materials comprising infinite polymeric frameworks of 3D-linked molecular rods. A reappraisal of the zinc cyanide and cadmium cyanide structures and the synthesis and structure of the diamond-related frameworks [N(CH3)4][CuIZnII(CN)4] and CuI[4,4',4'',4'''-tetracyanotetraphenylmethane]BF4·xC6H5NO2”. Journal of the American Chemical Society, 1990; 112 (4) 1546-1554. DOI: 10.1021/ja00160a038
  • Susumu Kitagawa & Megumu Munakata.“Molecular architecture of copper (I) coordination polymers toward crystal lattice design”. Trends in Inorganic Chemistry, 1993; 3, 437-462.
  • O. M. Yaghi, Guangming Li & Hailian Li.“Selective binding and removal of guests in a microporous metal-organic framework”. Nature, 1995; 378 (6558) 703-706. DOI: 10.1038/378703a0
  • Mitsuru Kondo, Tomomichi Yoshitomi, Hiroyuki Matsuzaka, Susumu Kitagawa & Kenji Seki.“Three-Dimensional Framework with Channeling Cavities for Small Molecules: {[M2(4, 4′-bpy)3(NO3)4]·xH2O}n (M = Co, Ni, Zn)”. Angewandte Chemie International Edition, 1997; 36 (16) 1725-1727. DOI: 10.1002/anie.199717251
  • Susumu Kitagawa & Mitsuru Kondo.“Functional Micropore Chemistry of Crystalline Metal Complex-Assembled Compounds”. Bulletin of the Chemical Society of Japan, 1998; 71 (8) 1739-1753. DOI: 10.1246/bcsj.71.1739
  • Hailian Li, Mohamed Eddaoudi, Thomas L. Groy & O. M. Yaghi.“Establishing Microporosity in Open Metal−Organic Frameworks:  Gas Sorption Isotherms for Zn(BDC) (BDC = 1,4-Benzenedicarboxylate)”. Journal of the American Chemical Society, 1998; 120 (33) 8571-8572. DOI: 10.1021/ja981669x
  • Takashi Okubo, Susumu Kitagawa, Mitsuru Kondo, Hiroyuki Matsuzaka & Tomohiko Ishii.“A New Anion-Trapping Radical Host, [(Cu-dppe)3{hat-(CN)6}]2+ ”. Angewandte Chemie International Edition, 1999; 38 (7) 931-933. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(19990401)38:7<931::AID-ANIE931>3.0.CO;2-B
  • Hailian Li, Mohamed Eddaoudi, M. O'Keeffe & O. M. Yaghi.“Design and synthesis of an exceptionally stable and highly porous metal-organic framework”. Nature, 1999; 402 (6759) 276-279. DOI: 10.1038/46248
  • Mohamed Eddaoudi, Jaheon Kim, Nathaniel Rosi, David Vodak, Joseph Wachter, Michael O'Keeffe & Omar M. Yaghi.“Systematic Design of Pore Size and Functionality in Isoreticular MOFs and Their Application in Methane Storage”. Science, 2002; 295 (5554) 469-472. DOI: 10.1126/science.10672
  • Omar M. Yaghi, Michael O'Keeffe, Nathan W. Ockwig, Hee K. Chae, Mohamed Eddaoudi & Jaheon Kim.“Reticular synthesis and the design of new materials”. Nature, 2003; 423 (6941) 705-714. DOI: 10.1038/nature01650

 

<授賞理由と関わりの深い研究論文>

  • Alfred Werner.“Beitrag zur Konstitution anorganischer Verbindungen”. Zeitschrift für anorganische Chemie, 1893; 3, 267-330. DOI: 10.1002/zaac.18930030136
  • K. A. Hofmann & F. Küspert.“Verbindungen von Kohlenwasserstoffen mit Metallsalzen”. Zeitschrift für anorganische Chemie, 1897; 15, 204-207. DOI: 10.1002/zaac.18970150118
  • J. F. Keggin & F. D. Miles.“Structures and Formulæ of the Prussian Blues and Related Compounds”. Nature, 1936; 137 (3466) 577-578. DOI: 10.1038/137577a0
  • J. H. Rayner & H. M. Powell.“67. Structure of molecular compounds. Part X. Crystal structure of the compound of benzene with an ammonia–nickel cyanide complex”. Journal of the Chemical Society, 1952; 0, 319-328. DOI: 10.1039/JR9520000319
  • Omar M. Yaghi, Hailian Li, Charles Davis, David Richardson & Thomas L. Groy.“Synthetic Strategies, Structure Patterns, and Emerging Properties in the Chemistry of Modular Porous Solids”. Accounts of Chemical Research; 1998; 31 (8) 474-484. DOI: 10.1021/ar970151f
  • Mohamed Eddaoudi, David B. Moler, Hailian Li, Banglin Chen, Theresa M. Reineke, Michael O'Keeffe & Omar M. Yaghi.“Modular Chemistry:  Secondary Building Units as a Basis for the Design of Highly Porous and Robust Metal−Organic Carboxylate Frameworks”. Accounts of Chemical Research, 2001; 34 (4) 319-330. DOI: 10.1021/ar000034b
  • Hirotoshi Sakamoto, Ken-ichi Otake & Susumu Kitagawa.“Progressive gas adsorption squeezing through the narrow channel of a soft porous crystal of [Co2(4,4′-bipyridine)3(NO3)4]”. Communications Materials, 2024; 5, 171. DOI: 10.1038/s43246-024-00609-x

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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