博物館などで展示されている生物の剥製は少し縮んでいる?

2025.09.05

剥製は生鮮時より縮む…!

生物の分類や形態を調査する研究分野では、時として剥製の形態を調査してデータを取ることがある。しかし、剥製はどんなにリアルに生鮮時の形を再現しているものであっても、皮の中身(内臓、骨、筋肉など)を取り除いているので、体の比率が完全に元通りになる訳ではない。剥製の再現性は剥製を作る剥製師の腕に大きく委ねられている。その生物に詳しい専門家なら、剥製の体のパーツのどこがおかしいのか何となく違和感を察知することができる場合があるが……専門家以外の場合、細かな形態の違いは分からない場合が多いだろう。

私はマンボウ類の分類や形態を主にこれまで研究してきたのだが、博物館などに展示・収蔵されている剥製を調べる機会も多々あった。その中で、マンボウ類の生鮮時に計測されたデータと、剥製後のデータを比較して、どうも剥製標本は生鮮時より縮んでいることが多いことに気が付いた。今回は私の経験した事例についていくつかお話ししよう。

 

まず、参考文献にある澤井(2019)の事例を紹介しよう。この論文は神奈川県立生命の星・地球博物館に〝マンボウ〟として展示されていた剥製だったが、詳しく調べてみると実はウシマンボウだったという内容の論文である。剥製の写真は参考文献のリンクから飛んで論文を見て欲しい。このウシマンボウの剥製は、生鮮時に計測され、全長202 cm、全高294 cmであった。この剥製は博物館の支柱の先端に取り付けられているため、直接計測はできなかった。しかし、高画質の写真を撮影し、長さの分かっている支柱の幅と対比させて画像上で計測を行った結果、全長177.2 cm、全高267.7 cmという結果になった。長さ、高さともに、剥製後の方が25 cm前後縮小していたのだ! なかなか衝撃的な結果である。生鮮時はもっと大きかったのだ。見た目的にはマンボウ型が維持されており、それほど不自然な感じには見えなかったが、剥製後の姿と幸運にも残っていた生鮮時の写真を見比べてみると……生鮮時に確認されたウシマンボウの特徴である下顎下部の隆起が、剥製後には無くなっていた。剥製が作られた当時はウシマンボウの存在が知られていなかった時代であり、下顎下部の隆起が重要なウシマンボウの特徴であることを知らなかったので、剥製化の際に下顎下部の隆起は再現されなかったのだと推察される。つまり、この剥製は生鮮時より少し変形していたということになる。

 

続いて、参考文献にある澤井(2023a)の事例を紹介しよう。この論文は国立科学博物館上野本館(科博)に展示されているマンボウ属の大型剥製がマンボウかウシマンボウかどちらであるか再同定したところ、マンボウの個体変異であったという内容である。この剥製に関する詳しい情報は過去の記事でも取り上げているので、剥製の写真などはそちらを確認して欲しい。このマンボウの剥製は、生鮮時は全長240 cm(新聞からの情報)あったが、剥製後は全長222 cm(科博の情報)になっており、長さは18 cm縮んでいた。残念ながら生鮮時の写真や詳しい情報は失われていたが、この剥製も剥製にされる過程で生鮮時より少し変形している可能性が示唆された。

剥製標本はサイズが大きくなればなるほど違和感に気付きにくいが、生鮮時より数十センチ縮んだり変形している可能性がある。北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)にある大型ウシマンボウの剥製も、讀賣新聞(2000)によって「そのままの大きさにしたら、完成しても外に運び出せないので、原寸よりもわずか小さくした」と剥製製作会社のコメントを載せており、やはり剥製化の過程で少し縮小、変形されたことが示されている。

 

日本一のマンボウの大型剥製を実測!

では、私が毎年イベントで講演をしに行く、海とくらしの史料館にある日本一のマンボウの大型剥製(通称チョボリン)はどうだろうか? 気になったので今回改めて調べてみた。チョボリンは川上ほか(2005)によって計測され、生鮮時は全長275 cmである。調査は2025年4月10日に、海くらの館長と職員さんの手を借りて行った。大型個体は一人で計測するのは難しい。最低、自分ともう一人手伝ってくれる人がいた方がよい。今回は合計3人いたので、計測現場の写真も撮りながら計測ができた。チョボリンは天井から斜めに吊り下げられているので、上顎の先端から測るにはハシゴに乗る必要があった。大型個体は厚みがあるので、メジャーが体側に沿って曲がらないようにまっすぐ伸ばしてもらい、舵鰭の最後端に向けて直線的にメジャーを伸ばす。

口先から舵鰭先端までの直線の角度を調節して、私が全長を読み取ると、剥製後の全長は263.5 cmであった。生鮮時より約12 cm縮んでいたことが分かった。

今回、マンボウ類の大型剥製4例について、剥製過程で少し縮んでいることを紹介してきた。こうやって詳しく見ていくと、読者の剥製に対する見方の解像度が少し上がったのではないだろうか? 剥製は実物の標本を常温で保存できる大きな利点があるが、体のプロポーションは生鮮時から少し変形している可能性が高いことに気を付ける必要がある。しかし、これは内臓等を取り除くので、ある程度は仕方がないと思われる。特に水生生物は剥製にする過程で水分が失われるので、必然的に表皮が縮むのだろうと私は思った。剥製から計測データを取る時は、元の形態から少し変形している可能性が高いことに注意して調査しよう。

 

マンボウ類

  大型個体

   剥製化

    十センチ以上

     縮んでいるか